「始まったみたいだね」
「そうだね」

 

仮面の男二人が、ヴォルケンリッターと九羅香達の戦いを見守っている。
今回は日中なので太陽を背にしている。
直射日光に晒されていれば当然暑い。
あんまり暑いので、二人とも日傘を差している。
この日傘から生じる影で、存在を見破られる可能性はあるが
眼下で繰り広げられている戦いに、参加者全員が集中しているのだから
ちょっとやそっとのことでは、見破られないだろう。

 

「そうとも言い難いよ。気配を消してたつもりなのに、前は矢で撃たれたもんね」
「けど、今回は、存在を知られたとしても、そう簡単には攻撃を受けないよ」
「そりゃね。…さて、今回はどうなるかな」
「へー。よくやるね、あのヴィータって子。防御力に物を言わせた不条理殺法かぁ」
「人数差を埋めるためには、ああいう戦い方も仕方ないか。
　守護騎士相手に、そこまでやらせる、あいつらのほうを褒めてやりたいね」
「それじゃ、あの九羅香って子とシグナムはどう見る？」
「まず、そっちの意見を教えて」
「…AAA＋越え確実じゃないかな。どっちもS級で行けると思うよ。
　てか、何あの刀。渡したとたんに、B級はあったはずの弁慶って子の魔力値が
　計測不能レベルまで低下して、かわりに九羅香の魔力値がAA相当まで上昇してる？
　普通のデバイスじゃあり得ない性能ね」
「所有者に魔力供給出来るデバイスかぁ。ロストロギアって言うには今一
　性能がぱっとしないけど、ミッドチルダの技術じゃ作れないね」
「作れないね。…さて、戦況はっと…」
「…ヴィータって子、覚悟完了？」
「うん、完了みたい。ヴォルケンリッターが今勝ちに行くなら、あれしかない」
「だけど、あれじゃ、神機にたどり着く前に力尽きちゃうんじゃないかな」
「べつにいいでしょ。介入する前にせいぜい弱っておいてくれたほうが好都合」
「けど、蒐集に失敗されると大いに迷惑」
「なんなら、今から介入する？蒐集するだけなら、出来るでしょ」
「もう少し、展開を見守りたいね。…まったく、惜しいなあ。
　こんな掘り出し物なのに、片っ方は封印するしかない犯罪者。
　もう片方は、管理外世界の住人だなんてね」
「管理外世界の住人をスカウトしちゃいけないって法律はないよ」
「そうだね」

 

仮面の男達は、あくまで状況を見守るつもりのようだ。

 

---

こいつらに味方する。なんて気楽に言ったのはいいが
どうやら、神機を蒐集するというのは、俺が思っていたこととは
全く違う、命がけの戦いを意味するものだったようだ。
シグナムと、九羅香だったっけ？あの二人の戦いは
文字通りの真剣勝負、一瞬の気のゆるみでどちらが斬られてもおかしくない。
ザフィーラと俺の妹の戦いは、一対一ってならザフィーラが勝つんだろうが
弁慶の奴と楓だっけ？それに、その楓って子がつれてる狐を同時に
食い止めるとなると、消耗が激しいようだ。
ヴィータに至っては、相打ち上等の戦いで傷だらけ。

 

地力はヴォルケンのほうが上なのかもしれないが
このままでは、勝てないな。
各人が死にものぐるいでがんばればなんとかなるほど、戦いは甘くない。
向こうは、きちんと連携がとれてるみたいだけど、こっちはなんだか
動きがばらばらだ。
けど、まだ、出来ることはあるはずだ。

 

「なあ、はやてちゃん」
「なんや？サッカーのお兄さん」
「はやてちゃんが、あの４人の主なんだよな」
「…そうやな。名ばかりの主やけど」
「けど、今は、名ばかりってわけにも行きそうにないぜ。
　主なら主らしく、ちゃんと、指示出してやらないとな。
　俺の見立てが正しければ、この勝負、弁慶達の勝ちだ」
「…そうか、だめか？」
「４人がばらばらに戦ってたんじゃ、勝ち目がない。
　けど、やり方次第じゃここからひっくり返せると思うぜ」
「そうなんか？どうすればええん？」
「それは、はやてちゃんが自分で考えてあげなきゃ。
　俺の流儀はあるけど、俺は、あくまで助太刀だからさ。
　それに、俺の作戦で勝てるって保証はない。
　ヴォルケンリッターだって、俺の言うとおりにやるんじゃ面白くないだろ。
　はやてちゃんの…主の命令で、だめなら、あきらめもつくかもしれないけど」
「はじめからだめなの前提なんか？」
「あ、これは悪かった。…けど、今まで戦いをみてて、どうすればいいかって
　大体わかってるんじゃないかな。要するに、神機を奪いさえすればいいんだし
　神機を奪うには、観月って子の所にたどり着かなければならないし
　観月って子の所にたどり着くには、どうしてもそれを守る弁慶達を
　かいくぐる必要があるし、弁慶達をかいくぐるには、力業だけじゃ無理だろうし…」
「…なんとなく、言いたいことわかったわ。
　けど、わたしなんかの考えで、ええんやろか？」
「みんな、目の前の戦いに必死で、全体が見えてないんだ。
　全体を見ての指示だったら、岡目八目ってこともある」
「そうか…なら、みんなに頼んでみるわ。
　けど、きっかけ、どないしょ…配置転換するとき、すきができるのはうめあわせできへん」
「それは俺にまかせとけよ。一瞬でよければ、時間を稼いでみせるぜ」
「そうか、なら、頼むわ」

 

---

 

あのサッカー馬鹿兄、一体何を始めるつもりだ？
フリーキックの構え？一体、何を狙う？

 

「…サッカーのお兄さん、みんなの了解はとったで」
「よし、なら、ホイッスル鳴らせっ！」

 

サッカーボールを蹴る…これはっ！

 

「与一！危ない！」
「なに？」

 

俺は与一が戦闘に専念出来るよう馬鹿兄のフリーキックを体で止めに入る。
腐ってもJリーグのストライカーだ。当たったらかなり痛いんだが
そんなこと言ってる場合じゃない。

 

けど、その一瞬、俺たちの動きが止まった。
その一瞬のうちに、ヴィータがはやてちゃんのそばに戻って
かわりに、シャマルって人がこっちに向かって走ってくる。
しっかりとガードを固めたまま前進だ。けど、それじゃ
たぶん足りないぜ。

 

「行くぜ、おまえら、死にたくなければどきやがれっ！」

 

ヴィータはそう叫ぶと、誘導弾をこっちに向かって打ち込んできた。
４発同時射撃だ。誰を狙った？

 

「甘いわね。防御結界が作れるのはあんたらだけじゃないのよ」
「誘導弾なんて、ゆっくり引きつけて、かわせば地面を撃つって相場決まってるわ」
「滅私斧撃！」
「…はっ！」

 

観月ちゃんも、気配を感じて誘導弾をかわす。
けど、その誘導弾回避のために、俺たちの意識はザフィーラとシャマルから
引き離されてしまった。
一気にザフィーラが観月ちゃんに向かって突進してくる。

 

「廉也！死ぬ気でザフィーラを止めろっ！」
「わかってますっ！」

 

廉也がザフィーラに突っかかっていく。
ザフィーラのほうも死にものぐるいだ。
廉也の攻撃を避けようともせず、まともに受けながらそれでも観月ちゃんに
むかって突き進んでくる。

 

「観月様、僕にかまわずっ！」
「観月にそんなこと言うのは無駄よ。いけっ！源九郎！」
「はい、楓様」

 

源九郎が素早くザフィーラにとりつく。
が、

 

「次が来るぞ、気をつけろ」

 

与一の言葉で我に返る。
ヴィータの誘導弾がさらに襲いかかってきた。

 

「今度は俺のほうかよ…であっ！」
「ふっ。それでは私にはあたらんな」
「死んでも…離しません…」
「楓様…あとは頼みますよ」

 

ちっ。考えやがったな。
観月ちゃんに向かって突撃していくザフィーラを止めようと思えば
どうしても、誘導弾をかわすわけにはいかないってことか。
直撃を受けて源九郎と廉也も脱落だ。
けど、…ザフィーラだって、いつまでもは戦えないだろ。

 

「そういうことです〜、神舞・すめらぎっ！」
「孤高の桜花」
「外法・魂喰らい！」

 

ザフィーラのほうも、観月ちゃん達の連続攻撃がかわしきれない。
まともに攻撃を受けてしまう。さらに、追い打ちを掛けて

 

「…無想の一矢」

 

与一の矢も直撃だ。
ザフィーラも、ヴィータ同様かなりの重傷を負ったはずだ。

 

「まだ、かすり傷だ」
「そんな強がり、いつまで言えるつもり？」

 

俺の妹のパンチがザフィーラをとらえる。
今まで有効打を与えられなかった俺の妹が
綺麗にパンチを決めた、ということは、ザフィーラに
あの４連続攻撃が、かなりの打撃を与えたということなのだろう。

 

「与一っ！連続射撃だ、ヴィータに誘導弾を撃たせるなっ！」
「心得た」

 

そういうと、与一はヴィータに矢をいかける。
ヴィータのほうも、こんどははやてちゃんを守らなければならないから
そうそうよけてもいられない。グラーフアイゼンで飛んでくる矢を
たたき落とす。

 

けど、それはこっちも計算の内。
あのやっかいな誘導弾さえ封じられれば、こっちにも勝機はある。

 

「どうしたの？私と互角じゃまずいんじゃない？」
「そうだな。だが…俺は、仲間を信じる」
「信じるって、どういうことよ」
「それはつまり…こういう事だっ！」

 

ザフィーラが人間形態から犬形態に姿を変える。
一体？なっ！

 

ザフィーラの背後から、ヴィータの撃つ、非誘導弾が俺の妹を直撃した。
ボクサーとはいえ、俺の妹は普通の人間だ。
玲奈が一撃で落ちる弾なら、俺の妹だって一発で落ちる。

 

「あと、３人っ！」
「けど、ヴィータはまた与一の矢が当たってるぜ。
　このままじゃ、ヴォルケンズ全員、神機を手にするころには
　死んでしまうぞ。」
「それでかまわんっ！」
「…あんたより、はやてちゃんがかまうんじゃないか？」
「これは、主の命でやっていること。守護騎士プログラムは
　一旦蒐集が完了しさえすれば、主に負担を掛けることなく再起動で復活できる」
「そういうことかっ！…それで捨て身の攻撃が出来るのかよ！」
「そういうことだ。…弁慶、行くぞ」
「冗談じゃないっ！」

 

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こちらは、再び仮面の男。

 

「そろそろ、私たちの出番かな？」
「うん、これでヴォルケンリッター側に状況が有利に傾いてきたみたいだからね」
「……そうとも言えないみたいね。
　ほら、あれ見て」
「あれ？…ああ、転送魔法陣だね。一体誰が現れたの？」
「ほら、なのはにユーノ、あとよくわからないおっさんが１人」
「景時って現地人でしょ。景時はともかく、あの２人に介入されるとやっかいだね」
「さすがに、今のヴォルケンズじゃ、勝ち目ないね」
「なら、予定をすこし変えますか」
「あの２人を押さえて、それからヴォルケンズが蒐集を完了させてから
　現場に介入する。ところで、時間は大丈夫？」
「アースラ到着まであと１時間ちょっとあるよ。大丈夫」
「よし、じゃ、とりかかり…」

 

”ストラグル・バインド”

 

「な、なんで？一体だれが？」
「ふふ、クロノがいないからって、油断したかしら」
「な、リンディ！なんでおまえがここにいるんだよ。
　アースラの指揮はどうした？」
「リーゼ・アリア。アースラの心配をしてくれてありがとう。
　けど、アースラにはもうクロノが帰ってきてるのよ。
　あなたたちの、お父様も一緒よ」
「どういうことだよ、それはっ」
「それは、フェイトちゃんが説明するわ」
「フェイトが？」

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「あら〜よく考えたわね〜。私ももうすこしで〜だまされるところでした〜」
「あー、ごめんなさいはやてちゃん…」
「まったくノーマークだったわ。殺気が全くなかったもの」
「…魔力を感じるのに専念していて、シャマル様は見えてませんでした」
「一体何が起きたんだ？」
「簡単にいいますと〜ザフィーラさんも〜ヴィータさんも〜囮だったんです〜」
「…あちゃー。ごめんなあ、うまくいくおもうたんやけど」
「ねらいは悪くなかったと思うぜ。…まだ、終わったわけじゃないしな」

 

何が起きたかって？
ヴィータとザフィーラに、俺たちが完全に気を取られてる隙に
普通に走ってきているシャマルが、観月ちゃんから神機を奪おうとしたんだ。
俺たちは、ヴォルケンリッターは魔法使いで、魔法の攻撃をしてくるっていう
先入観を持って戦ってた。それで、魔法を一切使わず、ただ普通に走ってくる
シャマルが、見えていたのに、目に入らなかったってわけだ。

 

静さんは、ぎりぎりで気づいたようで、シャマルを抱き留めて阻止している。
けど、じり貧には変わりない…と思っていたとき、地上に転送魔法陣が現れた。

 

やがて、その魔法陣から、１人の人影が現れる。
その魔法陣から現れたのは、フェイトだった。

 

「…フェイト…ちゃん？…」
「えと、誰なんだ、あれは」
「…わたしの見間違いでなければ、フェイトちゃんや。
　けど、なんでフェイトちゃんが？フェイトちゃん…魔法使い…やったんか？」
「…みんな、戦いをやめてほしい」
「テスタロッサ。何をしに来た」
「けっ！管理局のお出ましかよ。けど、それくらいで引き下がれるか。
　あとちょっと…本当にあとちょっとなんだ、だから…」
「よせヴィータ！テスタロッサのリンカーコアは蒐集した。
　今のテスタロッサは、とても戦える状態ではない」
「なんだって。じゃ、一体なにしに来たんだよ」
「…話し合いに来た。話し合いの使者は槍を持たない。
　今なら、わたしが…管理局が話し合いたいと言っても、信じてくれると、信じている」
「…」

 

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「どういうことだよ」
「大人って、ずるいのよね〜」
「リンディ、それじゃなんの説明にもなってないだろ」
「ここの状況をフェイトちゃんに教えたのよ。
　仮面の男が現れるようなら、なのはちゃん達が加わったとしても
　たぶん、ヴォルケンリッターにはかなわないだろうってことも含めて。
　フェイトちゃんなら、友達を見捨てるようなことは出来ないって、わかってたわ」
「だからって、話し合うって、何を話し合うんだよ」
「それは、あなた方のお父様が、やりかけて、投げ出してしまったことについてよ」
「投げ出した？あれは、実現不可能だっ」
「そうかもしないわね、けど、やりもしないであきらめていいことかしら？」

 

グレアム提督が、やりかけて、投げ出したこと。
それについての説明は、また次回にしましょうね。

 

 

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