異聞・少女義経伝・四
地上の星
【第十二章】
〜遭遇〜
こちらは、地上に残ったヴィータとフォワードチーム４人である。
「こちらスターズ２ヴィータ。状況どうなってんだ？」
「ヴァイス陸曹のヘリが砲撃を受けた。なのはとフェイトが現在援護に向かってる」
「あたしも行った方がいいんじゃねーか？」
「いや、スターズ２はこのままレリックを保護して帰還してもらいたい。
ヘリに対する砲撃が陽動である可能性もある」
「なんでもかんでも陽動かよ、あいつらの戦力は底なしってんじゃなかろーな。
ヴァイスの奴に、へま踏んで落ちるなってつたえてくれよな。
じゃ、あたしは新人どもつれて、機動六課に帰るぜ」
「了解した」
ヴィータとロングアーチ〜機動六課本部〜との通信は終わった。
こんどは、副隊長としてヴィータが指示を出す番である。
「よし、おめーら、とっとと機動六課に帰るぜ。
こんなところでレリック持ってうろちょろして、ガジェットにでも遭遇したら
周りの人にめーわくになるからよ。
そーいえば、ティアナ。おめーヴァイスのバイクに乗ってきてただろ」
「はい、そうですけど…」
「あたしとライトニング組が空から援護してやる。
ティアナ。おめーがレリック持ってバイクに乗れ。
スバルはマッハキャリバーでティアナの近接援護だ。
ま、出来るだけ人通りのすくねーとこ通るからよ。途中、放棄都市区画通るぜ。
ティアナ、道知ってるか？」
「通ったことはありませんけど…」
「しかたねーな。ロングアーチ、聞こえるか。
地上組のナビ頼む。あたしもあんまよく道しらねーんだよな」
「了解した、ランドナビゲーションはこちらで実施する」
「よし、じゃ、キャロ、フリードの制御は頼むぜ」
「はい、わかりました。…エリオくん、行こう」
「そうだね、キャロ」
「スバル、行くわよ」
「O.K.ティア。さくっと帰りましょうか」
「ま、ガジェット相手なら、大したことはない…と思いたいわね」
「そうだな、ガジェットが相手だったらな」
「ヴィータ副隊長、何かあるんですか？」
「たりめーだスバル。ホテルんときの事を忘れたのかよ。
ガジェットコマンダーが現れる可能性があるぜ。…なのは達がバックにいるってわけじゃねーんだ。
ホテルんときより、きつい戦いになる可能性もある」
「…副隊長は、その可能性を考えて、戦場を放棄都市区画に設定するんですね」
「そうならねーよーに期待はしてんだけどよ。…期待だけじゃな」
「了解です」
一方、こちらはヴァイスのヘリの上空援護を担う、なのはとフェイトのコンビである。
「…見つけた、あのビルの上。頭を上げたら砲撃するつもりっ！」
「こちらロングアーチ１はやてや。フェイトちゃん、砲撃した可能性があるなら
遠慮はいらへん。大規模破壊魔法使用の現行犯で、逮捕しや」
「了解…行くよ、バルデッシュ」
「Yes,sir」
”プラズマランサーっ！”
ビルの上にいたのは、メガネを掛け、ボディスーツに身を包み、白いマントを羽織った
どことなく電波系を思わせる女と、無反動砲のような筒を、狙撃兵のように抱えた
同じくボディスーツに身を包んでいる女。
バルデッシュの探査魔法は、その無反動砲のような筒が、魔力を蓄積していることを感知した。
だからこそ、フェイトは、砲撃魔法を使うつもりだと判断したのだが。
しかし、フェイトのプラズマランサーは、彼女たちの機先を制した。
隣の、より低いビルへと二人は飛び落ちて逃げる。
「ヴァイス君、今なら大丈夫、フェイトちゃんが頭を押さえてる」
「了解。…一気に高度を上げて一直線に機動六課を目指す」
ヘリコプターが放棄都市区画のビルの谷間から、ほとんど垂直上昇で躍り上がると
急旋回で機動六課方向へと飛び去っていく。
砲撃魔法を装填していた二人組も、ヘリは確認したようだが、フェイトに頭を押さえられていては
ゆっくりと照準して砲撃するなんてことは不可能だ。
「とりあえず、ヴァイスの安全は確保できたね」
「だね…じゃあ、次は狙撃犯の逮捕に向かおうか」
「うん、…二人とも聞こえる。私は時空管理局執務官、フェイト・テスタロッサ・ハラオウン。
あなたたち二人を、大規模破壊魔法使用の疑いで緊急逮捕します。
抵抗しなければ、あなた方には弁明の機会が与えられます。
武器をしてて直ちに投降してください」
抵抗しなければ弁明の機会が与えられる、と言われて、はいそうですかと
武器を置くような人間なら、そもそも大規模破壊魔法など使わない。
もちろんこの二人も、そうだった。
メガネが狙撃手を抱えて空を飛ぶ。
？…いや、その姿が分裂する。どうやら、このメガネ、あるいは狙撃手は
幻術の使い手でもあるようだ。
「このままじゃ逃げられる、はやて、広域破壊魔法で幻影打破をお願い」
「了解や、フェイトちゃん、なのはちゃん、安全距離ひらいててや。
精度無視の魔力打撃による火力支援をくわえたる。
たとえ直撃せえへんでも、幻影打破は出来るやろ…くらえ
ディアボリック エミッション！」
広域魔力打撃魔法、ディアボリック・エミッションが、彼女たちが逃げ出した
その最初のポイントに打ち込まれる。
どうやら、あのメガネは、二人がかりで飛行している場合には、フェイトやなのはの
機動力には及びもつかない飛行しか出来ないようだ。
ディアボリックエミッションの影響範囲に、幻影達が〜もしかしたら、その中には
本物も含まれているのかもしれないが〜飲み込まれていく。
一方、こちらは、機動六課を目指すヴィータとフォワードチーム。
彼らは今、放棄都市区画へとさしかかっている。
「ねえティア。ずっと疑問だったんだけど」
「なによ、いま無駄話してるようなゆとり、ないでしょ」
「簡単な疑問だから。なんで、放棄都市区画なんていうものがあるの？
壊して再開発しちゃえばいいのに」
「壊して再開発するようなお金がないから、放棄都市区画にしてんでしょ。
クラナガンには、まだまだ未開発地域があるんだから、老朽化した都市区画は
放棄して、新しい土地をひらいた方が安上がりなのよ。
完全に無人地域にしてるのは、地上本部の治安対策だけど」
「どういうこと？」
「普通に人が住めるようにすると、スラム化しちゃうでしょ。
人が住まないように、定期的に地上部隊が介入してるわ。
レジアス中将の治安対策の一種ね。それなりに効果は上げてるみたい…」
「ティア、どうしたの？」
「なんでもないっ！…スバル、スピード上げるわよ、ついてきなさい」
「あ、ちょっとティア、とばしすぎじゃない？」
「あんたがとろいだけっ！」
「待ってってばティア〜」
ティアナがスピードを上げたのは、何も危険を感知したからではない。
だが、その判断は、決して間違ってはいなかった。
彼らを狙う誰かが、存在していたのだから…。
「！」
最初に異変にきづいたのは、ヴィータだった。
「ティアナっ！止まれ〜っ！」
「え？」
気をつけよう、バイクは急に止まれない。
普通に急ブレーキを掛けようものなら、前につんのめって転んでしまう。
だが、ティアナは器用にブレーキを掛けつつバイクを倒し込んでわざと
スリップした状態を作り出す。
この動きに、ヴィータが存在を感知した「なにか」は一瞬動きを外されたようだった。
「行けっ！アイゼンっ！」
ヴィータが何もない空間を…正しくは、何も見えなかった空間を…叩く。
空中で、アイゼンの動きが止まる。
その止まった先、まっすぐは知っていればティアナの正面に当たる場所に
昆虫人間のような生き物が現れた。
「放棄都市区画不許可侵入の現行犯だな。逮捕させてもらうぜ」
昆虫人間らしき何かは、なにもこたえず、ヴィータと戦う構えを見せる。
「おめーら、先に行ってろ」
「ヴィータ副隊長は？」
「あたしが一騎討ちで負けるわけねーだろ。いーから先に行けよ。
あたしはこいつを逮捕してからおめーらを追いかける」
「わかりました、副隊長」
「ティアナ、こいつら４人の指揮は任せる。…こんどはどじるんじゃねーぞ」
「…わかってます、副隊長」
それだけ答えると、ティアナは再びバイクを走らせる。
「スバル、同じような攻撃があるかもしれないわよ。
こっちも幻影使って対抗させてもらいましょ」
「幻影を使うって？」
「こっちもステルスを掛けるわ。あんたからも見えないようにするから、先行して
障害物がないかどうか偵察して。エリオ、キャロ、あんたらはヴィータ副隊長みたいに
上空から何もないかどうか確認。なにか異常があったら、誤認でもいいから
副隊長みたいに、即排除。いいわね」
「わかりました、ティアナさん」
ティアナは、クロスミラージュのカートリッジを弾く。
やがて、ティアナと、ティアナの乗るバイクの姿が消えた。
もっとも、響き渡るエンジン音のせいで、なんとなくどこにいるかはわかる。
「行くよマッハキャリバー。もっと早く！」
「All right,master」
４人は、高速機動で放棄都市区画の突破を目指す。
ディアボリックエミッションの中から、メガネと砲撃女は姿を現した。
どうやら、はやてによる魔法打撃には、耐えきったらしい。
「なのは、見つけた」
「なかなかしぶといね。…けど、幻影は消えたよ」
「さすがに完全に無傷っていうことにはならないよ。なんといっても
はやての砲撃魔法なんだから」
「だけど…ポジション取りはけっこう上手いね」
「そうだね。わたしとなのはを結ぶ直線上に位置するようにしてる」
「これじゃ、普通なら砲撃魔法なんて使えない。
下手に動きを止めて撃とうとすれば、あの抱えられてる子の砲撃の
的になるかもしれない」
「それじゃ、どうするなのは？」
「どうするって…私には、馬鹿魔力で撃つしか、能がないからね。
この程度であきらめてちゃ、何も出来ないよ」
「じゃ、どうする？」
「ディアボリックエミッションの展開速度で間に合わないのなら
高速の魔力衝撃波で撃ち落としちゃおうよ」
「もしかして、あれやるの？」
「うん。フェイトちゃん、出来るでしょ？」
「なのはほどの精度は出せないけど…。その分、的は大きくするから」
「よし決まり…レイジングハート、無誘導長距離射撃モード、待機」
「Yes,my master」
「バルディッシュ、長距離射撃セット、カートリッジロード」
「Yes,sir」
「ティアっ！前っ！」
「スバル、一個だけ吹きとばしなさい」
「わかった！」
道路上を掛けるティアナとスバルの目の前に、ガジェットが転送されてきたのだ。
スバルはティアナの指示にしたがって、走行路をひらくべく、中から
一体を選んで接近戦を挑み、文字通りに吹き飛ばす。
それによってひらいた道を、正確にティアナのバイクは走り抜ける。
「見つけたっ！そこだっ！」
「エリオくん？」
「キャロは援護して」
「は、はい、フリード、エリオくんの動きを追って」
エリオは、空からストラーダを持って飛び降りる。
その飛び降りた先には、魔法陣を張って、ビルの上で、スバルとティアナの姿〜
ティアナは幻術で姿を消しているが〜を負う、１人の少女。
「時空管理局所属、エリオ・モンディアル二等陸士。
放棄都市区画で何をしているのか、話してもらえないかな」
「………ルーテシア」
「え？
「ルーテシア、アルピーノ」
「ルーテシアさん？」
「そう。それが私の名前」
「…事情を聞きたい。機動六課に来てもらえないかな」
「…レリック、ちょうだい」
「え？」
「レリックをくれたら、話してあげる」
「それはだめだよ。あれは危険なものなんだ。管理局で管理しないと」
「危険かどうか知らない。だけど、あれは私にとって必要」
「そういう話も、機動六課で聞くよ。一緒に来て…」
「ルールー。目をつむれっ！」
「え？」
閃光弾！
目を閉じたルーテシアと、何が起きたかわかってないエリオ。
エリオは完全に目つぶしをくらう形になる。
「けっ。ルールーをたらし込もうだなんて、ふてーやろーだ」
「アギト、丸め込むとか、そういう言い方しない」
「やってることはその通りだろ。…とにかく、あいつら、レリック持ってるのは
確実だな。たまにはあの変態も役に立つんだな」
「アギト、ドクターのこと、そこまでわるく言わない」
「悪かったよ。…けど、ルールー。このままじゃあいつらにげちまうぜ」
「逃がさない。地雷王、召喚する」
「ちょっとまてよ。そりゃやり過ぎだろ。あいつら殺す気かよ」
「この程度で死ぬはず、ない」
「それより、さっさとここを離れようぜ。
目つぶしでひるんでる隙にバインド掛けたけど、いつまでもはもたないだろ」
「そうだね…行こう、アギト」
「合点っ！」
いつの間にか現れた〜年齢も背丈もキャロと同じぐらいの少女、ルーテシアが
転送魔法で呼び出したのだが〜ガジェット２型の上に、ルーテシアは乗る。
アギトと呼ばれた、概ねリインフォースツヴァイ曹長と同じ大きさの
使い魔、いや、むしろ融合騎かもしれない彼女は、ルーテシアの肩にとまる。
空を飛んで、ティアナ達を追いかけるつもりのようだ。
「エリオくん、大丈夫？」
「大丈夫、キャロはそのままあの二人を追って」
「まって、今エリオくんのバインドを解くから」
フリードに乗ったキャロは、まずエリオをフリードで回収してから
追いかける。
「キャロ、それじゃ逃げられるかも…」
「これはティアナさんの指示だから」
「ティアナさんの」
「エリオくんがフリードに乗っていれば、ガジェット２型はいつでも落とせるって」
「いつでも落とせるなら今すぐ飛び込んでくるよ」
「…もう少し、タイミングをまてって」
「タイミングって？」
「直ぐにわかるからって」
「わかるってどういうことなんだろう？」
「ティア、ガジェット２型が追いかけてきてるけど…」
「わかってる。だけど、まだ撃ち落とすには早いから」
「撃ち落とせるときに落とさなくてどうするの？」
「もうちょっと待ってなさい。…スバルっ！前っ！」
「！…」
ガジェット３型だ。いままでのガジェット１型のように、簡単に
破壊できる相手ではない。
「スバル、援護するわ」
「お願い、ティア」
ティアナも、こうなると幻影を解除せざるをえない。
幻影を使って姿を消していたバイクが、再び路上を失踪する姿を現す。
片手運転のティアナは、クロスミラージュを片手に持ち、ガジェット３型に射撃を加える。
ガジェットの方は、腕でティアナの射撃を防ぐ。
それが命取りだったが。
ティアナの射撃に気を取られてるうちに、スバルはガジェットの腕によって生まれた
ガジェットの死角から、あっという間に間合いを詰める。
そして、飛び上がり…。
「ぶち破れっ！」
リボルバーナックルがカートリッジを弾く。
その魔力で、ガジェット３型のバリアを打ち砕く。
そして、そのままガジェットの装甲までも粉砕。
スバルの突進による運動エネルギーはここで尽きたものの。
「一撃必倒…ディバイン・・・・バスターっ！」
スバルの必殺技、なのはさん直伝、ではなく、なのはさんにあこがれて
自分で編み出した、近距離砲撃魔法、ディバインバスターで
ガジェット３型を完全に破壊する。
ティアナの方は、そのガジェットを巧みなバイクさばきでかわすと、再び速度を上げる。
「………スバル、転送魔法陣に気をつけなさい」
「転送魔法陣、ちゃんと気をつけてるわよ」
「地上だけじゃなくて、空中も」
「空中？…」
「ほら、来たっ！」
「もしかして、またあの虫男？」
もしかしなくても、あの虫男だった。
姿は見えないが、転送魔法陣が空中に現れれば、何かが来るのはわかる。
「エリオっ！今っ！」
「はいっ！」
エリオが、ストラーダを使って、フリードからまっすぐ転送魔法陣の先へと飛び込んでいく。
虫男の方も、こうなると、ティアナよりも、飛び込んでくるエリオに対処せざるを得ない。
「キャロ、エリオを援護して。…よし、今っ！」
ティアナは、バイクの速度を落としながら、再び射撃。こんどの射撃目標は、ルーテシアの乗る
ガジェット２型のようだ。
が、こちらは簡単にアギトに防がれてしまう。
「そんな豆鉄砲で何が出来るってんだよ」
「豆鉄砲上等っ！」
「んだと…」
ばしーん。
ガジェット２型は、まっすぐ空を飛んでいく。
だが、その上に乗っていたはずのルーテシアは、空中で急停止だ。
「やっと捕まえたぜ。おめーがガジェットを転送させてた張本人かよ」
「ヴィータ副隊長」
「やっぱり、おめーらだけじゃ心配だからよ。
とりあえず、助けに来てやったぜ。…っと、子供虐めてるみたいで
きはすすまねーんだけど、しかたねーよな。
とりあえず、地上に降りてもらうぜ。
いろいろと、聞きたいことがあるしよ」
「ルールーっ！」
「おめーも、一緒に逮捕されるか？つーか、逮捕されてもらわなきゃ困るんだけどよ」
「だれがおまえなんかに」
「あのな、あたしはこう見えても、管理局員なんだよ。
おめーらは、法律にいはんしてんだ。犯罪者なんだよ。
いーからおとなしく逮捕されろ。管理局だって鬼じゃねえ。
言い分があるならちゃんと聞くし、筋が通ってりゃ筋の通りにしてやるって」
「けっ、信用できるかよ」
「うわー、かわいくねー」
もし、１０年前のヴィータを知っている人が聞いたなら、１０人が１０人
”おまえが言うな”という突っ込みを入れただろう。
ヴィータにとって幸いなことに、フォワードメンバーも、ルーテシアも
アギトも、１０年前のヴィータについては、全然知らなかった。
「…私があなたをバインドしても、やっぱり子供を虐めてるように見える」
「うっせー。こう見えてもあたしはあいつらよりは年上なんだぜ」
いや、伝説の三提督より、年齢だけなら上だろう。
精神年齢は、外見年齢と大差ないという説はあるが。
「一言多いんだよ。…ま、しばらくそこでおとなしくしてろよな。
ヴァイスのヘリが戻ってくるまで…」
「セインさん到着」
「なっ！」
地上に降りたルーテシアとアギトは、そのまま大地へと潜っていってしまった。
セインさんというのが何者かはしらないが、とにかくセインさんが来ると
ルーテシアとアギトは、大地のそこまで潜って行けてしまうらしい。
「ガリューも逃げてしまいましたね」
「ちぇー。逮捕したって思ったのによ。…と、状況が変わった。
ティアナ、レリックを地上から運ぶのは中止だ。
キャロ、おめーがレリックをもて」
「は、はいっ」
「ティアナ、言わなくてもわかってると思うが」
「ええ、わかってます。…さあ、スバル、行くわよ」
「え？どういうこと？」
「くぅぉの馬鹿スバルがぁ」
「ひたいひたいってばティア〜」
説明しよう。ここで、ヴィータは、今まで通りティアナがレリックを持っていると
ティアナの幻影を使ってごまかし、本物はキャロに預けて、空中を輸送しようとしたわけだ。
ヴィータらしからぬ気の回しよう…もとい、ヴィータだってたまには頭脳労働を…
いやさ、ヴィータも成長した物である。
だが、その心配は、ある意味取り越し苦労であった。
フォワードチームメンバーは、その後、なんの妨害も受けずに
機動六課までたどり着いたのだから…。
「トライデント・スマッシャー」
「ディバイン・・・バスター！」
メガネには、勝算があったようだった。
誘導弾を撃ってくれば、素早く物陰に隠れることが出来る程度の高度に自らを置き、かつ
なのはとフェイトの直線上に位置して、無誘導射撃は防ぐ。
距離を詰めてくるようなら、抱えている砲撃娘によるカウンター射撃を実施。
完璧な計画のはずだった。
ところが、なのはとフェイトは、互いに、高速無誘導弾を撃ち合ったのだ。
これでは、お互いが敵ではなく、むしろ味方のお互いを撃つことになってしまう。
そう、普通ならそうなるはずだった。
だが、あの二人は、普通ではない。
「！」
メガネも、砲撃娘も、最後を覚悟したように動きを止めてしまった。
わかったのだ、二人とも。
あの二人に、常識的な作戦は通用しない。
同士討ちするような位置からの砲撃を、正面からぶつけ合わせる事が出来る
極めて高度な精密、しかも大威力の砲撃が出来るのだと。
「やったあ、直撃間違いなし」
ロングアーチ、つまり、機動六課本部では、シャーリーとルキノが
小躍りするかというほどはしゃいでいる。
ルーテシア達は取り逃がしてしまったものの、ヴァイス君は女の子を保護し
フォワードチームはレリックを安全に確保、さらに、砲撃を加えてきた
謎の二人組は、なのはとフェイトによって確保されたように見えたからだ。
だが…
「やられたね、なのは」
「撃ち漏らしたね…手応えが無かった」
「撃ち漏らした？どういうことや？」
「第三者が、横から介入して、あの二人を逃がした」
「ちょっと、もうどこにいるかわからないね。
レイジングハートに捜索魔法を使わせたけど、反応がないんだ」
「こちらロングアーチ１，スターズ１，ライトニング１…どうや？
こっちから手助けできること、あるか？」
「…何もない。…完全に逃げられたみたいだ」
「そっか…なら、二人とも機動六課に帰ってきてや。
打撃中隊を投入して、なんとかなるか思うたけど…これやったら無理やろな。
けど、…まあ、今日は挨拶代わり、いうことなんやろ。
こっちも、実力の片鱗、見せてやったしな。
まあええ、相手が人間やいうのがわかっただけでも、収穫や。
………いうて、静御前がいうてたんやけどな」
「あはは、静さんらしいかも。それで、はやてちゃんはどういう評価なの？」
「ルーテシアが逮捕出来てたらなあ、とは思う。けど、でっかい収穫があったやない」
「レリックを手に入れたこと？」
「なのはは謙遜しすぎ」
「え？え？」
「フォワードの４人、独自の判断でええ仕事やったやない。
これなら、本命の戦いに、間に合うかもしれへんな」
「本命の戦いって？」
「…まあ、それは帰ってきてから説明するわ。
まだ、不確定情報の段階で、参考にしかならんからな」
とりあえず、今回は、彼ら〜スカリエッティ一味の、顔見せではあったようだ。
それによって、彼らが何を得たのか、そして何を失ったのか。
まだ、それを判断する材料は、十分ではない。
わかるのは、これが初めての、ガジェットの背後にいる”人物”との遭遇だということだけだった。
