異聞・少女義経伝・参
【終章】
〜未来〜
あれから、６年が経った。
俺の名前は武蔵坊弁慶。今でも義経軍団の一員だ。
もっとも、義経軍団の意味は、６年前と全く変わってしまった。
６年前は、８００年以上の前の、いやさ、８００年以上俺たちの世界から
時間経過が遅れた平行世界で、本当の弁慶さんから、弁慶の薙刀と
九羅香を守る使命とを引き継いだ、単なる高校生だった。
今の俺は、同じように義経軍団の一員とはいえ、時空管理局所属の魔導師だ。
魔法資質は皆無なんだけど、弁慶さんの薙刀のおかげで、それなりには魔法が使える。
空は未だに飛べるようにはならないし、なる可能性もないんだけど、バリアジャケットを
発生させるための、お守り型ストレージデバイスは持っている。
やっぱ、防護服がなきゃ、命がいくつあっても足りないもんな。
「弁慶、なにやってるの？」
「ん？ああ、ちょっと昔のことを思い出していたんだよ」
「昔の事って、…兄上や、姉上の世界のこと？」
「ああ、そうだよ九羅香」
「…姉上はお元気かな？」
「どうだろう。何かあったら観月ちゃんが教えてくれるよ。
便りのないのはよい便りじゃないかな」
「そうだね」
観月ちゃんは、正式な管理局の提督に任命された。
管理世界の代表者は、その世界の強弱に関わらず、提督の称号が与えられる。
これは、管理世界での管理局員の行動すべてについて、管理世界の代表者が
最終的な責任と権限を持つことから生じる必然だ。
もっとも、このせいで、管理局は提督だらけになっている。
スタートレックだって、カーク艦長は大佐だったけど、リンディ提督も提督
グレアム提督も提督、いやそれこそ、管理局の大御所、伝説の三提督も
階級上はやっぱり提督だ。この結果、提督間の序列は、職務と先任順で
決まることに、建前上なっている。
実際には、提督間の序列どころか、大抵の事柄について、勤続年数が、階級を超えて
上下関係を決めている。
レアスキル持ちの階級なんて飾りみたいなもの、っていうのは、はやてちゃんの言葉。
だけど、俺たちもその恩恵は受けているから文句は言えない。
概ね、管理外世界出身者の待遇は、管理世界出身者よりもいいし、管理世界出身者の中でも
ミッドチルダ人と、非ミッド人では、非ミッド人のほうがややいい。
管理局自体が、ミッドチルダ軍を拡張して生まれたものだから仕方がないっちゃ仕方ない。
非ミッド人の管理局員は、外人部隊みたいなものなんだ。
あっと、話が脱線した、ちょっと場面を、６年前…観月ちゃんが正式に
管理局の提督になった挨拶に、鎌倉に行ったときの情景を再現してみようか。
「…これは観月様、ご機嫌うるわしゅう…」
「そんなにかしこまらなくてもよろしいのですよ、政子様」
鎌倉とはいえ、上座が観月ちゃんで、下座が政子さんだ。
理由は簡単で、義経軍団の一員の観月ちゃんが相手なら、九羅香より政子さんのほうが
格上だけど、皇族の一員観月ちゃんと、鎌倉幕府の実質的な支配者政子さんだと
皇族の観月ちゃんのほうが格が上になるってこと。
「それで、景時はどうなりましたでしょうか？」
「景時様は…」
観月ちゃんはちょっと言葉に詰まる。まさか、自己防衛プログラムごと
衛星軌道に転送されて、アルカンシェルで吹き飛ばされましたとも言えないだろう。
「…ご心配なく。わらわも妖術使いの端くれ。景時が何をしていたかは
こちらで監視しておりました」
「では、すべてご存じなのですね」
「概略のことについては知っております」
「では、時空管理局という組織のことについても、説明の必要はありませんか？」
「いえ、それについては、詳しくは知りませぬ故」
「では…」
概略の説明をしておく。
「では、神機は観月様がそのままおもちください」
「よいのですか？」
「鎌倉にとっては、神機を使って朝廷が今の平穏を破ることを恐れたまで。
観月様が神機を、管理局の助けを借りて、安全に保管してくださるのであれば
何も異存はないのです」
「そうですか、では、私は、これからこの国を旅して回るつもりです」
「それはまたどうしてでありましょうか？」
「…この国が戦で荒れたこと、神機が破壊をもたらしたこと、それについて
私が全く責任がないとは申せません。
ですから、私は、戦の傷が癒えるまで、その傷を洗い、消毒する、そのために
働きたいのです。幸い、時空管理局の進んだ技術を用いれば、鎌倉や朝廷の
力を頼らなくても、それなりの働きは出来るでしょう。
…政子様、それは、鎌倉にとって迷惑になりますか？」
「…いえ、今のこの国は、朝廷と鎌倉の力の微妙な平衡の上に成り立っております。
その平衡を乱さないのであれば、鎌倉にとって決して迷惑というものではありません。
否、その戦の傷を癒すことは、鎌倉としても、決してなおざりには出来ないことです」
「わかりました。…では、さっそく今から私は出立することにいたしましょう。
まずは、鎌倉それ自体の復興のために」
「観月様、ですが、それでは京はどうなります？」
「都でしたら、既に私に出来ることは、して参りましたよ」
観月ちゃんの話をしたら、廉也の話もしないわけにはいかないだろう。
廉也が観月ちゃんに…その、プロポーズしたのは、そんなやりとりがあってから
一年ぐらいしてからだったろうか。
第９７管理世界の代表として、管理局からの援助を受けたり、管理世界の観光客を
受け入れるための態勢を作ったり、そのための支援スタッフとして俺たちや
リンディ提督やクロノやエイミィさん…年下のはずなんだけど、なぜか
エイミィ”さん”って呼んでしまう…を使ったりといったばたばたも
一段落した頃、ありったけの勇気を振り絞った、と本人は言っていた。
そういえば、観月ちゃんと廉也の結婚式には、はやてちゃん達も来てたんだよな。
こんどは、はやてちゃん達の話にしようか。
はやてちゃん達の話をするには、まずグレアム提督の話をするべきだろう。
グレアム提督は、あの仮裁判の審理だけでは不十分だとして、法務部の本裁判を受けることになった。
もっとも、こんどは、リンディ提督、クロノ執務官、双方が秘密作戦の一環という証言をするから
証拠が揃ってもグレアム提督を有罪にする証拠は出て来るはずがない。
成果が上がってるからなおさらだ。ただ、職権濫用の嫌いはあるということで
ほとぼりがさめた頃、人事異動で管理外世界保護官…まあ、一言で言えば
実権皆無の名ばかりの仕事を割り当てられた。
グレアム提督、渡りに船で、ふるさとの家に帰って、ロッテ、アリアの二人と
一緒に悠々自適で暮らしている。
ヴォルケンリッターの保護をするにも、ちょうど都合がいいっていうのもあるし。
そういえば、エイミィさんとクロノも、結婚したんだっけか。
仲人はグレアム提督が務めた。どっちが先にプロポーズしたのかは
二人の秘密だが、たぶん、リンディ提督の陰謀だろう。
リンディ提督の陰謀といえば、フェイトちゃんも、ハラオウン家の一員になった。
あの事件の後、フェイトちゃんの保護観察は解けることになった。
「それで、フェイトちゃんの保護観察処分は終わりだけど、フェイトちゃんはこれからどうしたいの？」
「どうしたい？っていわれても、何が出来るかがわからない」
「ほとんどなんでも出来るわよ。時の庭園は壊れてしまったから、そこに帰る訳にはいかないけど
フェイトちゃんが望むなら、魔法を封印して、第９７管理外世界の住人として
普通に一生を送ることも出来るわ。このまま管理局所属の魔導師を続けてもいいし
管理局を辞めて、ミッドチルダで学校に入り直して、ミッドチルダの魔法使いなり
他の仕事なりをしてもいいわね」
「リンディ提督、だったら、私は、管理局の仕事を続けたい。
管理局の魔導師として、…すこしでも、こういう事件を解決する、力になりたい」
「そうなの。もし、フェイトちゃんが第９７管理外世界で暮らすつもりなら
後のことはグレアム提督にお願いするつもりだったんだけど、もし
管理局でこれからも働くつもりなら、…そうね、フェイトちゃん、せっかくだから
うちの子にならないかしら？」
「うちの子に？」
「そうよ。…まあ、無理にとは言わないわ。だけど、フェイトちゃんほどの才能があるなら
執務官なり、教導官なりを目指すべきだわ。
そういう勉強をするなら、ある程度、サポートのある環境のほうがいいと思うのよ。
保護観察期間中はうちで預かってたけど、保護観察が終わるのに、いつまでも
うちの居候でおいておくっていうのも、なんだし。何より、クロノがいるし」
「な、母さん、それどういう意味」
「ちょっとリンディ提督、それどういう意味なんですか」
「どういう意味って…クロノはもう執務官でしょ。執務官補佐になって
執務官としての仕事を覚えるのがいいんじゃないかって思ったんだけど…
…二人とも、一体どういう意味に取ったのかしらね？」
「うー」
「大人ってずるいのよね〜」
そうそう、クロノも無視しちゃわるいだろう。
クロノ執務官は、グレアム提督が第９７管理外世界に移住してから
本局で、無限書庫の管理人に任命された。
エイミィさんも、無限書庫管理の手伝いをしている。
魔法使いじゃないけど、エイミィさんのデータ処理能力は
なまじな魔法使いの及ぶところではないらしい。
クロノ自身は、なんで自分がこんな仕事を割り当てられてるんだってぼやいてるみたいだ。
仕方ないじゃないか、本編で無限書庫の司書長になったグーグルフェレットこと
ユーノくんは、このお話じゃ、一度も無限書庫に行ってないんだから。
そのユーノくんは、第９７管理世界…つまり、九羅香達の世界と第９７管理外世界…
つまり、俺たちの世界を拠点にして、いろんな次元世界の調査で忙しいようだ。
特に、俺たちの世界と九羅香達の世界の変化が相互にどのような影響を与えあって
いるかについての調査は、ライフワークだと本人が言っていた。
もちろん、俺たちの世界での活動拠点は、海鳴市にあるなのはちゃんの家、翠屋だ。
なのはちゃんは、はやてちゃん、フェイトちゃんと一緒に清祥に通っている。
本当は３人とも、管理局で働いているんだけど、なのはの家族もグレアム提督も
義務教育だけは修了しておいた方がいい、という意見だったんで
３人とも、学校に通いながら管理局のお仕事ということになった。
もっとも、掛け持ちとはいえ、仕事ぶりのほうは、化け物扱いされるにふさわしい水準ではある。
なのはちゃんは、すでに不屈のエースオブエース。教導隊のホープと呼ばれるほどの
実力と実績を上げてるし、フェイトちゃんはフェイトちゃんで、１１歳の時にもう
執務官試験に合格。無限書庫に押し込められたクロノの代わりに、アースラ所属の
執務官として、クロノに引けを取らない働きぶりを見せている。
そうそう、言い忘れるところだったけど、フェイトちゃんはリンディさんの
養女になって、フェイト＝テスタロッサ＝ハラオウンになった。
けど、みんな、フェイトとか、フェイトちゃんと呼ぶから、余り違いはないようだ。
テスタロッサと呼ぶのは、シグナムぐらいだろうか。
その、シグナム達守護騎士の主、はやてちゃんは、今ミッドチルダ移住の準備を整えている。
歩くロストロギアとして、本局配備という話もあったが、シグナムがミッドチルダ
首都防空隊のホープとして勤務している都合上、ミッドチルダに住む方がいいんじゃないかって
思ってるようだ。いずれは、シグナム達を自分の部下としてもてるようにと
ナカジマ三佐の元で、指揮官としての研修を受けている最中だ。
シグナムと言えば、うちの馬鹿兄の話をしないわけにいかない。
あいつは本当に馬鹿だ。何しろ、第９７管理外世界〜つまり、俺の家族やなのはちゃん達〜を
含めて、最初にミッドチルダに移住したのが、あのサッカー馬鹿なんだから。
その移住のきっかけがまた、あいつらしいばかげたことだった。
確かに、管理局から、ミッドチルダに来ないかという話はあった。
管理局システムを支える力は、決して暴力ではない。経済的な力はもちろんあるが
より強力な力が、文化的な優越だ。つまり、全次元世界のあこがれの的、次元世界中から
人を集め、ミッドチルダ的な考え方、ミッドチルダ的な感性こそ正しいというイメージを
様々なメディアや娯楽で広めていること。それが管理局システムの最大の力だ。
ハリウッドの作り出す映画が、アメリカ的な文化を世界に広めたようなものだ。
そういえば、うちの爺さん、トムとジェリーを戦争中に作ってると知ったときに
こんな国には勝てないって実感したって言ってたっけ。
ともかく、サッカーというスポーツに管理局は興味を持って、それを知るために
ミッドチルダでサッカーを教えてくれる人をほしがったんだ。
最初の内は、うちの馬鹿兄も、チームメイトがいるからといって断ってた。
ところが、だ。あの馬鹿、Ｕ−２３代表候補にも選ばれようかという活躍をしてる時に
八神家に遊びに出かけ、何のきなしにシグナムに約束したらしい。
「…はーい、遊びに来たぜ」
「来たなサッカー馬鹿、どうせはやての飯をたかりに来たんだろ」
「あんまり間違ってないな」
「ったく、ちったあ自分の家で食えよ」
「そういうなよ。ほら、アイス買ってきたぞアイス」
「わー、ありがとなサッカーのお兄さん」
「ちょ、現金すぎだろ」
「うっせーよ。おまえはあんまり好きになれねーけど、アイスに罪はないんだよ」
「確かにアイスに罪はないな。みんなの分があるぜ、適当に食ってくれよ」
「おまえはいらんのか？」
「自分の分はもう食った」
「あ、サッカーのおにいさんや、こんにちわぁ」
「こんちは、はやてちゃん。足は大丈夫？」
「まだ車いすやけど、リハビリしたらもうじき歩けるようになるらしいんよ」
「そうか、それは良かったな。…よぉ。ザフィーラ、元気してたか？」
「むろんだ。…主も、テレビでおまえの活躍を見ているぞ」
「そりゃ応援してくれてありがとう。…そだ、こんどＵ−２３の代表に選ばれるかもしれないんだって」
「あら〜Ｕ−２３って、なにかしら〜」
「２３歳以下の選手の集まりだよ。オリンピックに出られるのもＵ−２３が大半なんだぜ」
「代表に選ばれるというのは、名誉なことなのか？」
「名誉っていうか、実力を認められるってことじゃあるよ、シグナム。
けど、俺はクラブチームのほうが大切だな。名誉は名誉なんだけど、サッカーは
個人技の集大成じゃない。チームとしてきちんと機能しないといけないから
監督の戦術に合ってるかどうかが、個人の能力より重視されるんだ」
「そうか…あのとき、おまえが言おうとしていたことは、それなのだな」
「ああ、１人１人ががんばっても、それだけじゃ、集団戦には勝てないってこと。
もちろん、特定の１人がずば抜けて実力があるなら、そいつを中心にするプレイもありだけどな。
たとえば、ハットトリックとれるようなストライカーとか」
「ハットトリック？」
「一試合に１人が３点取ることだよ」
「スリーラン打てば一発だろ」
「いや、野球じゃなくてサッカーだから。サッカーは一度に１点しか入らないから」
「３ポイントシュートはないんですか？」
「シャマルさん、だからそれバスケットボール…」
「ふむ、とにかく、ハットトリックというのが、個人技に優れたストライカーの証明なのだな」
「もちろん、チームメイトの協力は不可欠だけどさ。適切なクロスを受けなきゃ
ゴールなんて決まるわけないんだから」
「そうか。それで、おまえには出来るのか？」
「そりゃわからないよ。狙って出来るものじゃないけど、狙わなきゃ出来ないし」
「…狙ってみる気は、ないか？」
「…そーだなぁ…よし、わかった、シグナム、次の試合、ハットトリックを狙うぜ」
「ふむ、ちょうどテレビ中継があるな」
「ああ、中継があるからな。ハットトリック取ったらなんかくれよ」
「出来たらの話だ」
…で、馬鹿兄、なんと本当にハットトリックを達成しやがった。
もちろんヒーローインタビューは馬鹿兄だ。
そのヒーローインタビューで〜全国放送で、あの馬鹿、いきなりこう切り出しやがった。
「シグナム、見てるか？ちゃんと約束通りハットトリック達成したからな」
…Ｕ−２３候補のストライカー。マスコミからある程度の注目は受けてる立場だ。
直ぐに「シグナムって誰？」という調査が始まった。
これをもみ消すのにグレアムおじさんは相当苦労したらしい。
ねこ師匠が書類を改ざんしたり、変身魔法でパパラッチまがいを煙に巻いたりして
なんとかシグナム達がニュースだねになることは防いだが、あまりに
心臓に悪い、ということになった。
結果、あの馬鹿兄に、八神家と縁を切るか、いっそミッドチルダに行くか
どっちかにしてくれと、管理局から申し入れがあったんだ。
馬鹿兄はミッドチルダ行きの方を選び、そうして、今でも馬鹿兄は
ミッドチルダでサッカーを教えている。
もうじき、ミッドチルダでもサッカーのアマチュアリーグが出来ることだろう。
おれの妹の方は、普通にボクシングをやっている。
ザフィーラやアルフともスパーリングをしているだけあって
実力のほどは折り紙付き、女子ボクシング界の彗星として、タイトル総なめの勢いだ。
あと、八神家のメンバーの残り、ヴィータは本局に入って武装隊の一員として働いている。
はやてちゃんから、なのはが無茶しないよう守って欲しいと頼まれたらしい。
本人は、本局ならはやての送り迎えが出来るから、って言っているけど。
そうそう、最初の内は、なのはちゃんとヴィータのコンビじゃなくて
なのはちゃんとフェイトちゃんのコンビだった。
けど、あのコンビだと、お互いが無茶をやりあって、任務は達成するけど
回りの破壊の方も半端じゃないってことで、コンビは２年経たずに解消された。
フェイトはまたアルフとコンビを組めばいいとしても、なのはちゃんは
まさかユーノとコンビを組み直すわけにもいかない。
それで、なのはのコンビ役として、ヴィータが指名されたってわけ。
シャマルは、本格的に医師としての勉強をしている。
自分が、クラールヴィンドの回復魔法だけに頼らない、本当の医者だったら
はやてちゃんの体調不良にも、適切な対処が出来たんじゃないか、そう思ってのことだそうだ。
なにか頼りないお医者様だけど、患者と一緒に考えてくれるという意味では
天職なのかもな、って思う。
そろそろ、俺たち、義経軍団の話をするべき時だろう。
なにしろ、このお話は、少女義経伝３なんだから。
静さんは、ミッドチルダに移住した。
あの馬鹿兄を含めても、ミッドチルダ移住第一号だ。
管理局の踊り子として、管理局のイメージアップ作戦に活躍中で、さらに
参謀職の資格も持っている。軍師として、義経軍団をサポートする係だ。
玲奈、与一、紅葉、楓、俺、そして九羅香の６人は、
本局属のミッドチルダ出向陸士という身分になっている。
陸と海とは仲が悪い。優秀な魔導師を海が抱え込んでいる一方
陸は質量兵器ぎりぎりの装備を陸士に配備したがるからだ。
陸から海を見れば、優秀な人材をかき集めて陸の負担を少しも省みてないように見えるし
海から陸を見れば、質量兵器まがいの装備をすると、いつか管理世界の征服を
管理局が志すのではないかという、余計な不安を与えてしまうという心配をする。
もっとも、この問題、優秀な魔導師が十分な数確保出来るのなら
解決できることではあるんだけど。
その、優秀な魔導師の十分な確保、という意味で、最重要な場所。
そこへ、今俺と九羅香は向かっている。
与一と玲奈、そして楓は、最近、ぽつぽつ現れるようになった、ガジェットドローンに対抗する
パトロールに出かけている。 ＡＭＦなるやっかいなものを持ってるんだけど
与一にせよ玲奈にせよ、質量兵器まがいのアームドデバイス使いだから
ＡＭＦはそれほど苦にしていない。
楓は、二人のサポート役、ヴォルケンリッターで言うシャマルの役回りだ。
紅葉は、九羅香の副官として働いている。九羅香達…つまり、俺たちだが…の
スケジュール管理や、俺たちが活動しやすくするための根回しが紅葉の担当だ。
管理局システムは、決して聖人君子が集まって運用してるわけじゃない。
むしろ、コネと情実がまかり通る世界だ。しかし、それは少なくとも
次元世界をまたがる戦争は阻止しているし、ロストロギアによる
世界の破滅も、それなりには防いでいる…それなりでしかないことは
プレシア事件や闇の書事件を見ても明らかだけど。
「…弁慶、ついたって」
「みたいだね。…ありがとう」
俺たちは、タクシーの運転手に料金を払って、優秀な魔導師供給に最重要な場所
陸士学校へと到着した。
「ようこそ、九羅香さん。立派になったね」
「こんにちは、校長先生。今年の入学生はどうですか？」
「今年は結構豊作ですよ。Ｂ級の生徒も入りましたし」
「Ｂ級かぁ…私と同じだね」
「魔力値がＢ級でも、魔導師ランクは陸戦ＡＡＡ＋。魔導師の腕前は
決して、魔力値がすべてを決めるわけではない。
それを立証してくれてますよ、九羅香さんは」
「ありがと。まあ、戦技大会でも、シグナムには負けられないからね。
相応に努力はしてますよ」
「校長、そろそろ行きましょう。生徒をあまり待たせてもわるいですし」
「そうですね、弁慶さん。…あなたも、九羅香さんの相棒として
活躍してるそうですね。話は聞いてますよ」
「参ったなぁ…魔力値関係なしに、士官学校スタートだったから
あんまり持ち上げられても」
「士官学校の教育について行けたのなら、それだけの実力があったということですよ。
たとえ、管理外世界から来たということで、入学に優遇を受けたとしても、
教育自体で甘い評価をしたわけではないのですからね」
「特別に優秀な師匠がいたのは事実です」
「リーゼ姉妹ですね。けど、努力できることが才能ですから。
うちの生徒にも、それはよく教えておかなければ」
「そうですね」
そんな話をしているうちに、校庭に全員集合している生徒達の前に校長が立つ。
俺たちの紹介をしているらしい。…で、俺は一体何をすればいいんだろう？
どうやら、紹介が終わったようだ、九羅香に話を振っている。
「んーと、私がさっき校長先生から紹介に与った源九羅香。
本局出校の陸戦ＡＡＡ＋魔導師だ。
こんな場所でみんなに話をするのは苦手だし、柄でもないんだ。
ただ、みんなに、これだけは言えるよ。
陸士学校に入った理由は、みんなそれぞれだと思う。
けど、入ったときの気持ち、自分が目指した夢、それは忘れないで欲しいんだ。
信じれば不可能だと思えることだって、必ず出来るよ。
Ｂ級の魔力値しかない陸戦魔導師が、Ｓ級の空戦魔導師と、本気の戦いで互角に戦う。
そのくらいのことなら、努力次第で出来るようになる。
魔力値は、魔導師の能力のすべてじゃなくて、あくまで、能力の一つに過ぎないんだ。
…けど、理屈ばっかり言っても仕方ないよね。…そだ、キミ、キミの名前は？」
「え、あ、あたしですか？あたしは、スバル＝ナカジマ、今年入学したばかりです」
「スバルか。…キミは、何のために入ったのかな？」
「あ、はい、あたしは…レスキュー隊に入りたいんです。
昔、空港火災の時に、管理局の方に助けていただいたことがあるんで…自分も、それが出来るように」
「そっか、…隣のキミは？名前は？」
「…ティアナ＝ランスター」
「うん、それで、何のために入ったの？」
「………自分は、執務官志望です。ですけれど、士官学校に入学できませんでしたから
陸士から順番に、上を目指すつもりです」
「そっか、私は生まれながらに大将だったから、下からたたき上げるっていうのが
どういうことか、正直よくわからないんだ。執務官って、フェイトが浪人してやっと
なったってことと、クロノも弁慶の御師匠さんを家庭教師に、やっとなれたってことぐらいしか
わからないよ。すっごい難関みたいだね。…けど、そこに至るための階段が、ちゃんと
見えているのなら、それは実現可能な夢だよ。
…えと、隣のキミは？」
「お、俺ですか？…おれは…」
「おーい九羅香、１人１人全員に聞くつもりか？」
「あ、ごめん弁慶、そんな時間なかったよね。
そだ、せっかくだから、弁慶、模擬戦につきあえ」
「いきなりかよ」
「見る事で学ぶっていうこともある。…３分、全力で行くよ。
いい、みんなよく見ておいて。弁慶は魔力値なし、私はＢ級。
それでも…真剣に技術を磨いて、適切な魔力の運用が出来るようになるなら
この程度の事は出来るようになるっていうことを」
「行くぜ九羅香！滅殺！神風陣！」
「鞍馬流奥義、縮地の法！」
「甘いっそこだっ！」
「甘いのは弁慶の方、魔法で重力制御すれば縮地の法で上にも行けるっ！
あ、みんな、一般には高速機動って言われてる技だよ。
自分の判断力よりも早く動くから、発動する前にきちんとどこに飛ぶかイメージしておかないと
空間把握出来なくなる。気をつけて」
「自分で魔法弾を撃って、それを回避させてる隙に自分のポジションを取るのは基本中の基本。
だけど、応用としてこういうのもあるんだぜ」
「秘剣！一騎刀閃！」
「マジックシールド」
「消えた？」
「師匠直伝、アルケミックチェーンっ！」
「あぶなっ！」
「…とまあ、魔法弾を撃つんじゃなくて、相手の攻撃にタイミングを合わせ
シールドをぶつけ、そのシールドの影に隠れると見せかけて
準備しておいたカウンターを打ち込むって手もあるわけだ」
「そういうことがあるから、深追いは厳禁、やるなら、じわじわやらずに
一撃で粉砕する」
「けど、バリアブレイクには時間が掛かるから、どうしても足が止まる瞬間は出来るんだよなぁ」
「だからこそ、しかけるタイミングを誤らないことと、相手がカウンターで
準備している魔法を読み切って対応することが大事」
「人によっては、こういう手を使うけどさ…行くぜ連続攻撃」
「最終奥義、明鏡止水」
「カウンターすら許さない速度で連続攻撃をくらわせてやるのも考え方」
「連続攻撃をがっちりとしたバリアで守るのも考え、カウンターの隙を
見つけ出すために全力で受けきるのも考え」
「…そろそろ、よろしいですか？」
「あ、校長先生、時間ですか？…まあ、この程度の事なら、訓練次第で出来るようになるよ。
魔力なんて、常時全開で発動するべきものでもない。必要なときに爆発的に発揮させるなら
２ランクぐらい上の破壊力なら普通に出せる。カートリッジ式デバイスなら
４〜５ランク上の力も不可能じゃない。だから、わたしはカートリッジ式の刀を使ってるんだ。
シグナムに、負けたくないからね」
「けど、カートリッジに頼らないやり方も間違いじゃない。いつでも、確実に、安定した力を
迷わずに発揮できるってのも、大切な能力だ。
与一みたいに、狙撃特化の魔導師だっているんだから」
「なにを言うべきかわからなくなっちゃたけど、とにかく、あきらめないことだよ。
正しい努力は、かならず、道を開いてくれるから」
そのまた４年後に起きること、それはまた別の物語だ。
このときであった二人の学生、スバルとティアナの物語も、また。
管理局の物語に、終わりはない。
そこにロストロギアがある限り、ずっと。
