私の名前はスバル・ナカジマ。管理局遺失物捜索部機動六課第一小隊（通称スターズ小隊）所属。
陸士学校の卒業生なら普通の進路なんだけど、管理局に入局したあたしは、なぜか
本局…つまり、海の部隊へと引っ張られることになった。

 

それが、機動六課…。

 

「こら、スバル、よそ見しない。この試験に合格しなきゃ、実戦に出られないんだからね」
「わかってるってばティア」
「どうだか」

 

いま、あたしに話しかけてきたのが、相棒のティアナ・ランスター。
あたしは、昔からティアって呼んでる。歳はあたしより一つ上だけど
あたしと同時に陸士学区を卒業してる。つまり、留年なんだけど、その理由は
最初士官学校を…

 

「おーし、スバル、ティアナ、準備出来てるか？」
「はい、ヴィータ副隊長」
「よし、じゃあ、試験の状況設定と、目的もわかってるな？」
「はい、状況設定、廃棄都市区画にガジェットを含む魔道兵器が出現。
　航空魔導師によって増援を遮断しているものの、レリックを保持した状態で
　魔道兵器を展開し、ビルを占拠中。スターズ３、スターズ４、両名は
　指定ルート上にある魔道兵器を排除し、時間内に安全地帯へ待避すること、以上」
「よーし、予定ルートなんかは、そっちのデバイスに転送してある。
　この試験に通ったら、おめーらにも新しいデバイス支給だから、気合い入れてやれよ」
「はいっ！」
「………３…２…１…行けっ！」
「GO!GO！」
「スバル、うるさい…と、ルートの指定は下から上へ魔道兵器を追い上げる。
　はっきり言って、普通の上から下への制圧戦と違って、かなり不利な条件だから
　ちゃんと注意して行きなさいよ」
「わかってるって。…ウィングロードで全体を偵察しつつ地上へ突入っと」

 

普通の陸士なら、ここはティアナみたいなアンカーガンを使って降りる。
けど、あたしには、シューティングアーツの基本魔法、ウィングロードがある。
ウィングロードっていうのは、簡単に言うと、空中につくる魔法の道。
シールドの応用って銀姉…ギンガっていうあたしのおねえちゃん…から聞いたことがある。
とにかく、ウィングロードの上を、ローラーブレードで高速で走り、至近距離に入ったら
リボルバーナックルでぶん殴るのがあたしの戦い方。
それを後ろから、二丁拳銃、もちろん、鉄の弾が火薬の力で飛び出す銃じゃなくて
魔法銃で援護してくれるのが、あたしの相棒のティア。
二人のコンビなら、機動六課に入る前、陸士学校時代から有名だった。
なにしろ、実技部門のコンビでの成績が物を言って、あたしは陸士学校主席
ティアが次席のワンツーフィニッシュを決めたぐらいなんだから。

 

「スバル、窓から何がみえた？」
「んーと、小型の自動魔道砲がいっぱい」
「その程度ならたいしたことないわね。順番に片付けていくわよ」
「…と、ガジェット3型が一体」
「……やっぱり、簡単には実戦にだしてもらえないか。
　とりあえず、ガジェット3型にぶつかるまで、魔力消耗を押さえていくわよ。
　さあ、お仕事お仕事」
「OK.ティア」

 

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「おー、始まってるなぁ」
「はやて、そんなに身を乗り出すと危ないよ」
「大丈夫や。落ちたら飛べばええんよ。むしろ、航空魔導師までが
　なんでヘリつかわなあかんのやろな」
「仕方ないよ。クラナガンで航空魔導師が勝手に飛んでたら、危なくて仕方がない」
「まあな。飛べる魔導師がみんな空飛んでたら、空の交通管制だけで
　管理局の仕事が手一杯になってしまうわ」
「ただでさえ、仕事の割に人手はたりないからね」
「ライトニング分隊の二人の試験は、もう終わってるんだろ？
　結果はどうだったんだ？」
「弁慶さんは見てへんかったんか？」
「ああ、午前中は寝てたから」
「パトロールお疲れさんやなあ。…はよう、あの子らが実戦で使えるようになるとええんやけど」
「ま、大丈夫だろ。九羅香が太鼓判押してた二人だぜ。
　ライトニングの二人が、フェイトちゃんの秘蔵っ子なら、あの二人は
　九羅香の切り札じゃないかな」
「陸士学校の主席と次席や、才能はあるに決まってる」
「弁慶、ライトニングの二人なら、ちゃんと合格してるよ」
「そうなんだ、ありがとう九羅香」
「ていうか弁慶、それぐらい出かける前に調べておけ。
　たるんでるぞ」
「ごめんってば九羅香…」

 

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改めて、状況を説明するべきだろうな。
俺の名前は武蔵坊弁慶。義経軍団の一員だ。
ただ、義経軍団といっても、昔とは意味が全く変わっている。
源平合戦に参加して、一ノ谷や屋島で戦ったのは、遠い昔の話だ。
神機に乗っ取られた頼朝との対決も、もう10年も前の話。
いや、その後、神機を巡る、ヴォルケンリッターとの戦いすら
10年前の話で、今や義経軍団といえば、時空管理局の本局に所属する
陸戦魔導師部隊の一つ なんだ。

 

次に、機動六課について、説明しておこうか。
機動六課っていうのは、簡単に言うと、本局から地上本部に出向してきている
魔導師の集まりだ。期間一年の実験部隊で、地上本部と本局の協力関係に
ついての基本的なデータを集めることが目的、ということになっている。

 

もっとも、これは建前に過ぎない。
地上本部…つまり、陸式が、本局に手助けを求めたことなど一度もないからだ。
地上本部が求めているのは、装備の充実の方。気持ちはわかる。
優秀な魔導師は、本局がほとんど全部引き抜いてしまい、陸式には回ってこない。
地上本部が独自性を保ったままで、事件に対処するとすれば、優秀な魔導師を
本局から呼ぶのではなく、独自の戦力を確保しなければならないわけだ。
そのためには、装備の充実が必要になる。
けれど、その装備の充実というやつは、一歩間違えると質量兵器の導入と同義語になる。
それは、管理局システムそのものの否定ということだ。

 

それで、本局側が出した提案が、必要に応じて、地上本部の指揮下に、適時
魔導師を配備するということ。ミッドチルダ以外の管理世界では、一般的に行われていることだ。
だが、それは、地上本部側には、どうしても受け入れられないことであるらしい。
それで、本局側が考え出したのが、期間一年での実験部隊、機動六課というわけだ。
本局側も、この部隊なら受け入れられるという、ある種の自信があったようだ。
理由は簡単、この機動六課、話題性が前面に出た、アイドル部隊なんだ。

 

隊長のはやてちゃんは、あんまり有名じゃないが、第一小隊長高町なのは教導官に
第二小隊長フェイト・T・ハラオウン執務官と言えば、管理局広報誌の表紙の常連と
言っていいぐらい。管理局の広告塔と言っていい。
それに、第97管理世界、地球出身の九羅香達〜人呼んで、史上最強の陸士部隊〜が加わる。
参謀の静さんといえば、管理世界でも人気のダンサーだし、この俺はといえば
最近ミッドチルダで、マイナーながらカルトな人気が出てきたスポーツ、サッカーの
伝道師のそっくりさん…まあ、俺そっくりなサッカー馬鹿の兄貴が伝道師当人なんだが…も加わってる。
大々的に実験部隊設立を宣伝して、マスコミの力で、地上本部側に機動六課を潜り込ませたってわけだ。

 

もっとも、アイドル部隊としての活動すら、地上本部は面白く思ってないみたいで
活動はかなり制限されている。飛行魔法なんてまず使わせてもらえないし
転送魔法は完全な御法度。いやそれどころか、マスコミの取材にまで厳しい制限が加わって
アイドル部隊なんていう雰囲気はまったくない。…いや、残念というよりは、むしろ
いいことだと思ってるよ。その分予定より訓練がはかどったんだから。

 

「うん、ちゃんと陸士の戦い方がわかってる。
　囮を使って攻撃を引きつけて、背後から襲撃。
　上から、床を崩して攻撃されるのを防ぐために、つねに動いて場所を把握されないようにする。
　なのはもヴィータも、いい教え方してるね」
「九羅香さん、それは当然や。なにしろ、なのはちゃんは教導隊やし、ヴィータも
　ゲートボールの伝道師を目指してたこともあるんよ」
「サッカー馬鹿の向こうを張ろうとしてたよな。直ぐにあきらめたみたいだけど」
「直ぐ、いうほど、直ぐでもないんやけどな。
　けど、ヴィータは、ゲートボールよりもやりたいことあるいうて、管理局の仕事に
　打ち込んでるんよ」
「…そろそろ、あの二人も、ガジェット3型にぶつかる頃だな」
「そうやなぁ。…あの二人はどうやってガジェットを片付けるか、見物やな」

 

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見物だって言われてるあたしとティアのコンビだけど、今ピンチに陥ってた。

 

「ピンチったって、あたしが魔法弾よけ損ねて足をひねっただけでしょ。
　普通に考えたら、救援を呼んで、二人でガジェットの下方への移動を阻止しつつ
　他の魔導師によるガジェット破壊を待つ。これが正解よ」
「けど、それじゃ実戦デビューが遠のいちゃうよ、ティア」
「仕方ないじゃない。あたしが怒られれば済む事よ、スバルのミスじゃないでしょ」
「あたしをティアがかばって怪我したんだから、あたしのミスだって」
「喧嘩しててもはじまらない。ほら、スバル、さっさと救援を呼ぶ」
「…やだ」
「スバル？」
「大丈夫、ティアならまだやれる…っていうか、やる方法、考えてあるんでしょ？」
「そりゃ…まあ……ちょっとルールの拡大解釈にはなるけど…時間内に
　ガジェットを壊して逃げる方法なら…ないわけじゃ…ないけど……」
「なら決まりっ！それでガジェット壊して一気に脱出っ！」
「けど、コースを出たってことで減点されるかもしれないし…」
「ティアは心配しすぎ。現場にあっては臨機応変でなきゃ。…行くよ」
「…はいはい、せいぜいがんばりなさい」

 

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そういうわけで、あたしは本来いるべきビル…の隣のビルへウィングロードで移動している。
ティアがあたしの幻影を作って、あたしとティアの二人が、普通にガジェットを襲撃しようと
出来るだけガジェットから離れた場所に現れようとしてると見せかけてくれている。

 

ガジェットの攻撃が始まったと、ティアが念話で伝えてきた。
あたかも、高速機動でかわしているかのごとく、ティアが幻術を使って
ガジェットの攻撃をそらしてくれてる。よし、囮作戦は大成功。…あとは
あたしが全力全開でガジェットを落とすだけ…行くよっ！

 

「ウィングロード！」

 

ウィングロードでガジェットのいる場所まで一直線。
壁を全力の体当たりで破壊すると、そのままクロスレンジまで突入する。
さすがにガジェットも壁が破壊されれば、何かが起きたとわかる。
わかったときにはクロスレンジ入り。AMF？それがどうした、AMF発生装置の場所は
前からの訓練で、大体どのあたりかわかってる。そこへめがけて
リボルバーナックルのカートリッジを弾いて作り出した魔法の拳で打撃を与える。

 

AMFが弱まる。けど、ガジェット3型…もちろん、本物じゃなくて訓練用の模型なんだけど…
が、こっちの攻撃に反応して、腕を使ってあたしを捕まえようとする。
だからって、はいそうですか、って捕まってたんじゃ、スターズ3は務まらない。
エッジを立てて、素早く背後に回り込み、相手がこっちに向き直る前に…そして
AMF発生装置に与えた衝撃からガジェットが立ち直る前に、きっちり破壊してやる…

 

「…一撃必倒…ディバイン＝バスター！」

 

これがあたしの必殺技。なのはさんの砲撃魔法ディバインバスターの変形魔法で
クロスレンジでディバインバスターを発生させて打ち込む。
なのはさんの本家より、射程が大幅に劣っているけれど、かわりに装填時間は
圧倒的に短いという利点がある。どうしても、なのはさんの魔法が使えるようになりたかった
あたしが、陸士学校に臨時講師として来てた、教導隊の人と一緒に編み出した魔法だ。

 

AMFさえなければ、ガジェットはそれほど恐ろしい相手じゃない。
まさに一撃必倒、完全撃破。…けど、ちょっと時間が足りないかな。
あたしは全速力でティアの所に向かうと、ティアを背負って、全速力で安全地帯へと急ぐ。

 

「ちょっとスバル、飛ばしすぎ」
「だけどこれぐらい早く行かないと時間に間に合わないよ。
　ガジェット破壊にてまどっちゃったんだから」
「本当ならあたしも戦闘に参加しつつ、幻術を使う予定だったんだけど…」
「過ぎたことはいいっこなし。全力全開で…」
「…スバル？」
「なに？」
「もういまさら飛ばすなって言わないけど…あんた、ほんとに止まれるの？」
「え？…」

 

ティアに言われて気づいた。ゴールの向こうは、広々とした平原が広がってたりはしない。
ウィングロードを使って逃げればいいって思ってたけど、ウィングロードが使えるような
逃げ道がないっ！上に逃げたくてもヘリがじゃまで逃げられない…うわあああぶつかる〜。

 

『Protection』

 

え？目の前に突然ピンクのネットが現れた？あれは一体…

 

どっかーん。

 

「いたたたたた…」
「この馬鹿スバルっ！あんたいい加減加減ってものを覚えなさいよ」
「だって〜」
「あーあ、どうしちゃったのかなあ？そんな無茶しなくても、スバルもティアナも
　二人だけで任務をするわけじゃないって言わなかったかな」
「…すいません、なのはさん……いえ、高町教導官…」
「ごめんなさい、高町教導官…」
「こんな時だけ改まって呼ばなくてもいいよ。なのはさんで。
　…一応二人とも今回は不合格。
　不合格の理由は、わかってるよね、ティアナ」
「…はい…負傷を報告しなかったことと、離脱時の安全確保を怠ったことですよね」
「…んーと、スバル、理由はわかる？」
「え、えと…ティアに付け加えて、ルートを外れたからですか？」
「…んーと……」
「なのは、何困ってるんだよ。ちゃんと言ってやらなきゃだめだろ」
「ごめん、ヴィータちゃん。けど、教えててたのは私だし…どうして
　わかってもらえないのかなあ…って」
「そんなのちゃんとなのはの言うことを聞いてないのがわるいんだろ」
「ヴィータちゃん、そんな言い方するものでもないですよぉ」
「リインは甘過ぎ」
「ヴィータちゃんが厳しすぎなんですぅ」
「ごめんね、二人とも。…途中、ティアナが言ってたのが、本来の正解だよ。
　負傷を報告して、援護が来るまで安全を確保しつつ、ガジェットの逃走を阻止する。
　予定通りに行かなかったときは、臨機応変に次善の策を立てられないとね。
　…明日、もう一度試験するから、こんどはそれを踏まえてやるように、わかった？」
「はい、なのはさん」

 

…なのはさん、あたしが管理局入りを目指すきっかけになったあこがれの人。
どうしてなのはさんがあこがれの人なのかという話は、またこんど。