僕たちは、新聞部の部室に集合した。
亘の奴がパソコンを適当にいじってる。

 

「へえ、いろんな情報が入ってるな。結構面白いぜ。
　それで恵、どんな情報が欲しい？」
「どんな情報って？」
「鈍い奴だな。情報は整理しなけりゃ使い道がないだろ。
　どんな整理の仕方をして欲しい、言ってみろよ」

 

 

…普通、必要な情報は全部だろ。

 

「どうした恵」
「あ、いやなんでもない。とりあえず、時期について整理してみてくれないかな」
「…ああ、いいぜ…UPロードの日じゃなくて、ソースの日だよな、もちろん。
　……なるほどなるほど…義経関係の情報はコンスタンスに出てるな。
　検索条件を絞り込んで、この学校と関係ありそうなものだけに絞ると…
　……」
「ねえ亘くん、これ時間が掛かる物なの」
「そうだな。ひとつを完全に調べるには、３０分は掛かるだろうな」
「泊まりがけになるわね」
「恵、泊めてくれるか」
「さすがにそんなゆとりはないよ」
「そうか。じゃあ、せいぜい１つか、２つが限度だな」

 

ちょっとまてよ。それじゃ、どれかひとつは調べられないってことじゃないか！
安直に選ぶとえらいことになるぜそれ…。

 

「…ある日をさかいに、急に情報量が増えてるな。…どういうことだ？」
「誰かが、この情報を知って公開したってことじゃない」
「橘さん。この学校に伝わる伝説を知ったとして、誰が調べて発表するのよ」
「そりゃ、物好きとか」
「……！そうか、亘、製作者について調べてくれ。
　名前じゃなくて、その背後にある資本だ。大至急」
「恵、どうしたんだ急に」
「謎が全部解けたんだよ。…橘さん、この情報が出た時期について何か心当たりがない？」
「心当たり？心当たりといわれても…」
「…恵くん、頼朝さんの死亡時期とほぼ重なってる、って言いたいのね」
「ああ、そうだよ。桜田さん」
「それと何の関係があるっていうのよ恵くん」
「それはちょっと待ってよ。検索結果次第なんだから」
「検索結果って、背後にある資本ですよね」
「そうだよ、大見さん」
「背後の資本と、伝説と、一体なんの関係があるんですか」
「よくある話じゃないかと思うんだよ。
　ほら、賢い木こりの話さ」
「賢い木こりは木の枝をどこに隠すかって、あれ？」
「桜田さん、そうだよ」
「もちろん森の中でしょ」
「そんなのは常識よ橘さん。問題は、森がないときにはどうするか」
「そんなの有名☆森がなければ、木を植えて、森を作ればいい」
「そう、そういうこと」
「……そんな。いくらなんでも恵くんの考え過ぎじゃない？
　それじゃ、この犯人は、予め義経伝説をでっちあげて
　こんどの殺人事件を起こそうと待ちかまえてたことになるわよ。
　そんな用意周到な殺人なんて、…。
　大体、頼朝さんの死は、事故なのよ」
「ああ、そういうことになってるね」
「そういうことになってるって…」
「まあ、亘の奴の結果を見てみようよ」
「まだもう少し時間が掛かる。…資本を探せっていうのが面倒なんだよな。
　出版社の資本関係を見ないといけないから」
「済まない。だけど、大切なことなんだよ」

 

♪（着信音）♪

 

「あれ、電話だ、誰だろう…はい、桃井です…あれ、弁慶さんですか。
　一体何事です？…え？九羅香さんがいない？それって？
　誰かに呼ばれた？呼んだ人？誰か言わずに出た？それで…ええ
　僕らは何も知らないです…ええ、探してみましょう、ありがとう」
「恵くん、弁慶さんが何って？」
「橘さん…九羅香さんが行方不明らしいんです」
「携帯…は、持ってないか」
「ええ、今時珍しいですけど」
「………恵、出たぞ」
「ありがと。それで、どう…」
「おまえの言いたいことが俺にもやっとわかった。
　出版社はばらばらだが、全部北条財閥系だな」
「よし、これで全部そろった！
　すぐに北条先生を捜さないと、急がないと間に合わない」
「恵くん！？」
「いよいよ総仕上げに掛かるつもりなんだ。九羅香さん、つまり
　今牛若を犯人に仕立てるとしたら、今しかない！」
「でも……一体どこだっていうの？校内とは限らないでしょ」

 

それだ。…時間がない。北条先生の居所を推測しなければならない。
言うまでもなく、場所を指定しているとは思えない。
何と言っても、今まで別な場所で殺して、…別な場所？

 

「当然、犯人を九羅香さんに仕立てるんだから…実際に殺した場所でなければいけないのか。
　だったら、場所は、梶原先生や橋本くんを殺した場所と同じでないといけない」
「恵、それじゃやっぱりわからないだろ」
「答えは伝説の中にある！亘、ちょっと情報を見せてくれよ」
「お、おい…」
「………ここだな。間違いない」

 

 

「……ほら、これを見て。古戦場跡の候補として、校内のこの場所が指定されてる」
「校内がちょうど重なってるわね」
「だけど、校内のどこかが、候補からわかるわけないわ」
「………北条先生が管理してる場所で、物を隠してもわからない場所だよ。
　それでいて、呼ばれた相手が油断していて、人がすくない場所」
「職員準備室！」
「そう、そこだと思う」
「急いでみんな」
「ちょっとまって…もしもし、桃井です…ええ、まだ推理の段階ですけど
　たぶんここだと思う場所を見つけたんで…そうだ、携帯をかけっぱなしに
　しておきます。こちらの会話を拾えると思いますから…ええ、急いでください」
「弁慶さんが間に合うわけないわよ」
「万が一がありますからね」
「恵くん、縁起でもないこと言わない」
「はーい」

 

俺たちは、急いで北条先生の職員準備室へ向かった。
絶対ここだと思うけど、僕の推理も外れることはある。
いや、むしろ外れていたらいいな、…彼女をこれ以上危険な目に遭わせたくない。

 

俺達は、職員準備室の扉をノックした。

 

「返事がない…ていうか、鍵が掛かってるぜ」
「そりゃそうだろう。誰か鍵を持って…」
「何をする！」
「中に誰かいる！」
「ええい、恵、力を貸せ、体当たりで扉を開けるぞ」
「ああ、わかった」

 

どっかーん！

 

さすがに男二人が一斉に体当たりをかければ、古い校舎の扉は一撃で開く。

 

その中にいたのは、北条先生と、九羅香さんだ。
九羅香さんは、刀を手にしている。北条先生の方が丸腰…ええ？

 

「あ、あなたたち…助かったわ」
「加勢か？！」
「恵くん、これってつまり？」
「そう、つまり、…北条先生。説明してもらえますね」
「なんのことかしら？」
「梶原先生と橋本くんを殺した理由については、大体見当がついてます。
　トリックその他については考えるまでもない。
　ただひとつ、…頼朝さんの死について、情報がすくなすぎるんですよ。
　それについて、説明してもらえますね、北条先生」
「何をいっているの桃井くん？いい加減にしないと、先生も怒りますよ」
「恵くん…」
「…往生際が悪いですよ北条先生。
　あの義経伝説を創作したのが、北条先生なのはもうわかってるんです。
　それに従った犯罪が出来るのは、北条先生、あなたしかいないんですよ」
「………」
「１から説明しましょうか？」
「説明の必要なんかないわ。証拠もないおとぎ話なら、なんとでも言えることよ」
「そうですね…九羅香さんが持ってる刀が本物の薄緑だって落ちなんでしょうからね。
　ですけど、そのまま討ち取られるつもりはないでしょう北条先生。
　護身用に持ってますよね、スタンガン」
「ええ、…殺人事件があって物騒ですから」
「梶原先生と橋本くんの髪の毛も、当然落ちてますよね」
「ええ、…！」
「落ちてますよね。殺害場所は、ここなんですから」
「ですから、何が証拠なのです？」
「恵くん、証拠って…状況証拠だけじゃないの？」
「ほとんど全部状況証拠ですよ」
「それじゃだめだな。やり直しだ」
「やり直しじゃないわね。先生も堪忍袋の緒が切れましたよ」
「ええ…そうでしょうね。…九羅香さん。北条先生の懐に何か入ってるでしょう？」
「？」
「桜田さん。橘さん。…北条先生の持ってるナイフを調べてみてください。
　肌身離さず持ってるはずですよ…薄緑の銘のあるナイフを」
「恵くん、持ってなかったら？」
「北条先生…協力して、もらえますよね」
「…………」
「持ってなければ、煮るなり焼くなり、お好きなように。
　ですけど、協力して、もらえますよね？」
「・・・・・」
「協力して、もらえ…」
「………………もういいわ。
　警察を呼んで。よくわかったわね。どうして気がついたのかしら？」
「はじめから、北条先生しか犯人はありえないと思ってました。
　梶原先生を恨んでる人が多すぎたんです」
「それがどうして私に結びついたのかしら」
「それだけ恨まれていて、無事でいられたのは、北条先生がかばっていたからでしょう。
　でも、北条先生にだけ忠実だとは思えなかったんです」
「……」
「頼朝さんの死が事故かどうか、僕にはわかりません。
　僕にわかるのは、義経伝説と結びつけて梶原先生を殺したこと。
　それを完全犯罪にするために、橋本くんを殺して伝説との結びつきを強めた上で
　犯人として九羅香さんをでっちあげようとしたことです。
　二人とも、ここに呼び出して、ここで殺害したんですね」
「そうよ。なら、私から説明するべきこともないみたいね」
「…頼朝さんの死は、誰に責任があるんですか？」
「……あれは、事故よ。…私をかばった…」
「それと、義経伝説の流布と、関係があるんですか？」
「あれは、景時が持ち込んできたのよ。
　あの人が亡くなる前にね。…だけど、出版は後になってしまったわ」
「……それで、どうして景時を殺したんです？」
「…父の会社の使い込みがばれたのよ。
　それで、私を脅して、もみ消しを計った」
「どうやってです？」
「義経伝説よ。あの男、頼朝と、伝説を結びつけて
　私が殺害を予告した暗号を仕込んでおいたみたいね」
「一体どうして？」
「こういうときに備えてよ。
　……無実を証明する手段が、私にはなかった。うかつにもね」
「…ですけど…何も殺す必要はなかったんじゃ…証拠にはならないでしょう？」
「使い込みが明るみに出るだけで、グループは打撃を受けるわ。
　根も葉もない中傷で受けた傷は、中傷だとわかった後でも、回復しないものよ」
「それで…」
「…その伝説を逆手にとることにしたの。
　義経を犯人に見せることにして」
「……一人を殺す為に、関係ない２人まで…巻き込んだんですね」
「……いいわけは、しないわ。……」
「ひとつだけ、教えて欲しい」
「なにかしら？九羅香さん」
「その…伝説そのものは、本物だろうか」
「…信じられないことに、本当にそういう言い伝えも、あるみたいね」
「………そう、か……」
「九羅香さん？どうしたの？」
「………もしかしたら、その”事故”が、私のせいかもしれないと思うと…」
「事故は事故よ」
「…パラレルワールド、について話を聞いた」
「…」
「別な世界の私が、兄上を討ち取ったことの補正が、今、この世界で起きる
　ということが、…あるのかもしれない」
「……それは、考えすぎよ九羅香さん。
　そうだとしたら、梶原先生も、橋本くんも、みんなその
　パラレルワールドの運命で死んだことになるじゃない」
「…そうかもしれない…だけど…」
「…警察が来たみたいね」
「そうね…みんな、出ていた方がいいわ。
　警察に呼び止められても、やっかいでしょう。
　特に九羅香さんは、銃刀法違反で摘発されるわ」
「……それもそうか。…ですけど、先生…」
「生きて逮捕されるわ。そうでなければ、責任をとったことにならないでしょう」
「はい、…くれぐれも、お願いします」