魔法のプリンセス
シルキー＝ピア
【第六話】
〜ストーカー？ストーカー〜
シルキーピアの活躍は、ルシエルの会社の予想以上だった。
人気の度合いも予想以上。『スーパー』 スターとは思えないぐらいの
ファンレターが連日送り届けられてきていた。
もちろん、プロフィールを教えて欲しいという要望も次々と舞い込んでくる。
「なあアイラ。いい加減教えてくれよ。一体あの子何者なんだ？」
「だから、あたしも知らないって言ってるでしょ。
何も聞かないってのがあの子があたしに出した条件なの。
悪いけど、あたしがあの子に聞いたらあの子、よそ行っちゃうわよ。いいの？」
「・・・ま、いいぜ。それならそれで、謎の美少女って事でプロデュースしよう」
「えらく安直ね」
「ま、俺だから出来るんだけどな」
「大口じゃのぉ。いつか足下すくわれるぞ」
（メリル。黙ってなさいよ）
（じゃが、大丈夫かのお？こやつ）
（ああ見えても、やるときにはやるのよ）
「ん？どうしたんだい、アイラ」
「何でもないわよ。・・・と、忘れてた！」
「なんかあったのか」
「ピア、宿題やってたでしょ」
「うん、アイラちゃん。ピアちゃんとやったよ」
「先生が来る前に写させて！」
「うんいいよ」
「ありがと、ピア、・・・恩に着るわね」
「えへへ・・」
「宿題ぐらい自分でやんなさいよ。アタシだって人任せじゃないのに」
「・・・フェイ、なんか面白くないことでもあったの？」
「べつに。うちのマネージャーってやかましくって、
忙しいから宿題やって、って言ったら、教えたげるから自分でやれって」
「辛かったのか？」
「（あは）わかんなかっただけよ」
「アイラ、俺も混ぜて」
「アッシュ、あんたどこから湧いて出たのよ」
「湧いて出たって失礼な」
「机の下から出てきたから湧いて出たのかと思ったわ」
「あ〜なんだよ。それって俺がちびだって意味か？」
「ちびだろ」
「ルシエル、なにか言ったか」
「ん、いや、ちょっと本当のことをな」
「なんだ・・」
「二人とも喧嘩すな。アッシュ、写すんだったら急がないと・・・」
き〜んこ〜んか〜んこ〜ん・・・
「ああっ、無駄話してたから全部うつせなかったぁ」
「アイラちゃん。ピアの貸して上げる」
「いいわよ。やってないのが悪いの。
出来たところまで提出するわ」
「・・・みなさん。そろそろ席に着いてくださいな。
先生がお見えになりますわ」
「そうね。ま、できたとこまでで出しとくわ」
「何を出しておくんです？アイラさん」
「あ、先生・・・」
「宿題はきちんと自分の力でやりなさい。
学問は人のためにやるものではありませんよ」
「は〜い」
（のう。小娘）
（なによ、メリル）
（なんでわしらの所へ一番に来たのかのぉ）
（騒いでいたから目についたんでしょ）
「あら、アイラさま、ほかのかたはもう席に戻られましたわ」
「あ、ごめんごめんイルミー」
こうしてホームルームが始まる。
特に変わることのない一日の始まり。
本当のことを言うと、アイラの場合、家事全般すべて一人でやってるから
宿題まで手が回らないのが本当の所だ。
もし、本当に自力で宿題をやるとどうなるか。
それは、翌日明らかになった。
「アイラちゃん、大丈夫？眠たそう・・・」
「ん、大丈夫よピア。先生の言うとおりに自力でやってたら徹夜になっちゃっただけ」
「アイラちゃん、無理しなくてもピアが代わりにやったげる」
「ん〜字でばれちゃうでしょ。これぐらいなら写した方がいいわ」
「うん、じゃ、ピア今日からほかのことお手伝いする」
「まあ、・・いいわよ。ピアはまず勉強をやったら？」
「アイラちゃんのお手伝いもお勉強なの・・・」
「二人ともどうしたんだい？俺で良ければ相談に乗るぜ」
「ルシエルに言ってもしょうがないわよ」
「試験の山ならまかせとけって。先輩達から聞き出してあるんだぜ」
「あ〜そういえばもうじき期末試験だったわね。でも、試験の話じゃないわよ」
「試験じゃなかったらなんなんだい？」
「ん〜ま、いいわ。ルシエルに言ってもしょうがないし」
「・・・あ、なるほどね。宿題なんて無理に全部やるものでもないだろ」
「全部やるものですよ。ルシエルくん」
「あ、先生」
「あれ？チャイム鳴った？」
「鳴りましたよ、アイラさん」
「先生そうなんですか。・・・じゃ、自分の席に戻ります・・・」
「どうしたんです？アイラさん」
「え、・・ま、大したことじゃないです」
「そうじゃな。今度から宿題を出したら補助黒板にでも書いておいて欲しいというだけじゃな」
（メリル！）
アイラがポケットに向かって小声で叫ぶ。が、
ピアもメリルと同じ事を思っていたらしい。
「・・・メー・・、、、先生、あんなにたくさん宿題があったらアイラちゃんかわいそうなの」
「そんなにたくさんの宿題がありましたか？２時間ぐらいで終わると思いますよ」
「・・・ピアでも３時間は掛かったの」
でも、という言い方をすると、まるでほかの生徒はピアよりできが悪いように聞こえる。
いや、事実、ピアは優等生の部類に入っているからこういう言い方をしても許されるだろう。
ピアより確実に成績がいいのはイルミーとカタンぐらいだ。
ルシエル？試験はともかく平生点は明らかにピアより悪い。
「お主、自分を基準にするものでないわ。成績がよい生徒が先生になっとるのじゃからな」
「・・・・そうかもしれませんね。
今度から週番の人はやってくる宿題を書いておいてください。
先生からも、ほかの先生に話をしておくことにします」
「ありがと、フラッシュちゃん」
「どういたしまして」
『一同起立！礼』
（うつら、、うつら、、、）
（小娘。起きておいた方が良いぞ）
（・・・・ＺＺＺＺ・・・）
アイラは結局授業中寝っぱなしであった。
またまた翌日。
「ピア、ちょっとここ教えて」
「・・・うん、いいよアイラちゃん」
「あらあらアイラさま。宿題は自分でやるのではありませんでした？」
「ん、あ、イルミー。そういうんじゃ無いわよ。
出来るところだけやって、出来ないところを飛ばしたから今聞いてるの」
「昨日のうちに聞いておかれるとよろしいですわ」
「家じゃ家ですることあるのよ。せっかく授業前に休憩時間があるんだから
時間は有効に使うものだわ」
「無理はなさらないでくださいね」
「ん、わかってる」
「お〜い、アイラ」
「何よルシエル」
「あの子に連絡して欲しいんだけど」
「仕事の話？」
「そ。来週の日曜、フェイの前座をやって欲しいんだけど」
「フェイの？場所どこ？あたしが行けない場所にはあの子も行けないわよ。
それに、来週じゃリハーサルやってる暇ないんじゃない？」
「リハーサル無し、ぶっつけ本番でいいぜ」
「えらくいい加減なものね。何やるかぐらいあの子に伝えておきたいわ」
「ん〜、アドリブメインのライブだからまだ決まってないんだよ。
連絡取れないのはそっちの都合なんだから、こういうのはこっちの都合に合わせてくれないかな」
「・・・・わかったわ。でも、あんまり無茶はやらせないでね」
「わかってるって。俺もつぶすつもりはないぜ」
（なるほどのぉ）
（何が、なるほどなのよ）
き〜んこ〜んか〜んこ〜ん
このとき、ちょうどチャイムが鳴った。
「ピアさん、今日はちゃんと出来ましたか？」
「うん、アイラちゃんも出来るところまではやったの」
「そうですか。でも、アイラさん。一時間目の宿題広げてどうしたんです？」
「あ、先生。ちょっと答え合わせやってただけです」
「そうですか。でも、そこは授業でやると思いますよ。
席に戻ってくださいね」
「は〜い」
『一同起立！礼』
（のぉ。おかしいとは思わぬか？）
（なにがよ）
（なんでチャイムと同時にフラッシュが教室にくるのじゃ？）
（ん？言われてみればそうね。普通、先生ってチャイムが鳴ってから
職員室を出るからすぐには来ないわね）
フラッシュの行動に疑問を抱いたために、
ルシエルの言葉に感じた事の方は二人とも忘れ去ってしまった。
それはそれで重要な事だったはずなのだが。
そして、翌日。
「ピア、ここはどうやるの？」
「あのね、アイラちゃん。三角関数って・・」
「な〜、俺も混ぜてくれよ」
「どしたのよアッシュ。写すのはだめよ」
「そんなんじゃないって。俺もちょっとわからないところがあったから」
「つまり、教えて欲しいわけね」
「ま、まあ・・・そういうこと」
「ピアさえ良ければいいわよ。どう？」
「うん、いいよアッシュちゃん」
「ありがと」
「あらあら、いつの間にか勉強会になりましたわね」
「イルミーは平然としてるわね」
「私は、もう全部終わっておりますわ」
「・・・聞いたあたしが悪かったわよ」
「えと、・・・そこはピアも良くわからなかったの。
カタンちゃんなら知ってると思うけど・・・」
「カタン？カタンって・・・なんかとっつきにくいんだよな」
「あれ？何の話？」
「ほら、この問題。ピアも解けなかったんだって」
「だって、イルミー」
「あら、どうなさいました？」
「ピアにも出来ない問題出すんじゃないって先生に言ってくれない」
「あらあら。これは知らないと出来ないと思いますわ。
ここに補助線を引いてごらんなさい」
「・・・あ、ほんとだ。ありがとイルミナちゃん」
「・・・・それじゃ全然わかんないわよ」
「俺も」
「あら？補助線さえ引ければそんなに難しくないと思いますわ」
「そりゃイルミーにとってでしょ」
き〜んこ〜んか〜んこ〜ん
「ああ〜あんまり出来なかった〜」
「おや、早朝学習ですか？」
「おはようございます、フラッシュちゃん」
「おはよう。ピアさん。・・・そうですね。
そんなに皆さん勉強熱心なんでしたら、
今度からホームルームで教え合う時間を取りましょうか」
「そんなことより、奇問を無くすことの方がよいがのぉ」
（メリル〜！）
アイラはそういってポケットに叫ぼうとして、ふと気がついた。
メリルがポケットの中にいないのだ。
あわてて当たりを見回す。
「どうしました、アイラさん」
「い、いえ、なんでもないです。ちょっとハンカチを忘れたかと思って」
「そうですか。でももう時間ですよ」
「は〜い」
その日一日。メリルはアイラのそばに姿を見せなかった。
そして、夕方。アイラの住みかであるアパート。
「住みかって言う言い方しなくてもいいじゃない」
「誰に向かって怒っておるのじゃ」
「あ、メリル、一体今日どこへ行ってたのよ。心配したわよ。
だれかに見つかってない？」
「その点はぬかりないわ。
それより、フラッシュの事じゃがな」
「フラッシュ先生がどうかしたの？」
「今日一日中ついて回ったのじゃ」
「それで？なにか面白いことでもあった？」
「どうも、ピアを監視しておるようじゃな」
「なんで？ピアは優等生でしょ」
「理由まではわからぬ。が、用心に越したことはないかもしれぬな」
「フラッシュちゃんは悪い人じゃないと思うの・・」
「ん〜ま、悪い先生じゃないわ。でも、何かほかの子と違うのかもしれないわね。
ピア。人前で変身見られないようにしてよ。・・・正体ばれたら大変になっちゃうわ」
「どうなるのじゃ？」
「えげつない記者に追い回されるようになるわよ。
四六時中監視されてプライバシーもなにもあったものじゃないわ」
「そうじゃな。あやつらは元皇太子妃でも容赦せぬからのぉ」
「・・・・なんで、ダイアナの事知ってるのよ」
「人間界のことも、多少は調べてから来てるのじゃ」
「アイラちゃん。・・・ここは、大丈夫？」
「・・・大丈夫でしょ。窓少ないし、誰も見えないし。
防音はいい加減だけどカラオケとかわんないし」
「うん・・・じゃ、メーちゃん、練習しよ。」
「そうじゃな」
いつものようにメリルがピアの頭から魔法の粉を振りかける。
いつものようにピアがステッキを振る。
それだけで、アイラの部屋が幻想的な雰囲気に包まれる。
その、幻想空間の中心に、その幻想世界のヒロイン、シルキー＝ピアが登場する。
「みんな、ピアのために集まってくれてありがとう！
みんな、幸せ抱きしめてる？
みんな、笑顔を抱きしめてる？
みんな、優しさを抱きしめてる？
みんな、ピアの歌を聞いてくれる？」
♪〜〜〜〜〜♪〜〜〜〜〜〜♪〜〜〜〜〜〜〜♪〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜♪〜〜〜〜〜
ピアの歌が幻想空間を満たす。
アイラは心でつぶやく。・・・これなら、ぶっちけでも大丈夫。と。
本当にぶっつけで大丈夫なのか？
本当に何事もなしに終わるのか？
それは次回のお楽しみ。