異聞・少女義経伝・参
【第二十二章】
〜儀式〜
どんな楽しい時間も、いつかは終わる。
夜も十分に更けた。俺にとってはもはや見慣れた星空だが、たぶん
平成に帰ったら、まず見ることが出来ないだろう星空が広がる。
アースラスタッフや俺たちは、宴会の後片付けも終えた。
クロノやエイミィ、そしてリンディ提督もアースラに帰還した。
ここにいるのは、九羅香軍団…つまり、俺たちと、サッカー馬鹿の兄貴に
ボクシング馬鹿の我が妹、そしてはやてちゃんとヴォルケンリッターになのはとフェイトと
フェレットもどき…もとい、ユーノにアルフ。
そして、リインフォースとグレアムおじさんにねこ師匠の姉妹だ。
管理局に入るなら魔法を使った戦闘法を教えてやる、ってことで、いつのまにか
師匠と呼ぶことになった。まあ気にしないでおこう。
（…）
（…）
「リイン？どないしたんや？誰かと念話で会話してるんか？」
「主はやて、いま、グレアム提督と少しお話しておりました」
「何も私に秘密にするような話でもないんやろ？普通に言葉で話してもええんやないかな」
「いえ…ですが…」
「リインフォース。やはり、私は、きちんと話をするべきだろうと思うね。
…私だったら、話もせずにそういうことになっては、むしろ、耐えられまい」
「リイン。なにか心配事でもあるんか？何も遠慮せんでええんよ、何でも言うてや」
「主…」
リインフォースは、車いすからそっとはやてちゃんを抱き上げる。
「どないしたん？」
「…我が主、美しい星空です」
「ほんまや、昨日はシグナム達と一緒に見たけど、ほんま綺麗な星空やなあ。
今日はリインと一緒や。せやから、もっと綺麗に見えるわ」
「……我が主、…気持ちよい風です」
「ほんまやな。ここであんな戦いがあったなんて、嘘みたいや。
ほんま清んだ空気やな」
「…我が主、美しい月です」
「ほんまやな。ほんまにまるぅて、うさぎがおりそうで、手を伸ばしたら届きそうや」
「……我が主、もし、あなたがお望みでしたら、あの月をあなたに捧げましょう」
「そうか？気持ちはうれしいわ。…けど、そんな、庭にもおけんようなもの
もろうてもしょうがないわ。みんなが一緒にいることのほうが、月なんかもらうより
よっぽど大切や」
「……シグナム達と一緒に過ごす時間。なのは達と過ごす楽しい時間。
我が主の望むものは、用意出来たように思います」
「そうかもしれへんし、そうでないかもしれへん。将来のことはわからんよ。
けど、目を閉じて夢を見たら、目を開けて夢を実現せえへんとな」
「……我が主…とても、とても美しい夜です」
「…せやな、ほんま美しい夜や…」
「………本当に良い夜です………死ぬには、とても良い時です」
「？リイン、どないしたん？」
「………我が主、非常に申し上げにくいことなのですが…修復プログラムによる修復は
不完全なものです。今は夜天の書も正常に機能しておりますが、遅かれ早かれ
自己防衛プログラムは再生してしまうでしょう。蒐集完了後、直ちに暴走する危険は
取り除かれましたが、長期の安全性は保証出来ません。
我が主、主の将来の事を考えますと、夜天の書は、管理プログラムと共に破棄するのが妥当です」
「…管理プログラムと共に破棄…いうて、…それ、リインはどうなるん？」
「消滅することになります、我が主」
「……ちょ、リイン、何言い出すんや。グレアムおじさんのプログラムで修復出来たんやないん？
もう夜天の書は普通の魔道書になったんちゃうん？」
「残念ながら、そういうわけにはいきませんでした。シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラに
ついては、本来自己修復プログラム、自己防衛プログラムとは独立したプログラムですから
我が主のリンカーコアに依存したプログラムとして書き直し、新たに起動することが出来ました。
ですが、私は、夜天の書の管理プログラム。夜天の書の本体です。
自己防衛プログラムも、自己再生プログラムも、本来私の一部であるプログラムです。
暴走している自己防衛プログラムは破棄いたしましたが、自己再生プログラムそのものの
破損を切り離すわけにはいきません。…もし、それを切り離すとすれば、私自身を
破壊するのと同じ結果をもたらすでしょう。…夜天の書には実体がありません。
絶えず、魔力によって、自己再生することで、夜天の書は維持されているのです。
そして、自己再生プログラムは、遅かれ早かれ、自己防衛プログラムをも再生してしまうでしょう。
そうなればまた同じ事の繰り返しです。…その危険を取り除く最良の方法は
直ちに、破損したプログラムを破棄することです。…それが、主にとって最良の選択です」
「…………その、破損したプログラムを破棄するいうんは、つまり、リインが死ぬ、っちゅうことやろ」
「我が主、プログラムは死にません。落丁のある破れた本を捨てるのと同じです」
「それは違うやろ。…シグナムは、破れたページやいうて捨ててええもんか？ヴィータは？
シャマルは？ザフィーラは？…リインも同じや。おうた時間の長い短いの問題やないやろ。
シグナム達の”達”から、リインをのけ者にするつもり、ないんよ」
「………ですが、シグナム達は、主に危険を及ぼす存在ではありません。
私は別です。主の幸福のためには、そうするのが、もっとも正しい事なのです」
「リインにとっては、どうなんや？」
「私…ですか？私はただのプログラムです。私はただ、主の望みを叶えるだけです。
主の望み、シグナム達との平穏な暮らし、なのは達との楽しい生活。
それは私の力の及ぶ範囲で主にもたらしました。あとは、それを阻害する要因を
取り除くならば、私の為すべき事は完成いたします」
「私の望みをかなえる？それは嘘や。
私の望みは、リインを含めて、シグナム達との平穏な暮らしであり、なのはちゃん達との楽しい暮らしや。
リインを死なせるようなこと、私は一度も望んだことなんかない。
リイン、どうしてそないなこというんや。まだ時間は残ってるんやろ。
今日できんことも、明日は出来るかもしれんやないか。管理局で
本当にリインを修復できるようなプログラム、作れるかもしれんやないか。
リイン、私の言うこと、まちごうてるか？」
「…残念ながら、正しくないのです、我が主。
私を修復するには、夜天の書を作るだけの魔法技術が必要です。管理局の魔法技術が
その水準に達する可能性が、主が生きておられる期間内に、そこまで向上する可能性は
まずありません。修復は不可能です」
「けど、修復できへんでも、暴走せんよう制御することは出来るんやないん？
私が必ず暴走せんように制御する。約束する。せやから、悲しいことはいわんといて」
「自己防衛プログラムの制御は不可能です。可能なのは、せいぜい、数分、暴走を
阻止することぐらいでしょう。そして、暴走はいつ始まるかもわかりません。
そのような危険は、管理局としても、受け入れられるものではないでしょう」
「………けど、何か道があるはずや。方法、あるはずや。1人でみつけられへんでも
みんなで一緒に探せばええはずや」
「…我が主……ですが、私は、ただのプログラムです。
主が私のために、そのような労力を払うのは間違っています。
直ちに破棄する。それが主にとって最善の事です。どうかご理解ください」
「…主にとって、最善…か」
「はい、我が主、八神はやて」
「それで、リインにとっては、どうなんや？」
「私ですか？私にとっては関係ないことです。
私は魔道書です。ただの道具にすぎません。主にとっての最善を図ることが私の存在意義です」
「それは違う。リインはまちごうてる。リインは、魔道書かもしれへん。
けど、ただの道具やない。…リインには感情があるやないか、心があるやないか。
人間ではないかもしれんけど…けど、リインかて、生きてるんや。
…せやから、リインにも、幸せになる権利があるんや。自分の幸せを求める権利があるんや。
私のことはええ。自分の幸せは自分で探す、自分の力で精一杯つかむ。
せやから…リインは、自分の幸せを求めればええんよ。…なあ、リイン？」
「なんでしょうか、我が主」
「本当の幸せは、誰かを不幸にして、誰かから奪い取って、そうやって手に入れるものやろか？」
「…そんなはずはありません、我が主。幸せとは、人から奪って手に入れるものではないはずです」
「自分にとっての幸せがどんなものか、真剣に考えたら、ほんまのぎりぎりの所まで考えたら
他人の幸せがあって、初めて、自分に幸せが来るものやないやろか。
自分の周りの人が不幸やったら、結局は自分に不幸が来るものやないやろか。
人の不幸を望むことは、自分を不幸にする最短の道やないやろか。…どうやろな？」
「………そうかもしれません。我が主。私にはわかりません」
「わたしにもわからへん。…なあ、リイン、少し、話、聞いてくれるか？」
「ええ、もちろんです、我が主」
「……私のお父さんお母さん、もう死んでるの、知ってるやろ」
「はい、…知っております」
「あれでわたし、天涯孤独になってなあ。なんかお父さんら、結婚でいろいろあったらしゅうて
親戚とかわたしのこと、全然助けてくれへんし、遠くのおじさんから手紙来ても、なんか遠くの外国で
仕事があるし、特別な事情があって、お金は送れても、手元には引き取れへんとかいうてくるし
学校の友達に、そんな話もできんし、…いっそお父さんらの所行ったら、楽になるかもなあ思うてな」
「…」
「それで、遠くのおじさん、…つまり、グレアムおじさんに、そういうて手紙出したんよ。
こんな、1人で暮らすぐらいやったら、いっそあの世に行って、お父さんらの所で暮らすほうがええいうて」
「…」
「そしたら、グレアムおじさん、こういうて返事くれたんや。
ひとりぼっちで辛いのは、わからないわけやない。自分も、小さい頃、両親と別れて
遠くの世界で１人やったことがある。ホームシックに罹って泣いた夜もある。
けど、ある日、周りを見て気づいたんや。
自分の回りには、いくらでも人はいるやないか。誰もおらんのやない。
信じられる人がおらんだけや。けど、出会う前は、誰でも他人やないか。
話する前は、誰でも信じられん人やないか。…声を掛けてみな、信じられる人かどうか
わかるはず、ないやないか。ひとりぼっちなのは、自分の回りに人がおらんからやない。
自分が、好きこのんで、１人になりたがってるからや。それに気がついたいうて。
…けど、そんなこというても、大人のお説教にしかきこえへんやろ。
だから、これだけ覚えておいて欲しい、人は誰でも、幸せになる権利を持って生まれてきただけやない。
幸せになる義務を持って生まれてきたんや。神様は、人間を、幸せを望む生き物につくりはった。
せやから、人は誰でも、本当の自分の幸せを考えて、考えて
考え抜いて、幸せを求める義務があるんや。幸せは、権利である以上に、義務なんや、いうてな」
「…主はやて、ですが、それは、人間の話でしょう」
「……最後まで聞いてや。
正直、そんなこと言われても、私には、大人のお説教にしか、聞こえへんかったわ。
わかって欲しいのは、そんなことやないんや。わたしは、今寂しいんや、今ひとりぼっちで辛いんや。
だれもいない家になんか、帰りたないんや…いうて。
そういうて、だれもおらん真っ暗な部屋で叫んで、そのとき、悟ったんよ。
グレアムおじさんが言いたかったことは、こういうことなんや、いうてな。
そういうて、叫んだ瞬間、何か、ふっと、心がかるうなるの、感じたんや。
自分の求めてるもの、自分にとっての幸せ、それが形になって見えること、声を出して言えること。
それが、幸せへの鍵なんや、いうてな。
せやから、リインにも、自分の幸せ、考えて欲しいんよ。
自分の求めてるもの、自分にとっての幸せ。それを探してほしいんや。
迷惑かけてるとか、じゃまになるとか、そういうことは考えんでええ。
迷惑なら私が迷惑やいう、じゃまや思うたら、私がじゃまやいう。
言われる前から、あれこれ悩んでも、はじまらんのよ。人が何を考えてるかなんて
わかるわけ、ないやない。言葉にせな、伝わるはず、ないやない。
人が、自分の幸せについて、真剣に考えてる限り、自分にとっての幸せが何か
言葉にして伝えよう、そう思うてるかぎり、自分も、自分の幸せが何か、言葉にして
伝えてええんや。むしろ、それが義務なんや。人が自分と同じこと考えてるとは、かぎらんのやから。
な、リイン…リインにとって、幸せって、どういうことなん？」
「…我が主、私は…そんなことは…考えたことも、ありませんでした」
「それなら、今から考えればええんや。今から、リインにとっての幸せ、探せばええんや。
何も、急ぐことはないんよ。…リインには、幸せになる、権利が、あるんやから」
「…我が主……私は…」
「？…どないしてん？わたし、何かわるいこと、リインに言うた？泣かせるようなこと、いうてもうたか？」
「…いえ、私は……我が主、八神はやて…あなたは、私に…私にとって、望む以上の幸福をくださいました。
…私は、…私は、自分の主に幸福を運ぶ魔道書になりたかったのです。
呪いではなく、祝福をもたらす風になりたかったのです。
我が主、私は、いま、幸せです。私は間違いなく、主に、家族を…あなたのために
守護騎士達を届ける事が出来たと、確信できるのですから」
「…リイン…」
「我が主…迷惑でなければ、私の願いを、聞いてもらえないでしょうか」
「大丈夫や。なんでもいうてええよ。私に出来ることなら、なんでもしてあげるから。
迷惑かどうかは、聞いてから判断するから、何でもいうてええ」
「…我が主八神はやて、もう一度、私の名前を呼んでください。
私にくださった通りの名前を、省略せずに」
「リインフォース。…癒しをもたらす者、幸せの運び手、祝福の風、リインフォース」
「…我が主八神はやて…あと一つ、私の願いを叶えてください。
私の、私のための幸せを与えてください」
「ええよ、なんでも言うてや。…なんどでも言うけど、私に出来ること、私の力の及ぶことやったら
なんでも聞いてあげる。リインは…リインフォースは、それだけの事をしてくれたやないか」
「…ありがとうございます、我が主………私は、今まで、多くの主を見送って参りました。
何人も、何人も、その最期を看取ってまいりました………ですから、もういいでしょう。
我が主八神はやて…そろそろ、私の番が来ても良いはずです。
今日は、とても良い夜です。死ぬにはとてもよい夜なのです。
…ですから、笑って、私を破棄する儀式を、見送ってください。
私の最期を、笑顔で、看取ってください。
それが、私の、…私のための、最期の、願いです」
「…ちょう…まってや。なんでそうなるんや。…そんな…そんなの無理や。迷惑や。
出来ることならしてあげるいうた。確かに私はそういうた。
けど…そんなん、出来るわけないやないか。なんでそんな死に急ぐんや」
「…我が主…。私は、主に幸せを運ぶ魔道書になりたかったのです。祝福の風になりたかったのです。
喜びをもたらす者でありたかったのです。…今、私は、そうなろうとしています。
ですが、まだ完全ではありません。私の願い、私がなりたかったもの。…私を廃棄する
儀式によって、それが完成するのです。私の望みが、それで完全に叶えられるのです。
…私は、今幸福です。主のために、守護騎士達と、主の未来を残すことができるのですから。
これは、主の望む幸せとは違うかも、しれません。ですが、私にとっての幸福なのです。
…我が主よ。よき主は、支配する者のためではなく、支配される者のために、支配すると聞きます。
ですから、私もまた、私の幸せのために私を支配してください。私の幸福のために
私にお命じください。…壊れたプログラムを、破棄するように、と」
「……………ううぅ・・・うわああああああああああ」
「我が主…」
「どうしてや！どうしていつもこうなるんや！どうしていつも私の大切な人は
私を置いてどこかへ行ってしまうんや！リインが何をしたいうんや！
どんなわるいことしたいうんや！リインは何もわるうないやないか！
どんなわるいこともしてないやないか！…神様は不公平や！うわあああああ」
「……我が主、それは違います。神様はいつでも公平です。
大切な人はどこにも行ったりはしません。ただ、人の腕に抱えられる大切な人は
無限ではあり得ません。シグナム達と、なのは達と、…それで、主の腕は目一杯になってしまった。
それだけの事なのです。それに、私は少しも酷い目にあうわけではありません。
いえ、むしろ幸福になるのです。…我が主、すこし、私の話も、聞いてもらえませんか？」
「う、うう、うん……リインが…リインが頼むんやったら…」
「…遠い昔、私の主であった方が、私にこう教えてくれたことがあります。
そのときの主は、間違った裁判で処刑されようとしておりました。
私はそのときの主に申し上げました。私の力を使って、今すぐここを抜け出すように。
何も間違った裁判によって殺されることはないのですと。
それに対する返事はこうでした。…死ぬということ、それ自体が不幸であるか
幸福であるか、それは誰も知らないことではないか。死ぬということが至上の幸福あるかどうか
それすら我々は…世界の知識を蓄えているおまえも含めて…何も知らないではないか。
ならば私は、自分の知らないことについて判断することは止めて、自分の知っている範囲で
最善の道を行くことにしよう。私は国法を犯すことは望んでいないのだから、それを避けよう。
法を守ることを望むのだから、それを選ぼう。おまえは私の死によって新たな主を得るだろう。
だが、死に行く私と、新たな主の元へ行くおまえと、どちらが幸福な定めであるか
それは神以外誰もしらないのだ、と。
…今なら、その言葉の意味がわかります。
消える私と、残される主と、どちらが幸福な定めであるのか、私にはわかりません。
ですが、今、私が主に予期される危険を取り除くと言うこと。
それが私にとっての望みであること、私の望む幸福であること、それはわかります。
ですから、わからないことについては、それを知っている何かにゆだねる事にしましょう。
わかる範囲で、力の及ぶ限りで、最善を選ぶことにしましょう。
…我が主、主が私との別れを不幸だと感じてくださるのには、感謝いたします…
…ですが、それは、最善の道ではないのです」
「……う………け、けど……ほんまに、やり残したことは、ないんか？
消えた後から、やり直すこと、できへんのやで？」
「私にとっては、何もやり残したことはありません、我が主」
「けど…私にとってやり残したことはあるやない。
まだ、クリスマスパーティひらいてへんし…」
「パーティならもうひらいていただきました、我が主」
「け、けど、まだすずかちゃん達にリインのこと、紹介してへんし…」
「…紹介してどうなるのですか、我が主。わたくしとの別れを悲しむ人を増やすおつもりですか？」
「……そ、それに…ほら、まだおっぱいもんでへんし」
「…それは確かにやり残した事に間違いありません。
どうぞ、心ゆくまで」
もみもみもみもみ…（中略）…もみもみもみもみもみ…（中略）…もみもみもみもみもみもみ
もみもみもみ…（中略）…もみもみもみもみもみ…（コピペ使わずに打つのはつらい…）もみもみ
もみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみ…（中略）…もみもみ…
…もみもみもみ（…第一、同じ指使いすぎ…）もみもみもみもみもみ…（中略）…もみ…
もみ……もみもみ…もみ…もみ…も………
さすがにずっとは揉んでいられない、腕がつったようだ。
「…シグナム、我が主はお疲れのようです。そろそろ…」
「心得た」
「…我が主、他に、思い残すことは、ありませんか？」
「………ごめんな、リインフォース。私は…リインには、何もしてあげられへんかった」
「そんなことはありません、我が主。何度でも申し上げますが、あなたは私に
本当の幸福を与えてくださったばかりか、私に本当の幸福の意味すら教えてくださいました。
…本当の最後ですが、夜天の書を破棄しても、すこしばかりの燃え残りが生じるでしょう。
大したものではありませんが、我が主のためのデバイスの材料にぐらいはなるはずです。
よろしければ、お使いください」
「…リインフォース、準備は出来たよ」
「けど、ほんとうにあたしらでいいのかい？あたしらとしては、フェイトの
リンカーコアが修復されるまで、待ってもいいんだよ」
「ロッテ、アリア、…私は一介の魔道書ですが、それでも、いささか人間に似たところはあると
思っているのです。ですから、私は、私の主や、その友人には、人殺しの味を覚えて欲しくないのです」
「…あたしらは、いまさら人殺しの味を覚えたくないとか、言えた立場じゃないもんね」
「だね。…リインフォースの準備は出来てるみたいだけど、あんたらは？
最期の言葉ぐらい、掛けておいたほうがいいんじゃないかい？」
「…あたしは…何もいいたかねーよ。あたしは…主のために命削るってのにはあこがれてた。
けど…こんな形じゃねえ。…これは…いくらなんでも…酷すぎるぜ…」
「主のために生きるあなた方と、主のために消える私と、どちらがより幸福か知っているのなら
そうでしょうね」
「…うっせぇ…最期までお説教きかせんじゃねえよ…」
「…はやてちゃんの事でしたら、私たちが必ず」
「必ず、主は守る」
「…それについては、安心してくれ、リインフォース」
「ありがとう…守護騎士達よ…」
「………リインフォース」
「なんだ、フェイト」
「…リインフォース」
「？…なのはも？」
「リインフォース」
「ユーノ？」
「リインフォース」
「アルフ」
「………これで、友達だよ。リインフォース」
「？」
「なのはに教わった。名前を呼ぶのが、友達になる方法だと」
「……その名で私を呼ぶのだな…」
「…すまんなリインフォース。名前、呼ばせるわけにいかなくて」
「あたしら、最後まで名無しって設定だから」
「サッカーのお兄さんに、ボクシングのお姉さんでいいだろう。
…だが、私のことも、祝福の風と呼んで欲しい」
「…祝福の風、か。わかった、サッカーのお兄さんって呼んでくれたのは
祝福の風と、はやてちゃんだけだったもんな。…さよならはいわないぜ」
「祝福の風にもまた、祝福がありますように」
「汝の拳に祝福あれ、サッカーのお姉さん」
「……こんな風に誰かを見送るのになれてる自分がいやになるな。
弁慶さん、教経、頼朝…こんどはリインフォースだ。
みんな、笑って行きやがった。俺はまだ、笑顔で送れる心境にはなれないぜ」
「弁慶、それでいい…私も我が主には無理を言った。
私は何かを失うわけではないが、おまえたちは、何かを失うことになるのだから」
「リインフォース。兄上に会ったらよろしく伝えて欲しい」
「…わかった、九羅香。お会いしたら確かに伝えておこう」
「いたこの術を覚えたら、呼び出すかもしれないわよ。覚悟しておくことね」
「…そんな魔法もあるのか、それは私も知らなかった」
「あるわけないわ。本当に霊を呼び出す方法なんてね。
ただ、みんなの中にいる、心の中の人物を呼び出せるだけよ」
「心の中にいる、か…生きていても心の中にはいない者もいる。
死んでもなお、心の中に生きている者もいる…
どちらが生きていて、どちらが死んでいるとするべきか、私にはそれすらわからない」
「………リインフォース様。…道中、お気をつけて」
「ありがとう、紅葉様、…あの世の道が、平坦である保証すら、ないのだったな」
「リインフォース殿、貴殿の生き様…確かに、心に刻もう」
「かたじけない、与一殿」
「リインフォースさ〜ん。…お元気で〜」
「あなたもまた、静さん」
「リインフォース様…私には…あなたの姿は見えませんが……
…今…あなたが幸福であるような…ここにいる誰よりも幸福であるような…
……そんな感じは受けます。あなたは、自分に嘘をついているのではなく
今、本当に幸福を感じておられるのですね」
「その通りです、観月さん…あなたにもまた、祝福の風が訪れますよう」
「…ありがとうございます、祝福の風よ」
「リインフォースさん、……その…………いえ、なんでもありません」
「廉也さん、…幸福の鍵は、自分にとっての幸福を言葉にすることにあるのです。
幸せから逃げない勇気を持つことです…少なくとも、私にとっては、そうだったのです」
「…リインフォース…この、大馬鹿野郎！…かっこよすぎるんだよ…
……かっこつけてると、あんまり長生きしねーぜ」
「まったくです。忠告ありがとう、玲奈」
「…リインフォース」
「我が主…」
「私は必ず幸せになる。約束する。せやから……せやから
リインはなんも心配せんでええ。リインは私に幸せの鍵をちゃんと届けてくれた。
…リインは、…癒しをもたらす者、幸せの運び手、祝福の風、リインフォースなんやから」
「…我が主八神はやて…私は、あなたに会えて、本当に幸せでした…いえ、本当に幸せです。
今も、そしてこれからも…」
それは、本当に星の美しい夜のことだった。
月の光の中での儀式が行われた夜だった。
それは、転生を繰り返してきた魔道書の、最後の転生の儀式だった。
そして、それは、俺たちの友達の１人を、見送る、儀式だった。
短い出会いだったけれど、心の深いところに刻みつけられた、１人の、友達の。
