魔法のプリンセス
シルキー＝ピア
【第五話】
〜いきなりスーパースター〜
今日は日曜日、アイラとピアはルシエルから紹介された初仕事のために
指定された会場へと移動開始である。
「わしを忘れるではないわ」
「あんたはべつに人目につくところに出る訳じゃないでしょ」
「気にするな。あれからわしも人間界の勉強をしたのじゃ」
「なんで人間界の勉強をしてあたしの肩に止まってるのよ」
「それじゃ。なんでも人間界には『携帯』というものがあるらしいの」
「あるわよ。あたしはお金無くてＰＨＳだけど」
「なんじゃそのＰＨＳというのは」
「貧乏人向けの携帯よ、安いけど使える場所が少ないの」
「なるほどのぉ。簡略版なのじゃな」
「ま、そういう事ね」
ＰＨＳの会社が聞いたら怒りそうな会話である。
もっとも最初に出来たときはまさにその通りだったのだから仕方ない。
「それと、あんたの態度となにか関連あるわけ？」
「そこじゃ。なんでも人間界では人型の機械がいろいろとあるではないか」
「そりゃま、確かにいろいろとね」
「妖精型の携帯があって悪い道理はあるまいの」
「そんなのどこで売ってるのよ・・」
「売ってるとはいうておらぬわ。人に聞かれたらそう答えればよいのじゃ。
目がついておるように見えても問題なかろう。なにしろ流行はカメラ付きじゃ」
「そんなのどこで覚えるのよ」
「テレビじゃ。おぬしが見ておけというたであろう」
「ま、ね。でもさすがに怪しげだと思うわよ」
「案ずるでない。上手くいかぬようなら魔法でなんとかするわい」
「なんとかって・・・」
「アイラちゃん、メーちゃん。ここなの？」
「ん〜確かに、ここみたいね」
ルシエルから指定された場所に着いたアイラは、場所を間違えたような気がした。
なぜって、鉄道とバスを乗り継いで到着した場所は、あまり流行ってない
スーパーマーケットだったのだ。
「やあアイラ、待ってたぜ」
「あ、そ。一応５分前には来たつもりよ。そんなにまったの？」
「一応俺が責任者なんでね。会場の設営に店長さんへの挨拶、
やっとくことはいろいろあったんだぜ」
「会場ったって、台を据えてマイク置いてあるだけじゃない。
あの程度の作業ならざっと２０分ってとこでしょ」
「手厳しいねえ。雨が降ったときのために・・・」
「こういう仕事なら雨が降ったら中止でしょ。要するに客寄せイベントじゃない」
「まあ、その通りだな。じゃ早速あの子・・・」
「あの子はまだ来ないわよ。先にあたしが事情聞いておくわ」
「おいおい、そりゃないぜ」
「そりゃないのはルシエルの方じゃないのか？」
「な、どこから出てきたんだよアッシュ」
「ん？ピアがここでコンサート開くって聞いたから足を伸ばしたんだぜ」
「今から俺たちは仕事のお話なの。子供は来るな」
「ルシエルだって未成年じゃないか」
「俺はちゃんと仕事してるぜ。遊びに来てるおまえとはちがうんだよ」
「どうだか、仕事の話をまじめにするかどうか怪しいから来ないんじゃないのか？」
「アッシュ、俺だってやるときには・・・」
「二人ともいい加減にする！
ほら、ピアが引いてるじゃない」
「・・・やっぱり、喧嘩はよくないと思うの」
「ん・・・悪かったよ。それで、あっちのピアはいつ来るんだ？」
「シルキーピアの方でしょ？あの子ああ見えて人見知り激しいから
打ち合わせはあたしがやっとくわよ」
「あれだけ積極的なのに人見知りが激しいのか？」
「ステージの上でだけ明るいのよ。一対一で話をするのは苦手なの。アッシュ、わかった？」
「そういうものなのか？ま、俺は常にピアの味方だからな」
「それで、なんでおまえがここ座ってるんだよ」
「ほらほら、喧嘩せずに話する。それで、ピアは何をすればいいの？」
「ほら、シルキーピアが歌ってたフェイの新曲があるだろ。
あれをあのステージの上で歌って欲しいんだよ。
一時間毎に時報があるから、その都度ステージに上がってもらって」
「それだけでいいの？」
「結構大変だぜ。一応店の広告にはシルキーピア登場を載せてあるそうだけど、
写真の一枚もないアイドルだろ。歌を聴いてもらって出たとこ勝負になるぜ。
これでお客さんがつかないようなら、俺もピアをかばいきれないしな」
「ピアなら何も心配要らないわよ」
「スーパーの仕事は難しいぜ。コンサートはお客さんが聴きに来てくれるけど、
スーパーにはみんな買い物に来てるんだ。足止めて聞こうなんてまず思ってくれない」
「ま、何とかなるわよ。打ち合わせってこれでけ？
リハーサルとかはいいの？」
「ま、これくらいだな。リハーサルは要らないだろ。
あと開店１０時だから、それまでにステージに上がれるように頼むぜ」
「それは心配ないわよ。条件はたくさん向こうが言ってるけど、
約束はちゃんと守るわよ」
「なあ。本当にリハーサルなしなのか？」
「ん？要らないわよ。要するにカラオケと一緒じゃない」
アイラの言うとおりだった。
シルキーピアの初仕事の場所は、輸送用のコンテナボックスを
ガムテープで固定した台の上にベニア板を張っただけのステージだった。
一応看板に「シルキーピア☆」とは書いてあるが、
その看板、裏には駐車場入り口と書いてある。
音響システムはといえば、移動式のカラオケせっとが一基据えてあるだけ。
温泉宿なんかでカラオケセットとしておいてあるような奴だ。
「ねえねえ、アイラちゃん。これちゃんと歌えるの？」
「え？まあ、そのための機械だから」
「アイラちゃんが持ってるのより大きいの」
「そりゃあたしのラジカセよりは大きいわよ。音もばっちりよ」
「・・・・早く歌ってみたいな」
「！−！−！−」
アイラが声にならない声で絶叫する。
歌うのはピアではあるが、ピアではないのだ。
「のう。そろそろ時間じゃ。呼びにいかんでよいのかの」
「・・・うん。呼んでくるね」
「俺もついてくよ」
「あんたはここで待ってなさい」
「え〜シルキーピア登場だろ。俺も連れてってくれよ」
「だ〜め。あんたそれより場所取りしとかなくていいの？
あの子が一旦歌い出したらすぐ見えなくなるわよ。
あんた、背が低いんだから」
「あ〜言ったな〜！」
「ほらほら、お客さんが集まってきた」
なるほど、お客さんが集まってきた。・・・・スーパーの朝市に。
それでもシルキーピアのファンが集まってきたようにアッシュには見えたらしい。
「お、確かに。サンキュ、アイラ」
「You are welcome.」
人気のない場所へとさっさと移動する二人。
「じゃからわしを忘れるなと言うに」
「うん。メーちゃん、魔法の粉掛けて」
もう第５話ともなればおなじみの変身シーン。
でも、変身バトンは、まだおもちゃ屋さんでは売ってない。
「うん、完璧☆アイラちゃん、いこっ♪」
「ちょっとまって・・・うん、衣装よし、髪型よし。
ちょっと回ってみて？」
「いいよ♪」
くるりっ、っと一回転。ただそれだけでも光が舞って見える。
「どう？」
「完璧！じゃ、急ぎましょ」
「Go!Go!」
シルキーピアは軽やかに走って、そのままステージへと駆け上がる。
メリルも全力で飛んでカラオケセットを素早く予定の歌へセットする。
アイラは息切らせてマイクをつかむと笑顔で買い物客へと呼びかける。
「あ〜あ〜、ただいまマイクのテスト中。本日は晴天なり、本日は晴天なり。
お買い物中のお客様。しばしそのてを休めてお聞きください。
お急ぎでない方はどうぞこちらをご覧くださいませ。
本日は、今人気赤丸急上昇中、シルキーピアがご機嫌をうかがいに上がりました。
どうぞ天使の歌声をお楽しみください」
それだけ言うと、アイラはマイクを投げてピアへ渡す。
ピアはマイクを逆回転しながらつかむとメリルの方に指で合図する。
メリルが曲をスタートさせるとすぐにイントロが流れ出す。
♪〜みんな☆うつむいてるよ。眉間にしわ寄せないで前向いていこっ☆
♪〜ピア☆今来てるみんなのために歌います☆
♪〜〜〜〜〜♪〜〜〜〜〜〜♪〜〜〜〜〜〜〜♪〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜♪〜〜〜
いつも通りに歌を歌い始める。
お客さん、ちょっと目を向けるが、そのまま買い物に没頭し始める。
大体がラジカセからは「いらっしゃいいらっしゃい。安いよ安いよ」と
がなり立てているのだから仕方ない。
「♪さかなさかなさかな〜、が流れてないのは救いじゃな」
「そんなの流すんだったらピアが来る必要ないじゃない」
「それもそうじゃ。じゃが、生のピアならその上じゃ」
「・・・そうみたいね」
その通りだった。
曲がクライマックスに近づくにつれ、段々お客さんがピアの方を向いてくる。
「ピア〜っ！」
アッシュの声援に手を振ってピアがこたえる余裕も出てくる。
♪〜〜〜〜〜♪〜〜♪〜〜〜〜〜〜〜〜♪
どうやら、曲が終わったらしい。
メリルは素早くカラオケ装置を停止させる。
ピアの方は手を振ってお客さんに答える。
とりあえず最初の仕事は成功、、、と、アイラは思った。
「アンコール！アンコール！アンコール！アンコール！」
「アンコール！アンコール！アンコール！アンコール！」
「アンコール！アンコール！アンコール！アンコール！」
アンコールを求める声が段々大きくなってくる。
「ありがと、ありがとうみんな☆
ピア☆途中から聞き始めた人のためにもう一度歌います」
「いいぞ〜っ！」
拍手の中、再びピアが歌い始める。
予想以上の大成功、とアイラは思った。
♪〜〜〜〜〜♪〜〜〜〜〜〜〜♪〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜♪〜〜〜〜♪
歌が終わる。
「アンコール！アンコール！アンコール！アンコール！アンコール！アンコール！」
「アンコール！アンコール！アンコール！アンコール！アンコール！アンコール！」
「アンコール！アンコール！アンコール！アンコール！アンコール！アンコール！」
「アンコール！アンコール！アンコール！アンコール！アンコール！アンコール！」
「アンコール！アンコール！アンコール！アンコール！アンコール！アンコール！」
「みんな☆ピアの歌を聴きたい？」
『聞きた〜い』
「じゃ、みんなのためにもう一回歌います☆」
「な、何やってるんだよ」
「あら、ルシエルじゃない。何って、アンコールが入ってるから
ピアが歌ってるのよ。どしたの？そろそろ打ち切った方がいい？」
「打ちきった方がいいなんてものじゃない！これじゃ一日中歌い続ける事になるぜ」
「そうね。・・・じゃ、これが終わったらあたしが入って打ち切るわよ。
どうせまた一時間後に歌うんでしょ。そういって解散してもらうわ」
「頼む、アイラ。でも解散はさせないでくれよ。あくまで買い物客を呼んでるんだから」
「Ｏ．Ｋ．あたしもこういうのは経験あるわよ」
二人とも、見通しが甘かった。
ピアが歌い続ける毎に、どんどん人だかりは大きくなってくる。
♪〜〜〜〜〜♪〜〜〜〜〜〜〜♪〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜♪〜〜〜〜♪
曲が終わる。
アイラがステージへと上がろうとするが、人だがりが多すぎてステージにたどり着けない。
「アンコール！アンコール！アンコール！アンコール！アンコール！アンコール！」
「アンコール！アンコール！アンコール！アンコール！アンコール！アンコール！」
「アンコール！アンコール！アンコール！アンコール！アンコール！アンコール！」
「アンコール！アンコール！アンコール！アンコール！アンコール！アンコール！」
「アンコール！アンコール！アンコール！アンコール！アンコール！アンコール！」
さらにアイラの行く手を遮るのはアンコールを求める大合唱だ。
アイラは進退窮してしまった。
「のお。小娘」
「なによメリル。」
「妙なことに気がついたのじゃがな」
「なに？」
「あの、アンコールをあおっておる一団がおるじゃろ」
「ああ、あれ？えらくピアに入れ込んでるわね」
「あの連中。どこかで見たことがあるんじゃがな」
「もったいぶらずにどこで見たか教えなさいよ」
「あの連中、ここの店員じゃ。打ち合わせの時に店の中で商品を並べておったわ」
「店員って・・・今私服じゃない。一体どういう事よ」
「わしにもそこまでわからん。じゃが、ピアを歌い続けさせるつもりらしいの」
「つもりって。・・・店長に言ってやめさせないと。
ルシエルんとこ行かなきゃ」
「ルシエルならとっくに店長の所へ行っておるわ」
「そういうとこは抜け目ないのよね。それで？」
「店長がつかまらんみたいじゃな」
「！・・・それって、つまり、どういう事よ」
「つまり、・・・これはピアへの嫌がらせじゃな」
「嫌がらせ・・・アッシュは！」
「一番に舞い上がっておる。あてにはならんの」
「・・・ええと・・・なんで？理由は？」
「わしに聞くでないわ。人間界の事情はわしにはわからぬ」
「だからって、どうすればいいのよ。
これだけお客さんが盛り上がってるのを無理に打ち切ったらピアの印象が悪くなるし、
だからといって続けてたら仕事がこなせないし。。。ああもう！」
「・・・魔法の、出番じゃな」
「魔法？じゃ、すぐにやってよ」
「まだ早いわ。・・・もっと会場が盛り上がったら使えるがの」
「もっとって、それじゃ間に合わないわよ。これが何回もあるのよ！」
「あと一回だけじゃ。黙ってみておれ。魔法ならわしの方が詳しいでな」
「詳しいって・・・」
メリルはもうこれ以上答えなかった。
カラオケ装置を操作してピアがさらに歌えるようにする。
ピアはさらにもう一曲歌い始める。
集まったお客さんの熱気は上がる一方。
みんな買い物を忘れてピアの声援だ。
♪ほ〜た〜ぁるの、ひ〜かぁり、ま〜ど〜の〜ゆ〜ぅ〜き〜♪
閉店の曲が流れ出す。気がつけば日が落ちて辺りは真っ暗。
街灯の明かりが駐車場を照らし出している。
さすがに、この時間になれば大丈夫。
メリルに耳打ちされてシルキーピアは集まったお客さんに呼びかける。
「みんな。今日はピアのために集まってくれてありがとう。
ピア、これからもみんなのために歌います。
本当に、今日はありがとう〜」
にこやかに手を振って退場するシルキーピア。
手拍子で送り出すお客さん。どうやらみんな満足してくれたようだ。
大成功である。
「大成功って・・・」
「魔法を使う、というたであろう」
「わっ！」
「今更そう驚くこともなかろう」
「魔法って・・・一体、なにをしたのよ」
「楽しい時間は早く過ぎるものであろう」
「そうね。でも、それと・・・」
「それの強力な奴じゃ。ちょっとばかり時間が早く過ぎたわけじゃな」
「これはちょっとって水準じゃないわよ」
「気にすること無いわ。ずるはお互い様じゃ 」
「べつにずるした訳じゃないでしょ」
「ま、そうじゃな」
こうして、シルキーピアの初仕事は、お客さんを大満足させて終わりを告げた。
もっとも、スーパーの歌手、スーパースターとしては大失敗だったかもしれない。
なぜって、お客さんはみんなピアの歌を聴くばかりで買い物を忘れてしまっていたから。
もっとも、この点はルシエルも全く責めなかった。
非は店員教育のなってない店長の側にあるのだし、
店長もそれを認めてルシエルに謝っていたのだから。
「でも、どうしてあの店員達あんな事したのかしら？」
「それだけピアがすごかったんだろ」
「おまえみたいなお子様ならそれだけの理由で仕事をさぼるだろうな」
「あ〜、誰がお子様だよ」
「おまえ」
「なんだと陰険」
「なんかいったか極楽とんぼ」
「二人とも喧嘩すな！ほら、バスが来るわよ。アッシュ、行きましょ」
「そんなことしなくても帰りは俺が送るから・・・」
「アッシュはどうすんの？」
「アッシュは自力で帰れよ」
「でしょ。じゃ、あたしは『お子様』の面倒をみてやんないとね」
「あ〜アイラまで俺を子供扱いするのかよ」
「すぐ喧嘩するようなのはお子様としか言えないわよ。
ほら、さっさと乗る。じゃ、ルシエル、また明日ね」
「・・・あ、ああ・・・また明日」
「ルシエルちゃん。また明日なの」
「おぬし、もう少し心を広く持った方がよいぞ」
こうして一行はバスに乗り込んだ。
「？？？最後の声は誰だったんだ？」
疑問を抱えたルシエルを残して。
いや、疑問といえば、どうしてあの店員がシルキーピアの妨害らしき事をしたのか。
それも疑問として残っていた。
しかし、関係者一同、それをつっこんで考えたりはしなかったのだった。
その結果、ピアに何が降りかかるか。
それは次回のお楽しみ。