異聞・少女義経伝・四
地上の星
【第十一章】
〜砲撃〜
少し時間はさかのぼる。
「おいアルト、いい話と悪い話があるんだが聞きたいか？」
「どっちを先に聞きたいか、とは言わないんですね」
「たりめーだ。選ばせたら絶対おめーは逆いいやがるからな」
「それで先輩、一体どんな話なんです？」
「いい話っていうのは、機動六課に新しいヘリが配備されそうだってことだ。
聖王教会の騎士カリムの口添えで、教会騎士団が導入するヘリを
しばらくこっちに貸してくれることになったらしい、持つべき者は
コネ使いの上手い上官だよな」
「それで、悪い話っていうのはなんですか？」
「ヘリは貸してくれるが、パイロットがいない。
俺が二機同時に飛ばすわけにもいかないからさ。
それで、甚だ不本意ながら、アルト、おまえにパイロットをやってもらわなきゃならん。
事情を理解したら直ぐパイロットスーツに着替えてこい。
八神部隊長の許可は取った、飛行訓練やるぞ」
「はい、わかりましたヴァイス先輩」
新人達の休暇中に、半分私用で飛ぶ、普通の訓練飛行のはずだった。
だが、ヴァイスにとっては喜ばしく、アルトにとっては、ある意味
迷惑なことに、半分私用という部分は、消えてしまった。
「ヴァイスくん、ヘリは直ぐに飛ばせるか？」
「八神部隊長、いつでもとばせるよう準備してあるぜ。
アルトの訓練飛行をやるって話だったから」
「それやけど、訓練飛行は中止せえへんけど、訓練中隊緊急出動や。
女の子と、レリックをエリオが見つけたんよ。
女の子は怪我してるみたいやし、物がレリックやから、ひとまず
訓練中隊全員と、シャマルを回そうおもうんや。
シグナムは、打撃中隊と一緒に別任務担当やから、出せへんけど。
グリフィス君、フォワードチームにはそういうて指示だしてや。
それと………」
「八神部隊長、地上本部より緊急連絡、ガジェット多数、市街地に接近中」
「ガジェット多数やて？メインモニタに状況を表示」
「了解、メインモニタに転送します」
「……なんやこれ…今までのような挑発とは違う…完全にクラナガンに攻め込む構えや。
地上本部からの指示は？」
「首都防空隊は直ちにクラナガン市街地の防衛のため出動、機動六課は
クラナガン市街地にガジェットを侵入させることなく、全機撃破せよ、です」
「…なんやて！？つまり、このガジェット、全部機動六課で処理せえっちゅうことか？」
「理論的にそういうことになりますね」
「…仕方ない、なのはちゃん、フェイトちゃん、悪いけどガジェットの方の対処を頼むわ。
地上本部に空域管制許可をもろうて。ヴァイスくんは出来る限り速やかに
フォワードチームと合流を。ヴィータとシャマルは予定通りフォワードチームと合流や。
アルト、まあ、…こういうのも訓練のうちや。ヴァイスくんと一緒にでてや」
「うん、わかった。じゃあフェイトちゃん、行こうか」
「そうだね、なのは」
「おめーら二人で行かせるのも不安なんだけどよ。ま、今回は派手にぶっ壊せば
いい仕事だもんな。大丈夫だろ。さあ、行くぜヴァイス」
「おう、全速力で行くぜ。…アルト、着替えてる暇がねえ、そのままの格好でこい」
「はい、わかりました」
出動組は、機動六課の司令室から飛び出していく。
なのはとフェイトは、文字通りの意味で…さすがに司令室には窓がないが
廊下の窓から飛び出して変身し、そこから全速力でガジェットに向かっていったのだ。
やがて、ヘリポートから、ヴァイスの操縦するヘリがクラナガン市街へと
向かったという報告が入る。こちらの空域管制は、あくまで地上本部側だが
直線で向かうだけだから、フライトプランといっても簡単なものだ。
「な、何これ…」
「本物と幻影の混合？…こちらライトニング１。ロングアーチに報告。
ガジェット２型の編隊は、幻影と本物が混じってます。
どれが本命かは今のところ不明」
「対空魔法とフェイトちゃんのフォトンランサーで叩いてるけど、この数じゃ
きりがないよ。…はやてちゃん、リミッター解除の許可、もらえないかな。
リミッター解除すれば、大火力の魔法でなぎ払えるけど、AA止まりだと、潰しきれない」
「う゛ーん…けどな。たとえなのはちゃんたちの防衛線突破されても、まだ首都航空隊が残る。
そのために裏技使うのもなぁ…なんとか市街地への侵入を食い止めるよう努力してや。
今、グリフィス君が、幻影と本物との行動パターンの違いについて解析してる。
解析結果が出れば、効果的なつぶし方が見つかるはずや」
「了解…市街地に向かうガジェットを優先的に潰していくよ。コントロールはそっちでお願い」
「ルキノ、なのはちゃんとフェイトちゃんの誘導は頼むで」
「わかりました、八神部隊長」
「あらあら〜大変なことに〜なってしまいましたねぇ〜」
「けど、バックは固めてあるだけ、気が楽や。出来る範囲で潰して、首都航空隊が
対処できる形で引き継げば、あとは航空隊がなんとかしてくれるやろ」
「だといいんですけど〜突破されたら〜たぶん〜レジアス中将に〜機動六課を
追い出す口実を与えて〜仕舞うのでは〜」
「いくらなんでも穿ちすぎやろ。機動六課かて、出来ることとできへんことがある。
リミッター掛けられてる現状なら、なおさらや」
「ですけど〜私の予測が正しければ〜これは〜機動六課への〜嫌がらせですから〜」
「いうても、今裏技つこうたら、肝心な予言実現の時に、つかえへんようふさがれてまう。
そんなことで、危険冒すきになれへんわ」
「うふふ〜そんな危険は〜冒す必要〜ないんですよ〜」
「一体なにをするつもりなんや？」
「これは〜あなたのおじさんからの情報ですけど〜」
「グレアムおじさんがどないしてん？」
「レジアス閣下にも〜弱点は〜あるものですから〜。そこをうまく〜使わせてもらいましょう〜。
とりあえず〜なのはさんたちには〜市街地への突破だけ阻止できるよう〜
スクリーンを張ってもらってください〜」
「そうやな。遊撃で潰すんは、いくらなのはちゃん達でも無理やろ。
早期に発見出来たおかげで、なんとか廃棄都市区画で阻止出来てるけど」
「それから〜はやてちゃんは〜、今すぐ変身して〜上空で待機してください〜」
「長距離砲撃魔法で、なのはちゃん達の援護やな、わかった。全体指揮は頼むわ」
「はい〜グリフィスくんが〜見事にこなしてくれますよ〜」
「ちょ？それやったら、一体幻影は誰が解析するん？」
「解析〜しないんですよ〜幻影ごと〜たたきのめしてしまいましょう〜」
「そのためにはリミッター解除が必要やろ。一体どうやってリミッター解除するつもりなんや？」
「うふふ〜レジアス閣下にも〜弱点が〜あるということですよ〜」
「…わかった、静さんの作戦は、いつも聞いたときには謎やけど
実際の行動の時には、全部意味があるからな。今回もそうやろ。
せやたら、わたしも行ってくるわ」
機動六課上空にたたずむ八神部隊長。１０年前と同じ、初代リインフォースからもらった
バリアジャケットに、初代リインフォースの形見から作ったシュベルトクロイツ、そして
歩くロストロギアの異名の元となっている、はやて自信のリンカーコアと融合して残る
夜天の書。３点セットを揃えて、いつでも魔法発動が可能だ。
「準備出来たで。…けど、リインとのユニゾンすら取りやめて、一体何をするつもりなん？」
「では〜今から私が言うとおりに〜地上本部と会話してください〜」
「うん、ええよ。…ええと…」
『こちら機動六課、地上本部応答せよ』
「こちら地上本部、機動六課どうぞ」
『魔道砲フラスベルグの全力射撃許可を求む、どうぞ』
「魔道砲フラスベルグ？新装備か？」
『その通り。砲撃のために一時的に八神課長のリミッター解除許可も合わせて申請する、どうぞ』
「リミッター解除？すこし待ってもらいたい、今本部長に相談する……あ、はい………
……ええ…エインヘリアルの基礎データ？…ええ、わかりました。
地上本部より機動六課へ、八神課長のリミッター解除、及び魔道砲フラスベルグの
使用許可を出す」
『了解、ではこれよりフラスベルグによる砲撃を開始する』
はやてはまだ半信半疑だ。
ひとまず、リミッターを解除するために解除コードに当たる呪文を唱える。
これで、歩くロストロギア、SS級魔導師の実力が発揮できるようになる。
「では〜はやてさぁん〜。砲撃魔法フラスベルグで〜さくっとガジェットを〜
片付けちゃってください〜」
「砲撃魔法いうて…魔道砲ちゃうやない」
「ですけど〜魔道砲には〜間違いありませんよ〜。
エインヘリアル運用データを集めるのには〜ちょうどいい〜相手ですし〜」
「つまり、エインヘリアルとの比較対象として、部隊長の砲撃魔法を使うということですか？」
「地上本部側に〜そういう解釈をしてもらった〜だけですよ〜」
「…了解や。さすが静さん。上手い手を考えたものやな。
ロングアーチ、砲撃諸元データ転送たのむ。さあ、ガジェットどもを一掃しようなぁ」
「了解です、八神部隊長」
そのころ、制限速度のない空を、ヘリが出せる最大のスピードですっとばしたヴァイスは
空中で待機していた。シャマルとヴィータだけが、女の子を保護している
フォワードチームの所へ空を飛んで降りてくる。
「状況は？」
「はい、負傷している女の子の身柄を確保、さらにレリックが入っていると思われる
ケースが見つかりました。どうやら、この子が持って歩いていたようです」
「レリックを持った少女か。なんか謎がありそうだな。
シャマル、この子の手当を頼む」
「わかったは、ヴィータちゃん」
「どうだ？」
「つかれてるだけみたいね。怪我は回復魔法ですぐ治る程度よ」
「そりゃよかった。じゃあ、シャマルはヘリで機動六課に戻っててくれよ。
あたしは、こいつらと一緒に、歩いて機動六課に戻るからよ」
「ヴィータちゃん達も一緒に帰るんじゃないの？」
「危険は分散しねーとよ。女の子乗せてるヘリが、ガジェットに襲われるってのはぞっとしねーぜ」
「そうね、わかったわ」
「逆に言えば、あたしらはあえて危険を買って出たってわけだ。
レリック持ったか？じゃあ、出発だ、気合い入れていくぜ」
「はい、わかりましたヴィータ副隊長」
さて、一方、フラスベルグの砲撃を喰らっているガジェットこそ災難であった。
一応は回避行動を取るものの、近接信管付核爆弾といった風情のフラスベルグの前に
ガジェットは編隊ごとたたき落とされていく。
これがSS級魔導師の砲撃だ。
「A３空域、ガジェットの反応消滅。D２空域、ガジェットの反応消滅…」
「フェイトちゃん、さすがはやてちゃんの魔法だね」
「なのは、気を抜いたらだめだよ。これが囮で、本命のガジェットが
ECMを働かせながら接近している可能性は、否定できないから」
「わかってるってフェイトちゃん。そのために低空を目視で捜索飛行中なんでしょ」
「うん。ほら、いたっ！」
「アクセルシュート」
フェイトが見つけた、水面すれすれを飛行することで砲撃魔法の難を避けたガジェットも
なのはのアクセルシュートで落とされてしまう。
数の暴力を、はやての砲撃魔法で封じてしまえば、分散したガジェットを片付けるぐらい
なのはとフェイトにとってはぞうさもない。
こうなると、むしろフラスベルグの投入が、過剰だったのかとさえ思えてくる。
「こちらライトニング１、ロングアーチ、状況知らせ、どうぞ」
「こちらロングアーチ、ガジェット第２波接近するもフラスベルグにより撃退。
ガジェット反応…消えました」
「あとは、一通りパトロールしてから戻るだけだね」
「はい、念のため廃棄都市区画のパトロールをお願いします」
「了解」
「廃棄区画都市方面からのアプローチに〜どんな意味が〜あったのでしょう〜」
「どんな意味といっても…侵入を試みたけれど、機動六課がまさか
リミッター解除を受け入れられるとは思っていなかった、それで十分ではないでしょうか？」
「だといいんですけど〜なにか〜漠然とした胸騒ぎがして〜ならないのですが〜」
「っ！…廃棄都市区画に魔力反応。ヴァイス陸曹のヘリに無かって大魔力砲撃
推定威力…S級っ！」
「直ちにヴァイスさんに〜」
「間に合いませんっ！」
砲撃魔法だとっ！
「ヴァイス陸曹っ！」
「アルト、ベルトちゃんと締めとけよっ」
普通のヘリコプターならあり得ない機動、ローターのブレードを調整し、揚力ではなく
負力を作り出して、無理矢理ヘリコプターの高度を下げる。
あり得ない機動を行ったヘリに追随出来なかったのか、砲撃魔法はヘリの上を通り過ぎていく。
「こちらヴァイス。ロングアーチどうぞっ！」
話ながら、直ぐにローターを元の状態に戻し、高速でビルの谷間を飛ぶ。
「こちらロングアーチ、ヴァイス、無事だったか？」
「ああ、なんとかな。…けど、このままじゃ正直やばい。
なんとか、こっちに砲撃してきた奴の頭を押さえてくれ。
高速機動でごまかしているが、いつまでもは続けられん。
頭さえ押さえてくれれば、高度をとって機動六課に戻れる」
「了解した、しかし、砲撃地点はわかるが現在位置が不明だ」
「ヴァイスくん、今なのはちゃんフェイトちゃんが援護に向かったで。
もうちょっと、辛抱したってや」
「わかった、なんとかやってみる」
そういうと、ヴァイスは曲芸飛行じみた回避を続ける。
この砲撃魔法は、ガジェットのものではない。
どうやら、ガジェットを狙う敵〜スカリエッティ達は、今回
本気で襲撃を加えてきているようだ。
それが、一体何を目的にしているのか、それはまだ
機動六課のメンバーには、静を含めて、誰にもわからない。
