異聞・少女義経伝・四
地上の星
【第十章】
〜休日〜
「そろそろ〜守りつつ攻める時期に〜入りましたでしょうか〜」
ここは、機動六課の隊舎、部隊長室です〜。
今は〜機動六課作戦参謀役の〜私〜静と〜八神部隊長〜そして〜
ちっちゃなはやてさんの〜副官の〜リインフォースツヴァイさんの〜
３人だけです〜。
「静さんの予測では、予言の鍵を握るのがレリックで、そのレリックを集めてるのが
スカリエッティである以上、スカリエッティの野望の阻止が、そのまま
予言の阻止になる、ちゅうことやったな。
けど、スカリエッティがどこにいて、レリックを使うて、何をするんか全然わかってへん。
それでも、反撃の時が来た、ちゅうことなんか？」
「反撃の時ではなく〜防戦一方から〜防戦しながら〜限定的な〜攻撃を行って〜
スカリエッティ達に〜焦ってもらおうというわけです〜」
「焦るっちゅうて、何をするつもりや？」
「うふふ〜報告書は〜出してありますよ〜」
「新人４人のデバイスに、ガジェットのロストロギア捜索機能と同じ
探知機能を付け加える、ちゅうんやろ？
けど、それと、反撃がどう結びつくんか、わたしにはまだぴんときへん。
確かに、ガジェットと同じように、ロストロギアが探せるとは思う。
けど、数が段違いやないか。競争するんやったら、間に合わんのとちゃう？」
「うふふ〜普通に考えたら〜そうですけど〜レリック探しを〜こちらも出来るというのと〜
手も足も出ないというのとでは〜段違いですよ〜」
「それは、確かにな。…けど、それならバルデッシュに組み込んで、フェイトちゃんに
探してもろうてもええはずや。なして、新人４人にだけ組み込むん？」
「良き砦には〜いつでも〜弱点があるものですよ〜」
「………新人を囮に使うんか？いくらなんでも、無茶やろ」
「無茶じゃないですよ〜」
「静さんがそういうなら、何か深い考えがあるんやろ。
わたしは、静さんを信じるわ」
「ありがとうございます〜では〜早速あの４人には〜・・・
うふふ〜細工は隆々〜仕上げをご覧じろ 〜ですよ〜。
「はい、今日の訓練はこれでおしまい。
デバイスの新しい機能の使い方については、みんな理解出来てきたみたいだね」
「はい。新たに捜索魔法がデバイスに組み込まれたんですよね」
「そう。４人の相対位置を常に把握できるようにする通信機能と、ガジェットに搭載されている
ロストロギア探査装置と同じ波長の魔力波動を感知出来る魔力感知装置の２モード。
特に、魔力感知装置は、マリエル技官がチューンナップしてるから、ガジェットの
捜索装置より探査範囲が広いよ。これを使えば、ガジェットより先にガジェットの
捜索対象を見つけ出すことが出来るはず」
「つまり、これでガジェットに先んじて、レリックを確保するチャンスもある、っていうことですね」
「はい、そういうこと。
だけど、それを使ってのレリック探しは、私たちと一緒にパトロールするときにやろうね。
みんな、いままで休みなしにずっと訓練や任務に当たってくれたから、明日は特別にお休み」
「いいんですか？なのはさん」
「４ヶ月ずっと訓練漬けだったんだから、たまには休まないと。
なのはさんも、たまには訓練を休みたい気分の時だってあるからね」
「なのはさんもゆっくり休んでください」
「ありがとう、スバル。…休みの予定とか、ゆっくり考えてね。じゃあ解散」
「はいっ」
♪るったた〜るーららら〜♪
「スバル、うるさい。なに浮かれてるのよ」
「ティア〜４ヶ月ぶりの休みなんだからさ〜もっと楽しそうにしようよ」
「はぁ…ったく、あんたはほんと脳天気でいいわね。
あたしは頭が痛いわ。…このレリック捜索機能、本当に役に立つのかしら」
「役に立つんじゃない？なのはさんが役に立つって言ってるから、役に立つよ、きっと」
「それが楽天的って言ってるの。あんたね、ガジェットが一体どれだけの範囲に散らばってるって
思ってるのよ。たった４人で探し回ったからって、ガジェットの方が先に見つけて
襲撃してるに決まってるでしょ」
「だけど、密輸を摘発するには使えるよ」
「密輸阻止のための検知器にはとっくにロストロギア検出装置があるっての。
もし持ち込まれてるとすれば、空港を通らないルートとしか思えないわ。
そんな闇ルートなら、当然ガジェットが先に発見する。
どう考えても、こんなもの役立たずよ。
万が一役に立つとすれば………」
「ティア、役に立つとすれば、なんなの？」
「………やめっ、考えたくないわ。ばかばかしい、そんなこと…あるわけないじゃない」
「ねえ、考えたくないって、何？」
「ここまで言って、あんた、本当に気づかないわけ？」
「んー、全然わかんない」
「はぁ…これで主席なんだから…いい？正規のルートで密輸しようとすれば、ターミナルでの
検査で発見されるに決まっている。一方、非正規ルートで持ち込もうとすれば、ガジェットが
先に発見して確保する。どちらも密輸する当人には割に合わない。
もちろん、スカリエッティ一味が、域外で活動してるなら別だけど、もしそうなら
わざわざミッドにレリックを運び込む理由もないことになるわ。
だけど、もし、……もしもよ。ターミナルの検査部門が、スカリエッティ一味とぐるだったら？」
「まさか。それじゃ、管理局の中に、スカリエッティの協力者がいるっていうことになるじゃない」
「協力者とは限らないわ。単に、密輸した後でスカリエッティ一味に、それが本当は
どういう意味があるのかわからずに、ただお金にするためだけに売りさばいているのかもしれない。
もし、そういう組織があるとすれば、彼らは…ガジェットの襲撃を受けないような場所
たとえば、クラナガンの市街地にレリックを持っているはず。
そういう場合だったら…この探査システムは、間違いなく役に立つ」
「うーん、それはさすがにティアの考えすぎじゃないかな。
そんなことは忘れて、明日はぱーっっと遊ぼうよ、ティアだって、したいこと、あるんでしょ」
「そりゃ、ま、あるにはあるけど・・・だけど、私だけで出来ることじゃないっていうか…」
「ティアが何考えてるかって、わたしにはちゃんとわかってるから。
一緒にヴァイス陸曹に頼んであげるからさ、あれ、借りて出かけようよ」
「わかってるって、…なんでわかったの？」
「そりゃ、ティアがヴァイス陸曹と話してるのを聞いたからすぐに」
「いーなぁ…早くあたしもああいうのがもてる立場になりたいわ」
「だったら、早く執務官にならなきゃ」
「ま、ね…執務官手当がつくようになったら、買えるわね」
「そういうこと。じゃ、お休み」
「あんた、もう寝るの？」
「ヴァイス陸曹に頼むのは、明日でいいでしょ。今日はもう遅いし」
「はぁ…もう寝ちゃった。寝付きがいいんだからこの子は…さてと、あたしも寝ようか。
することないし…」
翌日、機動六課フォワードチームのメンバーの、４ヶ月ぶりの休みの始まりである。
「ハンカチ持った？ちり紙もった？おさいふ持った？お小遣い足りてる？…ほら、服がねじれてる」
「あの、フェイトさん…僕も働いてお給料もらってますから…」
こちらは、今からキャロと一緒に出かける予定のエリオである。
フェイトお姉ちゃんが、エリオの身だしなみを整えてる最中だ。
「いえ、ですからべつに普通にクラナガンを、シャーリーさんに作ってもらった
行程表に沿って回るだけなんで、べつにそこまでしなくても…」
「だめだよ。人前に出るときには、身だしなみをきちんと整えないと。
どこで誰が見ているのかわからないんだから」
「べつにクラナガンに知った人はいないですから…」
「クラナガンに知り合いが住んでなくても、知り合いに出会うかもしれないし
これから知り合いになる人に会うかもしれないでしょ。ちゃんとする」
「…はぁい」
どことなく不服なエリオと、そんなエリオにどことなく不服なフェイトさん。
どんな家族の、どんな姉と弟でもありそうな、そんな一コマである。
「…それで、エリオくん。これからどこへ行くの？」
「ええと、それについてはちゃんとシャーリーさんから地図付で
ちゃんと行程表をもらってるから大丈夫だよ。
まず、トラムで海の見える公園まで出かけて、二人でお散歩」
「今、トラムに乗ってるよね、この終点がちょうど海浜公園って書いてあるよ」
「うん、そうだねキャロ。…なになに、重要ポイント、絶対に迷子にならないよう
ずっと手をつないで歩くこと、だって」
「迷子になって時間を無駄遣いしたら大変だもんね」
「ええと、お昼はあらかじめレストランを予約しておくこと…予約はシャーリーさんが
済ませてくれてるから、時間に間に合うように行けばいいって。
万が一間に合わない時には、時間変更の連絡をしなさい、か。
それからトラムで市街にでて、映画鑑賞。日中の暑い日差しを避けるのが吉、と」
「クラナガンって、そんなに暑いの？」
「都市って、一種の砂漠みたいなもので、その上夏は空調の熱がこもるから
普通より３度ぐらい気温が上がるんだって。
機動六課の隊舎のある場所よりは、ずっと暑いんじゃないかな」
「うわあ、大丈夫かなぁ」
「大丈夫だよきっと。スバルさん達は、バイクで市街地にでるって言ってたし」
「スバルさん、バイクを持ってたかな？」
「ヴァイス陸曹に借りるって言ってたよ。もし借りられなかったら、ヘリで
送ってもらうって言ってたけど、たぶん、貸してくれるよ」
「だといいけど…それで、エリオくん。私たちの予定は？」
「んーと、映画が終わったら、映画の感想の話をしながら
夕日の見える丘で二人でゆっくりと夕日を見つめて、日が暮れる前には
トラムに乗って機動六課の隊舎に帰ってくる。終点から隊舎までは
タクシーを使うこと。明日のために無駄な体力は使うな、だって」
「日が暮れたら、やっぱり、物騒だもんね」
「うん、僕は歩いて帰ってもいいんだけど、シャーリーさんの予定表がそうなってるから
その通りにしようか」
「その方がいいよ、きっと」
シャーリーの行程表の意味は、特に理解出来てない二人であった。
「頼むから事故なんて起こすなよ。まだローンが残ってるんだからな」
「大丈夫ですよ。ティアは本当に運転が上手いんですから」
「そりゃミッド製のバイクの話だろ？こいつは姐さんに頼んで取り寄せてもらった特別品なんだぜ」
「第９７管理外世界製造なんですよね、知ってますよ。ヴァイス陸曹が話してくれたじゃないですか。
ガソリンエンジン搭載なんですよね」
「ガソリンまで取り寄せだから、ばかにならねーんだよな」
「後でお金払いますよ」
「いーよ、買ったのはいいけど、最近乗ってねーから、たまには動かしてやらねーとな。
それで、スーツとかいらないのか？」
「それはバリアジャケットで代用するから大丈夫です。
基本は同じなんですよね」
「まあな、若干違う部分もあるんだが、チューンしてミッド式の操作法にあわせてある。
免許持ってるなら、普通に乗れるはずだぜ」
「だんだんにならしながら走りますよ、じゃ、行ってきます」
「ああ、楽しんで来いよ…俺の分まで」
「慣らし運転しておきますから」
エンジンを吹かして、ティアナはヴァイスのバイクを走らせる。
スバルは後ろでティアナに抱きついて二人乗りだ。
最初は、バイクの感覚をつかむために、慎重にギアを上げ下げし、タイヤの
グリップを確かめながら走っているが、やがてバイクを自分のものにするや
フルスロットルで山道を走り出す。
タイヤをきしませての高速走行だ。
が、ツーリングは、市街地に入って直ぐに一旦中止を余儀なくされた。
「ティア、どうしたの？」
「ん？なんだか渋滞してるみたい」
「脇をすり抜けて出れない？」
「今やってる最中。あーあ、トンネルの中で事故やったんだ。
迷惑よね。ったく、スバル、ちょっとどんな事故があったのか聞いてきてくれない？」
「O.K.ティア、ひとっ走り行ってくる。…行くよ、マッハキャリバー」
「All right,master」
「あ、こらスバル、こんなところで」
「へーきへーき」
スバルは変身してマッハキャリバーを使い素早く事故現場に到着する。
事故現場、といっても、既に管理局が現場検証をやっている最中だ。
「あの、すいません。いつになったら復旧します？…って、銀ねえ、どうしたの？」
「スバルじゃない。バリアジャケット着てなにやってるの？出動中じゃないの」
「ううん、今日は非番。それで、一体どんな事故？」
「トラックの荷台がトンネル内で爆発。回りの自動車にも軽微ながら被害が出てるわ。
それで、念のため上下線とも不通にして、爆発物がないか、原因を含めて調査中なの」
「…それで、銀ねえ、あのポッドみたいなのが、爆発物？」
「爆発物か、あるいは爆発物を入れていた容器みたいね」
「V・I・V…あとは破損して読めないか…一体なんだろう？」
「ポッドの通し番号か、あるいは中身のコードネームか…一体何が入っていたのかは
わからないわ。運転手からも事情を聞いているけど、運転手は、空港から
荷物を運んでただけで、積んでいたコンテナに、こんな物が入ってたこと自体しらなかったみたい」
「空港から……わかった、ありがとう銀ねえ、お仕事がんばって」
「あなたも、せっかくの休日なんだから、精一杯楽しみなさい」
「はーい、ありがとう」
結局Uターンして迂回路から、目的地である、おいしいアイスクリーム屋さんにたどり着いた
スバルとティアナの二人であった。
バイクは、ちゃんと駐輪場に置いてきてある。
「うわぁ、おいしい〜」
「あんた、ほんとアイス好きねぇ」
「うん」
至福の表情を浮かべ、風が吹けばひっくり返りそうなほど積み重ねられた
アイスの玉を一玉一口で食べていくスバル。
普通にコーンに乗せられたアイスを食するティアナ。
普通の仲良し女の子コンビが、普通に休日を過ごしているような、そんな図である。
だが、二人は、ただ普通の女の子、というわけではない。
「スバルさん、ティアナさん、ちょっとこっちに来てもらえませんか？
非常事態なんです」
「エリオ、どうしたの？」
「あ、はい……ストラーダのレリックセンサーに反応があったんで
キャロと一緒に反応のあった場所に来てみたんですが、…
そこで、レリックのケースと鎖で結ばれた、５歳ぐらいの女の子を
地下水路から発見したんです。
今、地上に運び出して、六課隊舎にも報告したんですが…」
「ロングアーチからの指示は？」
「今、ヴァイス陸曹がヘリでこちらに向かっているそうです。
ティアナさん達には…」
「こちらロングアーチ２グリフィス。スターズ３，スターズ４、両名は
直ちにライトニング３、４と合流を。
訓練中隊の両隊長もヴァイス陸曹と共に………なんだって」
「何事ですか？」
「状況が変わった、隊長は援護に出動出来ない。
フォワードチームはヴァイス陸曹が到着するまで
少女を確保。シャマル先生とヴィータ副隊長もそちらに向かわせる。
ヴィータ副隊長が到着するまで現場確保。到着後はヴィータ副隊長の
指示に従うように、以上だ」
「スターズ４，了解。直ちにライトニング３と合流します、以上」
「ティア、せっかくの休日だったのに、残念だね」
「ま、ね。…ぼやいても始まらないわ。バイクは後でヴァイス陸曹に拾ってもらいましょ。
全力で行くわよ」
「O.K.ティア」
どうやら、楽しい休日は、これで終わりになりそうね。
なんだか、ハードな一日が始まる予感がするわ。
