私の名前はヴェール。フランス遠征軍、つまり弁慶様と静様率いるイギリス軍主力とイギリスの貴族達の精鋭ということですが、
彼らがフランスに渡っている間、このイギリスをまとめる役を仰せつかっております。
弱冠２０才ですが、才能のほどは静様にも認められております。エドワード様の養育係も同時に仰せつかって……

「ハッピーハロウィーン」
「きゃあ、エドワード様、何をなさるのですかっ！」
「ちょっとスカートめくっただけだろ、そんなにびっくりしなくてもいいじゃないか」
「ちょっとスカートをめくっただけでもびっくりします」
「そうか？　こないだきたスコットランド兵はスカートをめくっても怒らなかったぞ」
「あれは男の方ではありませんか？」
「そういうものなのか？」
「そういうものなのです」
「よくわからん、一つ勉強になった」
「覚えておいてください、というか、なんでいきなりいたずらから入るんですか。お菓子をあげませんよ」
「お菓子はいまはいい、と、そうだ、ヴェールにプレゼントがあるんだった、受け取れ」
「プレゼントですか、なんです？」
「かえる」
「きゃあ、なんでかえるなんか城にもってはいるんです？」
「縁起がいいらしい、父上と母上の戦勝祈願になる」
「どちらかというと商人ですよ。ちょっと、なんでこっちに来るんですか」
「ヴェールを気に入ったみたいだ、喜べ」
「喜べませんって、とって、とってくださいエドワード様」
「自分でとればいいだろうに……ええと、どこへ行ったかな……ヴェール、なんでおまえはそんなに背が高いんだ
　よじ登らないとかえるに背が届かないじゃないか。と」
「私がかがみますからとってくださいってば」
「あ、いま胸にとまってる、よし、えい。……あ、逃げた、ええと、こんどはせなかか、髪の中に逃げられるとやっかいだな。
　ヴェールは無駄に髪が長いからな、……ははうえも髪が長いからな、なんで女の人は髪を伸ばすんだろう……
　と、取れたぞヴェール」
「ふう、ありがとうございます。エドワード様……あの、エドワード様？」
「なんだ、ヴェール」
「なんだか、もぞもぞするんですけど、……まだ何か隠し持ってたなんてことはないでしょうね？」
「隠し持ってた……ああ、あとはヴェールを脅かそうと思って蛇を連れてきてただけだ。蛇は神の化身といって
　縁起がいいと……あ、蛇も逃げてる」
「あああああ、なんで蛇なんか逃がすんですかっ」
「そう怒るなよ、いますぐとるから」
「なんで全部私のほうに来るんですかぁ……」
「泣きそうになるな、みんなヴェールが好きなんだろう、むしろ喜べ、神の化身が……」
「クリスチャンじゃないんですかエドワード様はっ」
「堅いことを言うなよ、モーセの杖だって蛇になったんだし」
「そういう問題じゃありません」
「そうだな、当面はヴェールに逃げた蛇の捕獲だ。で、どこへ逃げた」
「せ、背中に……」
「背中か、よし、……って、服の中に逃げ込んでてとりにくいな、よし、ヴェール、脱げ」
「脱げって……手が届きませんよ」
「自分で手が届かなくてどうやって着るんだ？」
「普段は侍女が着せてくれるんです」
「しょうがないな、短刀でひもを切るか」
「ひもは切らないでくださいっ！」
「注文が多いなぁ……、わかったよ、自分でほどけばいいんだろ。
　うう、なんかややこしい構造になってる……」
「あ、なんか前に回ってきてます、エドワード様」
「じゃ後ろはほっといて前から捕まえるか。ヴェール、どの辺？」
「おなかの辺り……」
「よし、じゃあ、おなかの辺りから攻めて、服の外に逃げ出したところを捕まえるぞ」
「お、お願いします……ええと、この辺かな」
「もうちょっと上です、エドワード様……」
「だからいいんじゃないか、ええと、胸のしたの方を押さえて胸の谷間に追い込んで……」
「思い切り気持ち悪いですエドワード様……」
「脱がせずにやろうっていうんだから仕方ないだろ。それとも侍女を呼んで全部脱がせてやるか？」
「侍女もパニックになりますよ、エドワード様」
「だろ、じゃ我慢してくれよ」
「誰のせいだとおもってるんですかぁ……」
「よし、胸の谷間から顔をのぞかせた、えいっ。こら、ちゃんといいって言うまで出ちゃだめだろ」
「対話するのはちゃんと引っ張り出してからにしてくださいよエドワード様ぁ……」
「あ、ごめんごめん、まだヴェールの胸の中に入ったままだった」
「と、虫かごに入れてと、こんどは逃げるなよ」
「よくかえると蛇を同じかごに入れて無事でしたね、エドワード様」
「蛙はずっと手に持ってた、かごに入れてたのは蛇だけ。
　さてと、あとはナメクジを見つけてくれば三すくみだな」
「やらなくていいですエドワード様」
「いいのか？　一度見てみたかったんけどな」
「東方に伝わる伝説でしょう」
「伝説なのか、残念」
「……疲れました、私はお風呂に入ってきます。エドワード様も泥だらけではありませんか。
　後でお風呂に入りなさいね」
「はーい」

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　後編に続く。