異聞・少女義経伝・四
地上の星
【第二章】
〜六課〜
私の名前は高町なのは。管理局教導隊所属。
あの空港火災から6年、はやてちゃんの夢だった自分の部隊を
編成するって聞いて、教導隊からはやてちゃんの部隊、機動六課への
転属を許可してもらったんだよ。
今回は、その機動六課発足時のお話。
だけど、時間を少し巻き戻して、まずは、空港火災の翌日から
説明した方がいいかな？
ここは、はやてが予約しておいた空港そばのホテルの一室である。
無駄に広いのは、はやての見栄、というわけでもなく
３人が同時にお泊まり会出来るような部屋を選ぶと、否応なしに
スイートルーム級になってしまったというだけのことだ。
もっとも、八神家、４人がかりで働いているので、収入は結構ある。
員数外なのは、犬のザフィーラではなく、医学生のシャマルだ。
医学を修めるのには結構費用が掛かるので、八神家の内実はそんなに余裕がない。
まあ、グレアムおじさんも、時々お小遣いはくれるのだが。
「んー〜おはよ、はやてちゃん」
「おはよう、なのはちゃん。フェイトちゃんはまだ寝てるん？」
「フェイトちゃんはまだ寝てるみたい。起こそうか」
「まあ、おこさんでもええんちゃう？それよりなのはちゃん何か飲む？
コーヒー？紅茶？それとも…」
「起きてるよ、なのは、はやて」
「なんや、起きてたんか。せやたら全員分何か用意するわ。
なにがええ？」
「普通の緑茶」
「即答やな」
「…リンディかあさんの所じゃ、絶対に飲めないから」
「あー、わかるわそれ。それなら、緑茶用意するな」
はやては備え付けの湯沸かしでミネラルウォーターを湧かし始める。
「ねえ、はやてちゃん。わたし、ミッドチルダってもっと進んでる所だと思ってた」
「わたしもや。空港火災が、あんな大事件になるとはおもわへんかったわ。
死者がなかったの不幸中の幸いやけど、一歩間違えたら大惨事やったな」
「ミッドチルダは魔法文化が主体で、物質文明はあまり発展してないんだ。
物質文明だって、なのは達の世界とほぼ同等にはあるけれど、魔法文化の
すすみ具合に比べたらたいしたことないよ」
「せやな。シグナム達のカートリッジシステムかて、元々技術としては
ミッド式にもあったし、レヴァンティンなんかの解析で、ほぼ
カートリッジシステムも実用段階に入ったらしいわ。
ストレージデバイスにカートリッジつけるのは、ほとんど常識になるんちゃうか？」
「そうはならないだろうね。制御しきれない魔力を持つと危険だよ。
一般管理局員に支給されるデバイスは、まだ普通のストレージ式が主体だし
それが変わることはないと思うよ」
「むしろ、問題それやな。………今の管理局システムは、優秀な魔導師を
本局に集約して、必要に応じてスペシャルチームを編成して各次元世界に
派遣する形になってる。けど、そんな本局がスペシャルチーム作るような
事件いうたら、次元世界の存亡に関わるような巨大な事件だけや。
空港火災みたいな、死者数十人程度でとどまるような事件やったら、本局は
まったくうごかへん。…けど、それは、つまり、数十人ぐらいの命は
見殺しにしてまう、ちゅうことや」
「…けど、はやてちゃんが指揮してたように、普通の陸士の人だっているんでしょ」
「おるけどな…みんな魔法装備やろ。D級魔導師に何が期待できる、ちゅうことや。
次元世界からしたら、すっごい進んだ世界かもしれんけど、私の目には
そう進んでる世界ともおもえへん。特に、小さい事件への対応はお粗末や」
「……そうかもしれないね。ミッドチルダはまだ戦時体制が終わってないから」
「ミッドチルダって、ずっと戦争してたの？」
「戦争が終わって６０年以上経ってるけど、広域次元犯罪は、形を変えた戦争みたいなものなんだ。
本局に魔導師が集約されているのも、抑止力という意味が大きい。
特に、教導隊は、管理局の最精鋭部隊。その気になれば
世界の一つや二つ軽く滅ぼせるぐらいの力がある。
魔法の力は、質量兵器に比べて危険が小さいと言っても、それぐらいの事は出来るんだ」
「それじゃ、あんまり安全じゃないかも…」
「…はい、お茶入ったで」
「ありがとう、はやてちゃん」
「ありがとう、はやて」
「どういたしまして。……なあ、なのはちゃん、フェイトちゃん。これ、このままでええと思うか？」
「どうしたの、はやて」
「思うたんや。今回は、なのはちゃんフェイトちゃんが、たまたま居合わせたおかげで
死者なしに押さえることが出来た。…ナカジマ三佐の子供助けてくれたんやてな」
「ナカジマ三佐の子供？スバルのこと？」
「そうや。…あと、フェイトちゃんも、ギンガ助けてくれたな」
「ギンガも、ナカジマ三佐の子供なの？」
「そうやな…局員は辛いわ。子供が行方不明やいうてわかってても
他の市民から特別扱いにはできへんのやから。
けど、…優秀な魔導師を、適当な場所に集約して配置できてたら、今回ぐらいに
速やかに、事件を収拾すること、できるとおもわへん？」
「…それはそうだけど、一体そんな部隊をどうやって作るの？」
「…私がいる。それに、ヴォルケンのみんなを集めて、なのはちゃん達がいてくれたら
それだけでも、クラナガンで最優秀の魔法資質の持ち主の集まりになるはずや」
「確かに、地上部隊でニアSって言ったら、シグナムだけだね」
「そうや。ほとんどがC級、ちょっとこましでB級、下手すればD級の魔導師ばっかり。
それが地上部隊の実体や。…まあ、昔は、陸もここまでひどうなかったらしいけど」
「もっとすごい魔導師がいっぱいいたの？」
「いっぱい、やないけどな。レジアス少将直属の精鋭部隊がS級魔導師持ってたらしいんよ。
なんでも、本局教導隊への勧誘を蹴って地上部隊にいたそうや。…けど、去年、なんかの
事件を追ってて、全滅やそうや」
「全滅？」
「そう、全滅。…全滅の原因は不明、相手も不明、捜査は地上部隊の手で続行中やけど
手がかりは皆無。本局の出番やおもうけど、地上本部は本局の介入を拒否してる」
「…けど、S級魔導師率いる部隊が全滅するほどの事件だったら、本局から教導隊が
投入されてもおかしくないよ。いったいどういうことなんだろう？」
「わからへん。ナカジマ三佐に聞いてみたけど、気にするな言われてそれっきりや。
他の人から事情聞いて、悪いこというたの、わかったけどな」
「悪いことって？」
「ナカジマ三佐の奥さん、その精鋭部隊〜ゼスト隊〜の一員やってん。
言うまでもなく…殉職者の一員や…」
「……別な意味で、精鋭部隊、必要かもしれないね」
「そうやな。…けど、まずは、部隊もてるようになることや」
「がんばって、はやてちゃん。部隊長になったら、わたし、必ず参加するから」
「私も、協力するよ」
「ありがとな…なのはちゃん、フェイトちゃん」
これが、６年前。
だけど、それからのはやてちゃんの道筋も一本道とはいかなかった。
中学生をやってるときには、どうしても中学生との掛け持ちだから
自分の部隊を持つなんていうわけにはいかないし、中学校を卒業して
クラナガンに移住した後も、普通に本局の部隊を編成するんじゃなくて
地上で活動できる、S級魔導師を集めた精鋭部隊なんていうものの
存在を認めてもらうには、足りなかった。
グレアム元執務官長のコネを使い、必要性をリンディ提督がアピールし
そして何より、地上で活動するための後見人を、ミッドチルダにある
ベルカ自治領の指導者、騎士カリムが引き受けてくれて、やっと
はやてちゃんの夢。ミッドチルダで活動する精鋭部隊、機動六課は誕生した。
だけど…
「…と、そういうわけなんや。
今のところ、なのはちゃんとフェイトちゃん、それに
シグナム達ヴォルケンリッターから編成されてる。
これだけの精鋭部隊を集めたら、大抵の事には対応出来ると思うんよ」
「確かに、これだけの戦力があれば、大抵の事件には対処できるだろうね」
「九羅香さんも、そうおもうてくれるか」
「九羅香でいいよ、みんなにそう呼んでもらってるんだ。
よほど改まった時には源一尉だけど、そんな場面じゃないよ」
「そうか…せやたら、これからずっと九羅香で通させてもらうわ」
「うん、それでいいよ、私もはやてって呼んでるんだから」
「九羅香の方が年上や」
「けど、はやてのほうが上官だからね」
「まあ、これだけのメンバーなら、大抵の事件っていうか、世界の一つや二つ軽く救えそうだな」
「弁慶さん、それはさすがに大げさやろ」
「大げさ、とは思いません。S級魔導師の恐ろしさは、管理局に入ってよくわかりました」
「ヴォルケンリッターとの戦いでは、彼らが正々堂々と戦うこと、そして、はやてのために
人殺しを避けていたことで、なんとか我々も互角に戦い得た。
初めから殺して奪うつもりだったとすれば、我々には勝ち目がなかったろう」
「シグナムやったら、逆のこというかもしれんと思うけどな、与一」
「にゃはは、紅葉さんは大げさだよ」
「なのはもオーバーS魔導師だからね」
「フェイトちゃんもだよ」
「それより〜私たちに〜相談したいことがあるから〜ここに来たのでは〜ありませんか〜」
「さすがに、静さんには全部お見通しみたいやな」
「まさか、昔話をするために本局に来たわけでもないでしょ。新部隊の人選っていう
大事な仕事をやってる最中にね」
「大事な仕事なんはわかってる。…だからこそ、義経軍団のみんなに、相談に乗って欲しいんや」
「一体どういうことなんだ？」
ちょっと、説明をしておこうと思います。
今私たちがいるのは、時空管理局の本局です。
はやてちゃんは、今機動六課編成の最後の詰め…機動六課メンバーの人選をやっているんです。
もちろん、人事部の都合によって、希望する人が回してもらえるとは限りません。
ですが、時空管理局発祥の地、ミッドチルダの地上本部指揮下に入る海＝本局の部隊です
指揮を執るのは、これが部隊長は初めてというはやてちゃん。
それだけに、人選にはリンディ提督やレティ提督も、心を砕いてくれてます。
そして、はやてちゃんにとって、理想的な人間関係の戦闘部隊、それが
義経軍団みたいです。義経軍団は、魔力値自体はB級C級の集まりで、飛行魔導師すらいませんが
それでも本局の打撃部隊の一員として、すばらしい成果を上げ続けてます。
その秘訣の一部でも教えてもらえたら、ということもあるみたいです。
「…機動六課の戦力は、私の考えでは、十分やと思うんよ。
けど、義経軍団と比べて、何かが欠けてる気がするんや。
それがどこにあって、なんなのか、ようわからへん。
それで、義経軍団のみんなに、相談にのってほしゅうてな」
「欠けてるっていうか、余ってるぐらいだろ。
そりゃ、リインフォースツヴァイは、紅葉と比べれば副官として頼りないし
静さんに匹敵するような軍師なんて、期待するだけ無理だろうし
玲奈みたいな情報収集能力のある奴もいないとは思うけど。…あれ、玲奈の奴どこに消えた？」
「こら、てめー、弁慶。台詞が無かったからって存在を無視するんじゃねえ」
「いてて、叩くなよ。ちょっとしたお茶目だろ。それにおかげで台詞が出来たじゃないか」
「こういう台詞の出方してもちっともうれしくねえ」
「相変わらずだね」
「けど、そういうところが、義経軍団の魅力じゃない？」
「せやな」
「……はやて、言っていい？」
「なんですか？九羅香。」
「んーと、機動六課って、一年限りの実験部隊だよね」
「せや。一年、ミッドチルダで、本局のS級魔導師を試験的に運用してみる
実験部隊なんよ」
「………一つ聞きたい。機動六課は、S級魔導師を運用するだけの実験部隊なのか？」
「べつに、そういうわけでもないんや。…いうか、それは建前みたいなものなんよ。
けど、本音の部分、まだ機密解除になってへんからな。…申し訳ないんやけど
それは話できへんのや。
せやけど、…そうやな。何が起きようと必ず対処できる。どんな非常事態になっても
機動六課だけで独立して完全に対処できる。そういう部隊が必要や、いうことは言えるな。
それこそ、オーバーS魔導師が率いる部隊が、理由もわからず壊滅するような
そんな事件にも対処できる部隊が必要なんよ」
「そうか…そんな危険な事件が、ミッドチルダで起きてるの？」
「起きてるんや。しかもまだ未解決やからな」
「…地上本部は一体どんな捜査をしてるんだろう？」
「どんな捜査してるんやろなぁ…わからへん。けど
私らは、その事件を追う部隊やないんよ。
建前は、本局所属のS級魔導師を地上で常時運用するための実験部隊。
具体的な職務として、最近各地でロストロギアを収集する目的で活動していると
思われる、無人戦闘機械ガジェットドローンの捕捉、撃破。もし余裕があれば
ガジェットを運用している黒幕の逮捕、そんな所や」
「…ガジェットドローンの捕捉、撃破か…。はやて。
私にも、一つ、夢がある。それを聞いてもらえないだろうか」
「夢？それは一体なんなんや？」
説明の重複を避けるために、九羅香の夢を聞いた後のことを先にやっちゃうね。
「あ、あの…なのはさん、お話とは…一体、なんでしょうか？」
「スバル、覚えててくれたんだ、ありがとう」
「い、いえ、忘れたことはありませんから」
「陸士学校卒業おめでとう。主席なんだって、すごいね」
「い、いえ…相棒のティアナのおかげが半分ですから」
「残りの半分は自分の努力って言いたいわけ？それじゃまるで
あたしが落ちこぼれみたいじゃないのよ」
「ティア、べ、べつにそういう意味じゃなくて…」
「こっちがティアナ？」
「は、はい、私がティアナ・ランスター・・・陸士学校を卒業したんで
一応階級は二等陸士を頂きました。高町一尉」
「なのはさんでいいよ、みんなそう呼ぶし、今はまだ、上官っていうわけでもないし」
「それで、高町…いえ、なのはさんはまた一体どうしてこちらへ？」
「えっと…源一尉は知ってるかな？義経軍団の軍団長、源九郎義経っていうほうがわかりいい？」
「あ、はい、知ってます。本局の打撃部隊に所属している、第９７管理世界出身者の集まりですよね」
「うん、そうだよ。…その、九羅香の推薦なんだ。
正式には、はやてちゃん…八神二佐から改めて話があると思うけど、新編成部隊
機動六課に入って欲しい」
「欲しいって？」
「機動六課は一年限りの実験部隊だし、任務は結構きついから、無理にとは言えないんだ。
その代わり、昇進はかなり早いし、実力が身に付くことは確実だよ。
特に、ティアナにとっては、悪い話じゃないんじゃないかな。
機動六課には、フェイト執務官も小隊長待遇で配属されることが決まっているから
一年後、相応の実力が身に付いていれば、直ぐに執務官補佐としてフェイトちゃん…こほん…
フェイト執務官の下で働けるよ。執務官志望が今でも変わってなければ、だけど。
レスキュー隊志望のスバルには、寄り道になるかもしれないけど、レスキュー隊員としても
無駄になるような経験にはならないと思うよ。
直ぐに返事をするように、とは言わないけど、出来るだけ早めに返事が欲しい。
どうしてもダメなら、他を当たらないといけないから…。
遅くても、３月下旬までには、人選を終わっておきたいんだ、４月から一年間
機動六課を活動させるために」
「それで、スバルはどうすんの？もちろん、あんたは六課に行くんでしょ。
なんたって、あこがれのなのはさんから、直々に声を掛けてもらったんだから」
「そういうティアナだって、行こうって気持ちはあるんでしょ。
陸士から執務官っていうのは道のりかなり遠いけど、一年後に執務官補佐になる
チャンスがあるんだったら、案外３年で執務官ってのもありうるよ」
「あんたね、執務官ってそう楽々なれるってものでもないでしょ。
そりゃ、法務専門の執務官っていうならともかく、あたしは戦闘と法務の
両方こなせるタイプの執務官志望なんだから」
「…けど、なのはさんの説明だと、戦闘についても、本局教導官から
直接指導が受けられるっていうじゃない、それだけでもすっごいチャンスだって」
「そりゃ、まぁ…あのなのはさんだし…」
「でしょ。教導隊のホープ高町なのはと同じ部隊なんだよ。
こんなすっごいチャンス二度とないって」
「それじゃ、あんただけ入ればいいじゃない」
「ほら〜意地悪いわずにティアも一緒に行こうよ〜。陸士学校じゃずっとコンビだったし」
「腐れ縁でね。ったく、こんなことならカートリッジ式の自作デバイスなんて使わなきゃよかった」
「あたしのも自作デバイス…っていっても、作ったのかあさんだけど」
「あたしは自分で作ったかな…けど…」
「で、ティア、本当はもう決めてるんでしょ？」
「…まあ、ね」
「じゃ、早く行こうよ。もしかして、別な人が採用になってたら大変だから」
「ちょ、スバル、べつに逃げやしないって…」
「本当に逃げるかもよ〜」
こうして、機動六課、最後のメンバー二人が決定した。
時空管理局遺失物管理部機動六課。
部隊長：八神はやて
副官：リインフォースツヴァイ
本部ロングアーチスタッフ。
課長補佐：グリフィス
参謀：静御前
医務官：シャマル
看護師：アイナ
本部員：シャーリー
：アルト
；ルキノ
訓練中隊
中隊長：八神はやて（部隊長兼任）
隊長代理：シグナム（第二小隊副隊長兼務）
第一小隊：スターズ小隊
小隊長：高町なのは
副隊長：ヴィータ
隊員：スバル・ナカジマ
隊員：ティアナ・ランスター
第二小隊：ライトニング小隊
小隊長：フェイト・T・ハラオウン
副隊長：シグナム
隊員：エリオ・モンディアル
隊員：キャロ・ル・ルシエ
打撃中隊：義経軍団
中隊長：源九羅香（源九郎義経）
隊員：弁慶
：佐藤紅葉
：那須与一
：静御前（本部参謀兼務）
：伊勢玲奈
：佐藤楓
訓練中隊が存在するのが、九羅香さん…あ、くせが抜けないや、九羅香の夢。
それを引き受けたのは、たぶん、私が思ってたことと、九羅香の夢とが
同じだと思ったから。
フェイトちゃんの秘蔵っ子、エリオとキャロの話については
またこんどね。
