異聞・少女義経伝・四
地上の星
【第十七章】
〜敗北〜
「ちぇ、逃げ足早い奴らだぜ」
「ヴィータちゃんが空に上がったら、空戦魔導師達は姿をけしちゃいましたぁ。
きっと、ヴィータちゃんにおそれをなしたんですよぉ」
「そうだといいけどよ。…やられた空戦魔導師の救護で、地上部隊はてんてこ舞いだし
普通に押し寄せてくるガジェットどもへの応戦で、陸士１０８部隊は手一杯だぜ。
単に、これ以上襲撃しても意味ねーって判断じゃないか」
「これ以上襲撃しても意味がないとしたら、どこへ行ったんでしょうかぁ」
「………そりゃ、…そういうことかよ。静の奴の計算が、ぴったり合ったてことだな」
「ヴィータちゃん、つまり、あの戦闘機人達はぁ、みんな機動六課に向かったってことですかぁ」
「そう考えるのが自然だろ。分散している空戦魔導師は落としたけど、分散している地上部隊は
今全速で地上本部に集結してる最中だぜ。
今、地上本部ん中にいる、お偉いさん方だって、A級S級の魔導師がいる。
なのは達だって直ぐに出てくるだろ。ゲリラ攻撃なら、そろそろ、逃げ支度する場面だ」
「だといいですけど…」
「ヴィータ、聞こえるかい？」
「ヴェロッサかよ、なんだ？」
「南方より空戦魔導師急速接近中だ。 対応してくれ」
「わーった。高度情報を回してくれよ、直ぐに迎撃に入る」
「了解、飛行管制はこっちでやるから」
「…ふむ、どうやら、お出迎えのようだな」
「なあ旦那、やっぱあいつらと手を切ったほうがいいぜ。
地上本部は混乱状態にあるって言ったけど、きっちり迎撃の魔導師が着やがったじゃん」
「混乱状態だから1人しか来ない。首都航空隊は、壊滅してしまったようだな」
「みてーだな。…管理局ってのは、あいつらに蹴散らされるほど弱いのか？」
「…言うな、アギト」
「悪かったよ。…旦那、ユニゾンするぜ。大事な用事なんだろ、途中の
消耗は、ちょっとでも押さえなきゃな」
「そうだな」
旦那、と呼ばれた空戦魔導師〜弁慶が持っているより、さらにごつい長刀のような槍を持った
50代前半のおじさん〜と、アギト〜廃棄都市区画で、ルーテシアと一緒にいた
リインと同サイズぐらいの、赤毛の融合騎だ〜は、ヴィータを迎え撃つためにユニゾンする。
「…遺失物管理部機動六課所属、ヴィータだ。
無許可飛行魔法使用の現行犯だぜ。ちょっと事情を聞かせてもらおうか」
「すまないが、友人に会いに行くところだ、見逃してくれ」
「会いに行くなら普通に歩くかトラムでも使えよ。何もこんな時に空飛んで行く必要ねーだろ。
事情は、詰め所で聞く、ついてこいよ」
「…断る」
「……そりゃ、穏当な言葉じゃねーな。
一体どこへ、何をしに行くつもりだ？」
「…古い友人に会いに行くだけだ」
「その友人ってな、一体誰のことなんだよ。それに、今この状況で、友人に会うっていうのも
たぶん、無理だぜ。地上本部はいろいろと大変な状況だからな」
「…こういう状況でなければ、会うこともできん」
「…だから、誰に会いに行くんだよ、名前を言えよ」
「…レジアス・ゲイツ」
「…レジアス中将のことか？」
「そうだ。…では、そこをどいてもらおう」
「どけるわけねーだろ。いーから詰め所に一緒に来いよ。
そこで事情を聞いて、切符切ったら、オーリス三佐に面会人の申請してやる」
「オーリスか…直接レジアスに会わねば、意味がない」
「だから取り次いでやるっていってんだろ、事情を話せって」
「…その魔法陣、そしてその魔力…ベルカの騎士だな」
「ああ、…あたしは鉄槌の騎士ヴィータ、相棒が鋼の伯爵グラーフアイゼン」
「そして祝福の風リインフォースツヴァイですぅ」
「…古代ベルカ式の継承者、騎士ゼストだ」
「ちょっと、旦那、何やってるんだよ」
「騎士ならば、騎士の言葉で語るものだろう…行くぞ」
「シグナムかよ！…けど、そうまで言われちゃ逃げるわけにいかねーよな」
「ヴィータちゃん！」
「リイン、…ベルカの騎士は、一騎討ちを挑まれたら逃げるわけにいかねーんだよ。
行くぜゼスト、勝ったら事情を洗いざらい話してもらうからな」
「よかろう。…俺が勝てば、黙ってここを通してもらう」
「アイゼン！」
「ヤヴォール！」
弾幕も張らず、グラーフアイゼンで普通にヴィータは突っ込んでいく。
ゼストの方も、そのヴィータ相手に長刀を手に加速して間合いを詰める。
得物の構造から見て、ヴィータの方が動かざるを得ないはずだが…
確かに、ヴィータが先に動いた。
「ギガントフォーム！」
グラーフアイゼンを巨大化させ、自分自身は回避運動をとりつつ
ゼストの側面にハンマーをぶつけに掛かる。
ゼストの方は、加速してハンマーをかわす。
「ヴィータちゃん、このまままっすぐ抜けられたら地上本部まで一直線ですよぉ」
「そんなことはありえねぇよ」
確かに、ヴィータの言うとおりだった。
ゼストは、地上本部とヴィータの中間に立って、ヴィータを待ちかまえている。
「あのまま飛び抜ければ、地上本部にたどり着いたはずなのに…」
「ベルカの騎士の一騎討ちだ。背中見せて逃げたら、騎士じゃねーよな」
「そういうことだ」
こんどは、ヴィータはグラーフアイゼンで誘導弾を放つ。
ゼストは全く避けず、長刀で誘導弾をたたき落とす。
「ちぇ、豆鉄砲扱いかよ。やっぱ、ベルカの騎士はつっこんでなんぼだよな。
合わせろリイン！」
「はいですぅ」
「来るぞアギト」
「わーってる、きっちり合わせるからさ」
ハンマーと長刀が正面からぶつかり合う。
「さすがに騎士を名乗るだけはある…強いな」
「皮肉かよ。ドリルの先端を刃で受ける腕前のくせしやがって…けど、あたしはぜったいまけねー。
ぶちぬけアイゼン」
「ぬん…」
巨大な魔力が、刃とドリルの接点ではじけ、そして魔力バースト。
双方魔力の爆風から身を守るために距離を開ける。
「…いい騎士だ。アギト、フルドライブで落とすぞ」
「ちょ、旦那、そんなことしたら旦那の体は…」
「どうせ死んでいる身だ。あとすこしだけ持てばいい」
「冗談じゃねーよ。フルドライブなんてしなくたって、きっちり合わせりゃ
落とせねー相手じゃないからさぁ」
「時間が惜しい」
さて、こちらは、フォワードチーム4人に、ヴィータを除く訓練中隊の隊長達である。
「…なのはさん、フェイトさん、シグナムさん、デバイスを届けに来ました」
「ありがとう、…ちょっと怪我してない？今、回復魔法を使うから」
「なのはさんも回復魔法が使えるんですか？」
「シャマルみたいに上手じゃないけどね。…あれ、スバルとティアナは？」
「みんな、遅れてごめん」
「スバル、今度はちゃんととまんなさいよ」
「ティア〜いい加減信用してよ〜」
スバルにおんぶされてティアナ到着である。
「遅くなりました」
「何があったの？ティアナ」
「こちらに向かう途中で、戦闘機人に遭遇しました。
壁を爆破されたことで多少負傷しましたけれど、擦り傷程度です。
応急処置はしておきました。
遭遇した戦闘機人は二名、他二名が地上本部内に入っていると
戦闘機人は話していました。実際の侵入数は不明です。
戦闘機人達は、タイプゼロファーストの確保に向かっている模様」
「タイプゼロファースト…って、一体なんなんでしょうか？」
「ギンガさんね…」
「だろうな」
「それって、どういう事なんです？」
「エリオ、キャロ、そのことの説明については、あとできちんと説明するから。
今は、目の前のガジェットや戦闘機人に、専念しましょ」
「はい、フェイトさん」
「…ここからの予定を伝える。
スターズ小隊、なのは、スバル、ティアナは、ギンガの救出に向かえ。
ライトニング小隊、…フェイト、エリオ、キャロ、そして私は
一旦１０８部隊の司令部で情報を集める。その後のことは、そこで決定しよう。
スターズ小隊も、ギンガ救出後は、ギンガと共に１０８部隊司令部へ。
そこで機動六課本部のグリフィスと連絡を取れ。…以上だ」
「了解、シグナム。…両小隊とも、独自行動っていうことだね」
「ああ…本当はまとまって行動したいところだが、ギンガ救出が最優先だ」
「じゃ、行こうか、ティアナ、スバル」
「はい、なのはさん」
なのは、スバル、ティアナの３人は、センサーを頼りに、ギンガ救出へと向かう。
「さて、私たちも行くよ」
「了解だ、テスタロッサ」
「はい、フェイトさん」
そして、こちらは機動六課である。
ガジェットによる攻撃はしつこいぐらいに行われているが、みごとなまでの
予算の無駄遣い、というか、クレー射撃状態である。
つかれさせる計画であると見抜いた静の指示で、常時半数のみが戦闘参加し
半数は体を休めることで、消耗戦の方もあまりうまく行っていない。
これでは、戦闘機人側が力尽きるのも、時間の問題だろう。
「…おかしいですねぇ…どうしちゃったんでしょう？」
「どうしたんですか、静さん」
「どうして〜あの戦闘機人は〜突入して〜こないのでしょうか〜」
「…突入すれば返り討ちだとわかっているからではないでしょうか」
「いえ〜私が言っているのは〜地上本部を襲撃に行った〜戦闘機人達ですよ〜」
「？…彼女達は、まだ地上本部を攻撃する隙をうかがっているのではありませんか？」
「遅すぎます〜。あまりにも〜彼女たちが来るのが〜遅すぎます〜。
一体彼女たちは〜どこへ〜消えたんでしょう〜」
「…地上本部に向かう陸士や首都航空隊の殲滅…」
「ほら〜グリフィスさんも〜おかしいことに〜気づきましたよね〜」
「確かに、彼女たちが、空戦魔導師や陸士隊を攻撃しているという情報はない。
だとすれば、彼女たちの目的は一体？何を確保しようとしてる？」
「………レリックはここにあるんですから〜レリックを狙っていること…は……」
「どうしました、静さん」
「大変な事に気づきました〜。直ぐにシャマルさんとザフィーラさんに連絡を〜。
それから〜ベルカ自治領と〜通信を〜」
「ベルカ自治領と？…わかりました、ルキノ、ベルカ自治領の教会騎士団司令部と通信」
「はい………あれ？おかしいですね、通信がつながりません。データリンクは切れてないはずなのに」
「…やられましたぁ〜…私の〜責任です〜」
「一体どういうことなんです？」
「ヴィヴィオちゃんですよ〜レリックは〜初めから〜囮だったんです〜
ヴィヴィオちゃんが〜彼女たちの〜本命〜だったんですよ〜」
「え？でも、ヴィヴィオとアイナさんをベルカ自治領に送ったことは、地上本部どころか
本局だって知らないはずでは」
「ですけれど〜ベルカ自治領で〜秘密には〜出来ないですから〜」
「…で、でも、ベルカ自治領の教会騎士団がそう簡単に…」
「あの転送魔導師の転送能力がどれくらいあるか〜私たちは〜全く知らないですよ〜」
「！………教会騎士団の中枢にも、戦闘機人の仲間がいる？」
「そういうことに〜なりますね〜そこまで〜想定しておく〜べきでした〜。
私は〜単に〜レリックを囮に〜戦闘機人達を〜一網打尽にすることだけ〜考えて〜
ヴィヴィオちゃんを〜疎開させればいいと〜思ってた〜だけでしたから〜」
「……戦闘機人達の本命は、ヴィヴィオ」
「そういうことに〜なりますね〜。そうかもしれないと〜右助と左助に〜幻影魔法を
師匠に掛けてもらって〜待機して〜かまかけは〜してみたんですが〜」
「…すべて、向こうの、想定内だった…」
「です〜」
「もう、追っても仕方がないでしょうか？」
「………戦闘機人の方を捕まえれば〜まだ〜チャンスは〜残ってます〜」
「…そのために、シャマル先生とザフィーラを？」
「はい〜バインドでとらえるつもりなら〜あの二人が〜必要です〜」
「わかりました」
…よくも〜この静御前に〜一杯くわせてくれましたね〜このお礼は〜かならず〜いたしますから〜。
「ちぃぃ…なんてやつらだ、ユニゾンをきっちり合わせてきやがる」
「アギト、認めるべきだな。…相手は、真のベルカの騎士だと」
「わーってる。けどよ、旦那だって、真のベルカの騎士だろ」
「ゼストって言ったよな…あんた、なかなかやるな。…こんないい気分になったのは、久しぶりだぜ」
「ほめられたと思っておこう」
「ほめてんだよ。…けど、、最後に立ってるのは、このあたしだ！」
「ヴィータちゃん…あぶな…」
「旦那っ！」
「フルドライブ…落ちろ！」
何度目かの激突。ハンマーと長刀がぶつかり合う。
だが、今回は、ゼストの発揮している魔力が段違いだった。
ゼストは力任せにヴィータをたたき落とす。
ヴィータはリミッターが掛かっているから、本来ならAA級の魔力しか発揮できない。
だが、ちょっとした裏技なのだが、ユニゾン相手のリインにはリミッターが掛かっていない。
そこで、ユニゾンすることにより、リインに一旦ヴィータの魔力を預け、それをリインが
制御して発揮することにより、実質的にはリミッターが掛かっていないのと同じ状態を作り出せる。
さらに、ユニゾンによる魔力の増強もある。つまり、今のヴィータならば、魔法の出力は
本来のヴィータの魔力値AAA+を超え、S＋程度が発揮できているはずなのだ。
そのS＋の魔力を持ったグラーフアイゼンの一撃を受け止め、たたき落とす。
こんな芸当が出来るのは、先代のリインフォース、夜天の書の管理プログラム級の魔力の持ち主だろう。
…常時それが出来るのは。
「ぐっ…」
「旦那、無理しすぎだってば」
「心配するなアギト。…確かに、一騎討ちには勝利した、これで、先に進める」
「あ、ああ…そ、そうだよな。ベルカの騎士の約束だから、もうヴィータって奴は
妨害しに来ないよな。…旦那、行こうか」
「シグナム、いいところへ」
「ヴェロッサ、どうした？」
「たった今、ヴィータから連絡が入った」
「…こちらシグナムだ、ヴィータ、どうした？」
「し、シグナムかよ…遅いじゃねーか…」
「どうした、怪我でもしたか？」
「…あたしは…大したことは…ねえ…打撃は、全部…リインが受けてくれたから……
……リインフォースツヴァイ曹長…は…意識不明の重体……でよ……
…アイゼンは、…完全損傷…修理に……出さなきゃ……使えねぇ……
シグナム…オーバーS級の…ベルカの騎士が……地上本部に…向かってる……
…すぐ……迎撃を……頼む……ぜ…」
「わかった、直ぐに援護に向かう」
「シグナム」
「テスタロッサ、後を頼む」
「わかった。…アコース査察官、それで、現在の状況は」
「一進一退っていうところかな。ガジェットは相変わらず押し寄せてきてるけど
首都航空隊も再編成されて援護に入っているから。
機動六課の状況も、地上本部と大差ない。けど、グリフィスから
緊急事態が起きたから、可能な限り速やかに機動六課に帰還するように要請が来てる。
なにか、重大事件が起きたみたいだ」
「わかった、直ぐに戻ると伝えて。エリオ、キャロ、六課に向かおう」
こんな状況でも、転送魔法の使用許可は地上本部から下りない。
転送魔法を管理局が市街地で実施するのは、極めて厳しく制限されているのだ。
仕方ないので、フェイトは飛行魔法で、エリオとキャロはフリードに乗って
可能な限り速やかに機動六課へと向かう。
その途中、ブーメランが襲いかかって来る。
「バルデッシュ！」
「Yes,sir!」
フォトンランサーで迎撃、ブーメランを撃墜する。
魔法弾に対しては、迎撃で破壊が一番、バリアでまもって爆砕するのが二番。
避けたりかわしたりしたところで、誘導弾が相手だと、直ぐに反転して
襲いかかってくるだけという場合が多い。
「…フェイトお嬢様ですね」
「…ずいぶんと手荒な挨拶だね」
「私は、戦闘機人No.III、トーレ、こちらはNo.VIIセッテ」
「…スカリエッティの戦闘機人か」
「ええ、その通りです。…フェイトお嬢様、すこし、頼みがあるのですが」
「なんだ」
「お嬢様も、ドクターの計画に参加しては、もらえませんか？」
「断る」
「そう寂しいことを言わなくてもいいでしょう。
今の管理局体制で、我々が、どういう扱いを受けているかは
お嬢様が一番よくわかっているはずです」
「………だが、おまえ達のやっていることは…犯罪だ」
「革命は常に犯罪として始まるものです」
「これは…革命じゃない、ただの、犯罪だ」
「それは見解の相違です。…ドクターの…」
（エリオ、キャロ、先に機動六課へ）
（え、でも、フェイトさん…）
（わかりました、フェイトさん）
（エリオくん！？）
（あの二人は、僕たちの足止めなんだ。本当の危機は、機動六課にある）
（う、うん…）
「セッテ、逃がすな」
「わかりました、トーレ」
「行かせない！」
「ライドインパルス！」
「なに」
「リミッターの掛かった状態で、私に速さで勝負するのは無理ですよ」
確かに、トーレの言うとおりだった。
全速でセッテの迎撃に向かったはずなのに、トーレに先回りされたのだから。
「こちらライトニング１…ロングアーチ、応答願います」
「こちらロングアーチ、ライトニング１、通信どうぞ」
「戦闘機人２名に移動を阻止されました。ライトニング小隊はそちらの援護に向かえません、どうぞ」
「ロングアーチ了解」
「お嬢様、どうやら、実力差を、理解されたようですね」
「…振り切って逃げることは出来ないと、理解しただけだ」
「つまり、正面から戦って、勝てると？」
「勝てるかどうかじゃない…勝つ！」
「無駄なことを…」
さて、こちらは、地上本部内のスターズ小隊である。
「銀ねえ！銀姉！〜」
「ちょっとスバル、先行しすぎ！」
「けど、銀姉が、銀姉が…」
「…仕方ないね。悠長にやってて、ギンガをさらわれたら、そっちの方が大変だし。
スバルに先行偵察してもらうのは、間違ったやり方じゃないよ」
「だけどなのはさん、スバル単騎じゃ危険すぎますよ」
「そうだねティアナ。…だから、可能な限り、私たちもついて行くよ」
「…は、はいっ」
ローラーブレードで走っているスバルと、二本足で走るティアナになのは。
いくら魔法で強化しているとはいえ、スピードに差があるのは仕方がない。
直線部分では、なのはさんはティアナを抱えて飛べるとはいえ、室内に
そんな直線部分ばかりはない。ギンガを探しながらではなおさらだ。
「…銀姉！」
先行するスバルは、やっとギンガを見つけることが出来た。
戦闘機人３人に、ぼろぞうきんのように打ちのめされ、トランクに詰められかけている、ギンガを。
「………銀ねえ！」
「…タイプゼロセカンドか」
「チンク姉、こいつも今捕獲するッスか？」
「…ハチマキぃ…」
「銀ねぇを…返せっ！」
スバルのISが発動する。
『戦闘機人モード、ドライブ、IS、オーバードライブ開始』
「何が戦闘機人モードだ、あたしがぶっ飛ばしてやる」
「うわあああああああああああああああああああ」
スバルとノーヴェが交錯する。
次の瞬間、吹き飛ばされているのはノーヴェだった。
「ウェンディ、ノーヴェ、タイプゼロファーストを持って脱出しろ」
「チンク姉、けど、その怪我じゃ…」
「心配するな、姉は触れずに戦える」
「わかったッス。直ぐにセインさんを呼ぶッスよ」
「頼んだぞ」
「逃がさないっ！」
「行かせん！」
チンクの放った金属の刃が、スバルの目の前で炸裂する。
だが、それはスバルの突進を食い止めるには全く足りない。
直撃を受け、結構な深手を負いながらも、スバルは、逃げるウェンディと
ノーヴェを追いかけようとする。
その前に立ちふさがるのは、チンクの張っている防御結界だ。
「どけっ！どけよ。銀ねえが、銀ねえがっ！」
オーバードライブモードの振動破砕が、チンクの防御結界にたたきつけられる。
チンクには、防御しつつ反撃するほどの余裕がない。
すべての力を、防御結界につぎ込んで、それでもじわじわと結界が削られていく。
（なんという力…この結界は、S級の砲撃魔法に耐えるというのに…）
ついに、決定的な一撃が、チンクの防御結界を貫いた。
「くっ…」
「銀ねえ〜」
や、やられる。結界が破壊される時に、オーバーキルを暗い込んでいて動けない。
「セインさん到着〜」
「た、助かった…」
突然天から青髪の戦闘機人が降ってくると、そのままチンクごと地中へと姿を消した。
あれがたぶん、セインさんなのだろう。
「う、ううう…うわぁあああああああ」
マッハキャリバーが、過負荷に耐えかねて、機能を停止する。
これではもはや、ギンガを連れて逃げる、赤毛連盟…ノーヴェとウェンディを
とらえるわけにはいかない。
ギンガは、さらわれてしまったのだ。
「スバル、大丈夫？」
「あ、あたしは…大丈夫ですけど…銀ねえが…銀ねえがぁ……」
「あんたね、そりゃ大丈夫ってレベルじゃないでしょ。
どう？立てる？肩貸すわ。一旦地上に出て、修理するわよ」
「あ、あたしは…」
「冷静になんなさい、スバル。…地上に逃げるところを、フェイトさん達が
捕まえるチャンスは、残ってるでしょ」
「う、うん…」
（けど、それも、無駄だったみたいだね）
（そうだろうとは思いますけど…けど、今はそういうしか、ないじゃないですか）
「…アギト、どうやら、潮時のようだ…戻るぞ」
「え、ちょっと旦那」
「スカリエッティの戦闘機人も引き上げるようだ。直ぐにこの混乱も収まるだろう」
「…旦那…せっかくここまで来たのに…」
「また、いい機会もある。…とりあえず、挨拶は、しておいた」
「わーった、旦那がそういうんなら」
シグナムの接近を察したゼストは、アギトと共に待避に掛かる。
シグナムは、これを確認すると、ゼストを深追いせず、ヴィータとリインの救護を優先した。
そして、会議室である。
会議室のモニタ画面は、何者かにジャックされていた。
誰によってか？本人が堂々と名乗っている。
「管理局システムの諸君、総会ご苦労様。
私はジェイル・スカリエッティ、…科学者だ。
どうかね？私の総会でのだしものは？
十分に楽しんでもらえたかね？…ふふふ…
これは、ちょっとしたデモンストレーションだよ。
私の作品…愛する娘達の実力の、デモンストレーションだ。
君たち、管理局の偽善の影で、虐げられ、人間として生きる権利を奪われている
私と、私の娘達のね……おぼえておきたまえ、これは、始まりに過ぎない。
君たちに踏みにじられた、新しい生命と、それを生み出す手による、復讐の、始まりだよ。
ああ、もちろん、生命を愛する者達は、恐れなくていい。
私もまた、生命を愛する者だ。…愛するが故に、生命の限界を超えようという者だ。
来るべき新しい人々。君たちを人間とするなら、超人とでも呼ぶべき人々を
作り出す者…それがこの私、ジェイル・スカリエッティなのだよ。
淘汰されるべき、古い人類に固執し、進歩を阻む者は、恐れおののくといい。
私は、おまえ達の支配を打破するために、事を起こしたのだから。
君たちの支配から、来るべき人類を解放するためにこそ、今ここでのろしを上げたのだから。
その力のほどは、今回お見せした通り、次の出し物を、期待して待っていたまえ。
はははは・・・・はーはっはっはっは…」
（好き勝手なこと言うてくれるなぁ…）
（でも、はやて。…今日は、完全に、スカリエッティにやられてしまった）
（せやな…完敗や………なにもかもが…スカリエッティの思い通りの…結果になったみたいや…）
十分に準備していたはずだった。
計画は、当初の予定通りではないとはいえ、完全なはずだった。
だが、それでも、スカリエッティの襲撃を防ぐには、不十分だった。
そして、ヴィヴィオを守るにも。
