異聞・少女義経伝・参
【第十七章】
〜決闘〜
ここは一体どこだ？
空間が暗転したと思ったら、突然巨大なホールの中みたいなところにでた。
全体が金属質の壁？ どんな妖術を使ったんだ？全くわからない。
「リンディ提督、全員の転送を確認しました」
「エイミィ、私は転送室内部に封印結界を施します。アースラ自体に対転送結界発動。
第９７管理外世界Bへ向けて全速前進、個人転送可能距離に到達ししだい
クロノは闇の書修復用プログラムを持って第９７管理外世界Bへ個人転送を。
グレアム提督、一緒に行ってくださいますね」
「リンディ提督、それには及びません。あと１０分あれば、アースラ自体が
第９７管理外世界Bに到着します」
「クロノ、それはどういうこと？」
「それは私から説明しよう」
「グレアム提督？」
「とはいえ、簡単なことだがね。魔力炉のオーバードライブを掛けた。
通常の最大戦速のさらに１割り増しの速力を出したよ。
エネルギー消費は二倍以上だがね。任務が終わったら、オーバーホールの必要があるな」
「…無茶なことを…でも、感謝します。
では、１０分以内に転送室の妖魔を排除します。
九羅香さん、みなさん、協力してくれますね？」
「くれますねも何も、他に選択の余地はない。行くぞ弁慶」
「わかった」
「バルデッシュ、カートリッジロード」
「Yes,sir」
フェイトが命じると、フェイトから借りている剣〜デバイスと言ったろうか〜
バルデッシュが、何かを弾く音がした。新たな魔力が剣に供給されたということか。
「龍樹萌芽！」
「神舞、まほろば！」
「源九郎！行くわよ…九尾の狐！」
「忍ねこども、あたしらも全力全開だぜ…千成猫箪！」
「金剛の三矢！」
「滅殺！神風陣」
「盛者必衰！」
「滅私斧撃！」
回りがどういう状況かにかかわらず、みんなの動きは鈍ってない。
判断も間違ってない、私も負けてられないかな。
「…妖術は苦手なんだけど、こういう時はこっちの方が役に立つかなぁ…
奥義、瞑想螺旋！」
「馬鹿兄、自分の身ぐらい自分でまもりなさいよ」
「言われなくても！…この程度のフィジカルファールならかわすのは難しくないぜ」
「あんたら無理しない。バインドで空中にひっぱり上げるから
ゆっくりしてなって」
「わ、へんなことするなよ…」
「今空中に結界作って守るからね」
「そこのボクシング馬鹿は、どうする？自分で戦う」
「やらせてもらうわ。…あの犬男とは、決着つけたいし」
「いい根性ね…でも、決着つける前に怪我しないよう、加勢するわ」
「そうね、恩に着るわ」
あの二人は、ロッテにアリアだったかな。
時々名前が混乱する。リーゼ姉妹で、リーゼアリアと、リーゼロッテだったっけ？
「九羅香、後ろ！」
「一騎刀閃！」
「無事か九羅香」
「ごめん、弁慶。ちょっと考え事してた」
「いくらここの妖魔が雑魚たって、油断して勝てるほど甘くないぜ」
「そうだね。気合い入れていかなきゃ」
そうだ、ここがどこか考えるのは、 目の前の妖魔と鬼門を片付けてからでいい。
「リィン、回り、なーんもあらへんか？」
「はい、主。 次元航行船アースラが、回り全体を転送で受け入れたようです」
「そうか・・・それで、わたしは、これからどうすればええん？」
「主は、夜天の書が暴走しないよう、制御に専念していてください。
私は、可能な限り、景時が夜天の書の魔力で周囲に問題を引き起こさないように
抑止します」
「倒してしまうわけにいかんの？」
「危害を加えれば加えるだけ、自己防衛プログラムの暴走の確率が高まります。
修復プログラムの到着まで、けっして暴走を始めさせるわけにはいきません」
「そうやな…自己防衛プログラムの抑止はかならずやりとげる、他のことは頼むで、リインフォース」
「…はい、かしこまりました、主」
景時は、地面を含めて完全に、自分を守るため、二重にバリアを張り巡らせている。
これでも、自己防衛プログラムの防御結界にくらべれば薄い。しかし、景時本人に
危害を加えるわけにいかない私にとっては好都合だ。
むしろ、問題は私自身にある。いかにして、打撃を受けず、攻撃を受けきるばかりか
私だけを攻撃するように景時を誘導するか。
…このような戦いは、多くの主に仕えて戦ってきた私でも、初めてだな。
「なんじゃ？一体何が起きた？」
景時は、何が起きたか認識していないらしい。転送魔法についても
夜天の書に記載されているはずだが、記載されている夜天の書を
所持しているからといって、魔法についての知識が身に付くというものではない
「空を飛べばわしの攻撃を受けずに済むとでもおもっておるのか？
いでよ、サンドワーム、わが魔力を受け、あの女を飲み込んでしまえ！」
ヴィータが砂の惑星でリンカーコアを蒐集したサンドワームが現れる。
妖魔を呼び出す事ができるのなら、サンドワームも同様に呼び出せるわけだ。
一度とらえられて力試しをするのも悪くはないが、今は打撃を受けてはならない身だ。
一撃で葬らせてもらおう。
「…レバンティン！」
シグナムの武器を呼び出す。
シュランゲフォルムでサンドワームの触手を切り落とす。
サンドワームが私を頭から飲み込もうと襲いかかる。
正面から来る相手なら、さほど恐れる必要はない。
「飛燕乱舞！」
燕返しの逆、頭から切り下げ、地面に達すると同時に薙ぐ。
サンドワームのごとき、一撃で仕留めることが出来る。
「…い、いまのはほんのコテ試しよ…いでよ！……サンドワーム２匹！」
「サンドワームより強い生き物を見つけられなかったのだな。なんどやっても同じ事だ」
時間を稼ぐ必要がある。とはいえ、むしろ素早く片付けることで
景時を悩ませる時間がとれるだろう。レバンティンで二匹とも切り捨てる。
私にとっては問題にもならない相手だ。
「…終わりか」
「ほざけ、ならばこれでどうだ、１００万匹妖魔大作戦じゃ」
大地を埋め尽くす鬼門。それがすぐに弓を持った妖魔を吐きだしてくる。
高度を高めれば奴らの放つ矢など、届くはずもない、何を考えている？
「ふははははは、恐れてにげだしおったな。
さあ、妖魔ども、直ちに京に攻め込むのだ。
天下を我が手におさめるときが来たわ」
幸せ回路とは、こういうことをいうのだな。
あのような矢が当たったところで、私にはどうということはないはずだが
万が一を考えたのを、実力で排除したと勘違いしたのか。
しかし、あれを逃すのはやっかいに違いない。レバンティンでなぎ払うにも
数が多すぎる。…主、申し訳ありません、多少誘爆するかもしれませんがお許しを。
「…何を始める気じゃ？」
この空間に宿る魔力を集める。自分自身の魔力と、今までの戦いで空間に漂う魔力とを。
「…砕けよ、流星の輝きをもって…スターライト・ブレイカー」
景時に直撃させないよう、スターライトブレイカーをたたきつける。
そこからの魔法的爆圧が、景時の生み出した妖魔をなぎ払っていく。
景時の結界の第一層は破壊したようだが、第二層までは影響がないようだ。問題ない。
そして、景時が生み出した妖魔どもは一掃した。
ディアボリックエミッションのような、初めからの広域破壊魔法と違い
本来砲撃魔法であるスターライトブレイカーの爆圧を使うことで、威力を押し下げておく。
景時自身には打撃を与えまいとすると、こういう工夫も必要になる。
「…なるほどのぉ…スターライトブレイカーか。そのような魔法もあるのじゃな。
だが、それを見せたのは失敗であろうな。わしにも使えるところ、見せてくれるわ」
「！」
景時が片手をこちらに示す。
スターライトブレイカーを景時も放つというのか？
いや、出来ておかしくはない。出来なければ、そのことのほうを驚くべきだろう。
「喰らえ、スターライトブレイカー！」
「ソニックムーブ！」
ぎりぎりまで引きつけ、全力でかわす。
さすがに景時には、空中でタイミング良く爆破するなどという芸当は無理だ。
「！」
「くくく…油断大敵とはこのこと。初めからわしのねらいはこれ一つよ」
「リィン！無事か？」
「大丈夫です主。それよりも制御に専念を」
「わかった、けど、サポートがいるならすぐにいうてや」
うかつだった。スターライトブレイカーを回避したのはいいが
景時は、初めから私をバインドするのが目的で、スターライトブレイカーは
バインドのための見せ球だったのか。景時に、そんな知恵が回るとは想定しなかった。
「魔力が少なければ致命傷にならないかもしれないが、単体を撃破するには
この魔法が最強のようだからな。…行くぞ、フォトンランサー、ファランクスシフト！」
無数の魔法弾が私に向かって降り注ぐ。
夜天の書の魔力で放つフォトンランサー、一発一発の威力も馬鹿にならない。
その上に、夜天の書の魔力で打ち込む。一秒間に数千発の魔法弾が直撃すれば
さすがの私でも、耐えきれるものではない。
直撃すればだ。
「ふははははは、貴様を葬れば、闇の書は完全にわしの支配下になるわ。
そろそろよかろう。完全に消えておろうな…………なんじゃと！」
「バインドブレイクぐらいで驚いてもらっては困る」
「一体、どうやって？」
「幻術ぐらいは普通に心得ている。景時、おまえが攻撃したのは
私の幻影。防御結界だけが本物だ」
「よかろう、ならば幻影無関係に撃破してくれるわ、フォトンランサージェノサイドシフト！」
「クラールヴィンド！」
クラールヴィンドを使って盾を作る。
デバイスなしでも作れなくもないが、やはり、デバイスを使った方が
魔力消費が少なくて済む。
それに、景時といえど、甘く見てはならないことがわかった。
ジェノサイドシフト以外の攻撃にも対処できるよう、すこしでも余裕を保持しておきたい。
「・・・・・・ぜぇぜぇぜぇ…くそ、なぜ落ちん！」
「何も考えていなかったのか。むしろそちらに驚くべきなのだろうな」
「ほっとけ、これで時間は稼いだ」
「それが何の役に立つというのか」
「わからんか。わしの魔力は、闇の書の魔力ばかりではないということを。
神機の魔力で完成された闇の書じゃ。闇の書の魔力を神機の魔力で埋め尽くしていけば
貴様をわしの支配下におけるはず。魔力の無駄遣いもそのための一法よ」
「そうやって魔力を無駄に使ってくれると助かる。
それだけ、主の支配力が高まる」
「主？暴走しないように支配しているというあの小娘か。
だからどうした。そいつに出来ることなら、わしにも出来る。できるはずじゃ」
「いや、出来るとは思えない」
「ならば試してみるまでよ。受けよ、清盛が妖術…盛者必衰！」
「なにっ！」
しまった！普通のシールドが通用しない魔法か。
「主、大丈夫ですか」
「全然大丈夫や。リィンが全部受けてくれたんやな」
「はい、主が無事ならよかったです」
「一撃で済むと思うなよ。まだまだ行くぞ」
「当たらなければ意味がない」
景時の妖術をかわす。あれを防御する魔法も時間があれば
対抗策をみつけられるのだろうが、それよりかわす方が早い。
だが、景時に気づかれるより前に、そろそろ反撃しておくべきだろう。
「行くぞ、アイゼン…ギガントフォーム」
「ヤヴォール！」
「ふん。巨大ハンマーで何をするつもりだというのか」
「ハンマーで行うことは一つしかあるまい。…たたきつぶせ！」
「ラウンドシールド！」
景時は、結界の外側にシールドを発生させた。
こういうことにかけては、意外と判断がいいようだ。
内側に作ると思ったのだが。
ハンマーはシールドを叩き破り、さらに景時の結界の一層目を粉砕した。
だが、二層目をもまとめて砕くには威力が足りない。
再び振り上げる。こんどこそ砕ききる構えで。
「甘いわ！闇の書を使いこなせると言ったはずよ。飛べ！わし！」
「飛べるのか？」
「あたりまえじゃ！わしをなんだと思っておる。行くぞ制御プログラム。卑劣な一撃」
「そんな見え見えな一撃を卑劣と呼ぶわけがあるまい」
景時が何かする前に殴り落とす。
飛ぶ、といっても、まっすぐ飛び上がるだけだ。空戦が出来るわけではない。
「殴ったな、殴りおったな」
「のこのこと飛んできたからな」
「おのれおのれおのれ…（にやり）」
「？」
今の笑いはいったいなんだ？
「いでよ！サンドワームども！」
「またサンドワームか。なんとかの一つ覚えとは、よく言った物だ」
「ふん。こんどのサンドワームはひと味ちがうぞ。なにしろ、空が飛べるのだからな」
「空を飛んだからなんだというのだ……面倒だ、まとめて落とすぞ…テオアーッ！」
ザフィーラの技、シールドを刃として用い、サンドワームを切り裂く。
消耗の激しい魔法で長丁場には向かないが、私は、長丁場で戦うつもりはない。
「ちぃ…これではけっちゃくがつかんな」
「同じ魔法の源で戦っているのだ。決定的な差がつかないのがむしろ当然」
「同じ力量での戦いであったとしても、一瞬の気の迷いで勝負がつくこともよくあること。
貴様が……貴様が…なるほど、そうか。そういうことか」
「…何を納得している？」
「貴様、わしをわざと攻撃してないのだな。そうか、くくく…そうとわかれば、貴様に用事はない」
「まて、どこへ行く」
「わしのねらいは天下と言ったはず。わしと戦う気がないのなら、邪魔立てせぬことよ」
「…主のため、おまえから夜天の書を取り戻すと言ったはずだ」
「そう、口ではそういったろう。じゃが、わしを倒すのは、無理なのであろう？
儂を倒すと、何か不都合でもあるようじゃな。では、わしも貴様を攻撃などせぬことにしよう。
わしのねらいは天下、貴様など、初めから眼中にないわ」
「…主のため、行かせることは、できん」
「馬鹿なことを。わしがなにをしようと、関係がないではないか」
「リィン、…ぶっとばして、ええよ。私は気にせずに」
「主？」
「ええんや。迷惑かけへん、ちゅうたやろ。景時に打撃与えても、ちゃんと私が制御する。
せやから、…思い切りやってええよ。無理に受けきろうなんてかんがえへんでもな」
「……主……」
「…本気でやるというのか？このわしと？」
「それが…主のためであるなら」
「よかろう、かかってくるとよいわ！」
「はーい、呼ばれず飛び出てじゃじゃじゃじゃーん」
「なんじゃ？」
「この声は…リンディ提督か」
「はーい。今アースラが到着したわよ。今からすぐに、グレアム提督とクロノをそっちに
転送で送るわ」
「転送？なるほど、…この力、この国を支配するだけでは物足りぬと思っていた所よ」
「あら〜何を始めるつもりかしらね」
どうやら、私は、必要なだけの時間を稼いだようだ。
しかし、景時の奴、さらに何か良からぬ企みをしているようだが、一体なにを始めるつもりなのだろう。
