異聞・少女義経伝・四
地上の星
【第十三章】
〜迷子〜
ここは、機動六課の会議室。
各部隊の隊長が集められている。
今回の、レリック争奪戦についての、状況分析が目的だ。
「それにしても、はやてもずいぶんと思い切った手にでたものだね」
「けど、静さんの予測通り、ちゃんと証拠が挙がってよかったです。
なんもでえへんかったら、辞表ださなあかんとおもうてました」
「そうはならないよう〜一応〜玲奈さんに〜探りは入れてもらいましたけど〜」
「探りは入れて、感触はつかんでたけど、証拠が無かったんだよ。
ゆっくり忍ねこ使って証拠探ししてもよかったんだけど、時間なかったんでな」
「それで、アコース査察官の、レアスキルをつこうて、一気に真相解明してもらったわけや。
査察官、悪いけど、捜査についてみんなに説明してもらえませんか？」
「あの、はやてちゃん、そういえば保護した女の子は？」
「なのはちゃんは子煩悩やな」
「いや、そういんじゃなくて」
「ああ、それは私も気になってたんだ。一体どこの子なの？」
「・・・そうやな、先にその話をしよか。
エリオが見つけた子やけど、今のところ、どこの誰か全然わからへんのよ。
身元を明らかにする物も全然持ってへんし、地上本部に問い合わせても
顔写真を見る限り、そういう子の失踪届は出てへんみたいや。
けど、ちょっとした迷子かもしれへんし、手当が終わったら、地上の施設に
うつしたほうがええんやろな」
「そうだね、はやて。ここは、子供を預かるには、安全な場所じゃないから」
「保護した子供の事については、これぐらいでええか？」
「うん、いいよ、はやてちゃん」
「なら、アコース査察官、頼みます」
「ああ、わかったよ。八神部隊長。…だけど、事実そのものはそんなに複雑な事じゃない。
前から、レリックの密輸に、管理局員が関わっている疑いはあった。
それで、ガジェット討伐っていう名目で、玲奈さんに、忍ねこを使った情報収集は
機動六課の方で行ってもらってたんだ。
ただ、泳がせて、ロスロトギアの搬入を追って、スカリエッティにたどり着こうという
考えより、可能な限り速やかに、レリックの搬入を止めるべきだという考えで
査察官である、僕の出番になったというわけだ」
「査察官なら、陸、海、関係なしに、抜き打ちで査察が出来ますね」
「そういうこと。もちろん、陸への査察は、陸の査察部が当たるのが普通なんだけど
必要に応じて、本局査察官だって、やっていけないわけじゃないから」
「だけど、何もなかったら、さらに陸と海の仲が悪くなるんじゃない？」
「何もなければね。…今回は、見事に不正を明らかに出来たよ。
確かに、ミッドチルダ第一空港の税関部には、不正があった。
レアスキルを使っての査察で、直ぐに明らかに出来たよ。
過去数年にわたって、恒常的に、ロストロギアの搬入を黙認していたようだ。
不正に直接当たった局員については、地上本部へ報告書を回す予定だ」
「これで、ロストロギア搬入についての問題は、ひとまず解決した、思うてええんですか？」
「残念ながら、そうは行かないね。
現場は取り押さえたものの、少なくとも前任者は、同じように不正に関与していたと思われる。
その前任者だって、不正を行っていなかった保証はない。
これで一件落着というより、これが管理局の、ロストロギア監視体制についての
不祥事を明らかにする、糸口をつかんだと言う方が正しいみたいだ。
それに、尋問しててわかったんだが、タッチの差で大物を逃がしてしまったらしい」
「どういうことですか？」
「今日、重要なロストロギアが、クラナガンに搬入されたようなんだ。
僕が、打撃中隊のみんなと一緒に、税関部に乗り込んだ時には、既に
そのロストロギアは、空港の外に運び出されてたようだよ。
それが一体何なのか、さっぱりわからない。…残念なことに、彼らは
ただ見逃すように指示されていただけで、中身については、知らされてないようなんだ」
「けど、どの荷物を見逃せ、っていう指示は、受けてたんじゃありませんか？」
「特定の便のロストロギアはすべて見逃せっていう指示なんだ。
だから、その便については、ロストロギア検出装置を作動させてなかった。
どの荷物に、どんなロストロギアがあったのか、全くわからない。
打撃中隊が、その便の荷物について、空港内にあるものに関しては調べたけれど
全く見あたらなかったからね」
「…けど、その、ロストロギアらしきものなら、偶然にも、確保出来たんやないか思います」
「どういうこと？」
「そういう情報のすりあわせのために、会議を開いたんです」
会議前から気になっていたんだ。
どうして、はやてちゃんは、はやてちゃんの目の前に、何かケースらしきものを置いてるのかって。
はやてちゃんが、ケースを開ける。
中には、赤く輝く結晶のような物があった。
「レリック１１番。レリックにつけられてるナンバーに、どんな意味があるのか
わかりませんけど、レリックが、高値取引されているロストロギアなのはわかってます。
危険かどうかはわかりませんけど、指定ロストロギアには間違いないです。
一日に、そんな多数の指定ロストロギアが、闇に流れてるとは考えにくいんやないでしょか」
「…確かに、そうかもしれないね」
「ですけど〜そう考えると〜逆に〜恐ろしいことに〜なりませんか〜」
「静、それは一体どういう意味？」
「タッチの差で〜ロストロギア確保に失敗したのが〜ただの偶然でしょうか〜」
「偶然だよ。僕が査察に行くことを知っている人なんて、ほんの一握りだからね。
それこそ、機動六課メンバーと、査察部の同僚や上司と、クロノ提督にリンディ提督ぐらいだ。
そのうち、査察の時間まで知っているのは、義経軍団に査察部の人間ぐらいだよ。
まさか、義経軍団が事前に情報を漏らすわけがない」
「私たちだって、急に空港に呼び出されたんだ。それも、査察をやるとは一言も聞いてない」
「そりゃ、言ってないもの、当然だよ。
抜き打ち査察っていうのは、誰にも教えないようにやらなければ、抜き打ちにならない」
「そっか…なら、やっぱり、恐ろしいまでの偶然やったんやろな。
レリック確保も、恐ろしいまでの偶然やったんやし」
「偶然の一致を、人は軽視しがちだけど、良くあることだよ。
こういう仕事をやっていると、ほんとにそれを実感するね。
お話だったら、ご都合主義で切り捨てられるような偶然が、本当に起きるんだ」
「…さて、状況を整理しよか。…リィン、やってみるか？」
「はいですぅ。つまり、ロッサさんの緊急査察で、空港における不正を暴くことができましたぁ。
このルートを追っていけばぁ、もしかしたらぁ、管理局にまで手を伸ばすぅ広域次元犯罪者の
組織にたどり着くかもしれないですぅ。
そしてぇ偶然とはいえ、密輸中のレリックが手に入りましたぁ。
これからもぉこういう捜査を続けることでぇレリックの回収ができるかもしれないですしぃ
そのルートからもぉ広域次元犯罪者の組織にぃつながるかもぉしれないですぅ」
「上出来や。機動六課としては、後者のルートを追うのをメインに活動していくつもりや。
予言阻止については、聖王教会の方で、より綿密な予言解釈をしてくれるそうやから
それに合わせて、改めて対策をとればええやろ。
空港ルートについては、本局査察部と、地上本部の査察部の合同で対処することになるんやろな。
アコース査察官、そっちの方はよろしくお願いします」
「ああ、そっちは任せてもらえないかな。どうやら、大物が掛かったような手応えがあるからね」
「大物って？」
「…それは、機動六課のみんなにも、言えないことだよ」
「肩章に〜星が二つ並んでいる〜陸の大御所さんですね〜」
「…ノーコメント。鎌を掛けられても答えられないよ」
「それが〜答えですよ〜」
「静さんも、不確実な追求はせんでもええやろ、…とりあえず、会議は解散や。
訓練中隊は、これからしばらく、市中パトロールを任務に加えるから、なのはちゃんと
フェイトちゃんとで、うまくローテーションを組んでや。
打撃中隊は、従来通り、ガジェット排除の対応をお願いするわ。
相変わらず、地上本部はガジェット対策には及び腰なんよ。
わたしらが、ガジェット対策せな、するとこあらへんからな。
アコース査察官、では、よろしゅうに頼みます」
「ああ、任せて。…クロノの奴にも、頼まれてるからね」
「騎士カリムと、シスターシャッハにも、よろしゅう伝えてな」
「ああ、それも忘れないから…じゃあ、失礼するよ」
「気をつけてな」
これで会議は終わった。
自己紹介が遅くなったけど、俺の名前は武蔵坊弁慶。
俺たちは…
「弁慶、何カメラ目線やってるんだよ。おら、行くぜ、すこしは訓練しないと
体がなまるだろ。あたしがしごいてやるよ、たまには肉弾戦も悪くないぜ」
「おまえ異様に元気だな、一仕事終わったばっかりだろ、すこしは休ませろ」
「これがあたし流の気晴らしなんだよ、すこしはつきあえ」
「九羅香〜なんとか言ってくれよ」
「そうだね、みんなで一汗流そうか」
「そうですねぇ〜私も〜新しい舞の〜練習でもしてきましょう〜」
「私は、少し行くところがある」
「九羅香様、私も与一様と一緒に行ってよろしいでしょうか？」
「べつにいいけど、一体どこへ行くの？」
「あたしと同じ用事でしょ。なのはとフェイトが、自分の仕事してる間
新人達の訓練を手伝ってくれって話。
紅葉はエリオ、あたしはキャロ、与一はティアナの相手ってところね」
「スバルは放置なのか？」
「スバルは、ヴィータがしごくらしいわよ。
そういえば、シグナムの奴はどこへ消えたの？」
「シグナムはベルカ自治領に出かけている。
騎士カリムの予言は古代ベルカ語で書かれているから、シグナムの知識が
解釈には必要なんだって」
「ふーん。剣術馬鹿だと思ってたけど、思ったより教養あるのね。
まあいいわ、時間は待ってくれないし、行くわよ、源九郎」
そういうと、楓も会議室を出て行った、与一と紅葉も部屋を後にする。
「よし、あたしらも行くぜ」
「ああ、いいぜ。覚悟は出来た。…そう簡単には負けてやらないからな」
「負けてやらない？本気出しても勝ち目ないくせに」
「言ったな。俺がなんで武蔵坊弁慶なのか、教えてやるよ」
「身長１８０ｃｍ以外、弁慶らしいところなんてないだろ」
「直ぐにわかるさ」
「はいはい、実力を発揮したら認めてやるよ」
俺たちにとっては、これが当たり前の日常だ。
それこそ、１０年前からずっと続いている、当たり前の。
俺たちが、隊舎の外に出たとき、アイナさんとシャマルが、まるで
誰かを捜しているかのごとくにしている所へ、遭遇した。
「まるでではなくて、本当に人を探しているんです。
一体どこへ消えちゃったのか…」
「クラールヴィンドで探せないの？」
「探しては見るんですけど、あの子は普通の女の子だから、魔力反応なんかが
拾えなくて…」
「それで、怪我なんかはしてなかった？」
「それはちゃんと手当しました。
ぐっすり眠っているみたいだから、大丈夫だろうって医務室を空にした隙に
窓から逃げ出したみたいで…」
「うーん、どこへ行ったんだろう？」
「なのはちゃん達にも頼んで、今探してもらってるんですけど…」
「そういうことなら、この玲奈様の出番だろ、忍ねこは、人捜しなんかには
すごく役に立つぜ。…北助、東助、事情は聞いたな？５歳ぐらいの女の子だ。
さあ、捜しに行くぜ」
「にゃー」
「九羅香、俺たちも捜しに行こう」
「そうだね、行くぞ、弁慶」
とはいえ、５歳ぐらいの女の子、というだけの情報で人捜しをするのは
本当に難しい。だけど、ちっちゃな女の子自体、この隊舎には１人しかいないはずだから
何か動きがあれば、それを調べることで、なんとかなるんだろう。
「弁慶、何かおかしいと思わないか？」
「どうしたの？九羅香」
「シャマルのクラールヴィンドに見つからない、５歳の女の子。
いったいどんな人物なんだろう」
「シャマル自身が言ってたじゃないか、特徴がないから捕まえにくいって。
本当に普通の女の子なんだよ」
「それならいいんだが…もしかして、本当は姿を隠すような魔法が使えるとしたら？」
「まさか。本当にそんな魔法が使えるとしても、クラールヴィンドはごまかせないだろ」
「取り越し苦労ならいい」
「さすがにそんな高度な魔法が使えるなんてことはないと思うよ。
ユーノじゃあるまいし」
「あはは、そうだね」
ユーノ・スクライア。フェイトやなのはすら努力の人扱いするクロノですら
天才と見なす、超弩級の天才だ。同級の天才と見なしているもう一人の人物が
歩くロストロギアのはやてちゃんだっていうんだから、どれくらいの天才かがわかる。
もっとも、魔力値ＳＳのはやてちゃんと違って、ユーノの魔力値は、それほど高くない。
それほど高くないとはいっても、クロノと互角程度なんだから、俺は言うに及ばず
九羅香よりもよっぽど高いんだけど。
クロノが天才呼ばわりするのは、なんと言っても若年なのに、多種多様な才能を
開花させていたからだ。
防御魔法については、なのはの師匠というだけで、十分語り尽くせているだろう。
いや、砲撃魔法を除く、ほとんど全部の魔法の基礎をなのはに教え込んだのが、ユーノだ。
さらに、１９歳にして考古学の権威。９歳の頃には既に発掘隊の隊長を務めるほどの神童。
絵に描いたような天才と言っていい。回りが化け物揃いだから、目立ってないだけで。
あれ？あそこにいるのはなのはと…なのはの前で腰を抜かしている、女の子？
…たぶん、あの子が、逃げ出した５歳児なんだな。
「…どうしたの？怖くないよ」
「はうう・・・」
「…どうしちゃったのかな？何か怖いことでもあった？」
「うぅ・・…」
「・・・・・・お名前、言える？」
「………ヴィヴィオ…」
「ヴィヴィオ？」
「…ヴィヴィオ」
「…ヴィヴィオ」
「…ヴィヴィオ」
「…ヴィヴィオって言うんだ。…いい名前だね。
私は、なのは、なのはっていうんだよ」
「…なのは」
「なのは」
「…なのは」
「うん、なのは」
「…………………」
「…ヴィヴィオは、どこに行きたい？」
「…ママを探しに」
「…ママ？」
「ヴィヴィオ、ママ、いないの」
「そっか、ヴィヴィオ、迷子なんだ」
「迷子？」
「ママがどこにいるかわかんなくって、探してる子は、みんな、迷子なんだよ」
「迷子…」
「…ヴィヴィオ、１人でママを探すの、大変だと思わない？
１人で探すより、みんなで探す方が、いいよね？」
「迷子…」
「…迷子って、ヴィヴィオは知らないかな？」
「…今、覚えた。ヴィヴィオ、迷子…」
「…うん、そうだね。…それで、ヴィヴィオは、ママを探しに行きたいんだ」
「………わかんない」
「ヴィヴィオは、ママに会いたいの？」
「…会いたい。すっごく会いたい」
「そっか。…ヴィヴィオは、ママに会いたいんだ。
それで、ママはどこにいるか知ってる？」
「…知らない」
「…ヴィヴィオのママって、どんな人？」
「…知らない」
「…背の高い人？低い人？」
「…わかんない」
「………なのはさんより背が高いかな？」
「……………わかんない」
「………じゃあ、さ。ヴィヴィオがママについて知ってること、教えてくれないかな」
「……………………知らない」
「…知らないの？」
「・・・・・うぅ…」
ヴィヴィオは、今にも泣きそうな顔をする。
なのはの方は、心底困ったような顔になる。
う゛ーん、どうしよう…。
「弁慶、今は手を出すな、黙って見守っていろ」
「え？」
「大丈夫。なのはがなんとかする」
「本当に？なんだかなのはが困ってる顔をしてる気がするけど」
「だけど、何か方法を見つけたみたいだから、大丈夫」
九羅香は自信満々に言い切るけど、本当に大丈夫なんだろうかなぁ？
「…ヴィヴィオ、…なのはさんが、一緒に、ヴィヴィオのママ、探してあげようか？」
「…一緒に？」
「そう、一緒に…」
「…ヴィヴィオ、ママのこと、何も知らない」
「…うん、知らなくても、…だけど、ママは、ヴィヴィオのこと、知ってるよ」
「本当に？」
「本当に。だって、ヴィヴィオのママは、ヴィヴィオのママだから」
「…ママは…ヴィヴィオのこと…知ってる……」
「そう、知ってるから、ね。…そだ、ヴィヴィオ、甘い物、好き？」
「…わかんない」
「じゃあ、さ。なのはさんが、ヴィヴィオに、甘い物、作ってあげるから。
一緒に来る？」
「甘い物…」
「一緒に来てくれないと、一緒にママが探せないよ。ね」
「ママ、探す。…ヴィヴィオ、ママ…探す…」
「うん、そうだね。…じゃあ、一緒に行こうか」
「うん、ヴィヴィオ、一緒に行く」
…九羅香の予言通りになった。本当になのははうまくやったみたいだ。
「九羅香、なんで上手く行くってわかったんだ？」
「まったく、弁慶は鈍いなぁ。なのはとヴィヴィオの様子を見てれば、直ぐにわかるのに」
「いや、全然わかんないし」
「それより、シャマル達に、女の子が見つかったって教えに行かなきゃ、行くぞ弁慶」
「ああ、そうだな、こんどはシャマル達を探しに行こうか」
甘い物を作ってあげるって言ったけど、直ぐに出来るものって行ったら、やっぱりキャラメルミルクかな。
これなら、子供の頃から、なのはさん、得意なんだから。
「…はい、ヴィヴィオ、キャラメルミルクが出来たよ〜」
「キャラメルミルク…」
「そう、キャラメルミルク…熱いけど、甘くて、おいしいんだから」
…うーん、なんだか、なのはさん、ヴィヴィオには全然信用してもらてってないのかな？
仕方ないかな、まだ会ったばかりだし、人見知りしちゃう時期なのかも。
「大丈夫。これは本当においしいんだよ。…信用できないなら、なのはさんが
味見してあげようか？」
「味見？」
「ふーふーして…ごくん…ほら、甘くておいしい」
「…甘くて、おいしい…」
「本当だよ」
本当だよ。いつも以上にうまくできた気がする。
これなら、大丈夫。
「はい、ヴィヴィオ、やけどしないように、ふーふーして飲んでね」
「ふーふー…」
「どう？」
「…甘くって、おいしい………」
「良かった。なのはさんと一緒」
「一緒」
「そう、なのはさんと一緒」
「一緒・・・・」
「なのはさん、女の子が見つかったんですか？」
「あ、スバル。うん、見つかったよ。…ヴィヴィオ、こっちのお姉ちゃんがスバル」
「スバルお姉ちゃん？」
「こんにちは、ヴィヴィオ」
「こんにちは、スバルおねえちゃん」
「なのはさん、この子、ちゃんと挨拶が出来るんですね」
「…みたいだね。結構しっかりしてるのかな。
ママのしつけも良かったんだね」
「ママ？」
「なのはさん、この子、普通の迷子なんですか？」
「どうなのかな？ママを探してるっていうけど、ママのことについては何も知らないみたい。
手がかりがなさ過ぎるんだけど、ヴィヴィオのママの方でも、ヴィヴィオをきっと探してる
はずだから、それを手がかりに、なんとか見つけられればいいなって思ってるんだけど…」
（言いたくないですけど、なのはさん、それって、この子のママが生きてれば、ですよね）
（…それは…）
（あたしには、ちょっと、そういう気持ちは、わかりますから）
（……ごめん、スバル、悪いこと思い出させちゃった？）
（いえ、なのはさんがあやまることじゃありませんから。それに
本当になのはさんの言うとおり、この子のママが、この子を捜してるかもしれませんし）
「………ママ………ママぁ…」
あ、ああぁ…どうしよう。せっかくキャラメルミルクで機嫌が良くなってた所なのに。
「…ヴィヴィオ、ママを探してるの？」
「…ママ、…ママ………」
「…あのさ、ヴィヴィオ。…しばらく、なのはさんのこと、ママだと思ったら？」
「ママ？」
「ちょっと、スバル」
「い、いやほら、それはその…物のたとえというか…」
「………ママ……」
「え、えと、…ほら、ヴィヴィオ、ママを探すんでしょ。なのはさんと一緒に探そうよ、ね」
「……ママ………ママァ…ママぁ…」
え、ええと…おかしいなぁ。どうしちゃったのかな。
寂しいのわかるけど、なのはさんは、ヴィヴィオのママじゃないんだよ。
ママを探しに機動六課の隊舎抜け出したのに、急になのはさんのこと
ママだと思って抱きついて泣かれたら、なのはさん、困っちゃうじゃない。
ねえ、ちゃんと、本当のママ、探しに行こうよ。
ねえ、なのはさんの言ってること、なのはさんの考え。そんなに間違ってる？
「ママ…ママぁ…ママ…」
（…スバル。どうするのよ。これ…）
（え、ええと……もしかして、ママを探してるって、本当のママを探してるんじゃなくて
ママになってくれる誰かを捜してた、とか…）
（困ったなぁ…本当のママが現れたら、どうすればいいんだろう？）
（そ、そのときには、直ぐにヴィヴィオちゃんだって、本当のママの所に行きますよ、きっと）
（それより、今この場はどうしたらいいと思う？）
（そ、それはその…やっぱり、ヴィヴィオのママの役、やってあげるしか…ないと思うんですが…）
（やっぱり、そうだよね…）
「…じゃあ、しばらく、なのはさんが、ヴィヴィオのママ代わりだね。
よろしくね、ヴィヴィオ」
「うん、ママ」
ママ、か。…きっと直ぐにヴィヴィオのママだって見つかるはずだから
ちょっとの間だけ、ママの役をしても、悪くないのかも、しれないよね。
