War To END WARS
【第二章】
〜Cross of Iron〜
「・・・・・・・・・予想外の損害だ」
「ほら、俺の言ったとおりだろ？」
ここは、DICE総本部の一室
部屋の中にいるのはSSの長官と、この場所にはどう考えても不似合いな男が一人
「外地会襲撃の損害は見積もり通りだったが
まさか三桁組が消息を絶つとはな・・・・」
「やつらを甘く見た報いだね」
「・・・・・・」
少し説明がいるかもしれない
DICEのSS(Special Service）には、３種類のメンバーがいる
第一に、通称十桁組と呼ばれる表のメンバー
彼らはごく普通の警備員として行動している
十桁組の名前の由来は、彼らの認識番号が十桁で表されているからだ
一方、闇の仕事を行うメンバーは、五桁組と呼ばれている
任務の種類は、諜報、誘拐、暗殺、破壊工作、・・・
もちろん、外地会を襲撃したのも彼らである
霧生もこのクラスに属する
現在でも、彼の正式の身分はSS所属の日本支部長付護衛である
そして、DICEのSSの中でも、エリートに属するトップクラスのメンバーが三桁組
スパイの世界ならＯＯ（ダブル・オー）クラスのトップエージェントだ
（ジェイムズ・ボンドを想像すればよいだろう）
言うまでもなく、素人はおろか、五桁組が束になってもかなう相手ではない
資質、装備、訓練、すべてが最高級
もちろん、彼らが投入されるのは、DICEの最重要作戦に限られる
万が一にも彼らが一人失われれば、訓練費だけで数億”ドル”の損失になるのだ
第一、一時期に存在する三桁組は１０人を超えることはまずない
その三桁組の一人が、東京で消えたのである
二人目の犠牲を出すようなら、長官といえど、明日はないだろう
「・・・・・俺が行くしかないんじゃないのかねぇ
ほかに方法があるなら、教えてくれよ」
「SSの名誉に掛けて、貴様の手は借りん
貴様は作戦成功後の準備をしていればよいのだ」
「あ、そ、じゃ好きにしな
まあ、手を借りたきゃいつでも声を掛けてくれていいぜ
・・・・やつらには、借りもあるんでね」
そういうと、謎の男はさっさと部屋を出ていった
『威信は悪しき忠告者』
彼は、この言葉の意味を理解する必要を今まで感じたことはなかった
彼の部下にとっては不幸なことなのだが・・・・
十夜達は、園宗寺の説明を聞くために霧生といっしょに歩いていた
歩きながらも霧生は警戒を怠ることはない
ディゾナントごときに遅れをとる理由はないが
SSが本気で襲ってくるようなら、自分一人では手に負えないのだ
彼らの襲撃前にＳＣ空間を展開して、返り討ちにする必要がある
「園宗寺に会いに行くって・・・ここは高校じゃねえか？」
「園宗寺さんがこっちに来るように言われたのだ」
「で、どこで待ってるんだって？」
「保健室だが・・・どこにある？」
「保健室ならこっちだよ」
（こんこん）
「失礼します」
もちろん、こういうきちんとした入り方をするのはカスミ以外にはいない
（からから）
ひとまず、全員が保健室に入ってから扉を閉め
おもむろに見回して園宗寺を捜す
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
が、そこには園宗寺はいなかった
いるのは、新しい保険の先生らしきひとが一人だけ
だが、この先生どう考えても怪しい
セミロングの金髪にボディコンのナース服
制服のファッションショーにでも出かけるのだろうか？
だが、その割に、浮ついた雰囲気は全くない
人の上に立つべき星の下に生まれてきた人物だけが持つ
一種独特の存在感がある
はっきり言って、学校の保険医になる人物ではないことだけは確かだ
最初にショックから立ち直ったのは、十夜だった
「・・・・あんた、だれだ？」
「・・・・・・・・・・・・・忍、私が分からないか？」
「・・・も、もしかして・・・園宗寺さんですか？？？？」
「そう宇宙人をみるような目で見るな
私だと分からないように変装してみたのだが、
おまえ達でも気づかないようなら、どうやら成功しているのだな」
「・・・・いったい、どこの誰がそういう格好を教えたんだ？」
「ああ、ジョーカーに『絶対に私だと分からない変装』を
考えてもらっておいただけだ」
「なるほどねぇ、ジョーカーのやつが・・・・それにしても、園宗寺さん」
「なんだ？」
「あんた、着痩せするタイプだったんだな」
「柊ぃ・・・あんた、いったいなにを見てるよの」
「ま、正常な反応ってやつだろ？」
「無駄話はそのくらいでいいだろう
そろそろ説明に入るぞ」
「あ、ああ・・・・・」
「まず、DICEが外地会を襲撃したのは聞いているな？」
「ええ、私が説明したわ」
「襲撃した理由が分かった」
「どういうことなんです？」
「私はDICE本部に今回の一件と、オーギュメントの兵器としての可能性についての
レポートを提出しておいた
オーギュメントの兵器としての可能性を低く評価したレポートをな」
「それで？」
「だが、DICE本部は別の考えを持ったらしい
オーギュメントには兵器としての可能性はない
ディゾナントも実用性は低いと判定した」
「なら、兵器として全然つかえないじゃないか」
「だが、ＳＣ空間そのものは兵器として無限の可能性がある、と判断したのだ」
「ＳＣ空間そのものが？？？」
「そうだ
あの最後の戦いでのビルの崩壊を重視したらしい
理論上は、十分なエネルギーがあれば
いかなる防御手段も空間の崩壊を止めることはできない」
「確かに、正しい現実認識を超えるエネルギーで間違った認識を与えれば
空間を崩壊させることは可能だわ」
「そのとおりだ
ならば、ＳＣ空間を展開して、そこで戦う代わりに
ＳＣ空間を形成せずに、単純に物体を崩壊させるならばどうなる？」
「！・・・・・・究極破壊兵器だな、どんな防御手段もあり得ない・・・」
「なら、どうして外地会を襲撃したの？」
「・・・・・・・本部は、その兵器の完成のために再度E.N.Dを作るつもりなのだ
そのためには当然カスミが必要になる
カスミを誘拐し、かつ確実に本部で研究するためには、
あらかじめ敵に回りそうな相手に奇襲をかけておいた・・・
まあ、そんなところだな」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
しばらく、保健室の中を沈黙が支配した
みんな頭の中で情報を整理しているのだ
今度、沈黙を破ったのは霧生だった
「園宗寺さん、では俺達が戦ったディゾナントは誰が？」
「・・・・・可能性としては、２通りある
第一には、SSが誘拐のために行動したという場合だがこちらはまず無いだろう
SSはこの手の行動にも優れたエージェントを持っている
わざわざディゾナントを使うよりよほど手っ取り早い
我々もそうしたのではなかったかな？」
確かに以前カスミを園宗寺達が誘拐したときにはＳＣ空間など使わなかった
その後、カスミを取り戻そう等する十夜達の足止めのためＳＣ空間を使ったのだ
「でも、ディゾナントはすべて処分したはずよ」
「確かに空木の言うとおりだ
だが、ディゾナントの処分の時に気になる話があっただろう？」
「・・・・・もしかしえて、『先生』ってやつか？」
「十夜君、なんでそれを知っているの！？」
「・・・ちょっと、な・・・」
十夜も、カスミのコピーの一人、Ｐ−３から聞いたとはいえないだろう
「驚いたな、まさにその通りだ
御子柴の下でのディゾナント開発の中心人物は忽然と姿を消していた
ほかの研究員も皆『先生』としか名前を知らない、謎の人物がいた
・・・・・・E.N.D完成の直前に姿を消しているが・・・・・」
「・・・・・彼がディゾナントを放ったかもしれない、ということか・・・」
「そうだ、可能性はこちらの方が高い
目的は同じだと考えてよいのだろうが・・・一つ引っかかることがある」
全員、沈黙して園宗寺の話を聞いている
みんな園宗寺から語られる情報を整理するので手一杯なのだ
「・・・・・DICEのSSの一部隊が、研究所の一つを襲撃した」
「DICEのSSが何でDICEを襲う必要があるんだ？」
「奇妙な話には違いない、調査は命じておいたが、本部から中止命令が来た」
「ということは、DICE本部の差し金ってわけか？」
「そうなるな
だが、その研究所は、前におまえ達が襲撃して破壊された研究所だ
御子柴の時に放棄されている
要するに、誰もいないはずの研究所、というわけだ」
「・・・・そこに、誰かがいた可能性があるんだ・・」
「それがたぶん『先生』だろう」
「で、そっちは成功したんだろうな」
「報告を見る限りでは失敗だな
SSが突入した時点で、すでにそこはなにもなかったらしい」
「・・・・・単なる見当違いじゃないのか？
元からなにもないって可能性もあるぜ」
「私としてはそれを願っている
だが、おまえ達を襲ったディゾナントが気にかかる」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「カスミ、心配するな
なにがあろうと俺達がついてるからよ」
「う、うん・・・・・」
「話が長くなってしまったな」
「要するに、カスミを護らなけりゃならないんだろ？」
「その通りだ、だが今度は御子柴が動いているのとは訳が違う」
「どういうことだ？」
「カスミ・アインハルト誘拐はDICE本部の承認を得た作戦だということだ
つまり、何度撃退しようとも何度でも彼らは襲ってくるだろう」
「それじゃこっちに勝ち目は無いじゃない！」
「名城、それを勝てるようにするために私がここに来たのだ」
「いったいどうやって？
あんただって、DICEの本部から見れば部下なんだろ」
「・・・・・自発的にカスミがDICEに協力していることにすればいい
本部には協力しないが、私には協力していることにな」
「それは確かに名案だな
でも、だったら逆にわざわざ出向く必要はなかったんじゃないか？」
「DICEの本部にも、御子柴みたいな奴がいるのでな」
「手柄を独り占めしようとしてるってこと？」
「その通りだ、SS部隊長官ダグラス・Ａ・キングが独断でSSを動かしている」
「ひでえ名前だな、いかにも頑固者そうだ」
「それと、園宗寺さんが変装していることとのつながりはどうなるんです？」
「私は奴を罠に掛けることにしたのだ
作戦を今から説明する・・・・・・・・・」
翌日から、藍仙高校の保健室は男子生徒でいっぱいになっていた
言うまでもなく保険の園宗寺先生目当てである
空木先生は理科の臨時講師として藍仙高校にいる
霧生君は３−Ａへの転校生、十夜達が姿を消していた数ヶ月間
彼らの面倒を見ていた親切な田舎の家の息子である
「・・・・・・・しかし、本当に奴らは来るのか？」
「貴様、園宗寺さんの作戦にけちをつけるつもりか！」
「ほかに方法がないのは確かだけどな・・」
「まあまあ・・・」
「カスミも大変だね、こんな連中の子守をしなけりゃならないだから」
「名城ぉ」
「あ、怒った？」
き〜んこ〜んか〜んこ〜ん
「そろそろ理科教室へ移動するぞ」
「そうだな、教室移動だ」
空木先生の授業は、はっきり言って不人気であった
藍仙高校のレベルで理子ちゃんが高校時代に受けた教育をそのままやれば
誰もついてこれないに決まっている
そもそも前提となる教育を受けてないのだから・・・・・
「はい、今日はここまで」
「や〜れやれ、やっと終わったよ」
「誠志郎君、明日も授業は続きますからね」
「理子ちゃん・・・もう少しレベルってものを考えて授業をやってくれよ」
「今時特殊相対性理論ぐらいで驚かないの
ローレンツ変換ぐらい覚えておいても損はないわよ
それに、ニュートリノぐらい常識じゃないの」
「空木さん・・・・・・指導要領にはそうは書いてないんだけど・・・」
カスミの抗議は理子ちゃんの耳には達しなかったらしい
「やれやれ、早く奴らに来てほしいね」
「まったくだ」
「二人とも、不謹慎だよ」
「・・・・・悪かったよ」
こうして、何事もなく何日かが過ぎ去っていった
部活の合宿と称して学校に泊まる日々は
それはそれなりに事件が起こっているのであるが
本編とは関係がないので省略しよう
・・・十夜達にとっては、本編などよりもそちらの事件の方が
遙かに重要なことなのだが
そうして、ちょうど一週間経った
すりむいただの切っただの捻挫だのと、理由を付けては訪れる
運動部員も姿を消し、今は十夜達だけがそこにいる
「・・・・そろそろ食いついてきても良さそうな時期なのだがな」
「逆に罠に気づいたんじゃないかしら？」
「いや、あの性格ならあきらめると言うことはないはずだ」
そういいつつ、園宗寺の視線は壁の一点に向けられていた
まるで意味を持たぬ灰色の点がうごめいている壁・・・
しかし、園宗寺の目ははっきりと学校全体を見渡していた
（ランダムドットステレオグラムまで用意していたのか・・）
この部屋の前の住人の用意周到さに舌を巻く
それがいま園宗寺の切り札となっていた
「・・・・・来たぞ」
夕闇に紛れて、２台のワゴンが校門の前に止まる
その中から十数人の男達が降りてくる
「・・・・・・出来るだけ騒いでいてくれ、平静を装って」
「園宗寺さん、こいつらに騒ぐなっていうほうが無理ですよ」
まったくその通りであった
園宗寺のつぶやきを聞いていたのが霧生一人だけだったという
単純な事実がそれを証明している
筆者は省略したが、実際にはこの保健室はやたらに騒々しい
もし誰かが隣に住んでいれば確実に怒鳴り込んできていただろう
襲いに来たのは、プロであった
正真正銘のプロフェッショナルであった
たとえ園宗寺が彼らの襲撃を予測していたとしても
通常ならば阻止し得なかったであろう
だが、彼らは敵を過小評価するというミスを犯していた
そう・・・・彼らは、”普通の高校生を一人”誘拐する任務だと
心得ていたのだ
「・・・・・忍、車も破壊しておけ」
「分かりました」
霧生は音もなく保健室を出ていく
突然窓ガラスが割れると保健室の中に煙が充満した
彼らは手早く窓を通って部屋の中に進入する
『ＳＣ空間を確認、オーギュメントを起動します』
襲撃部隊の誰も、この言葉の持つ恐ろしさを理解できなかった
・・・・理解したときには手遅れであったが
「？？？一体なにが起きたんだ？？？」
「お客さんが到来した」
「へえ・・・で、お客さんってのはどこに？」
「普通の人はみんなＳＣ空間だと不確定な波になってるのよ
だから逆にこちらから存在を直接認識することもできないわ」
「これじゃこっちも手出しできないじゃないか」
「おまえ達はそのままここにいてくれ」
「園宗寺さん、一体なにを始めるつもりなの？」
「しばらく、奴らには眠っていてもらわなくてはな」
そういうと、園宗寺は『ジ・オーディナンス』のトリガーを引いた
「園宗寺さん！」
「心配するな、このくらいで死んだりはしない」
「でも、これで終わりじゃないんでしょ？」
「おまえ達はそのままここにいろ
私はほかの連中を捕まえてくる」
「おいおい、一人で大丈夫か？」
「戦闘訓練を受けてないものがくると、かえって足手まといだ」
「へいへい」
「・・・・・誠志郎君、もうすこしは思いやりのある言葉が掛けられないの？」
「残るおまえ達の方がむしろ心配だ
彼らがディゾナントを連れてきていないという保証はないからな」
「・・・・なるほどね」
「では、後は頼んだぞ」
そういうと、園宗寺は保健室の扉を開けてＳＣ空間の外に出る
「・・・・・・・・・・器用なものだな」
「俺達は外に出るのにＳＣ空間を解除しないといけないのによ」
「訓練の差ね
オーギュメントにはＳＣ空間を中和して脱出させる機能もあるんだけど
使いこなすのが難しいのよ」
「なら、今度おしえてくれよ」
「霧生君は身につけるのに３ヶ月かかったわよ」
「げ」
たぶん、彼らがＳＣ空間にとどまったのは正しい選択だったろう
ＳＣ空間の外では惨劇が繰り広げられていたのだから・・・・・・
言うまでもなく、襲撃部隊にとってである
園宗寺も霧生も、彼らに対して遠慮会釈無く「通常兵器」を見舞ったのだ
いくら戦闘訓練を受けていたとしても、
１００ｍも無い距離から、何の遮蔽物もない場所で、
完全に不意打ちを受けた状態で、自動火器の十字射撃を受けて、
生身の人間が生き残れるチャンスが、たとえ１％といえどもあるだろうか？
・・・・・ほんの２，３分で、そこには十数体の死体が転がることとなった
すぐに、あらかじめ待機していた園宗寺の部下
・・・実際には外地会の生き残り・・・によって惨劇の後は処分されてしまう
二人が、保健室へと帰還したのは、彼らが襲撃を開始してから２０分後であった
「・・・そ、そんな馬鹿な・・・」
キング長官は、目の前にある現実を受け入れることが出来なかった
目の前にある一枚の紙
その一枚の紙切れは、彼にはっきりと「解雇」を宣告していた
解雇理由は、「職権乱用」
具体的には、SSを投入しての日本支部長の暗殺を実行
むろん、身に覚えはない
だが、生きた証人が園宗寺の元にいるとなれば、申し開き出来るわけがない
・・・・・・彼には、なにが起きたかまるで理解できていなかったのだ
まさか、日本支部長が一市民を護るために身を張って護衛するなどとは・・・
彼は、始めて、『威信は悪しき忠告者』と言う言葉の意味を理解することとなった
しかしながら、彼がそれを教訓として生かす機会は永遠にないだろう
SS長官は闇の職業、いったん解雇となれば待ち受けているものは一つしかない
そう、彼の前任者と同じ運命が待ち受けているのみである
・・・・・・彼には名誉ある決断以外の道は残されていなかった・・・・
「・・・・・ディゾナントを使うまでもなかったか」
「・・・・戦わずに済むのはよいことではないでしょうか・・」
「確かにＰ−４の言うとおりだな」
「私は不満なんだけどな」
「Ｐ−７、もう少し辛抱してくれ
Ｐ−８が生まれるまでは我々の意図を気取られる訳にはいかないんだ」
「・・・・でも、また人が死んでしまった・・・」
「Ｐ−３が悪いわけではないわ」
「Ｐ−６・・分かってるわよ、分かってるけど・・・」
Ｐ−３は言葉を続けることが出来なかった
つづく