「桃井さん、えんりょしなくていいんですよね」
「いいよ。ほら亘くんも遠慮せずに」
「よし、恵、俺はS定職だな」
「わざわざ一番高い物を頼まないでください」
「わたしはA定職にプリンをつけて」
「美亜子とおなじの」
「・・・・なんで、僕が全員分おごることになってるんです」
「気にするなよ恵。明日の朝は俺がだしてやる」
「・・・いいのか？」
「気にするな、お互い様さ」
「ああ、…って、夕食の方が豪華だろ」
「まあ、気にするな。お互い様だ」
「とほほ・・・」

 

今、恵達は学食で夕食の最中だ。
寮住まいで寮は火気厳禁だから学食は生活の必需品である。

 

「それで、事件についてあらまし教えろよ恵。
　一体どういうことなんだ」
「あらましっていっても、今朝梶原先生が殺されて、夕方には
　橋本くんが殺されてた。どちらも、何か義経伝説に絡んでいるらしい」
「義経伝説か…義経ってやたらめったら殺してるからな」
「やたらめったら？」
「知らないか。捕虜にした平家の連中を殺したのは義経だ。
　平家最後の生き残りを殺したのは頼朝だから目立たないだけだな」
「殺した相手が大人か子供かのちがいだけよね」
「…それなんだよ。なあ、亘、なにか考えがないか？」
「何かって言われても俺になにを答えろっていうんだ？」
「一体、犯人の動機はなんだと思う？」
「しらん」
「また即答だな」
「当たり前だ。犯人を捕まえてからでさえ動機ははっきりしないことが多い。
　まして犯人を動機から捜そうなんてまず無理な話だな」
「そうか…だけど、あまりに犯人像がぼんやりしすぎてて何にも思いつかないんだよ」
「ただの殺人狂ではないでしょうか」
「え？」
「単に人殺しが大好きな人が伝説にかこつけて殺して回ってるんです」
「えらくおおざっぱな推理だな」
「優子の言うのが間違いともいえないわよ。うんうん、逝っちゃってる奴が
　犯人かもしれないわよね。深い動機なんていっさいなしで」
「深い動機もなしにこれだけ凝った殺し方するものかな」
「偏執狂なのよきっと」
「精神がおかしい、と言えば、なんでも通るな」
「・・・・そうだね。・・・」
「美亜子、この話題はもうやめよ。せっかく桃井くんがおごってくれるんだから」
「そうそう、そうだね」
「はいはい・・・」

 

精神異常か、そういう可能性はあるな。
いや、殺人を犯しているんだから、それだけで何かがおかしいか。
『知性はあっても理性はない』だっけ。
う゛ーん…考えても仕方ないや。まだ証拠がすくなすぎる。

 

「なあ恵」
「なんだ亘」
「…予め殺してから、死体を、持ってきていたんだよな」
「ああ、そうだけど、何か？」
「殺す場所は、学校内に限らなくてもいいな」
「そうだね…」
「…ふむ……ほっとけば、警察が２週間のうちにも解決するだろうな」
「俺もそう思う」
「そのときには、すべて手遅れだろうな」
「どういう意味だよ？」
「言わないとわからないか？」
「……亘は、これで終わりじゃない、って言いたいのか？」
「ああ。…俺の考える犯人像は、復讐者だな」
「復讐者？」
「義経伝説に従って人が殺されることに恐怖する奴が、いて、そいつに
　最大限の恐怖を味合わせて殺そうとしてる、っていうのはどうだ？」
「う゛ーん…精神異常よりは、説得力があるとおもうけど…」
「なんだよ。それじゃおまえにも犯人像があるんじゃないか。なにか教えろよ」
「何って、俺にはまだ何もわからないんだ」
「あら、楽しそうに会話してるわね。わたしも入っていいかしら？」
「忍じゃない、……いいわよ、開いてるところに適当に座って」
「ええ、失礼するわ」
「ねえねえ、桜田さん。今、連続殺人犯の犯人像について話をしてるんだけど
　桜田さんには何か考えがない？」
「推理ごっこの話ね」
「ごっこいうな！」
「ごっこでしょ。そうね、推理小説なら、こういう場合はＡＢＣね」
「ＡＢＣ？」
「あら、恵くんはＡＢＣもしらないの？」
「ＡＢＣ殺人事件でしょ。一見精神異常者の犯行に見せかけて
　実は本命の殺人はいっこだけ、っていう」
「そう、それよ」
「だけどあれはあまりうまくいかないんじゃないかな」
「それは、あの犯人が無能だったからよ。
　どうしてＡＢＣ・・・でやったのかしらね。
　それじゃ、Ｄで止まれば怪しいと思われて当然よ。
　だけど、……落ちが決まってるような伝説だったらどう？
　はじめから人数が限定されていれば、最後までやれば終わらせることが出来るわ」
「そうだね、そういう考え方もあるか」
「それで、恵くんはどう思うの？」
「そうよ、みんなの意見を聞いたんだから桃井くんも言わなきゃだめ」
「そうだな。恵のすてきな推理を聞かせてもらおうか」
「そ、そんな…まだ何も考えてないよ。先に橘さんに聞いてよ」
「まあまちなさいワトソンくん。ホームズの推理は最後に披露するものなのだよ」
「頭脳労働は恵くんの仕事ですものね」
「なんですってっ！」
「ま、まってよまってよ二人とも」

 

弱ったぞ・・・どうやら、本当に僕の推理を言わなきゃ収まらないみたいだ。
だけど…滅多なことを言うと橘さん、そっちに暴走しかねないよな。
う゛・・・ん。

• 忍に賛成してＡＢＣ
• 優子に賛成して変質者
• 亘に賛成して恐怖を煽っている