ここは、いつものつぶれそう。
彼岸を過ぎ立冬も過ぎれば、そろそろ紅葉のシーズンである。

 

九羅香：だけど、こんな場所じゃ紅葉を愛でるといっても場所がないね

　弁慶：いや、そんなことはない。みんなが思ってるよりは公園があるからね。

　玲奈：そうそう、ぎんなんを拾える並木も結構あるよな。
　　楓：あんたも食い意地張ってるわね。
九羅香：え？ぎんなんがあるの？ねえねえ玲奈、私にも分けてよ。
　玲奈：今庭に埋めてるから、食べ頃になったら紅葉が焼いてくれるだろ。
　　楓：お姉さま、私も一緒に食べたいです〜
　　静：九羅香さんが絡むと〜態度が一変しますね〜
　観月：ふふ。
　紅葉：皆様、せっかく気持ちよく晴れた秋の日ですから、みんなで紅葉狩りにでも出かけませんか。
　弁慶：出かけるっていっても、もう外は寒いぜ。
　玲奈：このくらいで寒がるのかよ。年寄りはこれだからこまるぜ。
　弁慶：誰が年寄りだ誰が。
九羅香：年寄りかどうかは知らないけど、このくらいで寒がるのは修行が足りないぞ。
　　　　こんなことでは、寒稽古など出来ないではないか。
　弁慶：い、いや、稽古と娯楽はむすびつかないから。
　与一：いいわけは無用だ。弁慶はすこしたるんでいるようだな。
　観月：まだ弁慶様は寒さに体が慣れておられないのですね。
　紅葉：せっかくお弁当を作ったのですから、みなさんで出かけませんか。
　廉也：観月様。どういたしますか？
　観月：私は、皆様がよいようにいたしましょう。
九羅香：私は絶対いく〜っ！
　　楓：お姉さまが行くなら私も〜
　弁慶：…九羅香が行くんなら、仕方ないな。
　玲奈：あたしはもちろんいくぜ
　　静：では〜私も〜紅葉を見に参りましょう〜
　与一：私も行こう。これで全員だな。
　紅葉：そうですね。

 

というわけで、ここは東京にある公園。
どの公園かは気にしないで欲しい。

 

　玲奈：単に設定がないだけだろ。

 

まあ、弁慶の学校がどこらあたりにあるかも謎だから。

 

　与一：しかし、平成の世ではどこへ行っても人ばかりだな。
　紅葉：紅葉を愛でるより、人を見てるようになりますね。
　　静：人を〜観察するのも〜なかなか〜楽しいですよ〜
　玲奈：そりゃ静はのぞき根性があるもんな。
　　静：私は〜軍師ですから〜
　弁慶：いや、それは関係ないだろ
　　静：あらゆる事を〜観察するのも〜軍師の〜仕事です〜
　弁慶：そういうものなの？
　　静：はい〜もちろん〜踊りにも反映させますよ〜

 

そういうと、静は舞い散る木の葉に合わせて踊り出した。

九羅香：じゃ、私は笛で合わせるね。

 

九羅香もすぐに笛を取り出して静の踊りに伴奏を入れる。

 

　観月：では、私が歌を入れましょう。

 

九羅香の笛に観月の歌、これに静御前の踊りである。
人が集まらないわけがない。

 

　玲奈：人間観察どころか、人に見られまくってるな。
　紅葉：いいではありませんか玲奈様。皆様楽しそうです。
　玲奈：そりゃ悪いとは言ってないけど、紅葉狩りじゃないだろ。
　与一：まあ、そうだな。
　弁慶：与一、弓を構えて何をするつもり？
　与一：…まあ、見ていろ。…

 

ここから、誰も与一に声を掛けられなくなった。
与一は完全に集中して何かを狙っているようだから。

 

やがて、霜が降りるように与一の弓が引き絞られる。

 

ひゅん！

 

いつ射られたのかわからぬほど自然に矢が放たれると
舞い落ちている葉の一枚を貫いて矢が幹に突き刺さった。

 

　廉也：すごい、落ち葉の真ん中を打ち抜いてます。
　与一：すごい、と言われるほどの事でもあるまい。弓の達人なら誰でも出来ることだ。

　弁慶：自分で達人っていうのか…
　与一：どうした弁慶。
　弁慶：い、いや。与一はすごいなあ・・・って。
　与一：修練をすれば誰でもこれぐらいは出来るようになる。

　　　　弁慶、せっかくだからおまえもやってみるか。

　弁慶：俺はいいよ。俺は剣道のほうをやってるんだし。
九羅香：よく言った弁慶。じゃあ、鞍馬寺で修行した精神鍛錬法を教えてやろう。
　弁慶：な、何かやぶ蛇な事をいっちゃったかな。
九羅香：どうした弁慶？
　弁慶：い、いえ、なんでもないです…
九羅香：そんなに緊張しなくていいよ弁慶。たいして難しくないから。

 

そういうと、九羅香は舞い落ちている落ち葉の一枚を指でつまんで見せた。

 

九羅香：ほら、たったこれだけのことだよ。

　弁慶：なんだ、それだけのことか。…あれ？

　玲奈：弁慶、おまえどれだけ鈍いんだよ。
　弁慶：なんだよ玲奈、これ結構難しいんだよ。手を動かすと手の風で葉っぱが逃げるんだから。
　玲奈：そりゃ弁慶のやり方が悪い。普通に手を伸ばしてそっとつまめばいいじゃないか。
　弁慶；よく動きの予測できないものへ自然に手が出せるな。
九羅香：弁慶はいしきしすぎだって。自然に自然に肩の力を抜いて。
　弁慶：…よくわからない。

九羅香：ああもう弁慶は鈍いんだから。ほら弁慶手を出せ。
　弁慶：手を出せって？
九羅香：いいから手を貸してみろ。

 

そういうと、九羅香は左手で弁慶の右手首を握る。

 

九羅香：腕の力を抜いてみろ。

　弁慶：こ、こうかな？
九羅香：それでいい。腕の力を抜いて私の動きにあわせろ。
　　　　ほら、葉っぱの動きをよく見て、葉っぱの気持ちになれば葉っぱの方が手に近づいてくる。

 

なるほど、九羅香は葉っぱを迎えるように手を誘導してみせる。

 

九羅香：あとはつかむだけ。
　弁慶：本当だ。かんたんにつかめた…だけど、葉っぱの気持ちになるなんてどうやってやるんだ。
九羅香：葉っぱをよく見ていればわかるよ。慣れれば。
　弁慶：慣れればか。
　観月：何事も地道な努力が王道なのです。弁慶様。
　　楓：………
　紅葉：どうしたのです、楓。
　　楓：お姉さま〜どうして、どうして楓の手も握ってくださらないのですか〜。
九羅香：楓はこれぐらい出来るじゃない。弁慶は出来ないから教えてあげたんだよ。
　　楓：そんなお姉さま〜楓ももうわすれてしまいました〜
　玲奈：都合のいい記憶力だな。
　　楓：何よ。
　廉也：あ、あの二人ともそんなことで喧嘩しないでください…。
　　楓：べつに喧嘩してるわけじゃないわよ。
　紅葉：皆様、そろそろお弁当にいたしましょう。
九羅香：うん、そうだね、時間もいいし。

 

確かに時間もいい。
途中さくっと省略したが公園に来るまでにそれなりに時間が掛かっているから
もうお昼の時間が来ているのだ。

 

九羅香：いただきまーす。
　紅葉：はい、どうぞ九羅香様。
　弁慶：このおにぎりおいしいよ紅葉。
　紅葉：ありがとうございます。私と観月様とで作りました。
　観月：塩と酢と海苔だけですけど、お口に合うかどうか。
　与一：にぎりめしはその程度のものだろう。何もそんなに謙遜することはあるまい。
　　静：平成では〜いろいろと〜おにぎりにも具を入れるみたいですよ〜
　玲奈：そうそう。マヨネーズとかコーラとかが入ってるって聞いたことがあるぜ。
　廉也：さすがにコーラ入りはないと思いますが…
　玲奈：そうなのか？静はあるって言ってたぜ。
　弁慶：コーラを掛けるって話は聞いたことがあるけど、さすがにおにぎりの具にはならないよ。
　　楓：コーラを掛けるってだけでも気持ち悪いのよね。
九羅香：まあまあ、そんなことは気にせずにおいしく食べようよ。
　与一：そうだな。…お茶でも飲むか？
　観月：はい、いただきます与一様。

 

ござを広げてみんなで食べるお弁当。
時々吹く風の冷たさも、みんなで集まっていれば感じない。
空気の冷たさより、風の合間の日だまりの暖かさを感じる。
いや、空気の冷たさも、身を引き締める心地よさか。

 

　玲奈：物はいいようだな。
　美沙：やっほー。あ、廉也君こんにちは、観月さんこんにちは…こんにちはみなさん。
　観月：景川様、今日はどうしてこちらへ。
　美沙：え、？ちょっと散歩に来てみただけ。あ〜みんなお弁当なんだ。
　紅葉：景川様もどうぞご一緒にお弁当を召し上がりませんか。
　美沙：え？もらっていいの？ありがとう。
　紅葉：ええ、どうぞ。
　美沙：じゃ、私もこれみんなにあげる。
　与一：これはどういうものなのだ？
　美沙：あ、これはビタミンのタブレット。肌にいいんだって。
　与一：ふむ。…まずはひとついただこう。
　美沙：いいよ、…あ、これおいしい。形も整ってるし、紅葉先輩後で作り方を教えてくださいね。
　紅葉：ええ、いいですよ。こんどの機会にでも。
　美沙：今度といわず帰ったら教えて。
　紅葉：ですが…。
　弁慶：まあ、教えてやればいいんじゃないか。日がくれる前にはみんな帰らなきゃ。
九羅香：そうだね。

 

秋の日の、それなりに人のいる公園の中、１０人で仲良くお弁当を食べながらの談笑。
平和な日曜日が過ぎていく。