「元気そうだな。ここに何か用があるのか」

 

ここは、保健室。
そこには、なぜか化学担当の真由美先生が主人公然と座っている。
そして、もう一人・・・

 

「あ、こんにちは玲奈さん」
「よう、美亜子じゃないか。何やってるんだ」
「新聞部の取材よ。玲奈さんは何をやってるの？」
「この先生があたしの忍ねこに興味があるっていうから来てたんだよ」
「にゃー」
「どうした。梶原を殺した犯人でもわかったか」
「そんなにひょいひょい謎が解けたら苦労しませんよ」
「恵くん、ひょいひょい謎が解けたりしないからこそ調べるんじゃない」
「あまり危険には首をつっこむんじゃないぞ。
　ゲームと違って、人生にはセーブ＆ロードなんて通用しないからな」
「わかってますって」

 

橘さん、本当にわかってるのかなあ。
いつも心配になる恵であった。

 

「 先生、それで、梶原先生って最近だれかとトラブルとか起こしてなかったです？」
「トラブルを起こしてない相手を思いつかないな」
「やっぱり。あの先生いけすかないって思ってたんです」
「橘、それだとおまえも被疑者の一人となるぞ」
「えー。私だったらあんな手の込んだことしませんよ」
「そうだな。私でもナイフで一突きなんてやりかたはしない」
「梶原先生って、そんなに恨まれてるんですか」
「恨まれていると言うより、性格が陰険で敵を作りやすかったな。
　仕事熱心は仕事熱心なんだが、その情熱を別な方向に向けた方がよかったろう」
「それでも、北条先生とは仲が良かったんですよね」
「北条先生は、実家が北条財閥の長女だからな。確か前の旦那さんも
　没落したとはいえ出自をたどれば華族だったはずだ」
「へー。名家だったんですね」
「ついでに、美男美女のカップルとしても有名だった」
「顔に頭に金に・・・天が一体何物与えたやら」
「学内第一のおまえには言われたく有るまい」
「桜田さんが来てから勝ったり負けたりです」
「わー、この子ほんとに賢い」
「だろ。あたしが仕込んだんだぜ。
　よし、右助、左助、必殺分身の術」
「にゃー」
「ほんとだ、残像拳まで使えるんだ・・・って、なんで３匹っ！」
「そりゃ、前助も加わってるからな」
「にゃー」
「すっごい。玲奈さんの忍ねこって、何匹いるの？」
「それは秘密」
「じゃ、それしらべちゃおっかな」
「殺人は追いかけなくていいのか」
「あ、そっか。そっちもやらなきゃいけないんだ。残念」

 

いや、そっちを調べてください。
そういいたい恵であった。

 

とはいえ、美亜子相手に言い出せる恵でもないのである。

 

「橘さん、今の話を聞いてました？」
「今の話ってなんのことなの」
「北条先生と梶原先生の関係とか、北条先生の前の旦那さんのこととか」
「あ、それなら知ってる。俳優の頼朝さんでしょ。
　恵くんが転校する前に一度学校新聞で取り上げたから。
　部室に帰ったら探してみようか。確か写真も載せたかな。北条先生に借りて」
「そんな有名な人だったんですか」
「売れない俳優だったみたい。どちらかというと、マネージャーとしての方が有名だったかな」
「若くして亡くなられたんですね」
「まあね。何か持病があったみたいで、ぽっくり逝っちゃったって」
「ぽっくりですか」
「うん。…恵くん、これが何か事件に関係してると思う？」

 

・・・殺されたのは梶原先生であって北条先生ではない。
が、誰からも恨まれるような梶原先生が、北条先生には
何かしら相談をしていたのなら、多少は関係があるかもしれない。

 

「ねえ、橘さん。北条先生には話を聞かなくていいのかな」
「北条先生…あの先生もあたし苦手」
「どうして？確かにきつい先生だとは思うけど」
「なんていうか…あの先生の前に行くとなんか全部見透かされてるような気がする」
「あ、それはわかる。あの忍がたじたじになるぐらいだからよっぽどだよ」
「ふーん。桜田さんって呼ばないんだ」
「あ、これはその…」
「橘、焼き餅か？」
「違うわよっ！ちょ、ちょっと気になっただけっ！」
「そ、そんな深い意味じゃないよ。ただ…その…」
「その、なんなの？」
「ええと…なんていうか・・・」

 

恵の前に顔をつきつけて問い詰める美亜子。
とはいえ、もう最初に「ふーん」と言ったときとは明らかに調子が違う。
完全に恵をからかっているようだ。

 

「あとで桜田さんに言いつけてやろっと」
「あ、それはやめてよ橘さん」
「いいわよ。じゃ、とりあえず北条先生の所に行きましょ。
　真由美先生、北条先生がどこにいるか知りませんか？」
「さあな。今日はもう生徒を全員帰したから学校のどこにいるかわからない。
　明日はどうせ学校が休みになって職員会議だろうから、そのときに捕まえればいいだろう」
「それもそうですね。私たちは寮だから学校が休みになっても学校にいるわけですから」
「橘さん、じゃあ今日の調査はこれで終わり？」
「そんなわけないでしょ。とりあえず警察に話を聞きに行かなきゃ」
「でも橘さん。いきなり行って教えてくれますかね」
「そこなのよね。シャーロック・ホームズと違って、警察から頼られるわけじゃないし…」

 

警察から話を聞く方法か。
何かいい手はないかな？

 

…警察？もしかしたら…

 

「真由美先生、担当刑事の名前を知りませんか？」
「担当刑事か。おまえ達のよく知ってる奴だ」
「もしかして、風間刑事さん？」
「そうだ。よく知ってるだろう」
「ええ、あの人なら知ってます。でも…事件については教えてくれないでしょうね」
「そこを何とか聞き出すのよ。とにかく会って話を聞かなきゃ、行くわよ恵くん」
「ま、待ってよ橘さん、風間さんがどこにいるか知ってるんですか」

 

保健室を飛び出し廊下を走っていく二人。

 

「落ち着きのない奴だな」
「それで、玲奈、おまえはどうするんだ？」
「あたしもちょっと調べてみるよ。面白そうじゃないか」
「気をつけろ。相手は、人殺しなのだぞ」
「人を殺したことがあるってだけなら、たくさん相手してきたぜ。
　行くぞ忍ねこども」
「にゃー」

 

さて、どうやって警察から情報を引き出すべきか。

 

美亜子に何か考えがあるわけがない以上
ワトソン恵の選択が明暗を分けるのである。