異聞・少女義経伝・四
地上の星
【第十五章】
〜前夜〜
私の名前は、ティアナ・ランスター。
機動六課所属二等陸士。訓練中隊の新人4人をまとめて編成した
フォワードチームのチームリーダーをやらせてもらってます。
ギンガさんを交えての訓練は、一週間ほどで終わり、ギンガさんはまた
陸士１０８部隊へと戻られました。
私たちフォワードチームも、多少は実力が認められて、打撃中隊の代わりに
ガジェット討伐戦の前衛として、投入されるようになりました。
もちろん、背後は隊長達が固めてくれていますから、気持ちは楽です。
それでも、直接隊長達が助けてくれるわけではないので、緊張はします。
訓練でのリーダーは、それほどプレッシャーを感じませんでしたが
実戦で、リーダーをこなすのは、ものすごいプレッシャーがあります。
たとえ、ガジェット相手には遅れをとる心配なんてないんだと、わかっていても
やっぱり、万が一は、つきまといます。
特に、実戦訓練として、ヴィータ副隊長の援護位置についての指示まで
行わなければならなかったときには、緊張しまくりました。
ですけれど、それも今では昔のこと。
今は、そんな実戦訓練にもなれました。
なのはさんをリーダーにしての、スターズ分隊による市内パトロールも
緊張することはなくなりました。
そして、何より、私たちもまた、会議のメンバーとして八神部隊長から
参加するように命ぜられるようになりました。
私たちも、機動六課の戦力として、認識されるようになったんだ。
そんな実感が湧いてきます。
今日も、そんな会議の一つです。
「みんな、今日は大切な会議やから、訓練中隊、打撃中隊だけやのうて
機動六課のメンバー全員に集まってもらったんや。
出来るだけ手短に説明をするつもりやけど、質問があったらえんりょのう言うてや。
…さて、と、とりあえず、シグナム。概要を説明してくれへんか」
「かしこまりました、主はやて。
明日、管理局の今後一年間の方針を決める、管理局の総会が
ここ、クラナガンの地上本部でひらかれる。
そして、騎士カリムの予言の解析によると、この管理局総会において
管理局システムの根幹を揺るがすような事件が、何か起きる物と考えられる。
そこで、機動六課も、この事態に対処すべく行動する。
概要は以上だ」
「騎士カリムの予言について、聞いたことのない人のために補足説明しておくわ。
騎士カリムの予言は、未来について、ぼんやりとした影を写し取るようなもんや。
それが正しい未来かどうかはわからへん。けど、適切に対処せえへんかったら
かなりの確率で起きるようなたぐいの、危機の予測ではある。
手っ取り早く言うたら、古代ベルカの遺産の一つ、高精度の未来予測や」
「八神部隊長、そんな危険が存在するのなら、当然地上本部でも適切な警備が為されてる
でしょうし、危険が存在しないとしても、相応の対策はとられてるんじゃありませんか？
機動六課が対処するとしても、せいぜい、ガジェット対策ぐらいですよね」
「それがそうもいかんのよティアナ。
総会が地上本部で行われて、本局でひらかれるわけやないのは、ミッドチルダが
管理局システムを支えてる、っちゅう事実を、他の次元世界の代表者に見せるっちゅう
意味もあるんや。
せやから、警備っちゅうても、政治的理由で、そうそう大仰なことはできへん。
おまけに、レジアス閣下は、この手のレアスキルがお嫌いや。
私も一理あるとは思うけどな。解釈次第でどうとでもとれる曖昧なもんに
いちいち振り回されたないのはわかる。
けど、予言を解釈する過程で、現実の危機を照らし合わせていくから
解釈後の予言について言えば、天気予報ぐらいには、未来の予測が出来てるんよ。
その予測で言うと…降水確率９０％ってとこや。
何か、あの総会で起きる。それがどんなたぐいの事件かまではわからへんけど
必ず、管理局システムにとってネガティブな事件が発生する。これは、まず間違いない」
「なあはやて、シグナムが解釈に加わってるんだから、頭から疑うってわけじゃねーけどよ。
なんで、総会って限定できるんだ？」
「それについては、私が説明する方がいいだろう。
管理局総会には、伝説の三提督を含めて、管理局の首脳が一堂に会する。
ここで地上本部を襲撃して破壊すれば、管理局システムは事実上機能を停止する。
そこまで行かなくても、もし、管理局システムに打撃を与えようとする者がいるなら
総会の時期に、クラナガンで騒動を起こすのが、もっとも強烈にアピールできると考えるだろう。
それが、この総会で、管理局システムに対する攻撃があると考える理由だ」
「…まあ、それはわかる。けど、どんな襲撃があるかわからねーんじゃ
やっぱり、対処のしようがないだろ」
「相手がスカリエッティいうてわかってるなら、対処の方法は簡単やろ。
ガジェットと、戦闘機人。この二つで地上本部を襲撃する。それだけのことや。
今把握されてる戦闘機人は、砲撃手、幻術使い、それから、その二人を高速機動で
なのはちゃん、フェイトちゃんから救い出した謎の人物。〜後から
幻術使い達が脱出したシーンを分析したら、一瞬やけど、第三の人物が写ってたんよ。
速さからいえば、フェイトちゃんと互角以上やろなぁ…。
あと、ルーテシアとアギトを持ち去った戦闘機人も確認されてる。
ルーテシアとアギトについていえば、戦闘機人かどうか、判断がつきかねるんや。
戦闘機人なんかもしれへんし、他に何かあるんかもしれん。
けど、彼らが、スカリエッティの主要な戦力なのは、間違いないやろ。
内部から、あるいは外部から、どんな手段を使ってくるかは不明やけど
とにかく、地上本部を襲撃してくる。これは間違いないはずや。
クロノ提督も、静さんも、同意見やし」
「はい〜ガジェットに対応する能力は〜今の地上本部所属部隊には〜ありませんから〜
事実上〜地上本部は〜丸裸みたいな〜ものですよ〜」
「けど、隊長の敵ではないですよ」
「…まあな。単純な力比べだけやればええんなら、撃退するぐらい、出来るかもしれへんな。
実際、静さんには、防衛作戦を立ててもらってた。
打撃中隊が地上本部内部で待機して、フォワードのみんなと、陸士１０８部隊が
地上本部に接近するガジェットに対処、戦闘機人が現れたら、時間を稼ぎつつ
打撃中隊の到着を待つ。そして、隊長達は機動六課宿舎に待機して、スカリエッティの
行動に対して、柔軟に対応するための、予備となる。
クラナガンで事が起きる限り、私が長距離魔法で援護出来るし、移動速度を言えば
隊長達は、クラナガンの魔法使いの中でも屈指の速さや。
…けど、これは全部絵に描いた餅になった」
「一体、何が起きたんですか？」
「いろいろや。
まず、私は、レジアス閣下のご指名で、長距離魔道砲の運用について証人として
参加することになってもうた。
私は議場の中に入ることになるから、初動では全く戦力にならへん。
シグナムは、騎士カリムのために、予言の解釈について説明することになった。
現在の予言解釈が外れた場合に、騎士カリムの予言が即座に全く
信用をなくすようなことは、さけなあかんのよ。
一気にスカリエッティが攻めてくるんやのうて、他に何か
ロストロギア持ってる可能性は、否定できへんからな。
今日の予言が外れたからいうて、明日、予言の状況にならん保証はない。
そこらあたりについて、みんなに説明する、それがシグナムの仕事や」
「すまんな。おまえ達の力になれなくて」
「いえ、その分は、僕たちががんばります」
「ですけど、なのはさんとフェイトさんだけでも、十分な戦力ですよ」
「その、なのはちゃんとフェイトちゃんも、問題なんや」
「一体どんな問題なの？」
「なのはちゃん、フェイトちゃんは、お偉いさんの接待。
これはレジアス閣下のご命令や。何も起きるはずがないんやから
有名人のなのはちゃん、フェイトちゃんは、せいぜい管理局の
イメージアップでもやってればええんや、いうことや。
まあ、接待いうても、ドレス着て、ラウンジで適当に
話しかけてくる人を裁いてくれればええんやけどな。
会議場まで行く必要はないんよ。
…これで、静さんの計画は、根本からくるうてもうた。
急遽、別な作戦を立ててもろうたんよ。
新しい作戦については、私が直接説明する。…同時に命令になるからな。
まず、私とシグナムは、騎士カリムと一緒に、総会の会議室に行く。
これはお仕事やからしかたない。もし、スカリエッティの襲撃があったら
シグナムには、現場に向かってもらう。けど、私はどっちにせよ
員数外や。シグナムが欠けた分は、私が会議場でなんとか埋め合わせるわ。
それから、打撃中隊のみんなは、宿舎に待機してて欲しいんよ。
作戦はあるんやけど、静さんから口止めされてるんや、悪う思わんといて」
「悪くは思わないよはやて。静が考えたことなんでしょ。
理解は出来なくても、そのときが来れば、自然に、それが
最良の作戦だったってわかるはずだよ」
「…まあ、何事も悪いことばかりやないんよ。
ミゼット提督の口利きのおかげで、陸士１０８部隊が、地上本部の直接警備に
加われるようになった。せやから、フォワードチームは、陸士１０８部隊の
担当領域に待機してもらうことになる。
それで、フォワードのみんなには、極めて重要な任務をお願いしたいんや」
「極めて重要な…一体どんな任務なんですか？
「隊長達のデバイスを預かって欲しいんや。
普通なら、デバイスを持ち込んでもよさそうなんやけど、デバイスの持ち込みは
総会開催中、地上本部では御法度やからな。
それが解除になるのは、緊急事態だけ。つまり、襲撃を受けた後いうんと同義語や。
そのとき、デバイスが手元にないやと、結局戦力にならへん。
せやから、フォワードのみんなには、デバイスを預かってて欲しいんよ。
…静さんが考えた作戦の逆や。何かあったら、フォワードチームが素早く
隊長達と合流。訓練中隊隊長は有事の際には、速やかにフォワードチームと合流
その後、フォワードチームと合同で、危機に対処する。
打撃中隊は、六課宿舎で待機。何か起きた場合には、ヘリで現場に急行する。
必要なら、機動六課の非戦闘員は、ヴァイスとアルトの操縦するヘリで
機動六課から脱出。つまり、ここ、機動六課宿舎を罠として使うことも視野に入れてる。
もちろん、機動六課が襲撃を受けなければ、打撃中隊を、地上本部へ投入することもあり得る。
簡単に言うと、地上本部を金床、機動六課をハンマーとして使うことの逆で
機動六課が金床で、地上本部にいる魔導師が、ハンマー役を務めるわけや。
…何がおきるかは、わからへん。せやから、各人、何が起きようと、対処出来る
心構えができてないといかんよ。…質問は？」
「陸士１０８部隊は、何をするんですか？」
「隊長達と、フォワードチームが合流するまで、敵を本部内に転送で送り込まれないよう
阻止するのが仕事や。
…まあ、詳しくは、ギンガさんにおうたとき、直接聞くとええわ。
他に何かないか？…細部は詰めておいたほうがええで、なにしろ
形から言えば、なーんも備えが出来てないところへ、敵が襲撃してくるのと
かわらへんのやからな」
「八神部隊長、整理すると、フォワードチームは、何かあったら直ぐに
デバイスを隊長に届けて、それから指示を仰げばいいんですね」
「そういうことや。その後の事については、隊長達に腹案、あるみたいやからな」
「あたしの居場所がねーよ」
「あ、ごめんなヴィータ、何も忘れてたわけやないんよ。
ヴィータだけは、なんとか、フォワードチームの指揮官、いう建前で
管理局外の偵察が出来るようになったんや。
せやから、ヴィータは、何かあった時、フォワードチームのメンバーが
デバイスを届けにいってる間、なんとしても、地上本部へ向かう
フォワードチームの援護として、外部の防衛戦を支援して欲しいんや」
「了解だぜ。…敵は強ければ強いほど燃える」
「ところで、全体の指揮は誰がやるの？」
「私が現場におられへんからなぁ…グリフィス、、当然やけど、頼むで」
「わかりました」
「九羅香さん達には、何も補足すべきことない、…と思うんやけど」
「まあ、静さんがいるし、なんとかなるんじゃないか」
「決まりやな。…せやたら、会議せなあかんことは、これで終わりや。
今日はゆっくり休んでや。…明日は、かなりハードな一日になりそうやから」
「…ヴァイス陸曹、ちょっとよろしいですか？」
「あー、ティアナか、おまえも早く休んでおけよ、朝は弱いんだろ」
「ええ、スバルと比べれば全然です。けど、まだ就寝時間じゃありませんから」
「だからって、明日何が起きるかはわかったもんじゃねぇだろ。
それで、一体何の用なんだ」
「…ヴァイス陸曹は、以前首都航空隊で、シグナム副隊長の部下だったんですよね」
「まあな、俺が管理局入りした頃は、もう首都航空隊にもヘリが導入されてて
飛べない魔法使いでも、入隊出来るようになってたからな」
「けど、最初は、ヘリコプターのパイロットで入隊した訳じゃ、ないですよね。
…どこの部隊でも、打撃班〜ストライカーズが、最精鋭。
首都航空隊打撃班、シグナム小隊の狙撃手兼センターガード。
ヴァイス陸曹がヘリパイロットの免許を取ったのは、アルトさんよりむしろ後でしたね」
「…ずいぶんと昔のことを調べたもんだな」
「執務官志望ですから」
「執務官ってな、同僚のプライバシーをほじくりだすのが仕事なのか？え？」
「…すいません。けど、本当に聞きたいのはこの次です。
ヴァイス陸曹って、地上の星計画の第一期生…なんですよね。
一体、地上の星計画って、何なんですか？
どうして、ヴァイス陸曹は、そこから抜け出したんです？
地上の星計画って、一体、今はどうなってるんですか？」
「そんなことを聞いたって、おまえには何の得にもならんだろ。
俺にとっては、全部過ぎたことだ。俺は、狙撃手だのセンターガードだのやるより
ヘリを飛ばしてる方が、性に合ってるから、ヘリパイになった、それだけだ」
「…ですけど、地上の星計画についてだけは、教えてください。
どうして、兄は外れて、ヴァイス陸曹が選抜されたのかだけでも」
「…兄って、誰の事だ？」
「首都航空隊、ティーダ・ランスター」
「…あいつはかわいそうなことをしたな。ロストロギアの密輸を追ってたのはいいが
犯人がロストロギアで自爆したんだっけか。それで巻き添えを食らって殉職。
そんなもん、予測しろっていうのが無理だ。
あんなのに耐えられるなんて、それこそ姐さんみたいな化け物でもないとな」
「元上司を化け物呼ばわりしていいですか？」
「今でも上官だろ。けど、隊長達は、俺たちとは根本的に違う存在なのは、わかるよな」
「…ええ、それは実感します…打撃中隊の人たちも、化け物揃いですけど」
「そんなこと言ったら、弁慶が怒るぜ。俺は普通の人間だって」
「義経軍団の中核じゃないですか。…誰より化け物なんでしょう？」
「…まあ、な。そう見えても仕方ないか。なのはさんだって、普通の女の子だって言いたがるし」
「話を逸らそうとしてもだめですよ。…どうして、ヴァイス陸曹は、そこから抜け出したんです？」
「おまえ、おれが単に振り落とされたとは考えないのな」
「自分から辞めた所までは、調べてありますから」
「…おまえ、大した執務官になるぜ。事件担当の執務官になれたらな」
「ええ、なれたら…、ずいぶんと先の話ですよ」
「そうでもないだろ。管理局は情実人事がまかり通るからな。
おまえは、今のところコースに乗ってる。自覚はないかもしれないけど」
「機動六課所属だからですか？確かに、本局教導隊による戦技指導なんて、一般の
陸士じゃあり得ないことですし、執務官補佐試験に通れば、即フェイトさんみたいな
一線級の執務官に配属されることが約束されてるなんていうのは、すごいチャンスだとは
思いますけど」
「…いや、…そうじゃねえ。おまえが…っと、悪いな。姐さんに口止めされてるんだ」
「…それで、ヴァイス陸曹は…」
「くどいぜ。それは、俺のプライベートな問題だ。
地上の星計画について知りたきゃ、自力で調べな。俺は何にも言わないぜ」
「・・・・地上の星計画。現在の、先天的な高レベル魔力資質持ちに依存して
一般隊員の士気が低下気味な現状を打破するための、陸士の士気向上と
全体的なレベルアップを図るためのプロジェクト。
そこまでは、わかってます。…ヴァイス陸曹が、それに選ばれたのも。
………機動六課が、その計画の一部であることも。
だから、知りたいんです。…ヴァイス陸曹が、そこから抜けた理由を」
「…………………どうやって調べた？」
「…ユーノさんは、ご存じです？」
「ああ、なのはさんの恋人…って言うと、どっちも怒るか。
幼なじみだよな」
「…その方から。…なのはさんの魔法の師匠だと聞いたので、何か
魔法が上達するヒントでももらえればと思って相談したついでに」
「秘密ってな、2人までが限度ってな、よく言ったものだぜ」
「…それで、地上の星計画って、なんなんですか？」
「さあな。…明日になれば、たぶん、おまえにもわかるんじゃないか？」
「明日になれば？明日の任務で、誰かが教えてくれるんです？」
「それはないだろうな。…けど、その中で、たぶん、自分で答えを見つけられるだろうよ。
見つけられないようなら、俺が教えてやっても、意味はない」
「………わからないですよ、全然」
「俺は姐さんに怒られたくないんだよ」
「ドロップアウトするときには、怒られなかったんですか？」
「怒られたっていうより、あきれられたかな。…けど、本当に怒ってたのは
姐さんじゃなくて、弁慶さんだったな。
九羅香さんは、悲しんでたっけ」
「…九羅香さんが？…一体それって…」
「俺の話はここまでだ、そろそろ消灯だぜ。ゆっくり寝て、明日の任務に備えろ。
明日は、恐ろしくハードな一日になるぞ。…俺の予感が正しければな」
「わかりました、ヴァイス陸曹。…明日に備えます」
「ああ、そうしろ」
…ストームレイダー、俺は、あれから首都航空隊でも屈指のヘリパイになったよな？
…Yes.
…俺は、間違ってなかった、…違うか？
…I do'nt know.
…だが、過ぎたことだよな。
…No,you are wrong.
………………
「なのはママ、明日もお仕事？」
「そうだよ、ヴィヴィオ」
「明日は、大変なお仕事なの？」
「うん、ちょっと大変な事になるかもね」
「ママ…大丈夫？お休みした方がいい？」
「大丈夫だよヴィヴィオ。なのはママは、ヴィヴィオがいい子にして待ってたら、必ず帰ってくるからね」
「うん、約束するよ。なのはママ、ヴィヴィオ、いい子にして待ってる」
「うん、じゃ、なのはママも約束。かならず、帰ってくるからね」
「なのはママ、指切り〜」
「うん、指切りしようか」
「なのは、そろそろ寝ようか」
「うん、そうだね、フェイトちゃん。お休み、フェイトちゃん、ヴィヴィオ」
「お休み、なのはママ〜」
ちょっとだけ、なのはママに変わってヴィヴィオがご説明〜。
あのね、機動六課では、部隊長を含めて、みんな相部屋なんだよ。
それで、なのはママは、フェイトママと相部屋。
今はヴィヴィオも一緒。 えとえとえと、フェイトママは、なのはママの相棒だから
やっぱりママでいいんだよね。…んと、ヴィヴィオ、何か間違ってる？
あ、そだ、ヴィヴィオは、なのはママがいない時には、ちゃんとお留守番してるんだよ、偉いでしょ。
なのはママのだけじゃなくて、アイナさんと一緒に、洗濯物を片付けたり、アイナさんや
シャマルおばちゃんとお勉強したり、ザフィーラとテレビ見たりしてるんだよ。
時々は、エリオお兄ちゃんやキャロお姉ちゃんが絵本とか読んでくれたりもするし
弁慶おじちゃんがサッカーを教えてくれたりするんだよ。
弁慶お兄ちゃんのお兄ちゃんは、サッカーのキャプテンで、はやてお姉ちゃんのお友達なんだって。
あ、えと、それで、今ヴィヴィオはちょっと興奮してて…眠れません。
なんだか、いやな予感がするんです。
漠然とした不安です。なのはママと離ればなれになるんじゃないかって。
えと…ヴィヴィオは、本当のママを探してます。なのはママもフェイトママも
出来る限りでは探してくれてます。ですけど………本当のママが見つかったら
なのはママとは、お別れなんでしょうか。そう思うと、なんだか悲しい気持ちになります。
だけど、今感じてる不安は、それとは何か別なことで。
何かヴィヴィオは、すごく大切なことを忘れてる気がしてて、だけど
それがなんだか全く思い出せなくて、…すごく、不安になります。
不安で不安で仕方なくて、…眠れません。
「…ヴィヴィオ、どうしたの？まだ起きてる？」
「あ、フェイトママ…う、ううん、今から眠るから」
「ヴィヴィオ、泣いてる？」
「泣いてないもん」
「でも、涙が出てるよ。今拭いてあげるからね」
「…ありがと、フェイトママ」
「…それで、どうしたの？」
「う、うん………ヴィヴィオ、ママが見つかったら、なのはママとは
お別れかなって…」
「……それは、ヴィヴィオが決めることだよ」
「ヴィヴィオが？えと…本当のママが見つかったら、ママの所に行くんだよね」
「…本当のママって？」
「…わかんない」
「…そっか、わかんないか。…ヴィヴィオ、これを見てくれる？」
「フェイトママのちっちゃい頃の写真だよね。
一緒に写ってるの、誰？」
「…こっちの写真に写ってるのは、誰だかわかるよね」
「えっとね、リンディおばあちゃんに、クロノおじちゃんに、フェイトママ。
リンディおばあちゃんは全然変わらないから直ぐにわかるよ」
「リンディ母さんは、ヴィヴィオも、会ったことあるよね」
「うん、一回だけ〜」
「それじゃ、こっちは誰だかわかる？」
「えと…わかんない。フェイトママが写ってるような気はするけど、でも
ちょっとフェイトママとも違うような…」
「こっちはプレシアママ、それで、こっちはアリシア姉さん。
フェイトママのお姉さんと、お母さんだよ」
「…フェイトママって、ママが二人？」
「そうだよ、ヴィヴィオ」
「……えと、どっちが本当のお母さん？」
「…二人とも、フェイトママの、本当のお母さんだよ。
プレシアママは、フェイトママの生みの親で、途中まで育ててくれた人で
リンディ母さんは、フェイトママが管理局に入った後育ててくれた人」
「…よくわかんない、生みの親以外にママがいるの？」
「うん。…二人とも、私の大切なママだよ」
「………ねえ、フェイトママ。プレシアおばあちゃんは、どこに行ったの？」
「…ずっと遠いところ」
「どのくらい？」
「西方十万億土ぐらい。…って言っても、ヴィヴィオにはわからないか。
死んだら行くところだよ」
「………プレシアおばあちゃんって、死んじゃったの」
「…うん、フェイトママが9歳の時にね」
「………ママ…ママでも、死んじゃうこと、あるんだ」
「……プレシアママは、病気だったからね」
「…病気だったんだ」
「………ヴィヴィオ」
「何、フェイトママ」
「…ママが二人いてもいいんだよ」
「………」
「どっちかのママを選ばないといけないなんて、そんなことは、無いからね」
「………」
「………ごめん、フェイトママの言うこと、的外れだった？」
「…………フェイトママ、お休みなさい」
「お休み、ヴィヴィオ」
ヴィヴィオは、フェイトママの手を、ぎゅって握ります。
ヴィヴィオは、こんな時、なんて言っていいか全然わからなくって
だけど、何かを伝えたくって、それを伝える方法もわからなくって
だけど、それは伝えなきゃいけないことで…
だから、フェイトママの手を、ぎゅって握ります。
ヴィヴィオには、なんて言っていいかわからなくても、フェイトママなら
きっと、ヴィヴィオが、そういうとき、どういう言葉を言えば伝わるか
それを教えてくれそうな、そんな気がするから。
ヴィヴィオは、明日が来るのが、 怖いです。
なのはママが出かけちゃったら、何かが起きそうな、そんな予感は消えないんです。
だけど……………ヴィヴィオは、本当のママが見つかっても、なのはママを
捨てなきゃいけないって、そんなことは、ないんだって、フェイトママが
そう教えてくれたから、…なのはママもぎゅっ。
