わたしの名前は八神はやて。機動六課の部隊長や。
海鳴市で暮らしてる、体が弱くて本が好きやっただけの女の子が
なして、時空管理局に入って、１９歳で部隊長なんてやってるか。
今回はその話やったな。

 

けど、その話をするには、話を６年前にもどさなあかんのよ。
６年前、つまり、私が管理局に入って４年後、ちょうど海鳴市で
中学一年生やった時のことや。
わたしは、普段は中学生やってて、週末には本局やミッドチルダに行って
管理局の指揮官になるための勉強をしてたんや。
もちろん、学校の勉強もあるし、結構大変やったんよ。
管理局入りして４年、レアスキル持ちの階級は管理局やと上がりやすうて
このときもうわたしは一尉やったな。小隊指揮官試験も合格してたし
参謀試験も通ってたし、そろそろ本格的な部隊長を目指すための実践研修が
受けられるぐらいの経験があったんよ。

 

その日は、特別に、なのはちゃんフェイトちゃんもミッドチルダに呼んで
３人でお泊まり会する予定やってん。
ついでに、わたしが部隊長資格の研修受けてるとこ、見て欲しかったのもあるし。

 

あ、無駄話過ぎたな、そろそろ場面を６年前に切り替えよか。

 

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『B分隊より本部へ、空港ロビー異常なし』
「了解や、そろそろB分隊は交代の時間やろ、D分隊をそっちに向かわせる。
　引き継ぎが終わり次第B分隊は休憩に入ってや」
『B分隊了解』

 

６年前の私がいるのは、移動司令部、といえば聞こえはいいけど
ワンボックスを改造して通信機能をつけた車の中や。
私は今、陸士１０８部隊ナカジマ三佐の指導の下で、部隊長研修を受けてる最中や。
今回の研修内容は、空港警備。最近は空港もテロの対象にされてる。
特に、今日みたいに、ロストロギアが輸送されてくるいう日には
管理局地上部隊が出動して警備に当たるのが日常の風景や。

 

もっとも、今回空港に来るロストロギアは、指定ロストロギアなんかやのうて
ありふれた第３級ロストロギア。ぶっちゃけていうたら、骨董品やな。
ロストロギアとしての危険度判定が終わって、とりあえず危険はなさそうやいうことで
クラナガンの研究機関に、普通の貨物として航空輸送されて来るんよ。
まあ、それも建前で、本当は陸士１０８部隊の訓練と、わたしの研修が目的みたいなもんやけどな。

 

「どうだい嬢ちゃん、…ほぉ、ちゃんと出来てるみたいだな」
「言われた通りに分隊を交代させてるだけです。ほんま、小学生でも出来るんちゃいますか？」
「はは、そりゃそうだ。順調にいってるときの指揮官なんて、マニュアルを読み上げるしか
　することはない。指揮官が大変なのは、不測の事態なんてのが起きたときだ」
「不測の事態ですか。出来れば起きて欲しくないですわ」
「俺も起きては欲しくないけどな。そういう練習もしなけりゃ研修にならん」
「はやてちゃん。次の便がロストロギア搭載機ですぅ」
「そっか、リイン、特別な配置をとる必要はない思うけど、念のために
　全員にロストロギア搭載便が来るいうて連絡いれよか」
「はいですぅ」
「ちょっとまちな」
「なんですか？ナカジマ三佐」
「せっかくの機会だ。こいつを不測の事態の訓練に使おう」
「不測の事態の訓練いうて、なにを…」
「報告します、ナカジマ三佐、八神一尉に面会を求める人物が…」
「あー、今勤務中だ、それどころじゃないっていえ」
「は、しかし…」
「よぉ、元気してるか？」
「この声は…サッカーのお兄さんやないか」
「はやてちゃんか、元気そうだな」
「ほぉ。嬢ちゃん、こいつと知り合いかい？」
「ええ、昔お世話になったサッカーのお兄さんです」
「今でもサッカーのお兄さんだろ」
「けど、今は仕事中なんだ、話ならこれが終わってからゆっくりすればいいだろう」
「それがそうも行かなくてな。今からすぐ地上本部の会議に出なきゃならないんだよ。
　まったく、何で俺がボールも蹴らずに背広来て会議に行かなきゃならないんだっての。
　約束が違うぜ。サッカーをやるために、まずサッカー場の建設の陳情からなんてよ」
「けど、日本に帰るなんていわへんのやろ」
「そりゃ、はやてちゃんと同じ」
「そういえば、シグナムは元気してるか？」
「ああ、元気にやってるぜ。今は首都航空隊の小隊長で、地上本部の警備担当」
「わたしも破格の扱いやけど、シグナムは実力でそこまで昇ってるんやな、たいしたものや。
　わたしもはよう、みんなの主やいうて言えるように、努力せなあかんな」
「あんまり根を詰めるなよ。過労死なんてシャレにならないぜ」
「サッカーのお兄さんのほうが働き過ぎやろ。わたしは、海鳴とミッドチルダとで
　掛け持ちやけど、お兄さんはひたすらこっちでサッカーを広める布教活動やないか」
「…へえ、こいつが最近噂のサッカーの伝道師かい」
「そういう言われ方もするな。…こっちに来て３年目か。やっとこっちでも
　まともにサッカー人口が生まれてきて、そろそろリーグ戦も出来そうなんだよ。
　それで、これ以上のレベルアップには、やっぱ専用のサッカースタジアムが欲しいな…ん
　いけね、もう時間だ、それじゃまたな、はやてちゃん」
「またな、サッカーのお兄さん」
「………無駄話が過ぎたみたいだな。もうロストロギアを搭載した飛行機は着陸してるだろう」
「リイン、航空ダイヤ確認」
「はいですぅ………すぐに空港の事務局に連絡とるですよぉ〜。
　…ええ、はやてちゃん、すでに飛行機は到着済みですぅ」
「ロストロギアの搬送状況について聞いてみてくれ」
「わかりましたぁナカジマ三佐………はい、今は乗客を降ろしてる最中で
　ロストロギアの方はまだ飛行機の中ですぅ」
「…よし、なら、訓練に入っても大丈夫だな」
「けど、ナカジマ三佐、空港の一般の人には迷惑かからへんですか？」
「かからねぇ訓練をやるからよ、おまえさんも、ちゃんと対応しなよ」
「はい、わかりました」
「いい返事だ…と、ナカジマ三佐より管理局空港警備部員に、これは訓練だ。
　繰り返す、これは訓練だ。…到着した飛行機には特定ロストロギアが手荷物に
　含まれている可能性がある。各員は直ちに特定ロストロギアの輸送の警備に入れ。
　繰り返す、特定ロストロギア警備の訓練を行う。各員は特定ロストロギア輸送時の
　警備態勢に入れ、以上」
『A分隊了解、特定ロストロギア輸送警備訓練に入ります』
『B分隊了解』
『C分隊了解』
『D分隊了解』
『E分隊了解』
…

「はやてちゃん、全分隊訓練了解」
「了解や、ナカジマ三佐、これより特定ロストロギア輸送警備訓練に入ります」
「よし、じゃあ、嬢ちゃんのお手並み拝見といこうか」
「C分隊は休憩より待機状態へ移行、B分隊は交代ししだい本部で待機、予備態勢に。
　A分隊、D分隊、E分隊は各自持ち場を確保、非常時には一般人の避難誘導に当たれるよう
　脱出経路の確認はおこたらへんように。ロストロギア輸送そのものには
　空港職員があたるから、管理局の仕事は、何か非常事態が起きた場合や」
「ま、そんなとこだな。これもマニュアル通り」
「ほんまマニュアル通りばっかりや」
「あたりめーだ。指揮官毎に勝手なこと言われたら、現場が混乱しちまわーな」
「それもそうですね」

 

しばらくは、平穏に時間が過ぎて行く。乗客も降り終わって、貨物の輸送の番が来る。
第３級ロストロギアなら、特に警戒することもないけど、一応は一般貨物とは
べつにおろすみたいやな。

 

Alert！Alert！Alert！…

 

『空港事務局より管理局地上部隊へ』
「はい、こちら管理局陸士１０８部隊の八神一尉です」
『空港にて、ロストロギアの暴走を確認、直ちに避難誘導とロストロギアの処理をお願いします』
「了解…けど、これは訓練ですか？」
『これは訓練ではありませんっ！』

「！…了解しました。直ちに管理局は対処に入ります」
「嬢ちゃん、どうやら、本当に事件が起きたみたいだな。
　それで、…どうする？せっかくだ、最後まで経験してみるか」
「ナカジマ三佐、ええんですか？私の指揮で何かあったら、大変なことにならへんです？」
「心配すんな。俺だって部下はちゃんと鍛えてある。それに、何かありそうなら
　俺が指揮をかわってやるさ、そのための指導教官だろ」
「了解です。けど、…使えることは、全部やっても、いいですよね」
「そりゃかまわねーぜ」
「リイン、全分隊に指示、各分隊は一般人の避難誘導を開始せよ。
　担当部署割り当ては…」
「当初の非常事態の配置に従って、ですよね、はやてちゃん」
「そうや。あと、空港事務局からロストロギアの暴走状況について情報を受けてや」
「それははやてちゃんにお願いするですよぉ。リインは分隊に指示を出すので精一杯ですぅ」
「それは悪かった。直ぐに私が連絡とるわ。…」

 

「で、どうなんだ？」
「ロストロギアの暴走で、空港内の可燃物に一斉に火がついたみたいです。
　どうやら、あのロストロギア、空港の雰囲気に反応する、ブービートラップの
　一種みたいやったようです」
「ち、本局の奴ら一体どんな鑑定してやがる」
「中身がすり替えられてた、っちゅう可能性もありますけど…」
「B分隊ただ今本部に到着いたしました」
「よし、せやたら、今からわたしが消火活動に入る。
　順次空港から全員を待避させるんや、待避の順番はリインが指示する」
「はい。それで我々は？」
「リインの手助け頼むわ。情報でリインがパンクせえへんように」
「わかりました」
「嬢ちゃん、１人で大丈夫か」
「大丈夫です。…頼りになる友達、２人にも手助け頼みますから」
「頼りになる友達って、誰のことだい」
「…話してる暇ありませんから。…なのはちゃん、フェイトちゃん、直ぐこっちきてくれへん？
　今空港におるんやろ？大変なことが起きたんや」
『…うん、今陸士の人と一緒に誘導してる最中なんだけど…』
「誘導は陸士部隊に任せて、こっちてつどうてくれへん？」
『わかった、今そっちに行くね』
「こっちも了解…フェイトちゃんは大丈夫か？」
『わたしもなのはと一緒だよ。すぐになのはと一緒にそっちに行くから』
「頼むわ。やっぱり、二人が頼れると心強いからな」

 

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大変な事になった、いうてぼやいてもはじまらへん。
幸い、特定ロストロギア輸送を想定した訓練に入ってたから
避難誘導に掛かるのも、みんな心構えが出来てた。
空港事務局なんかは、ちょっとパニック入ってそうやったけど
これは、B分隊を送ってなんとか人手を埋め合わせた。

 

「さて、そろそろ、はやてちゃんの出番やな」

 

夜天の書…リインフォースの形見の一つ…に、シュベルトクロイツ…

これもリインの形見や…を構えて、空港全体が見渡せるぐらいの高さの空で待機する。
避難が終わった区画に向かって、慎重に、威力を落として凍結魔法を打ち込んで火を消す。
温度を下げれば火が消えるっちゅうんは、小学生の常識や。
順次、安全確認が終わった区画へ魔法を打ち込んで火を消していく。
けど、これ指揮官関係あらへんな…

 

「はやて、ちょっと待って」
「フェイトちゃん、どうないしたん？」
「探索魔法に生存者が掛かった」
「生存者？…どこや？」
「ロビーだよ」
「ロビーいうて、もう火の海になってるいうて報告あった所やないか。
　一体誰が？…」
「言っている場合じゃない、直ぐに救出に向かわないと」
「フェイトちゃん、はやてちゃん、私が行ってくるよ」
「なのはちゃん、大丈夫なんか？」
「わたしが大丈夫でないなら、生存者のひとは、もっと大丈夫じゃないよ。
　ならなおさら、私が行かないと」
「…わかった、けど…フェイトちゃん、生存者いるの、ロビーだけか？」
「他は直接行ってみないとよくわからない。…はやて、わたしも向こうに行ってみる」
「…くれぐれも、きぃつけてな。火災だけやのうて、私の魔法からも」
「うん、当たらないようにするよ」
「撃つ前に言ってくれれば、ちゃんと避ける」
「了解や」

 

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「パパ〜、お姉ちゃん〜、みんな〜、どこに行ったの〜」

 

急に回りが火に包まれて、みんながどこかへ行ってしまいました。
けど、あたしはここを離れるわけにいきません。
おねえちゃんが、ここで待ってなさいって言ったんです。
それに、お父さんの部隊がここを警備してます。きっとこれは
訓練か何かで、直ぐに消火装置が働いて火が消えるはずです。

 

「うううぅ…うう…熱いよ…怖いよぉ…おねえちゃーん、おとーさーん。だれか〜」

 

誰からも返事がありません。もしかして、本当にこれは火事で、あたしは
今ものすごいピンチになってるんでしょうか。

 

「おねーちゃーん。かくれんぼなんていいから〜。おとーさーん。まだ迎えに来てくれないの〜」

 

……返事がない、ただの…。

 

「そんな…そんなのやだよぉ。…あたしだけ、スバルだけ置き去りなんてないよぉ…」

 

あ、なんかこっちに倒れてきます。
あれに当たったら、死んじゃうんでしょうか。
死んじゃうかもしれないけど、体が全然動きません。
こんな時は、聖王にお祈り…。

 

目の前から、急に、倒れてくる巨大な像が消えてなくなりました。
次の瞬間、私は、空港ロビーの、まだ火が回ってない場所に、見たことのない
お姉さんと一緒にいます。
このお姉さんは、白い服のバトルジャケットを着て、カスタムメイドのデバイスを持ってます。

「もう大丈夫だからね」
「え、ええと…」
「キミの名前は？」
「スバル…スバル・ナカジマ」
「私の名前は高町なのは、管理局の嘱託魔導師だよ。
　もう大丈夫だからね」
「大丈夫って…」

 

回りは火の海です。扉という扉が火に包まれてます。
もしかしたら、なのはさんは、空戦魔導師なのかもしれませんが
出口になる扉がないのなら、脱出は無理です。それに…。

 

「大丈夫だよ。安全な場所まで一直線だから」

 

そういうと、助けに着てくれた魔法使い…なのはさんの持つデバイスは
カートリッジを連続でロードしました。

 

「ディバインバスター…シュート！」

 

あたしが、まだ一度も見たことがない強力な砲撃。
一気に壁を貫いて、その先には星が見えます。

 

「さあ、行こうか」

 

なのはさんは、あたしを抱き上げると、すごいスピードで空へと飛び出して行きます。
あたしは、ぎゅっとなのはさんにしがみつきます。
落ちたら危ないっていう気持ちと、ぎゅっと抱きついたら安心だっていう気持ちと…
…

 

「ほら、もう火事からは遠く離れたから。もう、あとは救急隊の所に行くだけだからね」
「あ、ありがとう……」
「なのはさんでいいよ」
「ありがとう、なのはさん…」

 

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それが、あたしと、なのはさんとの出会いだった。
その後でお父さんから、なのはさんについていろんな話を聞いた。
第９７管理外世界出身の魔法使いで、あたしとは４つ違いだってこととか
１３歳だけど、既に教導隊入りは確定みたいに言われてる天才魔法使いだとか。

 

あれからだ。あたしが、お姉ちゃんと同じように、シューティングアーツの練習を始めるようになったのは。
そして、陸士学校に入り、そこを、努力のかいあって首席で卒業して、そしてあこがれの
なのはさんと同じ部隊、機動六課の一員になった。

 

その、機動六課にあたしが配属される話は、また今度。
…八神部隊長が、どうして機動六課みたいな部隊を作ることになったのか、というお話と一緒に。