魔法のプリンセス
シルキー＝ピア
【第四話】
〜転校生は眼鏡っ娘〜
今日は月曜日、アイラはいつものように学校に出かける。
「いつものように、じゃないわよ」
「そうじゃの。わしが一緒にきておるでな」
「なんであんたがあたしと一緒に学校に来るのよ。
あんたピアのお目付役なんだからピアと一緒にいればいいじゃない」
「ピアなら心配いらぬわ。ちゃんとお主の考え通りに入学させることにしてある。
住民票も戸籍謄本も転入届も全部魔法で出したからなんにも心配いらぬわ」
「そういうことを魔法で済ませても、面接とかあるでしょ。
大体あの顔で１６歳ってのは無理がありすぎるわよ」
「その点も心配要らぬ。ちゃんと魔法を掛けてあるわい」
「魔法って・・・」
「ほれ、小娘。だれか近づいてきたぞ」
「っと、メリル、隠れて」
「心得た」
「・・・なんてとこに隠れてるのよ」
（騒ぐでないわ。気づかれてもよいのかの）
（ちっ）
「おっはよ、アイラ」
「おはよ、アッシュ」
やってきたのはアッシュ。クラスの中の元気坊主だ。
このアッシュといえどても高校生には見えない。
下手すると中学生にも見えないだろう。
「アイラ、昨日すごかったんだって？な〜教えろよ」
「すごかったって、何が？」
「ほら、フェイのコンサートで現れた謎の踊り子。
なんかフェイそっちのけで話題独占みたいだぜ。
昨日のニュースでもやってたぞ」
「あ、そ。あたしはアルバイトが忙しくってそれ見てないわ」
「なんだ。でもあのときアイラそばにいたんだろ？」
「ま、そうね」
「一体どこの誰なんだよ」
「秘密よ」
「アイラのけち」
「けちってねえ・・・あたしも良くしらないんだって。
向こうから連絡は来るけど、こっちからは連絡出来ないのよ。
次の土曜あたり、連絡があるかもね」
「ほんとか？」
「ほんとよ、うそついてどうするの」
き〜んこ〜んか〜んこ〜ん
「ああ、アッシュの馬鹿、無駄話してるから遅れちゃうじゃない。
遅刻したらあんたのせいだからね」
「人のせいにするな」
「やかましい〜」
息を切らせて教室まで駆けていく。
（ほれみろ。おぬしのほうがよほど心配ではないか。ピアはとっくに学校についておるぞ）
（うるさ〜い。アッシュが立ち話なんてしてこなければあたしだって間に合ってたわよ）
なんとか二人ともホームルームまでに教室にはいることは出来た。
しばらくして、担任のフラッシュ先生が入ってくる。
今日は一人ではない。どうやら転校生を連れてきたらしい。
転校生は、どことなく、おどおどしたように見える。人見知りが激しいのだろう。
制服のない学校なのになぜか良くある女学生風のセーラー服。
前の学校の制服だったのだろうか。
長い黒髪を大きく三つ編みにしている。これも髪型が原則自由な
メルデルビア高校では珍しい。
ついでに言うと、どう見ても高校２年生には見えない。
アッシュだって二年生に見えないが、ピアもやっぱり見えない。
「のお。さすがに無理があったのではないか」
（静かにしてなさいよ。ホームルーム中なんだからね）
胸元に向かってアイラがつぶやく。
胸にワイヤレスマイクがあるわけではない。
なぜかメリルはアイラの胸元に潜り込んでいるのだ。
「ここなら誰ものぞき込んできたりせんじゃろ」
（のぞかせないわよ！）
しかし、印象的なのは眼鏡であろうか。
度がきついみたいで、目が普通より大きく見える。
案外眼鏡美人なのかもしれない。
「ふむ。普段のピアとは印象がちがうの。これなら正体がばれぬかもしれぬな」
（半分覆面みたいな眼鏡ね。どういう構造になってるの）
「魔法じゃ」
ここでざわつく教室に向かってフラッシュ先生が口を開く。
「はい、みなさん静かにしてください。
今日は転校生があるので紹介します。
福島から転校してきたピアさんです。
ピアさん。自己紹介してください」
「は、はい・・あの、私、ピアって言います。
福島から転校してきました。
あ、あの・・よろしくおねがいします」
そういって、頭を下げる。
「はい、ピアさんにはどこへ座ってもらいましょうか。
そうですね・・・、イルミナさんの隣が空いてますね。
ピアさん、あそこの席に座ってください」
「はい」
ピアは素直にイルミナ＝ここの学級委員だ＝の後ろに座る。
それからは普通にホームルーム。
そして、ホームルームが終わると、一時間目の授業が始まる前に、
フラッシュがアイラの元へと駆けてくる。
「アイラ。あのピアって子・・・」
「あのピアって、どっちのピア？」
「そりゃ昨日見たあの子の方だよ」
「どう？物になりそう？」
「物になりそう、って水準じゃないね。
大スターになること間違いなし。すぐに連絡先を教えてくれよ。
うちで引き取って・・・」
「・・っと、そこまで。
あの子の連絡先はあたしもしらないのよ。
それに、あの子があたしに出した条件があってね」
「条件？」
「そ、条件。
仕事が出来るのは週末だけよ。家庭の事情ってのがあるの」
「そこはそれ、親父も乗り気だし、なんとか・・」
「何とかならない」
「お金を積んでも？」
「こればかりはね。・・・あたしも出来ることならして上げたいんだけど」
「・・・それじゃビッグにはならないぜ。
この業界実力だけじゃ勝負になんない」
「生半可な実力じゃ、でしょ。フェイだって高校生が主で芸能は週末と放課後だけでしょ」
「フェイは特別だって」
「ピアも特別よ」
「な〜ピアの話してるのか？」
「なんだ、アッシュじゃないか。今俺はアイラと大人の話をしてるんだ」
「じゃ、俺も入れてくれよ」
「お子様はお断り」
「誰がお子様だって？」
「おまえ」
「言ったな。ピアの話してるんだろ？俺はピアの味方だからな」
「味方って、おまえ何の話をしてるか知ってるのか？」
「大体雰囲気でわかる。べつに週末だけでもいいじゃんか」
「商売ってのはいろいろと都合があるんだよ。お子様にはわかんないこともあるの」
「なんだ・・」
き〜んこ〜んか〜んこ〜ん
「はいはい。二人とも一時間目が始まるわよ」
「ちっ、覚えてろよ」
二人を分けたのは授業開始のチャイムだった。
「のぉ。こういう騒ぎを休憩時間事に繰り返しておるのか」
「今日は特別よ。ま、授業の休みに休憩があるって言うより
休憩時間の合間に授業受けてるっていうのが本当かもね」
（がらっ）
一時間目、実はフラッシュ先生の国語だった。
「一同起立。礼」
学級委員のイルミナが号令を掛ける。
さっそく授業が開始される。
「のぉ・・」
（なによ。しつこいわね）
「どうしても気になることがあったでな」
（気になる事って・・・どうしたのよ）
「あのフラッシュとか言う男じゃがな」
（仮にも先生なの。フラッシュ先生って呼んでよ）
「そのフラッシュ先生じゃが、なんでピアの方ばかり見ておるのじゃ」
（？）
メリルがそういうので、アイラも注意してフラッシュ先生の態度を観察してみる。
なるほど、メリルの言うとおりだ。教室全体を見回していても、
視線はやがてピアの方へと固定されている。
（転校生だから気に掛けてるだけじゃない？）
「そうならよいがのぉ」
（なによ）
「はい、アイラさん。では次を読んでください」
「はい、先生。・・・・ええと・・
働けど働けど我がくらし楽にならざりき じっと手を見る」
「それはさっき読みましたよ。その次です」
「すいません先生、一行間違えました」
ちっ、教室の連中、笑うんじゃないわよ。
「お主の注意力がたらんのじゃ」
（あんたが話しかけるからでしょが）
「アイラさん。何と話をしてるんですか？」
「フラッシュ先生・・アイラちゃんいじめないで・・」
ピアがぽつり、っと話す。
「・・・そうですね。アイラさん。次からちゃんと気をつけるんですよ。
はい、ではちゃんと次を読んでください」
「はい・・・たわむれに 母を背負いてそのあまり かろきに泣きて 三歩歩まず」
「はい、次」
こんな調子で授業が進んでいく。
そんなこんなで昼休憩。
そうそう、このメルデルビア高校では掃除はみんな放課後に行うことになっている。
掃除をさぼって帰る生徒がいないわけではないが、そんな足手まといいない方がまし、
それぐらいならやるきのある生徒に掃除をしてもらって、その分は成績に反映させようというのが
この学校の教育方針だ。
そういうわけで、昼休憩はまるまる休憩時間なのである。
「アイラ〜今日もお弁当なの？」
「やかましい、フェイだってお弁当はお弁当じゃない」
「アイラは手作り、あたしのは工場での量産品。
アイラの方が手間がかかってるじゃない」
「手作りは手作りでもあたしの手作りよ」
「いーなー、一個分けて」
「自分のがあるでしょが」
「いーじゃない、アイラちゃんのけち」
「うっさい、あんたも自分で作ったおかず出しなさいよ。
そしたらわけたげるから」
「え？ほんと？ほんとにあたしの作ったおかずでいいの？」
「・・・・・いんない。わかったわよ、わけたげる」
「ありがと」
そういうと、フェイはすでに１つおかずが欠けているお弁当箱から・・・
「まちなさいよ！なんでもうおかずが１つ欠けてるのよ。
だれがあたしのお弁当食べたの！」
「あ、わるかったよ」
「アッシュ〜、自分のお弁当だけじゃ満足できないの」
「俺は毎日菓子パンなんだよ。でもあれだけじゃ全然足りないんだから」
「だったらもっと増やしてもらいなさい。あたしんちよりは金持ちでしょ」
「まーまー、そう怒るなって」
「食べ物の恨みは恐ろしいのよ。・・・ところでルシエル。
あの子の話は？週末だけでいい？」
「ルシエル、いいことにして上げてよ」
「ん〜どうしたんだい、フェイ？」
「ちょっと、ね。あの子確かにあたしもすごいと思うわ。
この世界に慣れるまではその程度のことは認めて上げていいんじゃない？」
「ビッグになられたら困るんじゃろ」
「なにかいった？」
「フェイの空耳でしょ。だれも何も言ってないわよ」
（っていうか、こんなところで口出ししないでよね）
（まったく。わしの出番がないではないか）
（そもそも呼んでないわよ）
「なーアイラ、どうしたんだ？」
「どうもしないわよ。んじゃ、土曜日にあの子から連絡が入ったら伝えるわね」
「ああ、頼むよアイラ。
ところでもう１ついいかい？」
「なに？」
「あの転校生の方のピアとアイラとどういう関係なんだい？
出来れば・・・」
「さすがはルシエル、見境なしだな」
「なんだと、俺はただ転校生だから興味があるだけだ」
「どういう興味だか」
「ま、お子様は自分のことしか興味ないだろうけどな」
「なんだと見境なし」
「なんだと小学生」
「あらあら、みなさん。食事中の方の前でつばきを飛ばして話をするものではありませんわ」
「・・・イルミー、それなんか違う・・」
「今のはイルミーが正しいと思うわよ。
二人とも大人げないって。
第一、そんなに気になるんだったら、本人に聞いたら？」
「そうじゃの。そういえばピアはどこにいったのじゃ？みあたらぬみたいじゃが」
（だからしゃべるなっての）
（わるかったの）
しかし、今度は誰もこの声に疑問を抱かなかったらしい。
なぜって、みんなが疑問に思ったことだったから。
そのころピアは、学校の図書館の中にいた。
人が多い場所は、怖いような感じがする。
メーちゃんもアイラちゃんとずっと一緒でピアはひとりぼっちだ。
書棚に隠れるようにして、詩集を一つ取り出すと、顔を埋めるようにして読む。
・・・・・・・・・・
休憩時間が終わりそうな予感がして、詩集を書棚に戻す。
ふと、同じように書棚に隠れるように本を読んでいる人を見つける。
（にこ）
ちょっとだけ、笑いかけてみる。
（ぺこ）
笑顔を見せようとしているのはわかるが、かなりぎこちない。
それでも誰だかわからないが、会釈して返してきた。
誰なのか、ピアにはわからない。ただ、ちょっと気に掛かった。
（何か寂しそう…）
何がどう寂しそうなのか、ピアには言葉に出来なかった。
それがカタンであることに気づいたのは、
アイラにつれられてクラスメイトの紹介を受けたときだった。
だからといって、何も変わらない。
昼休憩が終わるとき、無言で挨拶を交わすだけ。
そうして、一週間が終わり、土曜日が来る。
次の日曜には、シルキーピアの初仕事の日がやってくる。
「メーちゃん。魔法の粉掛けて☆」
「うむ。よいぞ」
アイラのアパートで練習を始めるピア。
魔法のステッキでシルキーピアに変身する。
「みんな。明日はみんなのためにピア一生懸命歌います♪」
「L!O!V!E! Lovely Pia！」
アイラがピアに声援を送る。
何回も見たはずなのに、ピアが歌うと、いつも夢の世界にいるような感じがする。
そのピアの初仕事はどうなるのか？
それは次回のお楽しみ。