異聞・少女義経伝・参
【第七章】
〜夜襲〜
ここは、京都にある貴族の館。
はやてとサッカー馬鹿とヴォルケンリッター４人は
ふとした縁で、貴族の館に一夜の宿を借りることになっていた。
鎌倉時代の京都の夜である。日が落ちれば辺りは真っ暗だ。
今は夏なので、蚊がブンブと飛び回る。
シャマルが気を利かせて蚊取り線香を持ってきていなければ
大変な事になっていただろう。
「私だってちゃんとやるときにはやるでしょう」
「ああ、まったくだ」
「綺麗な星やなあ。海鳴市やと、こんな綺麗な夜空はみられへんわ、来て良かったわぁ」
「そうだな。この星空だけでも値千金だ」
「サッカー以外のこともわかるんだな、サッカー馬鹿」
「そりゃま、目は見えるからな。目が見えなくても、この澄んだ空気は感じられるだろ」
「昼間は砂埃が結構多かったぜ」
「そりゃ、都だからだろ。夜にはみんな寝静まるから、静かなもんだよ」
「主はやて、そろそろお休みになった方がよろしいですよ」
「そうか？」
「はやてちゃん。興奮してわからないかもしれませんけど、ずっと車に乗っていて
体には疲労が溜まってるはずですから、早めに眠った方が」
「早めたって、まだ９時前だぜ」
「９時なら十分夜だろう」
「・・今時の小学生ってわけじゃないんだな。
ま、俺もあと一時間ぐらいしたら寝るつもりだけどよ」
「そうそう、はやてちゃん、お風呂に入りません？」
「お風呂？そういえば、忘れてたなあ」
「館の主人が準備してくれるんだってよ。
はやてん家と違って、あんまり大きくないから、一度には二人ぐらいしか
入れないみたいだけどな」
「せやたら、先にヴィータが行ってええよ」
「はやてが行ってからでいい」
「そうか？」
「はやてちゃん、私と一緒に入りましょう」
「そうやな。シャマルと一緒にな」
「あたしはシグナムと一緒でいいぜ」
「男同士仲良くしような」
「１８０ｃmの男二人同時では、さすがに狭くないか？」
「そうかもしれんな。じゃあ、俺は最後でいいよ」
「いや、俺が最後になろう。…毛が抜ける」
あえてつっこみはなしとさせていただきたい。
はやてはシャマルと一緒に風呂場へと出かけていった。
サッカー馬鹿は、自分の部屋に戻っていった。
スパイクやボールの手入れをするつもりのようだ。
「シグナム。神機だけど、ありかはわかるんだろ？」
「シャマルが探せばすぐにわかるはずだ。
あれほどの魔力を持っている道具は、そうそう隠しきれる物でもない」
「…なあ、場所がわかったら、あたしらですぐに奪いに行こうぜ。
すぐに集まるだろ」
「だが、主はやてを、ここで１人にするわけにもいくまい」
「…本当の事を言えよシグナム」
「…今の私には迷いがある。迷いがある内は、戦っても役には立つまい」
「迷いかよ。闇の書を完成させなきゃはやてが死んでしまうんだぜ。
何が何でもはやてのために闇の書を完成させる。それでいいじゃないか」
「それでいいのなら迷わない。いや、私も迷ってないつもりだ」
「ならそれでいいじゃねーか」
「…だが、九羅香に、剣が濁っていると言われた」
「気にするなよ」
「九羅香は、本物の剣士だ。本物の剣士の見る太刀筋に偽りはない」
「だからなんだってんだよ。あたしははやてを助けたいんだよ。
シグナム、大体はやてがしんじまったら、また昔のあたしらに逆戻りだぜ。
そしたら、太刀筋に偽りとかいってられないんだぞ。
それに、…はやてがいつまで持つか、シャマルにだって、わからねーんだろ？」
「相手はB級魔導師の集まりだ。私が行かなくても、管理局が妨害する前に
決着がつけられれば、神機を奪うことは出来るだろう」
「本当にB級の集まりなら、シグナムが一撃でやっつけてるんじゃないか？
勝てなかったんだろ？」
「普通の剣術で勝てなかっただけだ。
シャマルが行くなら、問題はない」
「そっか。シャマルがいれば楽勝だよな。
ザフィーラとあたしが陽動しかけりゃいくらシグナムと互角の相手だからって
シャマルを止められるわけないもんな。
シャマルが上がったらすぐ出かけてくる。
シグナム、はやての事は頼んだぜ」
「風呂には入らなくていいのか？」
「闇の書が完成したらゆっくり入る」
なんていう会話が京で交わされてるなんて、私たちは全然気付いてなかったの。
「なのは、どうしたの？」
「え？ユーノくん、星が綺麗だなって思って」
「そうだね、海鳴市よりは綺麗に見えるね」
「ユーノくん、あんまり感動がないね」
「僕は未開世界に行くことが多いからね。
海鳴市みたいに、夜が明るい世界で暮らすことの方が少ないんだ」
「そうなんだ」
「政子さんの話だと、明日ぐらいには、九羅香達が京につくみたいだね」
「ユーノくんはどうするの？今から馬で行っても、一週間かかっちゃうよ」
「転送魔法で京まで行くよ。景時さんも一緒に」
「ユーノくん、そんなこと出来るんだ」
「なのはを次元転送でここまで送ることに比べたらたいしたことじゃないよ。
転送魔法の難易度は、距離よりも転送先がしっかりと保持されてるかどうかだからね。
エイミィさんに言って、京に転送先用の魔法陣を確保してもらえば
僕の魔法で十分京にいけるはずだよ」
「それなら、どうしてユーノくんはまず鎌倉に来たの？」
「フェイトの話だと、最後に神機が使われたのが鎌倉らしいんだ。
まず最後に使われた場所でその痕跡を調べるのが医院じゃないかと思ってね」
「それで、痕跡はどう？神機ってそんなにすごいものなの？」
「ジュエルシードみたいな、次元震を引き起こせるロストロギアかどうかはまだわからない。
だけど、ある種のモンスターを召喚する能力と、空間を歪めて異空間を作り出す
能力があることは確実だよ。しかも、この世界では制御しきれてない。
管理局が特定ロストロギアに指定するかどうかはわからないけど
考古学的に言えば、生きているロストロギアだね」
「生きてるロストロギアって、説明おかしくない？」
「そうかなあ？」
「それに、都をうつすたびに清めに必要だっていうことは、誰か
使える人がいるっていうことなんでしょ。
一体、誰なら使えるっていうのかな」
「僕たちの知っている歴史と同じような歴史があるとするなら
最後の遷都は８００年前だよ。８００年あれば、使える技術が
失われているとしても不思議じゃない。
なにしろ、僕たちの世界は、３００年前のことですらよくわからないんだ」
「え？そうなの？」
「管理局システムの歴史自体１００年もないからね。
その上、管理局システム構築のための戦争の影響で、歴史的構築物もかなり消えてるんだ。
管理局戦争で消滅した世界だって一つや二つじゃない。
管理局システムが、なのは達に、臨時軍法会議みたいな強引さを持ってるように
見えるのはそのせいだよ。管理局は今でも、戦時体制を引きずってるんだ。
もちろん、その分、僕たちみたいな、考古学者が働く場所があるんだけど」
「ユーノくん、臨時軍法会議ってなに？」
「知らない方がいいことだよ。それより、せっかく８００年前なんだし
もっといろんなものを調べようよ。ほら、家の造りなんかでも全部木材で出来てるから
組み合わせのしかたとか…」
「ねえユーノくん、この薄いガーゼみたいな網なに？」
「それは…ええと、なんだったっけ…ああ、思い出した、蚊帳って言うんだ。
蚊取り線香なんてない時代だからね。この蚊帳の中にはいって蚊を避けるんだよ」
「そっか。だけど、なんでここには蚊が飛んでこないの？」
「虫除けスプレーを持ってきたからね」
「さっすがユーノくん。準備がいい」
「未開地に行くなら常識なんだけど…」
それは、突然の出来事だった。
「九羅香様、弁慶様、すぐに準備してください」
「観月ちゃん血相を変えてどうしたの？」
「敵が来ます」
「ったく、こんな夜中に来なくてもいいのに」
「夜討ち朝駆けは兵法の基本だよ。…だけど、一体だれ？」
「へえ、転送魔法を見破るんだ。おまえら結構やるな」
空中に、巨大な犬にまたがった８歳ぐらいの女の子が浮かんでいる。
空中に浮いている、ということは、また魔導師には違いないんだな。
「鉄槌の騎士ヴィータと鋼の伯爵グラーフアイゼン！」
「盾の守護獣ザフィーラだ」
「おまえらんじ恨みはねーんだけどよ、はやてのためだ。
おまえらの持ってる神機、力ずくで貸してもらうぜ」
「最初から力ずくかよ…」
「うっせえ、いくぜアイゼン！」
「ヤヴォール」
そういうと、ヴィータって名乗った女の子は、空中に鉄球を並べた。
空中に並べるだって？なんて器用なことを。
「馬鹿兄！ぼっと見るな！くるよ！」
「来るって…」
「いけっ！」
ヴィータがゲートボールハンマーみたいな武器で鉄球を横なぎにぶったたくと
物理的にはあり得ないことだが、鉄球は俺たちの方へめがけて飛んできた。
俺は、ぎりぎりまで鉄球を引きつけてから素早く身をかわす。
「ておあーっ！」
「なにっ！」
攻撃をかわしたと思ったらこんどは地面から刃みたいなものが突き上げてくる。
なんだこいつらの攻撃。
「へー、それがヴォルケンリッターの本気ってやつか。
安全地帯から楽々攻撃ってな、あんまりほめられたやりかたじゃねーな」
「うっせー。正々堂々の一騎討ちなんてのはシグナムに任せてんだよ。
あたしもこういう戦い方は好きじゃないが、今は負けるわけにいかねーんだ。
おとなしく神機を差し出しやがれ」
「…よし、術式はシグナムと同じみたいね」
「なんだおまえは」
「奥州では師匠の次、ってことになってる腕前の巫女、佐藤楓よ。
おおかたこんな事だろうと思って先手をうたせてもらったわ」
「先手を打っただって？完全に奇襲くらってるじゃねーか。
最初はかわせたかもしれねーけど、次はちゃんと当ててやるよ」
「空を飛ばれるといろいろとやっかいなのよねぇ…だから」
「観月、力を貸して。あたし１人じゃさすがに無理っぽいわ」
「わかりました、楓様」
観月ちゃんと楓が瞑想を始めた？一体なにが起きるんだ。
「な、おまえら、一体なにを？」
「破魔の封印よ。これを受けてまだ飛んでいられるかしらね」
「な、AMFが作れるのかよ。ほんとうにおまえらB級魔導師か？」
「B級だかC級だかしらないけど、あたしは力だけなら奥州一の巫女なのよ。
あんたらが妖術使いだからって、はいそうですかって引き下がっていられないの」
「そうかよ。だけど、あたしらだってまだ本気出してるわけじゃないからな」
「…無想の一矢」
「そんなのバリアで…なんだってっ！」
「ヴィータ、大丈夫か？」
「ああ、かすり傷だ。ちょっと油断しちまったな」
与一の放った矢は、ヴィータって子の左手にまともに突き刺さっている。
ああいうのは、普通、かすり傷なんて呼ばない。
だが、ヴィータは、矢羽根を片手で折りとると、そのまま矢を突き通して抜いた。
「ちょっと、まだやるつもり？」
「かすり傷だっていったじゃねーか。こんなの全然いたくねえ！」
「あ、そ。痛くないならよかったわ」
「よかったで済むか！いくぜアイゼン！」
「ヤヴォール！」
そういうと、ヴィータは空中から降りると、ハンマーを構えて接近戦を挑んできた。
早い、無茶苦茶早い。だけど…。
「みんな散らばれ、滅殺！神風陣！」
「そんなの目をつむっていてもかわせるぜ！」
「馬鹿兄ナイスっ！ほら嬢ちゃんあたしが相手よ！」
「な、ただの人間が素手で来るだと。なめんな」
「いったー。なんか岩を殴ったみたいな手応え…」
「なかなかやるな、ヴィータとやら」
「たりめーだ。これでも喰らえ」
「龍樹萌芽！」
俺の妹が、俺が作った神風陣を避けたヴィータの逃げ道を予測してストレートをたたき込んだ。
だけど、まともにヴィータに当たったはずなのに、殴られたヴィータは全くの無傷で
殴ったボクシング馬鹿のほうが拳を痛めている。
追い打ちを掛けようとしたヴィータとボクシング馬鹿の間に、紅葉が素早く
龍樹萌芽を入れてくれたおかげで、ボクシング馬鹿はヴィータから距離をとることが出来た。
そこへ…
「忍法、水鏡の術！」
「な。おまえら一体なんでシールドもバリアもきかねーんだよ」
「言ったでしょ、破魔ならあたしの専門だって。
術式さえわかれば、それを打ち消す方法を見つけるのは難しくないわ」
「そうかい。なら、バリアもシールドもなしだ。
アイゼンで正面からぶちのめすまで！」
「やれるもんならやってみろ！」
一騎討ちはシグナムに任せる、と言ったはずのヴィータは
言葉とは裏腹、玲奈相手に正々堂々の一騎討ちを始めた。
シグナム対九羅香とは違った意味でこの戦いはすごい。
シグナムと九羅香の戦いが、一撃必殺の剣を持ったもの同士の
一瞬の隙をつく勝負だとすれば、玲奈とヴィータの戦いは
とどまるところを知らないつむじ風のぶつかり合いだ。
ヴィータのハンマーを玲奈がかわしてヴィータに短刀を振りかざす。
その玲奈の短刀をヴィータがかわしてハンマーの間合いをとりなおす。
ハンマーの間合いでヴィータが踏み込もうとすると、玲奈も素早く間合いをつめて
ハンマーの間合いを外し短刀の間合いに切り替える。
攻守の切り替わりが激しすぎて、第三者が介入する余地がない。
「…観月様は僕が守ります」
「よく気付いたな」
「僕は観月様をお守りすることが役目ですから」
あれ？誰だあいつ？初めて見る顔だ。
犬耳のコスプレをしたお兄さんだろうか。
「さきほど、ヴィータ様を背中に乗せておられた方ですね」
「姿を変えても見抜くか。さすがだな」
「問答無用です。観月様に手出しするなら、僕が許しません」
「神機を渡さないことが、我らが主を死に追いやることと同じ。
おまえに守るべき主があるのと同じように、我らにも、守るべき主がいる」
「…蒐集を完成させたら、闇の書が暴走するとお聞きしました。
それでも、蒐集を、完成させるというのですか？」
「…それを誰から聞いた？」
「フェイト様からです」
「…それは管理局のデマだろう。闇の書を完成されると、困るのは管理局だ」
「そうかもしれません。ですが、あなた方が扱いを間違えれば
神機が暴走するでしょう。やはり、お渡しすることは出来ないのです」
「やはり、力ずくで奪えということか」
「…外法！魂喰らい！」
ザフィーラのほうが観月の攻撃をあわててかわす。
そこへ廉也が飛び込んでいく。
「廉也、私が援護します。手数を増やしてザフィーラ様が他に動けないよう足止めを」
「わかりました観月様！命に替えても！」
廉也が捨て身でザフィーラにつっかかっていく。
捨て身の攻撃をされると、ザフィーラもすこし弱い。
殺してしまっていいのなら話は早いが、殺さないように手加減して
生身の人間を攻撃しようとすると、どうしても無傷というわけにはいかないのだ。
「いや、無傷であろうとするのが、誤りなのだ」
「そうだろうよ、ここから先は俺が相手だぜザフィーラ！」
「誰だ貴様」
「俺の名前は武蔵坊弁慶！
廉也、おまえは観月ちゃんのそばにいてくれ。
で、ザフィーラ。あんたの相手は俺がさせてもらうぜ」
「よかろう。弁慶とあれば、相手にとって不足はない」
「内藤相手みたいな無様なことにならないでよね、馬鹿兄」
「いい加減その話題を離れろ、ってか馬亀田の事は忘れてやれよ」
ザフィーラに弁慶さんの薙刀で一撃加える。
いや、加えようとした、が正しいな。
こいつ無茶苦茶早いじゃないか。廉也より早いぐらいだ。
だけど、…まあ、人間、なにかしら弱点はあるものだ。
「普通の人間が俺と互角の力だと…一体、貴様何者だ」
「むしろあんたの判断力がすごいよ。よく薙刀の刃の部分を
避けて薙刀をつかんだな」
薙刀というのは、刃を棒の先にくっつけたものだ。
だから、柄の部分をつかむことができるなら、薙刀に切られることはない。
そこから力任せに薙刀を奪うことも出来る。
だけど、これは先代の弁慶さんから預かった、大切な薙刀だ。
こういう態勢になったからってわたせるものか。
「秘剣！一騎刀閃！」
「むっ！」
俺と力比べを始めたのを見計らって、九羅香がザフィーラに斬りつける。
ザフィーラのほうはそれを察知してすばやくかわす。
もちろん、薙刀を握ったままというわけにはいかない。
「金剛の三矢！」
そこへ与一が追い打ちを掛ける。
それをザフィーラは空中に浮いてかわすが…
「いけ！源九郎」
回避位置を予測していた楓が、源九郎をけしかける。
さすがにこの連続攻撃までは読み切れなかったようで
ザフィーラの右腕に源九郎がしっかりと噛みついた。
「よくやったわよ…とどめよ、孤高の桜花！」
「まだまだっ！」
「孤高の桜花をまともに受けて無事なんて…なんて化け物かしら」
「５にんがかりでやっと一太刀浴びせた形かぁ。むちゃくちゃ強いなあ。
これは、もっとがんばらないといけないってことだね」
「そうですね、九羅香様」
そんな様子を、空中から遠く見つめる二人の人影。
言うまでもなく、仮面の男である。
「あーあ。誰かなぁ。あいつらがB級だなんて言った奴は」
「魔力値はB級かC級ってところだけど、魔導師ランクをつけるとすれば
陸戦A級か、AAってとこかしらね」
「教導隊でちょっと訓練すれば、AAA行く逸材ぞろいかな。
あの観月とかいう子なら、S級とれるかもしれないね」
「つまり、あれが神機の所有者ってわけね」
「たぶんね。だけど、九羅香って子も馬鹿にならない力があるようだね」
「烈火の将シグナム相手に一騎討ちが出来るレベルなんだからね。
私が試験官だったら、AAAあげてもいいぐらいかな」
「さすがにそれは甘過ぎじゃない」
「デバイスなしってのを忘れないで欲しいね。
ちゃんとしたデバイスを支給すれば、まだまだ伸びるよ、あの子」
「鉄槌の騎士ヴィータ相手に互角の玲奈って子もなかなかね」
「陸戦AAかな。楓って子とコンビを組むって条件で」
「九羅香達が殺されないように見に来たつもりだけど
このままじゃ、ヴォルケンリッターの方を助けなきゃいけなくなるかもね」
「そうだね…」
ひゅん。
「てか、もう見つかったみたいだし」
「だね」
二人とも、自分たちを狙って飛んできた矢を空中で捕まえる。
言うまでもなく、与一の放った矢だ。
「私の矢をつかんだ？」
「さすがだね観月」
「何かに見られているような感じがしただけです」
「…と、なんかじゃまが入ったみたいだし、そろそろ潮時だな。
ザフィーラ、引き上げるぜ」
「心得た」
そういうと、ザフィーラは、最初に現れたときと同じ、犬の姿にかわった。
ヴィータはザフィーラの背中に飛び乗ると、ザフィーラは空中に再び浮かぶ。
「じゃ、こんどは神機を返しに来る時に会おうぜ！」
そういうと、ヴィータは空中に再び金属球らしきものを出すと
ハンマーで叩く。
なっ！閃光弾かっ！う・・・完全に目をやられた。
でも、神機を返すって…まだあいつらは奪ってないはずじゃ。
「うふふ〜こんなこともあろうかと〜私が網を張っていて〜正解でした〜」
「盛者必衰！…そこに隠れている事はわかっているんです、シャマル様」
な、一体これは？空中に腕が現れてるって…。
「観月、結界の力を上げるわよ。魔法を封じてしまえば
魔法の力で神機を奪い去ろうなんてできなくなるでしょ」
「シャマルのことまで見抜いてたのかよ！」
「うふふ〜あなた方の話をフェイトさんから〜お聞きして〜
私なら〜こうすると思った通りのことを〜あなた方がされただけですよ〜」
「湖の騎士シャマル様の能力の一つは、クラールヴィンドを用いての遠隔操作でしたね」
「ごめんなさいヴィータちゃん。うまくいかなくって」
「シャマルのせいじゃねーよ。…敵をみくびったあたしらの間違いだ。
だけど、そっちの実力がわかった以上、次はこういう風にいかないぜ。
じゃあな、こんどこそお別れだ」
どうやらヴィータとザフィーラは、閃光弾で俺たちの目をくらませて
反対側に回り込み、シャマルって人と合流していたようだ。
だけど、それをあらかじめ読んでいた静さんが、シャマルって人の
魔法を先手をうって潰したってことなのか。
それにしても、離れた場所からねらい澄まして奪い取るだなんて…なんて魔法だ。
「逃げられちゃったね」
「そうですね、九羅香様。さすがに我々には追う余力がありません」
「つかれたー。なんて相手だよ。このあたしがへとへとになっちまうなんて」
「玲奈はよくヴィータを押さえてくれたよ。ありがとう」
「観月様、おけがはありませんか？」
「ええ、こういうことがあり得ると静様からあらかじめ聞いてありました。
攻撃される前にかわしましたから、大丈夫です」
「神機も奪われずにすんだわよね」
「ええ、ずっと私が肌身離さずもっておりますから」
「それにしても、気に掛かるな」
「与一、どうしたの？」
「いや、遠くでこちらを見ていた人影だ。
敵でもないが、味方でもない。一体なにものだ？」
「さあ？もしかしたら、あれが、フェイトの言ってた、仮面の男かもね」
「う゛ー、あたしだけやられたみたいでなんか悔しい」
「そりゃ普通の人間があんな化け物相手にしたらそうなるって。
九羅香達は妖術だって使えるんだぜ」
「そうみたい…ていうか、馬鹿兄、なんであんたがあんな魔法じみたことができるのよ。」
「俺にも正直わからない。ただ、なんていうか、俺じゃない何かが
俺に力を与えてくれるんだよ」
「はあ？オカルトかぶれにでもなったの」
「違うよ。おまえだってわかるだろう。普通の人間が
薙刀ふるって火炎を作れるわけないって。俺以外の何か
別な力が、俺に力を与えてくれてるんだよ」
「そうかもね。だけど…なんかくやしいなぁ。
もしかして、あたしだけ仲間はずれ？」
「そんなことより〜拳をみせてください〜骨が折れてるかもしれないですよ〜」
「さわってみたけど、そこまではやってないわ。
鍛えてるってのは伊達じゃないわよ」
「レントゲンがないから、骨のひびまでは見えないだろ」
「んーと、本当のことを言うと、空中から生えてくる手っていうのがあるでしょ」
「ええと、シャマルの魔法？」
「それが、あたしの手を治してくれたのよ。…理由は、わかんないけど」
「…本当に、ヴォルケンリッターって、悪人なのでしょうか」
「わかんないよ。何が起きてるのかさえわからない。
だけど、兄上だって、決して悪人じゃないし、知盛殿も、悪人じゃなかったはずだよ」
「おじいさまも…決して、悪い人間では…なかったはずです」
管理局が正しいのか、ヴォルケンリッターに理があるのか、俺には全然わからない。
ただ言えることは、力ずくで何かを奪おうとする連中が、正義の味方だとは
思えないってことぐらいだ。
次は、シグナムを含めた、４人で来るんだろうな。そうなったら、俺たちに勝ち目はあるんだろうか。
