異聞・少女義経伝・壱
【第十章】
〜覇王〜
「・・・・」
「・・・・観月様」
「・・・・これは…どうやら、平氏が…破れたのですね…」
「・・・・」
「いいのです。正直にいいなさい、廉也」
「・・・はい、どうやら、源氏が勝ったようですね」
「・・・・・」
「・・・・・」
観月と、廉也は、それだけ言葉を発すると、そのまま黙り込んでしまった。
知盛の予測通りとはいえ、万が一があるかもしれないとは思っていた。
その万が一の希望は、いま、無くなってしまった。
頭でわかっていることと、それが現実になることとは、同じではないのだ。
「・・探しましたよ」
「敦盛。あなたは、生きていたのですね」
軽蔑するように観月が敦盛に声を掛ける。
言外に何を言いたいかは明らかだ。
だが、全く敦盛は動じた風もない。
「ええ、生きてますよ。知盛殿とは違ってね」
「兄上は…」
「ええ、死にましたよ。あなたのお望み通りに」
「敦盛さん。いくら敦盛さんでも、そんな言い方はないでしょう」
「おや廉也。一体何を言い出すんです？
神機と、清盛様の助けがなければどうにもならないことは
知盛殿が誰よりもよく知っていたことではありませんか。
それなのに、清盛様も呼び出さず、神機も使わず。
誰が知盛殿を殺したのでもない、観月、あなたが殺したのですよ」
「それは違う！」
「では、誰が殺したと？ああ、確かに手を下したのは源氏の連中でしたねえ。
あの連中のやり方も、人間のやることとは思えませんでしたがね。
いくらなんでも、なますに切り刻んで魚のえさにすることもないでしょうに」
「・・・・・・・」
「まったく、知盛殿もかわいそうに。
最後まで、清盛様さえいればこんなことにはならなかったとお思いでしたのにねえ」
「・・・・・・」
「おや、どうしたんです観月。もっと楽しそうな顔をしたらどうなんです。
自分のわがままを通した結果ですよ。よかったですね」
「敦盛さん！いい加減にしてください！」
「なにがです？私はただ、起きたことをそのまま話しているだけではありませんか」
「・・・・・・」
「敦盛さん、いい加減にしないと…僕にも、覚悟がありますよ」
「覚悟ですか。…その両手に持った斧が、あなたのいう覚悟なんですか」
「…ええ、これ以上、敦盛さんが、観月様を苦しめるようなことを言うのなら…」
「誰が苦しめていると言うんです。私は喜ばしいことを告げてるのですよ」
「なにが喜ばしいことですか！」
「喜ばしいことでなければ、なんで肝心な所で知盛殿を見捨てたんですかね、ねえ、観月。
一言ぐらい答えたらどうです」
「・・・・・・・・ぅぅぅぅ・・」
「………敦盛さん！」
「なんですか？」
「お覚悟！滅私斧撃！・・・がはっ」
「やめんか廉也！」
「清盛様、ご復活、なされたのですね」
「まったく、観月め、手こずらせおって。
征くぞ、敦盛」
「はっ。仰せのままに」
「お待ちください観月様」
「観月だと？わしは平清盛じゃ。廉也、わしに呼びかけるなら、清盛様と呼べ」
「僕は…僕は、清盛様から、観月様をお守りするように、命じられました」
「それがどうした」
「ですが、僕の主人は、観月様だけです」
「それで、どうするというのだ？」
「清盛様が、観月様の敵であるのなら、僕は、清盛様に刃を向けることも、いといません」
「そうか。わかった廉也」
「清盛様」
「これがわしの餞別じゃ！」
「がはっ！」
「安心せい。急所は外した。おまえが観月に従ってわしに従わぬと言うなら
おまえはわしには用無しよ。征くぞ敦盛。まずは鬼門じゃ」
「ははっ」
俺たちは、壇ノ浦の合戦が終わってから、人目を避けるようにして入り江の影に隠れていた。
勝手に源氏の陣を抜け出して合戦に加わった以上、見つかればただでは済まないというのが一つ。
でも、もっと大きな理由は、観月ちゃんを早く見つけないといけないってことだ。
「ねえ、静。観月達、どこにいると思う？」
「そうですね〜私が知盛さんでしたら〜・・・・」
「だったら？」
「・・・・・・・」
「とももりさん・・・でしたら・・・」
「静様、無理をなさらないでください」
「…私なら、最良の馬を使い、全速で京を目指すな。
おそらく、今から追いかけても到底おいつくまい」
「なあ与一。それがよくわからないんだけど、今京にむかってるなら
京に連絡して関所でも設けておけばいいんじゃないのか」
「弁慶、その連絡は一体どうやってやるつもりだ」
「そりゃ電話を使ってさ」
「でんわ？なんだそれは？」
「なんだって・・・あ、電話はないか。
じゃあ、のろしとか…のろしとか…」
「そんな準備はしてませんね」
「景時の奴、なんてやることがずさんなんだ」
「たとえのろしが用意されていたとしても、こんな複雑なこと
送るのは大変です。あまり、意味がないかと」
「…それでも、京に早く戻らないといけないかな。
時間が経てばそれだけ見つけるのも難しくなるよ。
今なら、御所にむかうことは確実なんでしょ」
「そうだといいのですが…」
「だーっ！一旦京にたどり着きさえすれば、あたしと忍ねこが探してやるよ。な」
「にゃー」
「・・・でも、これで京に大急ぎで帰ったりしたら
景時殿の中傷をそのまま認めたことになるかもな」
「それは、…仕方ないよ。私は兄上のために戦ってる。
でも、神機を使わせないこと、使わないことは、兄上のご機嫌をよくすることより
もっと兄上のためになることなんだ」
「九羅香にそこまで覚悟が出来てるんだったら、…それで、いいかもな」
「・・・そう・・・ですね」
「あれ？紅葉。紅葉は乗り気じゃないの？」
「え、ええ…観月さんが、京にまっすぐむかっていないという証拠はないですから
先回りした方がいいのかもしれませんけども…」
「先回り？いや、むしろ私は追いつけないことを心配しているのだぞ」
「ええ、ですけれど、観月さん…本当に、京にむかってるんでしょうか」
「・・・どうなんだろう？紅葉は、観月ちゃんがどこにいると思う？」
「弁慶様…私は、この近くではないかと思ってます」
「…この近くにいては〜危ないですよ〜」
「あたしも、静のいうのに賛成だな」
「まあまあ、紅葉にも言い分があるんだよ、それ聞いてみようよ」
「ええ…観月さんは…知盛殿に京へ急ぐように言われたとしても
戦の成り行きをどこかで見ていたのではないかと思うんです」
「だけど、結果が見えたら、言われたとおり京へむかうだろ」
「・・・・結果が見えたら…京にむかうより…むしろ…ここで神機を使うのではないかと…」
ぱちぱちぱち〜
「誰だ！」
「あーら、だれだってご挨拶ねえ。この日本一美しくて日本一強い
巴御前の顔を忘れてしまうなんてひどすぎるわ」
「巴御前！なんでここへ！」
「木曽家再興のために、神機を手に入れようとここまで来たのよ。
で、神機の情報を集めて回ってたってわけ」
「それで、我々を見つけたということなのだな」
「ぶっぶー。おおはずれー」
「では、どうしてこちらへ」
「いくらあたしでも、一人じゃ手に負えそうになくなっちゃったからよ。
敦盛は現れるわ清盛は復活するわ、これで神機まで使われたら
いくらあたしでも、一人じゃ無理ね」
「それで、我々の助けを借りたいというわけか」
「そうね。手、貸してくれるでしょ」
「まずあんたが抜け駆けしない保証がないぜ」
「抜け駆けしたら、まずあたしの命がないわよ。
清盛相手に一人で戦って勝てるって思うなら、自信じゃなくて驕りだわ」
「まってください〜清盛さんが〜復活したんですか〜」
「ええ、復活したわね。この目で見たから間違いないわ。
それと、この子、手当てしてくれる。
私が応急処置はしておいたけど、あたしは妖術で治すって技術ないのよ」
「これは…廉也ではないか」
「なんで廉也がこんな大けがしてるんだ？」
「清盛にやられたのよ。観月ちゃん、清盛が復活したら乗っ取られるんでしょ」
「だから、なんでそんなこと知ってるんだよおばさん」
「それは、私がこの目でみたからよ、ちびすけ」
「なるほどな。それで、年増が廉也を拾ってきたってわけか」
「玲奈！いい加減にしろ！巴御前。それで、清盛殿と敦盛はどっちへむかった？」
「それは見てないわ。だけど、すぐにどこに行ったかわかるんじゃないかしら」
「どうして〜そういえるのでしょう〜」
「鬼門よ。あいつら、まずは鬼門って言っていたわ」
「つまり、まず鬼門を作り出して妖魔を呼び出すというのだな」
「そうよー。だから、妖気を追っていけばすぐに場所がわかるはずよー」
「・・・・うん、わかった、ありがとう巴御前。
つまり、神機も清盛殿も、あの島だってことだね」
「九羅香。どの島なんだ？俺にはわからないぜ」
「・・・あの〜禍々しい気を放っている島ですよ〜」
「・・・・いかにも妖魔が住み着いてそうな島だな」
「う・・うぅ・・」
「あら、廉也君、気づいたみたいね」
「ええ、…楓がいればもっと治りが早いのですけれど」
「あ、あなた方は！」
「安心しろ。我々が、おまえを助けたのだ
いや、我々より、巴御前が、というべきかもな」
「・・・」
「警戒しなくていい、って言っても無理なのかな。
今まで敵同士だったよね。五条大橋で出会ってからずっと。
でも、今はそんなことをいってる場合じゃない。
清盛殿が復活して神機がまさに使われようとしているんだ。
あの島を見て。もう一刻の猶予もない。神機を封印しなきゃ」
「…義経さん、ですね」
「九羅香でいいよ。正体、みんなにばれちゃったみたいだから」
「いえ、義経さんって呼ばせてください」
「その方がいいなら、そっちでもいいよ」
「………すいません。みなさん。僕は…」
「何も言うなよ廉也。みんな、わかってるさ」
「何がですか」
「言葉にならないことは、無理に言葉にしなくていいよ。
いつか言葉に出来るときが来る」
「弁慶さん……そんなんじゃありません。
一つだけ教えてください。なんで僕を助けたんです？」
「見殺しにしなかったからよ」
「それじゃ説明になってませんよ。僕は、みなさんの敵ではないのですか」
「私に敵はいないよ。ただ、間違っていることが見過ごせなかっただけだ」
「私は、九羅香様を守るために奥州からついてきたのです」
「平家の館を出た〜私を〜人として扱ってくれたのが〜九羅香さんですから〜」
「九羅香と一緒にいると面白そうだったからな」
「私は、人間として、九羅香殿が好きなのだ」
「俺は、この薙刀に誓ったんだよ。九羅香を守るって」
「みんな殊勝なことを言うわね。ま、あたしは、見捨てちゃ寝覚めが悪かっただけなんだけどさ」
「みなさん…僕は、…みなさんを敵だと思っていたのに…」
「どうしたのだ？」
「相手にされてなかったんですね」
「そういうことではない廉也。・・今に、わかる」
「わかるんでしょうか」
「はいはい、話はそこまで。あんた、とりあえず動けそうね。
あそこに船が用意してあるわ。あれで島にわたしましょ」
「ありがとう。巴御前」
俺たちは、船を漕いで禍々しい気を放つ島へとたどり着いた。
たどり着いたとたんに妖魔の洗礼を受ける。
「ぴきー」
「なんて島だ。妖魔だらけじゃないか！」
「それは想定の範囲内でしょ。さ、軽く料理するわよ」
「さてと、体を温めるとするか」
「忍ねこども、下がっていろよ。おら妖魔ども！手投げ弾でも喰らえ！」
「九羅香様の行く手をじゃまする者は、容赦いたしません！」
「私の踊り〜とくと堪能あれ〜」
「じゃまする奴は容赦しないぜ。滅殺！神風陣！」
「…みなさん、あそこに洞窟の入り口があります」
「あそこから妖気が流れ出てるみたいね」
「よし、じゃあみんな・・・」
「まてよ。あたしが罠じゃないかどうか偵察してやる。
いくのはそれからでいいだろ」
「うん、玲奈ありがと。でも気をつけて」
「まかせとけって」
俺たちが妖魔を退治している間に玲奈は島にある洞窟の入り口を調べた。
「よし、大丈夫だぜ。いこう」
「まってください〜」
「なんだよ静」
「この入り口は〜誰かが確保してないといけないです〜」
「ねえ、弁慶、誰と誰が残るのがいいと思う？」
「な、なんだよ急に」
「・・・みな、行きたいのは同じなのだ。
だから、九羅香殿には、誰を残すか決めきれないのだと思う」
「ねえ、静さん、静さんは誰と誰がいいと思うんだ？」
「・・・弁慶さんが〜決めてくれた方が〜いいですよ〜」
「弁慶！主命だ、誰と誰を残すか言え」
「なんでそこで主命なんだよ…わかった。じゃあ、与一、玲奈、頼むぜ」
「私を選んだか、残念だな。いいだろう、おまえ達が帰ってくるまで
かならずここを守り通す」
「無茶苦茶心配だぜ。へまするなよ、みんな」
「わかってる。かならず全員そろって帰るよ」
俺たちは、洞窟の中を、妖魔をかき分けながら前進した。
それにしても、なんて妖魔の数だ。これが清盛の力だってことなのか。
でも、洞窟自体はそんなに深くなかった。
おまけに洞窟の壁全体が発光していてそれなりに明るい。
よし、もう行き止まりになったぜ。
その、行き止まりのところにいたのは、敦盛だった。
「敦盛。こんどこそ、逃がさないぜ。きっちり決着をつけようや」
「弁慶、それより観月殿だ。観月殿はどこにいる。神機はどこにある。答えろ敦盛」
「神機も清盛様もこの奥ですよ」
「この奥ですって？ふざけないでください敦盛さん。ここが行き止まりではありませんか」
「行き止まりになったんですよ廉也。清盛様は妖力を高めるために
あえて洞窟の天井を崩して自らを閉じこめられたのです」
「どういうことだ？」
「神機の力を完全に解放するのを、誰にもじゃまされないためですよ。
万が一、誰かが来たときのために、私はここで番をしているんです」
「わかった。では敦盛、そこをどけ。穴を開ける」
「そうはいきませんよ九羅香さん。
神機について知っているのは、法皇をのぞけばあなた方のみ。
これは、生かしておくわけにはいきませんからね」
「ここで死んでもらうっていいたいのか？」
「そうですよ。死んでもらいましょう」
「あーら、この世界一強くて美しい巴御前に勝てるつもりかしら」
「巴御前、いつのまにか世界一に格上げしてるな」
「あら〜日本一なら世界一に決まってるじゃなーい」
「普通〜逆に言います〜」
「その楽天主義がうらやましいです」
「あなた方はなんで私を無視して会話しようとするんですか」
「いや、無視してるんじゃなくて、巴御前の方がおまえよりぶっ壊れてるんだよ」
「ひっどーい。あんなのと私を一緒にしないでよー」
「敦盛さん。観月様のところへ案内してください」
「おや、廉也。わざわざここへ戻ってきたんですか。
せっかくの清盛様のお心遣いを無にするなんて、なんて恩知らずなんでしょうねえ」
「あなたに恩知らずなどという資格はありません！」
「敦盛殿。本気で神機を使うつもりなのか。もう平家は滅んでしまったではないか。
いまさら神機を使って、何をするつもりだ」
「神機を使って何をするのか、知っておられるのは清盛様だけですよ」
「その〜清盛復活で〜何をねらってるのかという〜ことですよ〜」
「なあ敦盛、あんた人の心があるのか。ここに来る途中、おまえが
観月ちゃんに何を言ったかきいたよ。そんなことよく言えるな」
「清盛様を復活させるための手段ですよ」
「だから、なぜ清盛殿を復活させようとする」
「私の主人は清盛様ですからね」
「どういうことだ？」
「くっくっく・・・私ははじめから清盛様の復活の為に働いてきたんですよ。
平家が滅びたのも清盛様が復活するための捨て石なんです」
「なんだと？平家が滅びて清盛が復活するというのは、どういう意味なんだ？」
「聞いたとおりの意味ですよ。清盛様を復活させるんです。
黄泉の国から、妖魔を従えた覇王としてね」
「妖魔を従えた覇王だと？妖魔の王になんの意味があるんだ、馬鹿なことはやめろ敦盛！」
「馬鹿なことを言っているのはあなた方です。妖魔である私の主人は妖魔の覇王清盛様。
その完全復活のためには手段など選びません。そして、そのじゃまをするあなた方も同じです」
「な、妖魔だって？」
「そういうことだったんですね〜あなたが〜平家の館で〜特別な存在とされていたのは〜」
「ええ、そういうことです。観月に施された外法の術は、あれが最初ではないのですよ。
私が生まれる前にも、同じように施されたのです。神機がなかったために失敗だったのですがね」
「それで、神機について平家が知ったというわけか」
「施術した陰陽師が、ぽつりと漏らしたんですよ」
「それで、観月ちゃんは、成功したってことだな」
「ええ、そういうことです。私は黄泉の国から妖魔の力を得る、意志のある妖魔として生まれてきたんです」
「そういうことなら、情けは無用ね」
「それはこちらのいうことです。さあ、迷わず冥府に旅立ちなさい」
「うわ、な、なんだこれはっ！」
な、なんだなんだなんだ？壁と言わず天井といわず足下といわず、あちこちから
蜘蛛が押し寄せてくる。
「ははははは。ひっかかりましたね。これぞ我が妖術土蜘蛛。
土塊に妖魔の気を吹き込んで生きている物すべてを襲わせるんですよ。
さあ、毒に噛まれて死んでしまいなさい」
「神舞！まほろば！」
静さんが扇で扇ぐと土蜘蛛が吹き飛ばされた。
「滅殺！神風陣！」
俺の起こす炎で土蜘蛛が焼き払われる。
「お覚悟！滅私斧撃！」
「ちょこざいな！」
ここからは完全な乱戦だ。
妖術土蜘蛛は恐ろしい技だ。
あれを次に使われると、誰かはかみ殺されてしまうだろう。
だから、俺たちの攻撃は息も継がせぬ連続攻撃で
敦盛に妖術を使う暇を与えないことを目的にしていた。
こういうことをとっさに判断出来るのが静さんのすごいところだし
すぐにどうやればそういう風になるかわかるのが九羅香のすごいところだけど。
さすがの敦盛もだんだんと追い詰められてくる。
だが、生まれながらの妖魔敦盛は、いくら追い詰めても
いくら斬りつけても全然打撃を受けてる風がない。
おかしい、これじゃ攻撃しているこっちの方が弱って来るじゃないか。
「な、なんだこれは、のれんに腕押しっていうか…なんでおまえこれだけ動いて
平然としていられるんだよ」
「ははは。ここは妖気に満ちあふれた場所。妖魔の私はこの気からいくらでも力が得られるんです」
「じゃあ、得られる以上に一気に打撃を加えてやるぜ！」
「出来る物ならやってごらんなさい、できるものならね」
「・・・・静、あれやろ。配置を指示して」
「はい〜かしこまりました〜」
「何をやろうと無駄ですよ。ほらほらもっと動いたらどうです。
足を止めれば土蜘蛛ですよ」
「つまり、この連続攻撃で妖術は使えないってことだろ、とっとと降参しろっての」
「あなた方が息切れするのを待ってるんですよ。
ご安心なさい、これだけのことをしでかしてくれたんですから、楽には死なせません。
じっくりと時間を掛けてなぶり殺しにしてあげますからね」
「うふふ〜はまりましたね〜敦盛さ〜ん」
「秘剣！一騎刀閃！」
以下怒濤の７連撃が炸裂すると敦盛は壁にたたきつけられる。
「ぐぁあ！」
「やったか？」
「くくく・・・まだまだですよ〜この妖気を吸収してすぐに復活…な、ば、馬鹿な
体が、体が溶ける。そ、そんな、なぜ、妖気を吸収しているはずなのに・・
助けて、助けてください清盛様〜」
「愚か者！知盛を殺したのが誰か、知らぬわしだと思ったか！
なぶり殺しにされて果てるがよいわ！」
「そ、そんな、私は、ただ、清盛様のために・・・」
「たわけ！このわしに鬼門を開かせ、後で神機を奪おうとしておったこと、とっくにお見通しよ！」
「そ、そんな・・・」
「自業自得とは〜このことですね〜」
「敦盛殿。…今からでも遅くはない、謝ったら」
「な、なにを馬鹿な…あああああ、助けて、助けて・・・」
「だから、謝れば…」
「九羅香様。もう、完全に溶けてしまいました」
「・・・・敦盛さん…こんなことのために、あなたは、観月様を…」
「みなさいよ。ほら、洞窟の壁が崩れたわよ」
「あのむこうに、観月ちゃんがいるんだな、さあ行こう！」
この島の最深部かどうかはわからないが、この島の妖気の流れ出す源泉へ俺たちはたどり着いた。
そこには、神機を構えた観月ちゃんが一人で待ちかまえている。
「よく来たな。義経」
「観月様！」
「廉也、わしは清盛だと言ったであろう。観月はもはやおらん」
「観月ちゃんをどうした」
「ふ。観月なら、わが魂の一部になったわ。いや、元々わしと観月とは一体だったというべきかな」
「どういうことなんです？」
「簡単なことよ。外法の術で、わしを呼び出せるようにしたというのは方便。
観月の魂にわが魂を結びつけたというのが正しい答え。
だから、わしが観月であるし、観月がわしなのだ。
観月というのもわが魂の一部、清盛というのも我が魂の一部」
「…では、観月様も、消え去ったわけではないのですね」
「消え去ったわけではないが、もはやわしの力が圧倒的なのだ。
観月の心など、かけらほどものこってはおらぬわ」
「そういうことなら話が早いわね。あんたをとっちめて神機を奪い取るわよ」
「そういうな巴御前。どうじゃ、おまえ達、わしに仕えぬか？」
「何を言い出す！」
「鎌倉に仕えてなんになる？手柄を立てれば手柄を立てるほど疎んじられるだけであろう。
法皇に仕えて何になる？狡兎死して走狗煮らるだけであろう。
わしは、違うぞ。わしがこの国の覇王となれば、おまえ達には十分な恩賞で応じよう。
木曽家の再興もたやすいこと。わしと神機の力を使えば、平安の世も平成の世も自由に行き来できる。
どうじゃ、いい話であろう」
「・・・いや、全然いい話じゃないよ、清盛殿。
あなたは、もう死んだ人なんだ。神機や妖魔なんてものを使って
無理に生き返ったりなんてするものじゃない」
「どういうことだ義経」
「だから…それは、悪いことなんだ。清盛殿。
この島にあふれる気を感じ取って欲しい。
こんな気でこの国を満たそうというのか。
こんな禍々しい気でこの世を覆うことが本当に正しいことなのか。
清盛殿。もう、やめよう。神機を封じ、鬼門を封じて、戦を終わらせよう」
「それが答えか、九羅香。おまえの命を助け、一度は父とも呼んだわしに、そういう答えをするか」
「一度は父と呼んだからこそ、あえて申す。清盛殿、神機を使うのをやめるんだ。
それは人間に使える物ではないことを、誰より知っているのは清盛殿ではないか」
「人間に使える力ではないから、妖魔の力を借りるのよ。妖魔となって神機を使いわしは
この国の覇王になる。法皇も鎌倉もなにもかもわしにひれ伏すのだ！誰にもじゃまはさせぬ！」
「みんな、気をつけて、清盛は神機を使うつもりよ」
「そうはさせません。僕が盾になりますからそのすきに！」
「馬鹿め！おまえ一人が犠牲になったところでこれが防げるか！」
清盛が手を振るだけで廉也がはじきとばされる。
妖力も敦盛なんか比較にならない、段違いだ。
俺たちの実力では到底かなわない。ありと象ぐらいの違いがある。
次に来るのは、天を裂き、地を割る雷撃を生み出せる神機の一撃だ。
防ぐ手段なんてまったくない。くそぉ。…
え？薙刀から、この島を覆う妖力とは違った何かが俺の体に流れ込んでくる。
ええい、ままよっ！
俺は自分の中に流れ込んでくる力を信じて清盛にむかって突進していった。
清盛が神機のを俺にむかってぶつけてくる。
って、まじかよ！ぐわぁぁぁーーーーーー！
思い上がりは死を招く。
GAME OVER
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
なんだか、暖かいものが唇に触れる。
え？ええと…まだ、俺、生きてるのかな。
「弁慶様、気がつかれましたか」
「紅葉…みんなは」
「弁慶様が盾になってくださったおかげでなんとか…
ですけれど、次の一撃が来たらおしまいです」
「くぅ・・やるな…未来人…だが…次で最後よ・・」
「弁慶様！」
え、ええと…紅葉が薙刀に触れると、薙刀が輝き始めた。
今までの力を超える力が薙刀からあふれ出す。
なんだこの薙刀・・・そうか、弁慶さん、あんたが加護してくれてるんだな。
神機が発動するまで、まだすこしだけ時間が残っていそうだ。
俺一人なら無理でも、紅葉と一緒でなら出来る。そんな気持ちになる。
「よし、行くぞ紅葉」
「はい、弁慶様！」
「馬鹿ものめ！一人でやるも二人でやるも同じよ。
くらえ！」
「うおおおおおおおおおおおおお」
神機の力と、薙刀からあふれる力が激突する。
神機の力が薙刀にぶつかった瞬間二つに切り裂かれる。
神機から襲いかかる妖気の奔流。
その流れを切り裂いて薙刀が神機をはじき飛ばした。
「う、うわ、うわああああああ」
「な、何が起きたんだ」
「弁慶様！神機が暴走してます！」
「観月ちゃん、危ない！」
「弁慶様、危ない！」
神機の暴走はますます激しくなり、辺り構わずエネルギーを吹き出し始めた。
やがてそれは洞窟全体を吹き飛ばし、そして、俺たちも一緒に吹き飛ばされてしまった。
「うわあああぁぁぁ・・」
高い高いたかーい。
って冗談を言っている場合じゃない。
こんな高さから落ちたら死ぬ。絶対に死ぬ。
与一と玲奈の姿が見えるな。信じられないって顔でこっちを見ている。
え？島に急速に水が押し寄せていく。
いや逆だ、島が急速に沈み始めたんだ。
与一と玲奈が大急ぎで島に止めてある船を目指していく。
あの船にたどり着ければ、みんな助かるな。
たどり着ければ・・・・
そうだ！みんなは無事なんだろうか？
俺は辺りを見回した。
吹き飛ばされたのは俺だけじゃなくてみんなだというのがわかった。
巴御前も九羅香も静さんも紅葉も吹き飛ばされてしまってる。
え？廉也と観月ちゃんは？あの二人は？
俺が海にたたきつけられる前に見た光景は、暴走する神機を必死に止めようとする観月ちゃんと
その観月ちゃんが暴走する神機に吹き飛ばされないよう必死に支える廉也の姿だった。
そして、俺は、海に落ち、そして、まだ沈みきってない島の地面に
体をたたきつけられ、気を失ってしまった。
