「さて、恵くん、今までの情報を整理しましょ」
「ああ、そうだね橘さん」

 

僕らは西日に焼かれた部室の中で、いままで集めた情報の整理をしていた。
部屋の片隅に鎮座する、もらい物のパソコンが、PHSを使って
無駄に情報を集めている。

 

「恵くん、なに言ってるの。あれで我が新聞部の生産効率は10倍に上がったのよ。
　電子入稿のおかげでカラープリンタを使わせてもらえるようになったの」
「はあ・・・でも、今は関係ないですね」
「まあそうね。じゃあ、今までの情報を整理してみましょう」
「まず、大前提として、今朝、梶原先生が殺されていたんですよね」
「そうね。凶器はナイフ」
「そのナイフには、薄緑、っていう銘が刻まれていた」
「その銘が、義経の刀と同じだったのよね」
「殺された梶原先生は、恨んでる人が多かった」
「そうなのよ。あいつには新聞部もさんざん嫌がらせされたんだから。
　あー、生きてるうちになにかスキャンダルを捕まえたかったっ！」
「橘さん橘さん。熱くならないで」
「それなのに、北条先生とは仲が良かった・っていうか、北条先生には
　頭が上がらなかった」
「元々北条財閥のグループの一人だったんですよね」
「そうね。北条先生の方は北条財閥の総帥の娘。あーあの先生も
　私苦手なのよ。なんで私の苦手な人ばっかり関係するのかしら」
「まあまあ、橘さんの苦手な人が被害者なんですから
　その関係者だって苦手な人が多くてもしかたありません」
「これで全部かしら」
「いえ、あと忍が聞いてきた義経伝説がありますよ橘さん」
「あーあれね。なぜか義経が平泉で生き延びて鎌倉へ攻め込んだって伝説ね。
　あまりに無茶苦茶な伝説でとりあう気にもならなかったけど…」
「でも、犯人がその伝説を踏まえて事件を起こしているとしたら？」
「この事件は、これで終わらない、ってことね」
「ええ、そうです」
「恵くん。次の被害者は誰になるとおもう？」
「そんなの予測つきませんよ。
　まだ動機もわかってないんですから」
「ねえ、恵くん。だけど、本当に伝説を踏まえてると思う？」
「踏まえてるかって言われても…意識させようとはしてます」

 

…橘さんは、どうも義経伝説がらみっていうのを信じてないみたいだ。
僕も信じられないんだけど、だけど…まず、今日来た
一行が不思議な感じがするんだよな。
与一に弁慶に静御前…義経がいないのが不思議なぐらいだ。

「どうしたの恵くん。ぼーっとして」
「ちょっと、考え事をしてたんです、橘さん」
「ふーん。何か気づいたことでもあるの、ワトソン君」
「ええ、何か不思議な感じがする一行が現れましたから」
「でしょ！あれは私も思ったのよ。
　向こうの学校じゃ、本当に時空を超えて現れた
　義経達だって言う学校の怪談だってあるんだから」
「橘さん、なら次の新聞ではそれを特集にしましょう」
「いいわね。それも…と、恵くん？」
「は、はいっ！」

 

い、いま橘さんがすごく怖い。

 

「話をそらそうとしてもだめ。
　この事件が片づいてからだからね」
「べ、べつにそんなつもりじゃ…。
　た、橘さん。情報を整理したところで、次は何をするんです？」
「決まってるじゃない、この事件がこれで終わらないのなら
　次の被害者の予測をして、犯人をとっつかまえてやるのよ」
「そ、そんな…僕らだけでそんなことをするのは危なすぎますよ。
　警察に頼んでみたらどうでしょう」
「恵くん、それこそ無理じゃないかしら。
　警察だって危ないと思われる人は守るでしょ」
「だけど、犯人はいつでもおそえるんですけど、僕らは
　ずっと警戒しているわけにはいかないんです」
「それもそうね…恵くんは、誰に頼むのがいいと思う？」
「う゛、そ、それは…」

 

どうしよう？橘さんは一度言い出したら聞かないから…。

あ、そうだ、こうすればいいんだ。

 

「橘さん、僕たちだけっていうのじゃ不安だから
　他の人にも手伝ってもらいましょう。
　人数が多ければ、それで犯人が警戒してくるかもしれませんから」
「恵くん、それで犯人が無理な動きをするところを、捕まえようって言うのね」
「え、ええまあ…そういうことです」
「そうと決まれば、まずは被害に遭いそうな人…北条先生ね」
「ええ、そういうことになりますね」

 

？本当にそれでいいのかな？

 

ここまでで、一番大切なことはなんだろう？

 

 

…普通に考えたら、北条先生が財閥の娘だって事が最重要だ。
だけど、ただそれだけのことなら、最初に北条先生を狙うはずだ。
なぜ梶原先生が最初に殺されたか？
義経伝説だ。義経伝説と事件とを結びつける何かが、ある。

 

「橘さん。北条先生で本当にいいんでしょうかね」
「なによ恵くん、急に」
「いえ、この事件、義経伝説が鍵を握ってる気がするんです」
「あー、桜田さんが言い出したからでしょ」
「そ、そうじゃないですよ。そういうんじゃなくて…」
「隠さなくていいわよ。ま、恵くんがそういうなら、そうしておいてあげる」

 

あーあ。橘さん、本当に怒っちゃった。
まずいことをいっちゃったかなあ・・・。

 

ふぁんふぁんふぁんふぁん…

 

あれ？またパトカー？警察の人は一旦帰ったと思ったのに、何があったんだろう。
僕の携帯に着信だ。一体誰から・・・

 

「もしもし、桃井さんでしょうか」
「あ、はい、僕が桃井恵ですが、なにか？」
「俺は…ああ、弁慶っていったらわかってもらえるかな」
「弁慶さん…あの、剣道部の弁慶さんですか」
「そうです。新聞部にはここに掛けるようにって、部長さんに聞いたんで」

 

橘さん、なんで僕の携帯番号を教えるんですか…

 

「それで、弁慶さん。新聞部にどういったご用件でしょう」
「九羅香に連絡するように言われたんです。…第二の事件が起きました」

「ええっ！遅かったか…一体誰が…」
「…そちらの学校の生徒の、橋本　俊昌君です」
「北条先生じゃなくて？…一体、…なんで…」
「とにかく、連絡はしました。じゃあ」

 

ぷち。

 

「…恵くん、どうしたの？」
「第二の殺人事件です。被害者は橋本　昌俊だそうです」
「ええっ！それじゃ、恵くんの推理が的中したの！」
「それってどういう事なんです？」
「実家が高知のお寺で名前が昌俊…被害者が土佐坊昌俊ってことよ恵くん！」
「え、ええと…それってどういうことなんです橘さん」
「恵くんって、優等生のわりにそういうことはしらないんだ」
「すいません。日本史は苦手なんです」
「義経ブームの時に調べておいたのよ。土佐坊っていったら
　頼朝の命で義経を暗殺しようとして返り討ちにあった武士よ」

 

ま、まさか、本当に義経伝説が重要だったなんて。
だけど、気づくのが遅すぎ…。

 

「恵くん、すぐに現場に行くわよ」
「あ、まってよ橘さーん」

 

なんてこった。北条先生の事に気をとられすぎた。
義経伝説がらみなら、義経にやられた人を考えるべきだったんだ。
とにかく、現場に行って、集められるだけの情報はあつめなきゃ。
警察の人がとっくに来てるとしても！