異聞・少女義経伝・参
【第十一章】
〜計画〜
「そう、フェイトちゃんがやられたの」
「はい、今こちらで確認しました」
「エイミィ、中継転送準備、こちらから武装隊を派遣、フェイト＝テスタロッサを回収します。
その後第９７管理外世界の拠点を一時撤収、武装隊と一緒にアースラに戻ってきてください」
「わかりました、リンディ提督」
ここは、第９７管理外世界の海鳴市の、時空管理局アースラ組出張所。
見た目はただのアパートだけど、管理局の魔法科学の粋を集めた作戦室でもある。
「はー、けど、フェイトちゃんが一撃だなんて、なんて化け物かしらね。
あんなのにどうやって対抗するんだろう」
なのはちゃんとフェイトちゃんの、洋上決戦を思い出す。
単純な戦闘だったら、クロノにだって勝てそうな二人だ。
あの二人に一撃で勝てるようなら、文句なしに教導隊入りしてるはず。
たとえば、グレアム提督の使い魔の、アリア姉妹とか。
「リンディ提督、どうするつもりなのかなあ。
ただでさえ戦闘要員が少ないのに、もう１人欠けちゃってるのに」
と、こんな事ぼやいてる暇はない。
私はコンソールを叩いて転送中継プログラムをロードしておく。
転送魔法陣が室内で輝く。武装隊を受け入れてるんだ。
「エイミィさん、我々はどちらに向かえばよいのでしょう」
「すぐに転送するわ。状況はリンディ提督から聞いてるでしょ」
「はい、転送前のブリーフィングで」
「だったら話が早いわ。直ぐに転送するね」
「お願いします」
転送座標はセット済み。プログラムもロードが完了している。
魔力コンデンサにも魔力を充填済みだから、直ぐに転送にとりかかれる。
これでとりあえずフェイトちゃんは大丈夫なはず。
だけど、リンカーコア抜きされてるから、一週間はアースラの医務室で安静かな。
首をちょっとかしげる。
リンディ提督がなにをしようとしているのか、全然わからない。
今まさに、第９７管理外世界Bでは、ヴォルケンリッターが
蒐集を完成させようとしている。
それを阻止するための戦力になるはずのフェイトちゃんは、もう戦力として数えられない。
もう一人の頼れる魔導師のなのはちゃんは、ユーノくんと一緒に神機についての学術調査。
でも、それは中間報告さえろくに上がってない。
こういうとき一番頼れるクロノは、本局で無限書庫にこもったきりだ。
一体この期に及んで何を探すつもりなんだろう。
だけど、私はリンディ提督を信じるしかない。
上司だからというだけの理由ではなく、あのリンディさんなら
何か私には思いもつかないすばらしい計画があるんだと信じているから。
「そんな買いかぶられても困るのよね」
「提督、どうされました？」
「いいえ、こちらの話。
それより、フェイトちゃんの回収は上手く行ってる？」
「はい、武装隊はフェイト隊との合流に成功、現在エイミィさんの中継局への
転送準備に入っているところです」
「よろしい。フェイトちゃんの怪我の程度についての詳しい情報は？」
「アースラに到着し次第、医務官が検査することになってます」
「わかりました。…困ったわねえ。全然お話を聞いてくれる気配もないわ」
「話し合いは無理と言うことなんでしょうか」
「今のままだと無理ということになるでしょうね」
「では、力ずくということになりますね。また主を殺して１０年後待ちですか」
「最悪の事態が起きれば、そうね。
でも、まだあきらめるのは早いわ。クロノに連絡、A計画発動」
「A計画発動？A計画って、なんなんですか？」
「エー計画じゃなくて、エース計画って呼んで、Project A'sよ」
「はあ…」
リンディ提督の考えることは、時々ついて行けない。
一体A計画とは、何を意味してるんだろう。
「これは、クロノにだけわかればいいのよ。
他の人には、適時私が指示を出します。
とはいっても、計画を書いたのはクロノなのよねぇ。
だから、安心してクロノに連絡を入れてちょうだい」
「はい、わかりました」
クロノ執務官の計画だから、クロノ執務官に連絡を入れればいい。
でも、クロノ執務官の計画なら、何もこちらから連絡を入れる必要もないような…。
それとも、特定の事件が起きた場合に備えての計画だろうか。
それとも…いや、考えまい。
「こちらアースラのランディです。無限書庫のクロノ執務官と通信をお願いします」
「わかりました、クロノ執務官ですね、今呼び出します」
「…ランディ、呼び出さなくていいわ。無限書庫にA計画発動って言ってもらって」
「あ、はい、わかりました。ええと、呼び出さなくていいですから
クロノ執務官に、A計画発動と伝えてください」
「A計画発動…ですか？それだけで？」
「それだけでクロノ執務官にはわかるそうです」
「わかりました、直ちに連絡を入れます」
本局との通信はこれで終わり。一体何をしたのか全然わからない。
「さて、フェイトちゃんのお見舞いに行かなければならないわね。
無茶はわかってやらせたんだから、一言謝っておかないと」
「わかっててやらせたんですか？」
「相手は烈火の将シグナム。ちょっとやそっとで勝てる相手ではないわ。
話し合いでなんとか解決しないかと期待したんだけど、無理だったみたい」
「…ヴォルケンリッターは、感情のない戦闘機械ではないのですか？
以前の情報では、そうなっていたはずですが…」
「ええ、以前の情報ではね。
最新の情報ではまた別です。
詳しくは”魔法少女リリカルなのはA's”のDVDを見てね」
「そこで宣伝ですか」
「本編準拠ネタバレ上等の二次創作だから、本編を見てればわかることについて
細かい説明はしないの」
「いいわけにすらなってないですよ」
「だったら、今から説明的な台詞の羅列でもしようかな」
「いえ。いいです…もとい、止めておきましょうよ」
「そうね」
同じ頃、第９７管理外世界Bにある、北条家の都の別荘には
景時となのは、そして僕ユーノ＝スクライアの３人が転送を完了してた。
「景時さん。今捜索魔法で神機のありかを探します」
「捜索魔法？」
「ええ、これぐらいの魔法はこの世界にもありますよね」
「ユーノくんユーノくん。地球には魔法文化なんてないから」
「え？でも、政子さんは、僕が変身しても特に驚かなかったよなのは。
平行世界だからといって、魔法文化のレベルが同じだということにはならないんだ。
こっちの世界の方が、なのはの世界より、物質文明的には遅れているけど
魔法文化的には進んでるみたいだね」
「へー。そういうこともあるんだ」
「そうだよ。逆に、管理世界の中でも物質的な文明が進んでいる先進地域のミッドチルダだって
なのはから見たら、そんなに進んでるって感じがしないって思うからね。
魔法文化的には、なのはの世界とは比較にならないぐらいに進んでるけど
ミッドチルダの物質文明は、第９７管理外世界と同程度でしかないんだ」
「魔法と科学って、全然違うことなんだ」
「魔法と科学は同じだよ。ただ、なのはの世界は魔力素が薄くて、魔法文化が発達しにくいってのは
あるとおもう。その分、物質文明に偏ってるんじゃないかな。
こっちは、ある程度魔力素があるから、それなりに魔法文化もあるみたいだね」
「へー。さっすがユーノ君、物知りなんだ」
「まあ、…スクライア一族だから。
さて、みつけたよなのは。景時さん、さっそく出かけましょう」
「うむ。それはよいが、どうやって行くつもりだ」
「歩いて行ってもいいんですけど、ヴォルケンリッターがいつ現れるかわからないし
僕たちの存在は出来るだけ隠したほうが、景時さんにとっても、僕たちにとっても
よさそうですから、何か乗り物があればそれを使いましょう」
「馬ならすぐに用意できるぞ」
「ええ、では馬に乗っていきましょう」
「ユーノ君。私、馬に乗ったこと無いけど、大丈夫かな？」
「大丈夫だよ、景時さんが乗せてくれるよ」
「ま、まて貴様。いくらわしでも、３人乗りなどできんぞ」
「二人乗りが出来れば大丈夫です。僕はフェレットモードでなのはの肩に乗ってますから。
いいよね、なのは」
「うん、いいよユーノ君」
慣れない世界では、本来の姿より、フェレットもどきの格好のほうが
魔力消費が少なくて楽です。これから先、魔法で神機の位置を感じながら
移動するので、出来るだけ魔力消費を押さえたほうがいいでしょう。
「では、景時おじちゃん、よろしくお願いしますね」
「う、うむ、わかった任せておけ」
「景時さん、僕の言う方角に行ってもらえれば、神機のそばにつくはずです。
景時さんが政子さんからどんな指示を受けてるかはわかりませんが
どちらにせよ、神機を確認しなければならないことなのでしょう？」
「う、うむ。まあその通りだ…さあ、行くぞ」
景時さんが手綱を取り、その後ろになのはが捕まって
そのなのはの肩に僕が捕まります。
これで馬一頭で大丈夫です。そして、最悪の場合、僕が転送魔法で
３人を逃がすことが出来るでしょう。
転送先座標は、転送支援してもらったあの場所でいいはずです。
今の神機が動かないとすると、昼過ぎには神機の所にたどり着けるでしょう。
「つくづく、俺たちが完全にはぶられてるような気がするな」
「ぼやくな弁慶。今日中に京について、法皇様に面会できるようにするんだから
ぼんやり休んでいる暇はないぞ」
「九羅香様、ですが、それほど急がれなくてもよろしいのでは」
「紅葉、私はお姉さまに賛成ね。何かいやな予感がするわ」
「楓様もですか。私も、何か胸騒ぎがします」
「観月様、一体なにを感じるのですか？」
「…妙な風を感じます」
「風か…だが、今日も天気は良さそうだぞ」
「熱くなりそうだな。こういう日は水浴びするに限るぜ」
「やることがおわったら、さっさと水浴びしようよ。
夜なら見えないから大丈夫」
「そうとも言い難いのが〜ギャルゲの登場人物ですよ〜」
「なんかあったの？」
「そういえば、弁慶はいつものぞ…」
「わーわーわー」
「馬鹿兄、急に叫ぶな」
「叫びたい気分だったんだよ」
「頭大丈夫？悪い物でも食った？」
「頭は正常だって。ほら、無駄話せずに先を急ぐ…って、なんだありゃ？」
「何って馬鹿兄、自動車も見忘れたの………って、自動車！？」
京を目指す、俺たちの前に現れたのは、空飛ぶ魔導師よりある意味
この世界には似つかわしくない存在だった。
土煙を上げてこちらに向かってくるのは、間違いなく俺たちの時代の自動車だ。
運転手がシグナム。このまま突っ込んでくる気か？
いや、違う、止まった。
「…弁慶、あれ、なに？」
「何って、自動車だよ。俺たちの時代の乗り物」
「弁慶の時代には、あんなでっかい箱に乗って走るんだ」
「まあ、免許がないと乗れないけどね。でも、…なんでシグナムが自動車なんかに乗ってるんだろう？」
シグナム達が自動車から降りてくる。そこで、俺はもっとあり得ない物をみた。
思わず自分の目をこする。
「…な、なんでおまえがそこにいるんだよ！」
「それはこっちの台詞だ！なんだそのいかれた格好はっ！」
「そっくりそのままおまえに返してやる。
なんでヴォルケンズと一緒に行動してるんだよ」
「なんだかよくわからんが、こいつらと一緒にいると元の世界に帰れそうだったんでな。
すまんが、この子を助けるためなんだ、神機を貸してくれよ」
「…弁慶、あれ、だれ？」
「誰って、俺の兄貴だよ。サッカー馬鹿」
「うむ、良く俺の事がわかってるな、さすが我が弟」
「胸を張るな、ほめた訳じゃない。っていうか、神機が何かわかってるのか？」
「しらん。だが、神機を蒐集すると病気が治ると聞いたぞ」
「病気？」
「そう、病気」
「はやてちゃん、大丈夫？」
「平気や、みんなが表出てるのに、わたしだけ車の中やと、寂しいわ」
「…あんまはやてに見せたい光景でもねーんだけどな」
「最初からけんか腰になることもない」
「そうだな。…改めて九羅香とは剣を交えたいが、今は主の事が優先だ」
「そこの子が、シグナムの主だね」
「そうだ。八神はやて、我らヴォルケンリッターの主」
「主いうても、そんなたいそうなものやないけどな」
「主の命が掛かっている、奪い取るとはいわぬ。
神機を蒐集し、闇の書を完成させてもらいたい」
「…そのことは、考えたよ。
だけど、やっぱり、貸すわけにはいかない。
蒐集が終わった後、闇の書が暴走することはないっていう保証がどこにもないんだ。
暴走すれば、シグナムの主、…はやては死ぬんだよ」
「だが、蒐集しなければ、遠くない将来、主はやては死んでしまう。
蒐集した後に起きることについては、不確実な予測だが
蒐集しなかった後に起きることは、確実な未来だ」
「未来はいつでも不確実なものだよ」
「…それでは、いくら話し合っても、平行線ということだな」
「残念だけど、そうみたいだね」
「あのさ、二人とも、盛り上がってるところ悪いんだけど」
「なんだ、おまえは？」
「んーと、そこのサッカー馬鹿の妹だよ。
それよりさ、なんで闇の書の蒐集が完了した後のことについて
調べてから何かしようとしないの？
暴走するかどうか、確実なことがわかれば、九羅香さん達だって
頭から貸さないって言わないんじゃない」
「残念だけど、時間がないのよ」
「シャマルの言うとおりだな。あたしらは管理局に追われてて
見つかったら即逮捕されちまう。
はやてだって、いつまでもつかわからねー。
あたしらには、どれだけ残り時間があるのかさえわからねーんだよ」
「危険は理解している。だが、…不確実な危険なら、受け入れざるをえん」
「で、そこの馬鹿兄は？」
「は？」
サッカー馬鹿と弁慶が同時に答える。
「俺は何があろうと九羅香を守る！」
弁慶の答えは、聞くまでもない。
「一度サッカーをやればどんな奴らかはわかる。
こいつらは、決して悪人じゃない。
どんな不利な状況になっても、計算されたファールすらしなかった奴らだ。
俺は、こいつらが正しいと信じる」
サッカー馬鹿らしい答えである。
「…どうしようもないねこりゃ。
こうなったら、拳で語るしかないかな」
「なんでこうなるんやろな。
私の人生や。私のやりたいようにさせてくれてもええと思うんやけどな」
「はやてちゃん…」
「いやしくも主たるもの、自分の身は自分のものじゃない。
自分自身の運命につながってる人がいるんだ」
「それは、わかってるつもりや。
結果がどうなろうと、それは私の決断や。人を恨むこととは違う。
けどな。正直、夜天の書について調べるいうて、何をどうやって
どこを調べてええんか、シグナム達にも全然見当つかんのよ。
管理局が手助けしてくれるわけないし、ほかに当てないし
出たとこ勝負でやらな、しゃあないわ。
けど、夜天の書の暴走はさせへん、私が絶対にさせへん。
せやから、神機を、貸して欲しいんよ。
私は、シグナム達に危ないことさせたないし、人を傷つけるまねはもっとさせたないんよ」
「…いい主を持ったね、シグナム」
「そうだ。命を賭けるに値する」
「弁慶、弁慶の薙刀を貸して」
「九羅香、どうするつもりなんだ？」
「はやて、残念だけど、神機を貸すわけにはいかないんだ。
はやてに守るべきものがあるように、私にも守るべきものがある。
闇の書ばかりじゃない、神機も不用意に扱えば暴走する可能性のある、危険なものだ。
神機の暴走が起きれば、私の守るべきものを危険にさらす。
こればかりは、譲れない」
「だめか…せやたら、シグナム、しゃあないから他をあたろうか」
「…申し訳ありません、主はやて。すでに計画は動いております。
今、ここで神機を蒐集できなければ、管理局に捕まってしまうかと」
「他に手がないんか？」
「残念ながら」
「…みんな、ごめんな」
「はやてが謝ることじゃねーよ。謝るべきなのは、あたしらの方だ。
はやてが死にかけてるのも、はやてをここに連れてきたのも
みんなあたしらじゃねーか。だからさ、はやては、絶対に守ってみせる。
いくぜアイゼン！」
ヴィータの叫びが、号砲となった。
後の事を考えず、神機の蒐集を目指す、勢揃いしたヴォルケンリッター相手に
俺たちの真価が問われる戦いが、今始まる。
