異聞・少女義経伝・四
地上の星
【第七章】
〜初陣〜
「はーい、みんな集合」
「はい、なのはさん」
「これから、機動六課訓練中隊は、初めての実戦任務に入ります。
…っていっても、戦闘じゃなくて、警備なんだけどね。
まずはこっちを見て」
説明が遅れたわね。 あたしたち機動六課の新人４人は、実戦投入可能かどうかの
試験に全員合格することが出来た。
その後で、八神部隊長から、ちょっとした編成替えをするって話を聞いた。
実力差がありすぎる上に、空戦魔導師と陸戦魔導師の混成部隊をそのまま
運用するのは、効率的じゃないから、実戦投入時には、隊長達は部隊長直属の
遊撃隊として適時投入することにして、訓練中隊の新人４人は、フォワードチームとして
４人が一つのグループを形成するように、って。
あたしも、それには反対しない。実際、なのはさんと一緒にやれっていわれても
何をしていいかわからないし。
だけど、別な意味ですごい不安がある。
普通は、陸士の集まりでチームを作ったら、経験豊富な曹長なり陸曹なりが
隊長としてまとめ役をやってくれるはず。
だけど、フォワードチームは違う。チームリーダーは４人で勝手に選べって事になった。
話し合って決めろっていう話だったけど、それじゃ勝手に選ぶのと変わりないでしょ。
あたしはハンモックナンバーで選ぶべきだって言ったんだけど、スバルとキャロとエリオが
年齢で選ぶのが一番公平だって言い出したおかげで、あたしにおはちが回ってきた。
八神部隊長も何考えてるんだかしらないけど、改めてあたしをフォワードチームの
チームリーダーに任命しちゃったから、逃げる訳にもいかない。
だけど、こんな事で本当にいいのかなって思う。実戦は、そんな、ぽっと出の
陸士学校上がりなんかが、リーダーになってやれるような、そんな甘い物じゃないはず。
「…と、そういうわけで、私とフェイトちゃんとはやてちゃんの３人は
ホテル内部の警備が担当なんだけど、主催者側の意向で、デバイスを持って
会場の外に出たりは出来ないんだ。会場外の警備は、シャマルの広域捜索魔法と
フォワードチームの目視警備になる、わかった？」
「はい、わかりました、なのはさん」
「シグナムとヴィータちゃんとザフィーラは、会場内で待機、万が一ガジェットが現れたら
直ぐに出動してガジェットを排除。会場外での指揮は、シグナムがとるから
シグナムの言うことを良く聞いてね。
わかった？」
「はい、わかりましたなのはさん」
「よし、じゃあ解散、３０分後に正門に集合。シグナムの運転で会場のホテルに行くよ」
「はい、わかりました」
今日の任務、初めての現場出動は、ガジェットと戦う事じゃなくて、クラナガン郊外の
ホテルでひらかれる、ロストロギアのオークションの警備。
なんでそんな仕事が機動六課に回ってきたかというと、地上本部の言っている
表向きの名目は、ロストロギアの取引だから、ガジェットが現れるかもしれない、ということ。
「せやけど、それだけのことなら、なにも私までいかへんでも、シグナム達に
任せておいて大丈夫なんやけどな。
大体がなのはちゃんやフェイトちゃんが、ドレス着て会場内をうろうろするなんて
時間と戦力の無駄遣いもええところや」
「八神部隊長、でしたら、どうしてそういうことになったんですか？」
「主催者側の意向や。ほら、最近ロストロギアを狙う自動機械が現れてる、ちゅうんは
一般にも、それなりに知られてるやろ。せやから、主催者としては
安全をアピールするのに、顔の売れてるなのはちゃんフェイトちゃんが
ドレスを着て、会場内でリラックスしてる所を見せようっちゅう寸法や。
なのはちゃんやフェイトちゃんがゆったり構えてたら、お客さん達も
なんも危険なことは起きてない、ちゅうて思うやろ」
「そういう理由で私たちが出動なんですか？」
「おまえ達が行くのは、あくまで訓練の延長線上だ」
「いきなりガジェット相手の実戦なんてしゃれになんねーからよ。
まずは、一日警備をやって、実戦の空気だけでも感じろってーこと。
ま、安心しなよ。ガジェットなんてそうそう現れるもんでもねーからよ」
「万が一現れても、シグナムやヴィータちゃんやザフィーラなら、直ぐに撃破出来るわ」
「シャマルのクラールヴィンドがごまかせるともおもわねーしよ」
「だが、油断はするな。現場では何が起きるかわからん。
ガジェットばかり注意していると、もっとありきたりな危険に出会うかもしれん」
「シグナムさん、ありきたりな危険ってなんでしょうか？」
「エリオ、本当にわからないのか？」
「えと…ガジェットじゃなくて、普通の強盗が現れるかもしれないとか…そういう事ですか？」
「ああ、そういうことだ。そういうのは、さすがにシャマルでも追い切れん。
よく目を空けて、あらゆる異常を見逃すな。異常を感じたら、細大漏らさず報告しろ。
危険かどうかは、我々が現場に行って判断する」
「はい、わかりました」
「リィンも会場内の警備ですよぉ」
「おめーもしっかり目を空けて調べるんだぞ」
「わかってるですぅ」
そんな和やかな会話を続けながら、バスはホテルへと向かっていった。
ホテルの、業務用駐車場に、機動六課がこの任務のために借りたバスを止め
隊長達は会場内へ、私たちは会場外の警備へと回る。
「みんな、警備の基本はわかってるわね、ホテルの見取り図がこれよ。
あたしとスバル、エリオとキャロがそれぞれコンビを組んで、この角と
この角を押さえて対角線に行動。
表側は比較的開けた庭園だけど、裏は結構そばまで林が迫ってるから
エリオとキャロが表側、あたしとスバルが裏手側の警備に入るわ。
何か見つけたらシャマル先生に報告して、後の指示を仰ぐこと。
何か質問は？」
「いえ、特にありません」
「あの…万が一、見つけた何かが襲ってきたらどうすればいいんでしょうか…」
「自衛の範囲で魔法を使って、反撃はあくまでシャマル先生か、シグナム副隊長の許可を得てから」
「は、はい、わかりました」
「よし、じゃ、警備開始〜オークションは丸一日あるらしいから、何もなくても結構ハードになるわよ」
「出来れば気晴らしにガジェットでも現れるといいよね」
「スバル、遊びじゃないんだから不謹慎なこといわない」
「敵の来たらずを頼むべからず、来るあるを頼むべしだよ、ティア」
「はいはい、だけど、本番やるなら、なのはさん達がバックを固めてる時が最初であって欲しいわ。
さて、ブリーフィングはこれで十分？じゃ、配置について」
配置について警備をする。スバルとペアで林を見ながら、疲労が溜まらないように
ゆっくりと歩き回る。何時間かそれを続けたような気がするけど、たぶん
まだ始めてから一時間程度なんだと思う。…ほら、クロスミラージュが定時報告の時間だと言ってきた。
「…シャマル先生、こちらスターズ４、裏口側異常なし」
「裏口側異常なし了解。ライトニングは？」
「こちらライトニング３、表門側異常なし」
「クラールヴィンドにも何も異常な反応はないわ。
今のところ何もかも順調なようね。…あんまり気を張り詰めすぎないようにね。
警備任務って、初めのうち気合いを入れ過ぎちゃうと、後の方になって
気持ちが切れちゃうから。…お昼近くになったら、シグナムやヴィータちゃんに言って
休憩のための交代をしてもらうようにするから、お昼については心配しなくていいわ。
あと、適時の水分補給も忘れないように。帽子はちゃんとかぶってる？熱射病にも気をつけてね」
「…はい、わかりました、シャマル先生」
…なんかくどいような気がするけど、そんなものかな。
「…えっと…ティアナ…じゃなかった、スターズ４，休憩はどちらのチームから入るの？」
「先にライトニングペアから休憩させてあげてください。あたしたちは後でいいですから」
「わかったわ、じゃ、シグナム達には先に表に行って交代するように言っておくわね」
エリオ達のお昼休みが終わったと、シグナム副隊長があたしたちに伝えに来てくれた。
ここまでの警備の概要を副隊長に報告してから、お昼休みのために、ホテル内に
用意されている、スタッフ用の詰め所へと向かう。
その詰め所には、同じように休憩に入っているなのはさんと、後一人
今まで見たことのない誰かがいた。
「…失礼します」
「あの、なのはさん、おじゃまでしたか？もしそうならあたしたちでしたら
べつに中庭で食べてもいいですから」
「ううん、そんなに気を使わなくていいよ。幼なじみと話しをしてただけだから。
スバル、ティアナ、紹介するね、こちらが考古学者のユーノくん」
「ユーノ・スクライアです、よろしく」
「あ、あたし、スバルって言います。なのはさんの幼なじみなんですか？
あたしは…」
「こらスバル、初対面の人になれなれしくしない。
すいません、あたしはティアナ・ランスター。二等陸士です」
「そんなにかしこまらなくていいよ。なのはから二人のことは良く聞いてるから」
「あの、なのはさん、幼なじみって、そんなに親しい関係なんですか？」
「うーん、親しいっていうか…普通だよね」
「毎日電話で話をする程度だから、普通じゃないかな」
「普通の恋人同士みたいですね、遠距離恋愛なんですか？」
「恋人同士だったら、毎日転送魔法で会いに行くよ」
「えと…ユーノさんは、転送魔法が使えるんですか？」
「一応は総合A級だし」
「ユーノくんは、わたしの魔法の先生だったんだよ」
「え？なのはさんの？」
「ずっと昔の話だよ。それに、僕がなのはに魔法を教えてたのは
３ヶ月ちょっとでしかないから。１０歳の時には、もう管理局入りして
管理局の教官から魔法を習ってたしね」
「それで、ユーノさんは、今どこでお仕事をされてるんですか？」
「今はここでロストロギアの鑑定をやってるよ」
「ここでって…このホテルに雇われてるんですか？」
「ユーノくん、スバルが聞いたのはそういう意味じゃないって」
「えと…なのは、じゃあ一体どういう意味なのかな」
「もう、ユーノくんってば……あ、だけど、先にその話をした方がいいかな。
ユーノくんは、このオークションの主催者から、ロストロギアの鑑定を頼まれたんだよ。
ほら、ロストロギアって言っても、指定ロストロギアみたいなものすごい魔力の
こもっている物でもないかぎり、素人には贋造品となかなか見分けがつかないでしょ。
そういう、贋造品と、本物のロストロギアとを、ユーノくんが見分けるの。
だから、スタッフルームで休憩中なんだけどね」
「それで、普段されているお仕事はなんなんですか？」
「クロノ提督の手伝いで無限書庫に行くこともあるけど、ライフワークは
第９７管理世界と、第９７管理外世界との関係についてのフィールドワークかな。
あの二つの世界は、時間が８００年分ずれてるんだ。
特に、第９７管理外世界は、ミッドチルダ時間に先行しているって言う意味でも
ものすごく貴重なデータなんだよ。
時間があったらなのは達と一緒に行ってみてほしいな。とにかくすごいんだ。
まるでクラナガンと見間違うかのようなメガロポリスもあるし…」
「ユーノくん、熱くなり過ぎ」
「あ、ごめんなのは、つい夢中になっちゃって」
「いえ、あたしはそういうお話好きですよ」
「考古学に興味があるの？」
「考古学っていうか、昔のことはいろいろ」
「スバルの場合、本当に聞きたいのは、考古学の話じゃなくて
なのはさんの昔話なんでしょ」
「え、まあ、そういうのも含めて…あはは」
「なのはの昔話かぁ…初めてなのはに会った時のこととか？」
「九羅香さん達に出会ったのも、同じぐらいの頃だったよね」
「そういえば、そうだったね」
Alert！Alert!Alert!…
「一体何事？」
「こちらシャマル、スターズ３、スターズ４，直ちに屋上の私の所まで」
「シャマル、私は？」
「なのはちゃんがでるほどの事じゃないと思うわ。ガジェットが２方向から接近中っていうだけ。
陽動と思われる一隊には、ザフィーラが単独で出動してるし
主力と思われる林から来る一隊には、ヴィータちゃんとシグナムが対処に出かけてるから。
だけど、念のため、フォワードチームは待機しておくようにっていうシグナムの指示なの」
「わかったわ。…はやてちゃんとフェイトちゃんには？」
「なのはちゃんから連絡してくれない？」
「了解。直ぐに念話で伝えておくわね」
「なのは、大丈夫かい？」
「シグナム達なら大丈夫だよ」
「シグナム達じゃなくて、新人達は？…なんなら、僕も手伝おうか？」
「ユーノくんは、むしろ何事も起きてないかのように、普通にしてて欲しいな。
ユーノくんがあわててると、会場内の人が、危険じゃないかって思うようになるから。
ガジェットより、パニックの方が怖いよ」
「わかった」
私たちは、全力疾走で屋上に駆け上がります。
屋上待機でも、私たちはべつに問題ありません。
バリアジャケットを展開していれば、屋上から飛び降りても安全に地上へ着地できます。
「シャマル先生、状況はどうなってますか？」
「全然問題はないわよ。ほら、あなたたちも見てみる？」
シャマル先生が、クラールヴィンドを使って、シグナム副隊長達の戦いぶりを見せてくれます。
本当に何も問題はないようです。ヴィータ副隊長は、グラーフアイゼンで誘導鉄球を
ぶつけて、一撃でガジェット一型を破壊しています。シグナム副隊長も、レヴァンティンで
スイカでも割るようにガジェット３型を切り捨てて行きます。
ザフィーラは、魔力刃を林立させて、ガジェット６機を一撃で粉砕してしまいました。
…あの３人、２人と一匹かもしれませんが、とにかく、シグナム副隊長もヴィータ副隊長も
回りに余計な損害を出さないためのリミッターが掛かっているはずです。
そのリミッターが掛かっていて、あれだけの強さ…魔力値の差だけではない
圧倒的な格の違いを見せつけられると、自分が凡人なんだとわかっていても、へこみます。
「…ほら、この調子なら全然大丈夫、直ぐにガジェットを破壊し終わると思うから
そしたら、普通の警備に戻ってね。シグナム達には、また待機してもらおうと思うから」
「指示を出すのはシグナム副隊長じゃないんですか？」
「ふふ、ドクターストップよ」
「あはは、泣く子と医者にはかなわないですもんね」
「だといいんだけど」
「こちらライトニング３、シャマル先生、緊急事態です」
「何が起きたの？」
あたしたちも、屋上から表の庭〜エリオとキャロが見張っている方を見下ろします。
何が起きてるかは、見た瞬間直ぐにわかりました。
「転送魔法陣？」
「シグナム！転送魔法陣が現れてそこからガジェット１型が現れてきてるわ。
どうするの？」
「シャマルか。…突然、ガジェットの性能が上がったように感じる。
どうやら、林の中のガジェット達は、丸ごと囮だったようだ」
「こちらザフィーラ、…ガジェットが分散してホテルに向かっている。
なんとか１人で食い止められるとは思うが、新人達の手伝いは無理だ」
「じゃあ…」
「ヴィータをそちらに向かわせた、新人達には、ヴィータが到着するまで
ガジェットをホテルに近づけるなと伝えろ」
「はい、わかりました…２人とも、シグナムからの指示よ。
フォワードチームは、ガジェットをホテルに近づけないようにって」
「わかりました…いくわよ、スバル」
「O.K.ティア」
屋上から、飛び降りてライトニングペアと合流します。
「ティアナさん、どうしましょう」
「どうしましょうって言ってる場合じゃないわ。
キャロ、物理召還でガジェットの移動を阻止するバリケードを張って。
エリオ、あんたは遊撃、障壁を横から抜けようとするガジェットがいたら教えて。
あたしは射撃でガジェットを牽制する」
「ティア、それじゃじり貧だって…動きを止めたら一気に撃破しちゃおうよ」
「撃破って…スバル、シグナム副隊長の指示は、近づけるなだったでしょ」
「撃破すれば、近づけなかったことになるよ」
「それはそうだけど…」
「ティアナさん、援護お願いします！」
「エリオ、待ちなさい、今援護射撃するから…はっ！」
実戦での初撃墜確保…なんて言ってる場合じゃない。
ガジェットの第一波を阻止しきれてない最中から、第二の転送魔法陣が現れた。
この調子で増えていったら…。
「スバル、フォーメーションB、キャロ、フリードを使って１分だけ時間を稼いで。
エリオはキャロの援護。…このままじゃ本当にじり貧だわ」
「了解ティア…それっ！」
「わかりました、ティアナさん」
「…は、はい…フリード、竜魂召還…ブラストフレア！」
「くきゅるー」
フリードにブラストフレアを撃たせて、ガジェット第一波に目つぶしをする。
その隙にあたしは、クロスミラージュに幻影を作らせて、ホテル正面の
植え込みの木を巨大化させ、その中に自分の姿を隠す。
スバルは逆によく目立つようにガジェットの上空をウィングロードで旋回。
最初の魔法弾で破壊出来たことでわかった。クロスミラージュのフルカートリッジロードを
使えば、第一波、第二波はおろか、第三波が来たとしても、一気にかたづけることができる。
「…ティアナ、カートリッジ４発全部ロードして撃つなんて無理よ。
そんな無茶しなくても…」
「これくらい無茶しなけりゃ、あたし達の実力じゃ、ガジェットの足止めなんて無理なんです。
それに…この程度なら…練習してます、撃てます！」
「ティア、準備出来た？」
「…行けるわ。…スバル、誘導っ！」
「O.K!」
「クロスミラージュ…クワドロファントム…シュート！」
一発一発が、カートリッジの魔力をそのまま持った対AMF用の誘導魔法弾。
それを４発同時に放ち、それぞれを魔法式できちんと誘導する。
クロスミラージュによる支援は、クロスミラージュが幻影を作って
あたしの姿を隠しているから無理だけど、魔法弾の制御だけなら
あたしだけで十分出来る。
難しいのは、ガジェットの動きにあわせた誘導。
だけど、これはコンビネーションでクリア。
スバルの動きに合わせて、スバルをめがけて飛ぶ魔法弾と、
その魔法弾から一定距離離れて飛ぶ魔法弾３発を誘導すれば問題ない。
「ティア、反転！」
「了解」
ほら、第一波を破壊した魔法弾が今度は逆向きに移動してホテルに向かう第二波を撃破
さらに登場してきた第三波も、こんどはスバルめがけて飛ばすことで粉砕。
「ナイスティア！…とりあえず第四波は……」
「ちょっとスバル、魔法弾はまだ…」
そう、このフォーメーションは、スバルの動きに合わせて、魔法弾を撃つまな板戦法。
ということは、つまり、魔法弾は常にスバルに照準されているということで
そのスバルが魔法弾の制御についての指示を出さなかったとすれば
あたしとしてはまっすぐ魔法弾を飛ばすしかないわけで
スバルの指示なしに魔法弾を動かすと、かえってスバルがかわしにくくなるし
幻影の立木でガジェットからあたしを隠していると言うことは、幻影のせいで
あたしの放った魔法弾もやっぱりあたしからは見えないっていうことで
つまり…
「くぉのタコ！一体どこめがけて撃ってやがんだっ！」
「あ、あの…ヴィータ副隊長、今のはその、戦術の一つで
あれはあたしがよけ…」
「うっせー、おまえは黙ってろ！おまえら全員裏口でも警備してろ！
ここはあたしが１人で防ぐっ！」
「…あ、あの…」
「ヴィータちゃん、第五波、来ます！…」
「今度はガジェット３型かよ…ま、これぐらいでなきゃ面白くねえ。
…シャマル、新人どもを誘導しろよ。…じゃまになんねーように」
「…あ、はい…表はヴィータちゃんが守ってくれるから
フォワードチームは裏口側を警備して」
「はい、わかりました。…ティア、行こう。…ごめん
ガジェットを壊したのに安心しちゃって、誘導忘れちゃって」
「フリード、ティアナさんを乗せて」
「…行きましょう。ぼんやりしてると、ヴィータさんのじゃまになるみたいですし」
「…わかってる…」
……………………何も言いたくない。
スバルが悪いんじゃない、エリオやキャロはもっと悪くない。
ヴィータ副隊長が正しい。今のはあたしの判断ミスだ。
制御しきれなかった事が問題なんじゃない、それ以前の問題。
不必要にスバルを危険にさらしたのが問題なんだ。
わかってる。わかってるけど…。
「ティア？」
「………」
「ティア？」
「ティアナさん？」
「…あたしの方を見てる暇があったら、林を見張るっ！
あたしは……っ…っ………」
涙が止まらない。あたしは…やっぱり…落ちこぼれなんだ。
一浪して陸士学校に入るのがやっとの…落ちこぼれで…
お兄ちゃんのまねなんてしたのが…間違い…なんだ……
