魔法のプリンセス
シルキー＝ピア
【第二話】
〜誕生！シルキーピア〜
ピアとメリルが人間界に来て二日目。
アイラとピアのファーストコンタクトの後、
アイラは早く帰ってこなかったかどでフラッシュ先生に怒られた。
ピア達はといえば、森の中の草花と会話してそれなりに楽しんでいたらしい。
とにかく、今日は土曜日。学校も週休二日制が定着していて、
メルデルビア高校も週休二日制。つまり、今日はお休みである。
「ねえ、アイラちゃん。今日は学校がお休みじゃないの？」
「学校が休みでも仕事はあるのよ」
「難儀なものじゃな。丁稚奉公をしながら寺子屋通いか」
「寺子屋でもなければ丁稚奉公でもな〜い！」
「やっておる事は同じじゃろ、小娘」
「小娘っていうな〜！あたしにはアイラって名前があるわよ」
「わしから見れば小娘じゃ。そんなことより、一体これからどうするつもりなんじゃ」
「どうするもこうするも無いわよ。とりあえず今日はテレビでも見て人間界について
一通り慣れておいてちょうだい。あたしは店長さんに言って、明日ピアを売り子で
使えるように話しておくわ」
「ピアにこの妙な板を売らせるつもりかの？
どうみてもこれが夢にはみえんの」
「この板の中に、音楽が詰まってるのよ」
「わしにはそんな風にはみえんな」
「・・・・きらきらしてきれいなの」
「確かに角度によって虹色に見えるわね」
「・・・うん」
「そうじゃな。しかし、こんな物一枚あれば十分じゃろ」
「違うってば！この板をプレイヤーに掛けたら音楽が出てくるの」
「これがプレイヤーかの？ラッパも針もついておらぬではないか」
「一体いつの時代の話よ。それはレコード。これはＣＤなのよ。
もう、理屈はいいから黙って聞きなさい」
そういうと、アイラは自分が持っている唯一のオーディオ装置、
もらい物のＣＤラジカセにフェイのシングルを掛ける。
「もらい物で悪かったわね！」
「何に腹を立てておるのじゃ？」
「なんでもないわよ」
「それにしても騒がしい曲じゃな。騒音と何が違うのじゃ」
「・・・・エネルギーを感じるの・・・」
「エネルギー？」
「・・・うん・・・ピア、この歌は悪くないと思う・・」
「ピアがそういうなら何かはあるのじゃろう。わしにはわからぬわ」
「あんたが年寄りなのよ」
「年寄りでわるかったの」
「悪いなんて言ってないわ。・・・ええと、
ピア、この曲を何度も聞いて完全に覚えてね」
「どうするつもりじゃ？」
「昨日話したでしょ。明日、日曜日に勝負するわよ。
ピアにこの歌を歌ってもらうの。・・・フェイ以上にね」
「それと、夢を売ることと何か関連があるのかの？」
「ふふっ。週末だけ登場するお姫様として歌手デビューするのよ」
「それじゃ、それがわからぬ。歌手とは一体なにをするのじゃ？」
「テレビやラジオで歌を流して、みんなに夢を伝えるのが仕事よ」
「ラジオ？放射能を流してどうするのじゃ？」
「Radioなら放射能じゃなくて放射線よ。・・・じゃなくて！
いいから聞きなさい。これがラジオ」
そういうと、アイラはCDラジカセからCDを抜き取ってラジオに合わせた。
ちょうど音楽が流れている局を選び出す。
「CDと何が違うのじゃ？」
「あんまりかわんないわ。CDはこの中に歌が入ってるからなんどでも同じものが聞けて、
ラジオは電波に乗ってやってくるから何が流れてくるかわかんないのよ。
その代わり、自分が知らない、新しい曲が聴けるかもしれないわね」
「なるほどのぉ・・・・・」
「理解してもらえた？」
「・・・まあよいわ。最初におぬしと出会うたのも何かの縁じゃ。
わしも他にもっと良いことを思いつかんでな。おぬしの言うとおりにしてみようかの」
「わかってもらえた？じゃ、あたしはバイトに行ってくるわね。
あっ！お昼は何を食べる？カップ麺なんて作れないでしょ」
「案ずるな。にぎりめしで済ませるつもりじゃ」
「作れるの？」
「わしに作れるように見えるか？」
「見えないわ」
「そういう事じゃ」
「・・・アイラちゃん・・・教えてくれたらピアがつくるの」
「いいわよ、そこまでしなくても。いい子だからピアは歌の練習をしててね」
「・・・うん・・・」
「えらく待遇が違う物じゃな」
「あんたがけんか腰なのよ」
「しかたなかろう。わしはピアの目付でな。妙な人間にひどい目にあわされぬよう
気を配るのが仕事なのじゃ」
「あ、そ。・・・と、出来たわ。お茶は魔法瓶に入れておくから勝手に飲んでね」
「なんじゃその魔法瓶とは？人間界でも魔法が使えるようになったのかの？」
「魔法瓶ってのは、熱い湯がそのまま置いておける水差しよ。
中がガラスで出来てるから落とさないでね」
「なんじゃ、電気ポットではないのか。貧乏しとるのぉ」
「なんで魔法瓶知らなくて電気ポットは知ってるのよ」
「人間界について一応はしらべたのじゃ。じゃが全部は調べきれぬわ」
「・・・まあいいわ。あたしは夕方には帰ってくるわね。
とりあえずテレビ見て人間界について勉強しておいてね」
アイラはアルバイトに出かけていった。
バイト先はCDショップ。アイラの仕事は商品陳列からレジ打ちまで
一通り全部である。店長さんは商品の仕入れとか事務をしてる。
なんとなくアルバイトと店長の立場が逆のような気がしなくもない。
アイラがバイト先にたどり着いたとき、店長は店先を掃いていた。
「おはようございます。店長さん」
「おはよ。アイラ」
「じゃ、あたしは中の掃除してきますね。」
「ああ、掃除は終わってるからいいよ。
とりあえず商品棚見て適当に補充しておいて」
「はーい」
店長さんはいつもこんな調子だ。もっとも、平日にはアイラがいないから
平日は一人で全部の仕事をやっているわけである。
このお店、お客が時々やってくる程度でそんなに忙しくない。
店長さんがなにをやって生活しているのかアイラにはあまり理解できない。
一日の売り上げから逆算すると、アイラのバイト代を払って
この店の維持費を払ったらいくらも残らないはずである。
「いらっしゃいませ」
「あ、あのアイラさん・・・こんにちは」
「なんだカタンじゃない。クラッシック？
新譜は入ってないわよ。」
「そうですか。・・・では、また来週来ます」
「ん、また来週ね。・・・そうそう、明日カタン暇？」
「特に用事はないですが・・」
「じゃ、明日フェイのコンサートに来てよ」
「フェイさんのコンサートですか・・・流行歌はあまり聴かないんです」
「あまりじゃなくて全くでしょ。でも、せめてあたしの売り場には来てよ。
見て欲しい人がいるの。」
「見て欲しい人ですか？」
「そ、カタンなら歌の芸術性がわかると思ってね」
「そんなことないですよ・・・」
「ま、来たくなければ来なくていいわ。無理言って悪かったわね」
「あ、いえ・・その・・そういうわけでもないです」
「・・・・・・」
どっちなのよ！とまでは言えない。学校ではクラスメイトでも、
このお店に来ている以上は一応お客さんだ。
「気が向いたら来てちょうだいね」
「あ、はい・・・そうします」
カタンは帰っていった。
カタンもまたメルデルビア高校の特待生である。
しかし、アイラと似ているのはそれだけだ。
彼は巨大な屋敷に独りで住んでいる謎の少年である。
とてつもない大金持ちだと、メルデルビア高校では噂されている。
金持ちの坊ちゃん嬢ちゃんが一杯の、メルデルビア高校でだ。
人付き合いは、あまりない。いや、ほとんど無いと言っていい。
校内のカタンがいるのは教室と図書館、それ以外の場所にいることはまずない。
人に話しかけることもないし、話しかけられることもない。
学業は優秀だが、それだけだ。クラスメイトの話題には全くついて行けてない。
アイラだって、学校では話をしたことはない。
ただ、毎週土曜日に必ずこのCDショップに来るから、話をするだけである。
「お疲れ様」
「あ、店長さん。もうそんな時間なんですか？」
「ああ、もう５時だよ」
「そうだ、店長さんにお願いがあるんですけど」
「なにかい？」
「明日、私の友達つれてきていいですか？手伝ってもらおうと思うんです」
「手伝いかい？」
「はい、お願いします」
「いいよ。それで、一日だけの手伝いなのかい？」
「はい、とりあえずは、・・・多分、明日は忙しくなりますから」
「そうなるといいね」
「はい。そうですね。・・じゃ、失礼します、店長さん」
・・・・
「ただいま〜」
「おお、遅かったではないか」
「これでも急いで帰ってきたのよ。
それで、ちゃんと人間界の勉強してる？」
そういって、アイラはどんな番組を見ているかと思ってブラウン管をのぞいてみると・・。
「あんた達何見てるのよ！」
「セサミストリートじゃ」
「なんでよりによってセサミストリートなんて見てるのよ。
あたしが頼んだのは人間界の勉強。英語の勉強じゃないわよ」
「E.T.はセサミストリートで人間界の勉強をしておったぞ」
「ほんと、つまんないことばっかり調べてきてるわね・・・」
「ほっとけ」
「・・・アイラちゃん、歌の練習はどうするの・・・」
「ん〜、そうね、とりあえず何でもいいから歌ってみて」
「なんでもいいというのでは歌えんじゃろ。なにか指定してもらわねばのぉ」
「んじゃ、フェイの歌掛けるからそれに合わせて歌ってよ。
今朝聞いたでしょ」
「・・うん・・・ピア、やってみる」
正直、アイラはあまり歌のできは期待してなかった。
歌は下手でも見た目で勝負できればいいかな。ぐらいの気持ちだった。
♪〜♪〜♪〜♪〜
イントロが流れ出す。ピアはマイク代わりに鉛筆を握ってリズムを取る。
♪空には雲がやってきた。天気予報はMistake♪
♪帰りにはきっと降っている。みんなは空を恨んでる♪
「・・・うそ・・」
見慣れたはずの部屋のはずなのに、ピアが歌い出したとたんに雰囲気が変わった。
フェイの歌のＣＤだから、フェイの歌も流れているのに、
ピアの歌だけが耳の中に入ってくる。
目は完全にピアに釘付けだ。
まるでピアにだけスポットライトが当たっているかのように、
ピアの回りだけが光って見える。
その光の中、ピアが全身を躍動させる。
アイラは、ＣＤが終わったことにも気づかなかった。
「・・・アイラちゃん。これでいいの？」
ピアのこの一言で我に返る。
「ピア・・・今の、一体・・・」
「どうしたの、アイラちゃん？」
「すごいわ！これなら絶対行けるわよ！」
「このくらいは当然じゃ」
「あんたは感動ってものが無いわけ？」
「わしは見慣れておるからの」
「あ、そ・・・その調子で明日もお願いね」
「・・・明日？」
「そ、明日。店長さんに断りは入れたから、明日すぐに勝負に出るわよ。
フェイのコンサート会場で、フェイの歌を歌ってちょうだいね」
「歌が上手いからというて、すぐ歌手になれるものでもあるまい。
人間界で歌手になるにはいろいろと関門があるのではないかの？」
「その点はぬかりないわ。ルシエルには昨日話をしておいたから」
「どういう事じゃ？」
「フェイもルシエルんとこの親父さんの会社でデビューしてるのよ。
ルシエルの目に適えばすぐにデビュー出来るわよ」
「捕らぬ狸の皮算用、じゃな」
「・・・この子なら絶対行けるわよ」
「うん・・・ピア、がんばる」
「ピア・・・ピア・・・ん〜ちょっと紹介するのに語感が悪いわね」
「どうしたのじゃ」
「ピア、ってだけじゃ語呂が悪いわよ。苗字ってないの？」
「ピアには苗字がないのじゃ。なにぶん王族じゃからのぉ」
「・・・・じゃ、なにか芸名つけましょ」
「芸名かの。１１９２とか７９４というのかの」
「誰が１７５Ｒのまねしろって言ったのよ。・・・」
「アイラちゃん？・・・何着ていったらいいの？」
「何って・・・そういえばピアの服ってなにか用意しないとね。
あたしの服が入るわけないし、・・ああっ、盲点だったわ！」
「案ずることはないわ。わしらの服なら魔法で出せばよいのじゃ。
麻でも木綿でも絹でも思いのまま・・」
「そう、それよ！」
「なんじゃ？」
「やっぱり、ドレスは絹でないとね〜♪。
いい、芸名はシルキー＝ピア、これで決まり！いいわね」
「限りなくローセンスじゃな」
「いいのよ。語感さえ良ければなんだって。
じゃ、早速魔法で服を出してみて、衣装合わせしましょ」
「うん・・・メーちゃん。魔法の粉掛けて」
「そうじゃな。変身魔法本邦初公開じゃ！」
いつの間にか、鉛筆がバトンに変形している。
メリルがピアの頭の上から振りかけているなか、
ピアがバトンを振るとピアの姿が完全に光りのスクリーンの中に消える。
スクリーンが消えたその場所には、文句なしの舞台衣装に身を固めたピアがあった。
「アイラちゃん、これでいい？」
「いいわよ。すごくいい」
「でしょ。じゃ、ピアもう一回歌うね♪」
ピアは楽しそうに歌い始める
「・・・ねえ、メリル・・・」
「なんじゃ、小娘」
「完全に性格変わってない？」
「そうじゃのぉ・・・どうやら、魔法の副作用じゃな。」
「まあいいわ。緊張して声が出なくなるよりよっぽどましよ」
「それでじゃろうな」
〜〜〜♪
「ねえアイラちゃんどうだった？」
「すごく良かったわよ。これなら明日もばっちりね」
「でしょでしょ♪ピアがんばるね」
これが、後に歌謡界に旋風を巻き起こすシルキー＝ピア誕生の瞬間だった。
そのシルキー＝ピアの巻き起こす旋風とは。
それは次回のお楽しみ。