ここは、いつもの潰れそう。

 

与一    「すでに荘の字すら入れてもらってないな」
九羅香 「まあまあ与一。ただの誤変換かもしれないよ」
玲奈    「あーあ。もう学校が始まっちまったぜ。
　　　　なんで正月休みが８日までなんだよ。せめて小正月ぐらいまで休ませろ」
紅葉　「それでも、ハッピーマンデーですこしは休みが伸びてるはずですよ玲奈様」
廉也　「紅葉さん。学生の身分ではハッピーマンデーは全く関係ないのでは」
静　　「一応〜影響はあるらしいですよ〜。長野先生の時代には〜
　　　　始業式が〜６日ぐらいだったそうですから〜」
玲奈　「げ。まだ早かったのかよ」
弁慶　「授業数はかわらないんだから朝三暮四だろ」
紅葉　「あら、弁慶様いらっしゃいませ」
九羅香「弁慶、ちゃんと持ってきてくれた？」
弁慶　「ああ、持ってきたよ…だけど、小豆を今から煮てたら間に合わないだろ」
紅葉　「ご心配なく弁慶様。ちゃんと昨日から準備しておきました」
弁慶　「食べることに関してはほんとまめだな」
紅葉　「九羅香様のためですから」
九羅香「紅葉。それではまるで私が食い意地が張っているみたいではないか」
玲奈　「まるでじゃないじゃん」
紅葉　「玲奈様は、不要なのですか」
玲奈　「いる」
弁慶　「・・・・・」
与一　「どうしたのだ弁慶。何か安心したような顔をして」
静　　「それは〜きっと〜おとしだま〜と言われなかったからでは〜」
九羅香「いつまでもお年玉をもらってちゃ悪いよ。弁慶だって同い年なんだから」
静　　「そうですね〜今お年玉をもらうとすれば〜玲奈さん〜だけですね〜」
廉也　「年齢的には観月さまと変わらないはずです」
玲奈　「でも学年は２つ上なんだよな」
観月　「ちょっとした間違いがそのままになっているだけです」
弁慶　「その授業についていけてるんだからやっぱりすごいよ」
楓　　「ついていけてるっていうか、今じゃおねえさまに教えてるぐらいだものね」
弁慶　「楓はどうなんだ？」
楓　　「う゛ー。アルバイトが忙しくって冬休みの宿題が徹夜になっちゃったのよ」
弁慶　「一体何があったんだ？そういえば正月中ずっと姿を見なかったけど」
楓　　「アルバイトよ、アルバイト。ずっと神社で巫女のバイトしてたんだから」
弁慶　「そりゃ大変だったな」
楓　　「大変だったのよ。まったく…:撮影禁止だっていうのに
　　　　電話をかけるふりして携帯でぱしゃぱしゃぱしゃぱしゃ…うっとうしいったらありゃしない。
　　　　だいたいなんであたしばっかり撮るか。他のもちゃんと撮せばいいのに」
静　　「自慢なんだか〜愚痴なんだか〜わからないですね〜」
楓　　「そういうあんたはなんであたしがバイトしてる神社で大道芸するか」
静　　「お客さんが〜たくさんいるからです〜」
楓　　「舞を奉納してくれたのは、感謝してるわよ。
　　　　神主さんも喜んでたし」
紅葉　「では、九羅香様、みなさま、準備をお願いします」
九羅香「そうだね。さて、では鏡餅を…」
観月　「今までずっと不思議だったのですが」
廉也　「なんです観月様」
観月　「新暦なのは仕方がないとして、どうして１１日なのですか」
九羅香「なんでって…どういう意味？」
観月　「４日か２０日にするものだと思っておりました」
美沙　「そういう時こそ携帯電話の出番だよ。というわけでお招きありがと〜」
紅葉　「いらっしゃいませ美沙様。どうぞお上がりください」
美沙　「ありがと紅葉先輩」
弁慶　「ちょっとまてよ美沙。なんでおまえこんなタイミング良く現れるんだ」
美沙　「それはもちろん、こういうタイミングを待ってたからじゃない」
与一　「ずっと玄関先で立っていたのか。寒かっただろう」
美沙　「うん、ちょっとだけ。でも結構面白かったよ」
紅葉　「美沙様、盗み聞きはあまり良い趣味ではありません」
美沙　「ごめん紅葉先輩。…と、じゃ上がらせてもらいますね」
九羅香「さて、では鏡開き…弁慶、あれ貸して」
弁慶　「はい。木槌…包丁で切るわけにはいかないからね」
九羅香「手で割るっていっても、ほら、そんな力が強くないから」
玲奈　「弁慶なら割れるだろ、やってみろよ」
弁慶　「無茶言うなよ、とりあえず木槌で割ってからでなきゃ」
与一　「適度に乾燥して割れやすくなっている。問題ない」
九羅香「よし。じゃあ…誰がやるの？」
弁慶　「やっぱり、ここは九羅香しかいないんじゃないかな」
九羅香「よし。では………」
紅葉　「待ってください。机の上でやると机が壊れるかもしれませんから。
　　　　これを下敷きに」
九羅香「なんでコンクリートブロックがいるの？」
与一　「慣性の問題だな。急激な衝撃を受けるには、重い物がいい」
玲奈　「どっちにせよ、衝撃は机に伝わるけどな」
九羅香「まあ…壊さないように注意して…短く、鋭く…やっ！」
与一　「さすがは義経殿」
美沙　「すごい、おもちだけに力を伝えてる」
九羅香「ま、まあ…これぐらい普通だよ」
弁慶　「じゃ、みんなおおまかに割れたから細かくしようか」
廉也　「はい、そうですね弁慶さん」

 

九羅香の一撃で割れたお餅をみんなで細かくぜんざいに出来る大きさに手で割っていく

 

九羅香「こら、割るなんていうな縁起でもない」
紅葉　「そうですね、鏡開きなのですから、開いていく、と呼ぶことに致しましょう」
静　　「はい〜適当な大きさになりました〜」
紅葉　「では、さっそく食べられるように致しましょう」
弁慶　「紅葉、焼かないの？」
紅葉　「焼くのですか？弁慶様」
九羅香「まあまあ弁慶、紅葉のやりたいようにやらせてあげてよ」
静　　「そうですね〜」

 

というわけで、紅葉はポットの湯を沸かしなおして
いま開いた鏡餅をゆでてぜんざいの具にする。

 

紅葉　「この方が早いと思いましたから」
弁慶　「いろんなやりかたがあるんだな」
観月　「弁慶様は、焼き餅の方が好みなのですか」
弁慶　「い、いや、焼き餅が好きな訳じゃないよ」
玲奈　「そりゃ弁慶じゃ焼き餅焼かれる心配ないもんな」
弁慶　「どういう意味だよ」
九羅香「料理が下手だって言いたいんじゃない？」
与一　「無理にぼけているのか」
楓　　「おねえさま〜楓は楓の人気に焼き餅やいて欲しいです〜」
九羅香「みんなからすかれるのはいいことだよ、うん」
廉也　「九羅香さん、全然意味がわかってないみたいですね」
美沙　「まあ、九羅香先輩だから。…そういう観月も、ね」
観月　「なんのことでしょうか？」
美沙　「べつに…あ、これ砂糖が控えめでおいしい」
九羅香「そりゃ紅葉がつくったんだもん。ね」
紅葉　「もうしわけありません。砂糖もありあわせで作ったのであまり入れてないんです」
弁慶　「これぐらいの甘みのほうがいいよ。あんまり甘いばっかりだと気持ち悪くなるし」
玲奈　「弁慶は食べれればなんでもいいんだろ」
弁慶　「いや、べつにそういうわけじゃないぞ」
与一　「最初は紅葉の料理にも文句ばかり言っていたぐらいだからな」
九羅香「そういえば、そうだったね弁慶」
弁慶　「そんな昔のことは忘れてよ」
美沙　「え〜なんでこんなおいしい物に文句をいうの弁慶先輩」
弁慶　「い、いやその…」
紅葉　「美沙様…話せば長くなりますが…」
美沙　「短く言うと、平安時代の料理が口に合わなかったんだよね」
楓　　「美沙、あんたなんで知ってんのよ」
美沙　「与一がいつもいってるもんね」
与一　「いつも言っているのは、那須与一本人だということだぞ」
美沙　「同じ事だってば。まあ、与一の冗談としては面白いよ」
与一　「まるで私が冗談の言えない人間みたいないいかただな」
楓　　「まるでじゃないとおもうけど」
九羅香「まあまあ、せっかくおいしいものを食べてるんだからなごやかに行こうよ」

 

狭苦しいつぶれ荘の一部屋。
だが住人達には今年も楽しいことがたくさんありそうだ。