「ティアナを怒ってみたけどよ、こっちも油断があったのは否定できねーな」
「そうやなあ。まさか、ガジェットに現場指揮官がおるとはおもわんかったわ」
「主はやて、ガジェットの調査はどうなってます？」
「撃破したガジェットのいくつかは、本局に送ってマリエルに分析してもらってる。
　地上本部が持って行った分については、なしのつぶてや 」
「相変わらず継子扱いかよ。ったく、地上からこっちに、まともな情報が
　回ってきたことねーじゃねーか」
「そういうものじゃないよヴィータ。地上本部だって、本局同様、ガジェットについては
　情報を持ってないのかもしれないし」
「そうやな。…けど、今までとちごうて、今回は、転送魔法の使い手が
　ホテル襲撃に加わってたことは間違いない」
「はやて、ガジェットに転送能力があるとか、転送能力を持ったガジェットが
　存在するっていう可能性はないの？」
「九羅香さんの疑問ももっともやけど、本局の暫定的な分析結果からすれば
　破壊されたガジェットには、転送移動能力はなさそうや。
　ガジェットを転送させることのできる、新型ガジェットが存在してて
　わたしらが発見できへんかった、ちゅう可能性はあるけど、そう考えるより
　転送魔導師が現場でガジェット全体の指揮をとってた、ちゅうて考える方が自然なんよ」
「どうして？」
「連携がとれすぎや。指揮統制用自動機械が存在したとしても、その指揮機械を
　制御してる何かがあって、それが現場指揮してたと考えるのが自然や。
　万が一、現場指揮をとってる自動機械なんてあるんやったら、それ自体が
　ロストロギアの一種やろな」
「人間なみの思考の出来る機械ってだけなら、インテリジェントデバイスだってそうだろ」
「まあな。…けど、デバイスかて人権あるんや。自動機械扱いはひどいやろ」
「…ロボットに人権のある世界なのを忘れてたよ」

 

ここは、機動六課のブリーフィングルームや。
今、何してるかいうたら、ホテル警備の反省会。

ホテル警備自体は、ホテルにもお客さんにも被害をださんよう、うまく出来たと思うんよ。
けど、新人達には適当な肩慣らしやおもうてたら、ガジェットが転送魔法をつこうて
襲撃してくるいう、非常事態が発生してしもうた。
ガジェット自体は、新人がさばいてくれたし、ヴィータもタイミングようまにおうたけど
ティアナの誤射事件がおきてしもうた。
それについての反省もあるし、訓練中隊の兵力投入があれでよかったんか？っちゅう
反省もあるし、とにかく反省点だらけや。

 

「打撃中隊の方が順調に戦果あげてるのに、驕るところがあったんかもしれへんなあ」
「それよりわからないんだけど、一体あのオークションには何があったんだ？
　ガジェットの方が、そうまでして襲撃して奪うべき何かがあったような気がしないんだけど」
「それは私にも疑問や。ユーノくんの話を聞いても、特にガジェットが反応しそうな
　強力なロストロギアも、レリックも存在してへんかったそうや。
　せやから、ガジェットが自発的に…いう線は、考えにくいんよ」
「だけど、あれだけのガジェットを投入してきたんだから、何も目的がないとは
　考えられないよね」
「せや。何かを手に入れるつもりやった、そう考えるべきやろ」
「八神部隊長、僕に仮説があるんですが」
「グリフィス君、なんかわかったんか？」
「いえ、わかったというわけではありませんが…もしかしたら、今回の襲撃の目的は
　こちらの戦力の分析、つまり、威力偵察ではないでしょうか」
「機動六課の戦力分析か。それは可能性がないとはいえんなぁ。
　けど、それならなんで新人ばっかりの所へ襲いかかってきたんやろ？」
「隊長達や打撃中隊の戦闘力のデータであれば、今までの戦いからある程度理解できますが
　新人達の能力は、未知数ですから」
「…なるほどなぁ。その可能性はあるか。
　けど、スカリエッティにとって敵になる可能性があるのは、機動六課だけやないはずや。
　なして、わたしらをマークするんやろな？」
「それは僕にもわかりません。ですから、仮説です」
「……主はやて、まだ考えをまとめるために必要な情報は揃っておりません。
　今、憶測をたくましくするより、他にやるべき事があろうかと」
「そうやな…なのはちゃん、再訓練プログラムの方は頼むわ」
「うん、わかった」
「フェイトちゃんも、スカリエッティの捜査にはよう当たりたいかもしれんけど
　もうしばらくは、訓練メインで頼む。普通にやって１年かかることを
　３ヶ月で仕上げたんや、粗があって当然や。
　そういうあたりも含めて、底上げしていかんとな。
　何しろ、わたしら、一体どれだけの時間が本当に残されてるか、わかってへんのやから」
「…予言…だね」
「せや。…いつ、どんな形で予言された事件が始まるか、誰にもわからへん。
　予言は別にしても、ガジェットの現場指揮をとれる奴がおることわかったし
　大規模転送の使い手が相手におることもわかった。
　もしかしたら、なのはちゃん達が全力を投入せなあかんぐらいのことは
　直ぐにくるかもしれへんな」
「そうかもしれないね。そうなる前に、あの子達を一本立ちさせなきゃ」
「頼む、みんな」
「まっかせて」
「なのははいつでも前向きだね」
「うじうじ悩んでたって、悩みは消えないから。…いつでも、全力全開だよ」
「だからって、無理すんじゃねーぜ。おめーは倒れるまで無茶すんだから」
「わかってるってば。シャマルの言うことは聞いてちゃんと４時間は寝てるんだから」
「４時間じゃ足りないだろ。最低１０時間は寝ないと」
「弁慶、それは寝過ぎだ」
「冗談だってば。…けど６時間を割るとほんと体に響くぜ」
「ありがとう、弁慶さん」
「よし、概ね結論でたいうことでええか？」
「いいと思うよ。私が言うべき事は特にないから」
「あたしもべつに付け加えることはねーよ」
「私もないよ。新しい練習メニューを考えるぐらいかな」
「私もなのはと同じ」
「あたしもべつにねーよ。…けど、あたし自信、気合いはいれなおさねーとな」
「主はやて、異論はないようです」
「そうか、なら会議は終了、私はいまからクロノ提督への報告書を書いてくるわ」

 

---

 

俺の名前はヴァイス・グランセニック。ヘリパイだ。
日々の仕事は、ヘリの整備にフライトシミュレーターでのヘリ飛行の訓練。
それにもちろん、ヘリを使っての輸送もやっている。
息抜きに、隊舎の回りの散歩をしてみることもある。

 

「おいティアナ、何やってんだ？」
「………」

 

返事がない、ただの幻影のようだ。

 

「…いえ、本物です。ヴァイス陸曹」
「あー、今おめーは休憩時間だろ、敬礼はいいって。
　それで、一体なにをやってたんだ？」
「練習です。魔法弾迎撃の」
「休憩なしに３時間ぶっどおしかよ。俺が航空隊にいたときだって
　そんな無茶苦茶な訓練はなかったぜ」
「けど、あたしみたいな凡人は、これぐらいやらないと、ついて行けないですから」
「おまえが凡人なら俺はなんだっての。魔力値は俺の２倍はあっただろうが。
　我流で悪いくせつけるぐらいなら、部屋に帰って寝てろよ」
「いえ、大丈夫ですから」
「そっか、じゃましたな」
「いえ、お気になさらずに…あ、ヴァイス陸曹」
「なんだ？」
「なんで、３時間休憩なしでやってるってわかったんですか？」
「なに、俺がヘリ整備やってる最中、ずっとそれをやってるのが見えたからな」
「つまり、ヴァイス陸曹も、３時間ぶっどおしでヘリの整備をやってたんですね」
「俺は勤務時間なんだよ。今から休むとこ。休憩時間にやってるおまえとはちがうって」
「そうですか」
「じゃあな、けど、夜ぐらいゆっくり寝ろよ」
「あ、はい。わかりました」

 

…ありゃ絶対わかってる顔じゃねぇな。
けど、俺が言うべきことでもないか。姐さんにでも相談しとくかな。

 

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ヴァイス陸曹は休むように言っても、そんなゆとり、今のあたしにはない。
カートリッジシステムのおかげで、あたしみたいに魔力値の低い魔法使いも
比較的大威力の魔法が使えるようになった。
けど、それは、今までのように、暴走させる心配のない、自分の魔力だけの制御から
一歩間違えれば自爆しかねない、強大な魔力の制御が必要になったという意味でもある。
カートリッジシステムのインテリジェントデバイスなんていう、１０年前なら
無茶そのものだったデバイスを使おうというんだから、それだけ練習しないと。

 

「…ティア、そろそろ待機任務だよ」
「あ、もうそんな時間？」
「そんな時間。…ティア、もしかして、あの誤射、気にしてる？」
「ああ、あれね。反省はしてるけど、気にしてるのとは違うわ。
　魔法弾は自分できちんと制御しなけりゃだめだってことがわかったわ。
　幻影の立木の影に隠れたのが失敗。幻影使って隠れるなら、幻影の立木のどれかに
　化けておくべきだったわ。そういう練習もしないと」
「今は、なのはさんに言われてた、動かずに迎撃する練習をしてたんでしょ」
「クロスミラージュに魔法弾を作ってもらって、それにあたしがきちんとカウンター当てる練習。
　魔力負荷が掛かるから、パワーアップにもつながるし」
「けど、ティアはあんま無茶しないほうがいいよ」
「…わかってるっての。ヴァイス陸曹にも言われてたけど、限界はわかってるわ」
「どうだか、ティアは時々無茶するんだから」
「試験の前には３連徹当たり前のあんたにいわれたかないわ」
「あたしは３，４日眠らなくても平気だから」
「あ、そ。…で、何しに来たの？」
「あたしも、時間外に練習しようかなって」
「あんたはべつに練習する必要もないでしょ。あんたが怒られたわけじゃないんだから」
「そうはいっても、あたしとティアはコンビなんだから、連携がきちんととれなきゃだめだよ。…たぶん」
「はいはいそうですか。なら、あたしはあたしでやってるから、あんたも
　言われた課題が次は楽にクリア出来るように、がんばんなさい」
「ティア、次の課題って聞いてる？」
「聞いてる。４人がかりでなのはさんに一撃加えることは出来るようになったから
　こんどは２人で出来るようにって話でしょ」
「ねえ、それ、ティアは出来るって思う？」
「明日やるって聞いたけど、…正直、今の実力で出来る気はしないわ。
　正攻法じゃ絶対無理ね」
「正攻法じゃなかったら？」
「正攻法じゃなかったらって、正攻法でやんないと、訓練じゃないでしょ」
「けど、現場じゃ臨機応変だって。ティア、なんか、正攻法じゃないやり方なら
　出来ること、もう見つけてるんでしょ」
「そりゃ…上手く行きそうな奇策ぐらい、考えてるわよ。けど、前の試験だって
　奇策を使ったけど不合格だったじゃない」
「あれは、最後のつめでスピードを出しすぎたのと、負傷の報告を忘れたのが敗因だって。
　今回の課題は、２人でなのはさんに一撃ってルールなんだから、大丈夫」
「そうかしらね」
「だけど、試してみたいこと、あるんでしょ？」
「あーもう、わかったわよ。それの秘密練習につきあえってんでしょ。
　いいわよ、つきあったげる。…待機時間は仮眠とっててもよかったわよね」
「原則いいみたい。大丈夫、あたしが起きてて、何かあったらティアを起こすから」
「わかったわ」

 

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翌日。深夜の特訓の成果を見せるべき時が来た。

 

「はい、じゃあ、今までの訓練のおさらいをするからね。
　まずはスバルとティアナのコンビでわたしに一撃を加える練習。
　エリオとキャロは、後でフェイトちゃん相手に２：１で同じようにやるからね」
「はい、わかりました」
「じゃあ…Ready・・・GO!」

 

なのはさんが空中に浮かぶと、自分の回りに魔法弾を配置して攻防一体の構えに入る。
少なくとも８発の魔法弾を独立して制御できるなのはさんを相手に、ただ
まっすぐ飛び込んで行くというのは、自殺的冗談。
それに、陸戦魔導師のあたしとすばるの二人で、空戦タイプのなのはさんを相手にするんだから
まずは、空中の魔導師を攻撃できる手段が必要です。

 

「ウィングロード！」

 

まずは、スバルのウィングロードを使って、なのはさんの回りに足場を築く。
スバルの後ろをあたしは姿を消して駆け上がりつつ、幻影を使ってなのはさんを牽制する。
なのはさんは、幻影の魔法弾をシールドで弾きつつ、防衛用の魔法弾を使って
あたしの幻影を、モグラ叩きのようにたたきつぶしていく。
ここまでは、いままでの練習通り。…幻影だとわかっていても
ダミーはきちんと潰していくのが、速射魔導師の流儀だと、なのはさんは言ってた。
なのはさんは大火力の魔法が専門ですが、速射魔導師としての腕前も
超一流。けど、幻影をつかった牽制で、スバルはなのはさん相手に
クロスレンジまで飛び込むことが出来た。

 

「うぉぉぉ〜」
「やるねスバル」

 

レイジングハートで、スバルのリボルバーナックルを受け止めるなのはさん。
二人は正面からデバイスをぶつけあい、正面からの力比べに入る。
けど、正面からの力比べなら、魔力の強大な方が絶対に有利。
スバルはなのはさんに吹き飛ばされてしまう。
それでも、落下しつつ体制を立て直し、新たなウィングロードを作り出して
再び正面突撃の構えを見せる。
なのはさんの方は、まず目の前の脅威、スバルに神経を集中してるよう。

 

今こそ、切り札を使うべき時。
気配を殺すために、魔法ではなく、自由落下でなのはさんに接近し
なのはさんのバリアを、クロスミラージュの魔法弾を刃に変えたモードで
切り裂いて、魔法弾を打ち込む。
危険は危険だけど、…奇策だけに、通る可能性は十分にあるっ！

 

「レイジングハート、モードリリース」

 

なのはさんが、レイジングハートを待機状態に戻す。
一体どういうこと…。

 

次の瞬間。あたしとスバルは、なのはさんに完全に攻撃を止められていた。
確かこれは、重力制御の魔法だったはず。
自由落下の運動エネルギーを相殺しているのだから、むしろ強制レビテーションというべきか。
あたしが止められたのを見たスバルの突進も、なのはさんのシールド…素手で発生させている
シールドで受け止めている。
デバイスの支援なしで、スバルの全力の突撃を止める？魔力値AAに制限されてるはずなのに、一体？

 

「…おかしいなぁ…どうしちゃったのかな。
　がんばってるのわかるけど、模擬戦は喧嘩じゃないんだよ。
　普段、言うことを聞いているふりで、実戦でこんな無茶するんじゃ
　練習の意味、ないじゃない。ちゃんと、練習通りにやろうよ。
　ねえ、私の言ってること、私の訓練、そんなにまちがってる？」

 

間違ってる？…間違ってるとか、間違ってないとか、そういう次元の話じゃない。
実戦経験を別にしても、この差は圧倒的すぎる。
こんなもの、間違っても追いつかない。いや、追いつくなんて思う方がおかしい。
おかしいのはわかるけど…けど……戦闘もこなせる執務官をやるつもりだったら
AA級の魔力値の魔導師相手なら、互角でなければ、話にならない。

 

…ここまで無茶やって、あれだけ完璧にはまってたはずで、結果がこれじゃ…

 

「あたしは…っ…あたしみたいな落ちこぼれがっ、なのはさんに一撃入れろって言われたらっ
　こんな無茶でもしなきゃ…普通にやってたんじゃ…絶対に無理じゃないですかっ！」
「少し、頭冷やそうか…」

 

やられるっ！
恐怖で思わずなのはさんから距離を取る。
なのはさんの重力制御を逆用し、腕の力と魔法による浮揚とで、落下開始地点へ飛び上がる。

 

「ファントムブレイ…」
「…クロスファイア…シュート」

 

クロスファイア？これはあたしが訓練校時代に主用してた射撃魔法だ。
威力はファントムブレイザーに比べて今ひとつだけど、発射速度と弾速と誘導能力のバランスから
言えば、あたしが使える魔法の中で、もっとも優れてる。
…て、うそ、この魔法、なのはさん相手の訓練時の射撃魔法なんかよりよっぽど早いっ！

 

「ティアーっ！」

 

直撃した、あたしは死んだ。…模擬弾だから死なないけど、ファントムブレイザーの暴発と
クロスファイアの直撃で受けた魔力ダメージは、あたしの許容限界を超えていた。

 

スバルが何か言ってるらしい。だけど、あたしには聞こえない。
信じられない、あんな平凡な魔法ですら、なのはさんに掛かればあの威力なんだ…