「ちょっと、新聞部なんですけど、お話をお願いします」
「あ？またあんたか、さっさと帰れ」
「またあんたかってなによ！」

 

あの、橘さん、いきなり終了フラグ立ってます。
そういってつっこみたい恵であるが、まだENDマークは出ていない。

 

もちろん、現実はゲームじゃないからそこで全部終わったりはしないが
先に進めそうな気もしない。
橘さん、行動力はあるけど、応用力に欠けるんだよな。

 

でも、ここで押し問答されると、後々僕にとばっちりが来るんだ。
なんとか突破口を・・・あ、そっか。

 

「すいません刑事さん」

 

あえて、警官に刑事と呼びかけてみる。

 

「なんだ」
「あの、僕たち、この方にお会いしたいだけなんです、取り次いでもらえませんか？」

 

恵が差し出したのは、壬和子の名刺だ。
名刺を持っていれば、知り合いである可能性は高い。

 

「あ、風間刑事のお知り合いですか。
　どなたでしょう」
「僕の名前は桃井恵、こちらは橘美亜子っていいます」
「わかりました。ではちょっと話をしてみましょう。
　ですけれど、今風間刑事は捜査で忙しいでしょうから
　お会い出来るかどうかわかりませんよ」
「それはかまわないです。お話ししたいことがあるとだけ伝えてもらえれば」
「では、少々お待ちください」
「ええ、すいません、お願いします」

 

警官はすぐにどこかへ出かけていった。
壬和子の所へ話に行ったのだろう。

 

「なかなかいい判断だね、ワトソン君」
「美亜子さん。頼むからいきなり警官に喧嘩を売らないでくださいよ」
「なによ。あたしがいつ喧嘩を売ったっていうの。
　まずは現場の警官に話を聞いてみようとしただけじゃない」

 

それが余計なことなんです。
心の中だけで恵はつぶやく。

 

「あ、誰か来た。風間さんだ、こんにちは〜っ！」

 

大声で手を振ってアピールする美亜子。
どうやら、美亜子には、壬和子の表情が硬いことまで見えてないらしい。
いや、美亜子に表情を読むなんて芸当など期待するほうが無理だ。

 

「あなたたち、また探偵ごっこなの。いい加減にして欲しいわ」
「すいません。ですけど、僕らがやらなくても、誰かがやったら同じだと思いませんか」
「そんな酔狂なことをするのはあなたたちだけよ」
「でも、生徒に聞き込みはされるんでしょう」
「それはもちろんよ」
「僕らの話は聞かないんですか」
「・・・・あなたたちが何を聞いてるのか、先に教えて」
「あ、はい。実は・・・・」

 

・・・・・

 

「・・・まだ、何も調べてないですけど」
「ふーん・・・やっぱり、警察が聞くのとあなたたちが聞くのとでは
　情報の質が違うのね。
　被害者がそれほど恨まれてるとは知らなかったわ」
「そんなの誰に聞いてもわかることでしょ。先生の中でもあまり受けがよくなかったわよ。
　とにかく天性のごますり屋で、口に油を塗ったみたいにつるつると
　おべんちゃらを言ってたらしいわ。
　おまけに目下と思えば威張り散らすし。
　ねえ、なんでそんなこともわからないんです」
「橘さん無茶言わないでよ。
　そりゃ、橘さんはそう思わないかもしれないけど
　普通の人だったら、死んだ人の悪口を下手に言ったら
　警察に、動機があると思われるんじゃないかって思うよ」
「・・・・警察の中にいると、わからないことってあるのね。
　どんな些細なことでも教えて欲しいとおもっても、つまらないことを
　警察には言わないようにしようとか、そう思われてるのは感じるわ」
「でしょでしょ。今の話は役に立ちました？」
「ええ、すこしは」
「ちぇ、すこしか」
「そういわないと、あなたたちはまだ捜査ごっこを続けるんでしょう」

 

心の中で恵は叫び声を上げた。
壬和子さん壬和子さん。そんな火に油を注ぐような事を言わないでください。

 

「すこしじゃなくて、大いに役だったみたいね恵くん。
　それなら、警察の調べたことをすこしぐらい教えてくれてもいいでしょ、風間さん。
　警察と手柄争いなんて馬鹿なことはしないから教えて」
「どうかしら。私にはあなたたちの安全を守る義務もあるのよ」
「風間さん、橘さんは無理に止める方が危ないです」
「どういう意味よ恵くん」
「い、いえべつに・・・」

 

♪たらったらたらった〜♪

 

美亜子の携帯電話の着信音だ。
さて、電話を掛けてきたのは誰？

 

選択肢になってないだろ、と恵はつっこみを入れる。
確かに、この場面で電話を掛けてくる可能性があるのは一人だけだ。

 

「あー、また尚人さんだ。ぽちっと」
「あああ、どうして尚人さまからの電話を切ってしまうんですか」
「だってうっとうしいもん。まだ尚人さんに相談するようなこともないし。
　尚人さんに聞くような謎があったらこっちから掛けますけどね」
「わかりました。…捜査に協力してもらえる？」
「そうこなくっちゃ。警察の調査について少し教えてもらえますか」
「ええ、いいわ。…だけど、大したことがわからないのよ。
　死体から指紋はいっさいなし。死亡推定時刻は昨日の夜から今日の早朝まで。
　つまり、あの場所には死んでから送り込まれたことになるわ。
　死因は細い物で首を絞められての窒息死。何で締められたのかは謎ね。
　・・・全部、報道出来る情報よ。べつに非公開の情報はないわ。
　さすがに、マスコミに流すより先にあなたたちに教えてあげる以上のことをしたら
　機密漏洩ですからね。…あなたたちも、私が話したことは内密にね」
「ええ、私も報道陣の端くれですから。報道協定は守ります」

 

いつから報道陣の端くれになったんだよ。

 

「恵くん、どうしたの？元気ないわよ」
「え、そ、そんなことないです橘さん」
「よし、じゃあ、次はどこへ行くべきだと思う」
「もちろん、北条先生の所でしょう。
　北条先生なら、何か梶原先生の変化についてご存じかも」
「そうね。なんであんな手の込んだ道具立てが必要だったのかの手がかりもあるかも」
「あ、美亜子さん、尚人様によろしくお願いします」
「あ、はい。尚人さんに相談するときにはちゃんと壬和子さんのことも
　忘れずに伝えておきますね。・・さ、行くわよ恵くん」

 

そういうと、美亜子は恵の手を引いて３年の教室へと走っていった。

 

「それにしても、タイミング良く尚人さんからの電話がありましたね」
「ああ、あれ。尚人さんからの電話なら四六時中かかってるわよ」
「でも、普段は着信音が鳴らないですよね」
「そりゃ、受信拒否にしてるから。用事があるならこっちから掛けるって
　尚人さんには言ってあるの」
「じゃ、どうしてあのときに・・・」
「タイマーよ、恵くん。それぐらい気づかなきゃ」

 

橘さんって、こういう細工はすぐに思いつくんだ。
恵は思わず感心する。…もしかして、ここまでが
全部橘さんの計算通り？いや、まさか。

 

とにかく、恵達は北条先生を探してみることにする。
でも、北条先生は、恵も美亜子も苦手なのだ。
どうやって情報を聞き出すのか、考えていたほうがいい。
誰かの手助けを借りるべきだと思う恵であった。

 

「ねえ、橘さん」
「なに恵くん」
「僕らだけで話をしても、北条先生って、ほら、苦手だから」
「恵くんでも苦手って・・・そんなに苦手なの」
「橘さんは苦手じゃないんですか」
「いや、まあ・・・苦手なんだけど」
「誰か一緒に行ってもらいましょうよ。
　その方が話をしやすいと思うんです」
「誰かって、誰を頼むつもりなの」
「そうですね・・・」

 

ここで、恵はある人物を思い浮かべた。
その人物とは・・・

 

 

「・・・・選択肢多すぎ」
「恵くん、どうしたの？」
「いえ、独り言です」

 

問題がいつでも３択なら楽なのに。
さて、誰を選ぼう。
…頭脳労働はいつでも恵に降ってくるのである。