大変な一日が終わった。
北条先生が逮捕された翌日。僕らはいつものように新聞部に集まってた。
学校は言うまでもなくお休みだ。

 

「恵くん…なんだか、釈然としない事件だったね」
「殺人事件なんていつでもそんなものだよ橘さん」
「まあ、１人は死なせずに済ませたんだから、よかったんじゃない？名探偵さん」
「いや、そんなほめてくれなくてもいいわよ桜田さん」
「あんたをほめたんじゃないわよ」
「なによ」
「まあまあ二人とも喧嘩は止めて」

 

とんとん。

 

「あれ、だれだろう？はーい、あいてます」
「こんにちは」
「あれ？壬生刑事さん。わざわざどうも」
「事件を解決したそうね。…だけど、もう探偵ごっこはこれきりにして欲しいわ。
　一歩間違えたら、あなたたちが犠牲になってたかもしれないのよ」
「ええ、…わかってます。ですけど、…なんていうか…」
「ジャーナリストの血が騒ぐのよ」
「いまに別な血を流すわよ」
「わたしは戦場ジャーナリストじゃないわよ」
「…恵くん？」
「はい、なんでしょう？」
「あなたも、大変ね」
「…いえ、べつに…それほどでも」

 

♪〜♪

 

「あ、尚人さんだ、ぽ…」
「待ちなさいぃー！」
「橘さん、もうタイマーはいいって」
「今回はタイマーじゃないわよ。ほら、ちゃんと尚人さんからの電話なんだから」
「あ、尚人様！わたくし・・・」

 

ぷち…つーつーつー。

 

「…切られたわね」
「きっと、電波の届かない所に移動されたんです」
「戦わなきゃ、現実と」
「あれ、亘。なにしに来たんだ」
「挨拶だな。ほら、向こうさんからの差し入れを持ってきたぞ」
「向こうさんって？」
「源さんたち全員だ。まあ、ちょっと向こうの学校によってから来たんだよ。
　あっちは学校があるからこれないっていうんでな」
「おまえはいいのか？」
「俺か？俺は一日ぐらいさぼっても問題ない」
「ひどい生徒会長だな」
「生徒会長が率先してさぼると、他の奴がさぼりやすくなる」
「そうすれば、それだけライバルが減るわね」
「性格悪いな」
「あなたもね」
「桜田さん、そんなけんか腰にならなくても」
「それで、ほら、差し入れを持ってきたぞ。
　助けてもらったお礼だそうだ」
「なになに？なにかおいしそうなにおいがする」
「手作りのポテトチップスだそうだ。各自が思い思いに作ったそうだが
　結構うまいぞ」
「味見したのか」
「ああ、一枚な」
「じゃあ、みんなで食べようよ、ほら広げて広げて…せっかくだから佐和子さんも上がってよ」
「わたしはまだ仕事があるから帰るわ。…じゃあね」
「また会おうね」
「わたしは、出来れば、もうあなたたちとは会わずに済む方がいいわ」
「そうですね、事件以外で、また会うことがあれば」
「たぶん、そんな機会はないわよ」
「尚人さんとの結婚式には呼んでくださいね」
「…」
「あと、わたしがジャーナリストになったら、取材に行きますよ」
「はあ…また、事件に首をつっこむのかしら？」
「もちろん！そのときにも見事に解決してみせますよ。ね、ワトソンくん」
「え？ぼ、僕もですか？」
「当然でしょ」
「勝手に決めないで欲しいわね。桃井くんとの勝負は、まだ決着が付いてないんだから」
「人気者だな、恵」
「代わってやろうか？亘」
「いや、遠慮する。俺じゃ体がいくつあっても足りない」
「どういう意味よ！」
「そうね、あなたじゃ、私のライバルには力不足だわ」
「…次の模試で、勝負してやろうか？」
「そうね、桃井くんも参加するなら、勝手に加われば」
「僕は…べつに勝負とかそういうことは考えてないから」
「恵、自分だけ逃げようとするなよ」
「べつに模試なんか勝負することじゃないよ。
　希望の進路に進めればそれでいいじゃないか」
「なら、恵、おまえの希望の進路は、一体どっちなんだ？」
「どっちって、普通どこって聞かないか？」
「どっち、で合ってると思うぜ」
「どういう意味だ？」
「まだ、気付かないか」
「恵くん、食べないの？全部食べちゃうよ」
「…あれだけあったのをもう半分以上食べてるし」
「絶対、太るわね」
「うっさいわね。食べただけちゃんと活動してるわよ」
「脳細胞には向かってないみたいだけど」
「うー、ちょっと試験の成績がいいからって威張るんじゃないわよ」
「だから二人とも無駄に張り合わないでって…」
「…こりゃ当分進路は決まりそうもないな」

 

そう、３年生になればいやでも進路を決めなければならない。
でもまだ進路は決まりそうにない。まだ３年生ではないのだ。
そして、恵も、美亜子も、忍も、亘も、みんな、みんな友達同士なのだから。

 

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　完