Highway to the danger zone
【Check point E】
〜推理探偵同好会〜
そのまた翌日。僕たち新聞部は、放課後部室で今までの情報整理を行っていた。
「で、恵くん、今までの情報を総合して、どう思う？」
「どうって言われても、漠然としすぎていてなんとも言いようがないですよ。
第一、11人失踪事件の情報なんてほとんど集まってないじゃないですか」
「それなのよねぇ。正面からずばっと切り込んで行ったんじゃ警戒されると思って
搦め手で行ったんだけど、搦め手のまま突っ走っちゃって、本命の捜査を置き忘れちゃったわ」
「もう一度、振り出しからやりなおしですかね」
「けど、ヒントになるようなことはあると思うのよね」
「ヒントになるようなこと？」
「オーギュメントよ。オーギュメントを使えば、人の存在を消すことが出来る。
それなら、11人を失踪させることが出来るかもしれないわ」
「なるほど……けど、オーギュメント使いなんて、藍仙高校にいましたっけ。
確かにデバイスレインの二人には会いましたけど、お台場大学でしたよ」
「そうね。けど、量産型オーギュメントの開発をしてる、アインハルト先生は
藍仙高校だったわよ。そのアインハルト先生なら、オーギュメントを持ってるんじゃないかしら」
「で、なんで11人も失踪させる必要があるんですか」
「さあ？」
「……完全に手詰まりですね」
「そうね。……下手をうつと、私たちもあっさりあの11人みたく失踪ってことになりかねないし
情報集めも慎重にやらないといけないのかしらね」
「弱気ですね、橘さん」
「ちょっとね。けど、オーギュメントって、本当のことだと思う？ 恵くん」
「どうなんでしょう。アインハルト先生は実演してみせてくれましたけど」
「あれが催眠術の一種じゃないって保証は、ないわよ。あまりにも非現実的すぎて
信じろといわれても、とても信じ切れる物じゃないわ。
あれが口から出任せだとしたら、どうなると思う？」
「どう……っていわれても、同じ嘘をつくなら、常温核融合とか、もっとましな
嘘をつくと思いますよ。オーギュメントだの、存在波だの、そんな荒唐無稽なことを
いって、誰が信じるというんですか」
「けど、第5の力とか、永久機関とか、そんなのにだまされる人だっているのよ。
オーギュメントにだまされる人がいたって、おかしくはないわ」
「そうかもしれませんね。どうすればいいんでしょう」
「地道な情報集めしかないわよ、恵くん」
「それはわかってますけど……」
「そうときまったら、どんな情報を、どこから集めるかよね。
まずは、誰から聞き込みをするのがいいと思う？」
「誰からって……まずは、被害者の家族から聞き込みをするのがいいんじゃないですかね」
「被害者の名前は、新聞に出てないわよ。また藍仙高校に行って、青葉さんに聞かないといけないわね」
「その必要はないわ」
「……桜田さん、いつ入ってきたの」
「今さっき、いくらノックしても気づかないみたいだったから、勝手に入らせてもらったわ」
「ノックして返事がなかったからって、勝手に入っていいってことにはならないわよ」
「そうかしら？ 忙しい私が、わざわざ大事な話をしにきてあげたのよ」
「そうなの。私たちも忙しいんだけど、わざわざ時間を割いて聞いてあげるわ」
「え、えと、桜田さん……大事な話って、なに？」
「あなたたち、失踪した藍仙高校の11人のことを調べているらしいわね」
「そうよ」
「推理探偵同好会も、その事件について、ちょっと調べてみることにしたの」
「つまり、あなたもこの事件に首をつっこむことにしたわけね」
「そうよ、で、あなたたちと違って、寄り道せずに11人のつながりについて調べてみたの」
「そりゃどうも。で、どんなことがわかったの？」
「あの11人、いつも11人でつるんでる不良グループだったみたいね。喧嘩もやれば
カツアゲもやる、まあ、よくいるごろつき連中、だけど、リーダー格は良いところの
お坊ちゃんだったみたいよ。ベンツを乗り回してて、結構自慢してたそうね」
「ふーん、良いところのお坊ちゃんだったんだ。……良いところのお坊ちゃんですって！」
「そうよ。極道息子でも、親はかわいがってたみたいね。だけど、おおっぴらには子供の
行方を探せてないみたい。私に、何か情報があれば教えてほしいって頼んできたわ」
「あなたに？ 懸賞金をつけて捜索とか、そういうことはなしで？」
「それが出来ないらしいのよ。理由は教えてもらえなかったわ。教えることも出来ないって」
「……それってどういうこと？」
「つまり、そういうことよ」
「……よほど大きな組織が動いてる？」
「そういうことになるわね」
「警察も黙らせるばかりか、当事者の親さえ恐怖させるほどの存在、それが
この事件の背後に存在する、ってわけね……一体何が？」
「それがわかれば苦労はしないわ」
「うふふ……ふふふ……」
「どうしたの、橘さん」
「わからないかな、ワトソン君」
「わかりませんよ、どういうことなんです」
「そんな大きなことが出来る組織なら、誰もが知ってるぐらいに巨大だろうということよ。
藍仙高校と関係があって、誰もが知ってる巨大組織を探せば、関係する組織を見つけるのは
簡単だわ。次は藍仙高校に行ってみましょう。ありがとう、桜田さん、十分参考になったわ」
「……わかってないわね。私は、あなたたちに危険を知らせに来たのよ」
「で、あなたは、この件から手を引くの？」
「……」
「沈黙が答えってわけね。私もそうなの。この事件を見過ごす気にはなれないのよ、なぜか、ね」
「橘さん、けど、相手は個人じゃないかもしれないんですよ」
「個人じゃないわ。けど、むやみやたらに力を使ってくることもないと思うのよ。
むやみやたらに力を使う相手だったら……たぶん、私たちみんな、手遅れだろうしね。
毒を食らわば皿まで、よ」
「もう、逃げられないってことですか？」
「まだ今なら逃げられると思うわよ。桃井君、私としては、こんなつまらないことに
関わり合うべきではないと思うわ、とくに、あなたはね」
「勝手に恵くんを誘惑しないでよね」
「私のライバルが消えてもらっては困るだけよ」
「あなたがライバル視してるだけでしょ」
「それは、桃井君に聞かないとわからないことだわ」
「恵くん、どうなの？」
どうなの、といって聞かれても……なんでここでそういう会話になるんだ？
「どうなのって言われても……ライバルはライバルだよ」
「ほら、桃井君もああいってるじゃない」
「恵くん……」
「だけど、この事件の調査は、もう少し続けてもいいと思うんだ。
オーギュメントのこととか、まだ興味があるし」
「そうね。直球勝負での捜査は桜田さんに任せるわ。
私たちは、最初の直感通り、搦め手の路線を走りましょう」
「ふーん、桃井君も、男の子なのね」
「どういう意味？」
「さあ、どういう意味かしら」
オーギュメント、既存の兵器をすべて無効化するという新型兵器。
それがもし本当だとしたら、確かにすごいことだし、その秘密を守るためなら
スパイ映画よろしく11人を消すこともあり得ることではあるだろう。
だけど、不良グループ11人とオーギュメントが結びつくんだろうか？
どうなんだろう？ 詳しい情報は、また先生か、空木教授にでも聞いてみる必要があるのかな。
それとも、雲野さん達に、オーギュメントを使った戦いについて聞くべきなんだろうか。
僕は、まず誰に話を聞くべきか、考えを巡らせていた。