結局、僕たちは再び藍仙高校へと向かうことにした。オーギュメントやデバイスレインについての調査は魅力的だったけど
僕たちが調べているのは、11人失踪事件についてであって、イデア理論についてじゃないんだ。

「ごめんね、青葉さん、何度も手間をかけさせることになっちゃって」
「いえ、こちらこそ、役に立てることがあれば何でも言ってくださいね。
　こちらからも、此花学園のことについて取材することがあれば、遠慮なく頼っちゃいますから」
「そういってくれると助かるわ。で、今日の取材なんだけど」
「あ、11人失踪事件についてだったわね。それについてなんだけど、うちの佐伯先生が一緒にお茶会をしながら
　お話ししましょうって」
「一緒にお話？　佐伯先生ってだれ？」
「うちの保健の先生。とにかくかっこいいんだよ、ロン毛の金髪で白衣が板についてるの。ざっくばらんな言葉遣いも
　魅力的なんだから」
「ふーん、うちの真由美先生みたいなものかしらね。ともかく、せっかくの招待を断っちゃ悪いわ、いきましょ、恵くん」
「そうしましょうか、橘さん」

保健の先生にお呼ばれ？　その保健の先生がどんな人物なのか、僕らは全然想像もできなかったが
とりあえず、あって悪いことがあるとは思えなかった。

こんこん。

「失礼します」
「あいてるぞ」
「はい、如月です」
「初めまして、私、此花学園の橘美亜子っていいます。新聞部の部長をやってます、こちらは部員の桃井恵」
「初めまして、桃井です」
「あたしが保険医の佐伯柚流だ、適当にそこらに座ってくれ」
「そこらって、いすは２つしかないですよ。
「青葉、おまえも話を聞いていくか？」
「一応は新聞部ですから、何を話すか興味があります」
「そっか、じゃ、ベッドにでも腰掛けててくれ」
「はーい」

僕たちは、用意されていた二つのいすに座って佐伯先生と向かい合い、如月さんは
保健室のベッドに腰掛けた。ベッドには誰もいないようだ。

「それで佐伯先生、11人失踪事件について……」
「とりあえず、これを見てみろ」
「これは……」
「……オーギュメントですか？」

佐伯先生が取り出したものは、曲がった白い槍みたいなものだった。
だが、手を保護するように取り付けられた盾の根本部分には、以前見せられた
ヘブンズ・キーと同じような赤い部分……コア・ブレインが取り付けられている。
これもまた、オーギュメントなんだろう。つまり、佐伯先生もまた
デバイスレインの一人、ということになる。

「オーギュメントは見たことがあるんだな」
「ええ、空木教授のところで見せていただいたことがあります」
「そうか。そこまで知っているなら話が早い。あまりこの件には首を突っ込むな。
　ジャーナリストごっこも悪くはないが、これはジャーナリストごっこで扱えるようなものじゃない」
「その警告は聞きました。けど、いったいどんな危険がどう待ち受けてるか、誰も教えてはくれません。
　それで危ないと言われてもわからないですよ」
「高圧電線はふれるまで危険はわからない。ふれた時には感電死する。それと同じようなものだ」
「……」
「恵くん、あなたも何か言い返しなさいよ」
「言い返せって……具体的に、どんな危険があるっていうんです？　何か巨大組織が動いていて
　警察も政府も、ジャーナリズムもネットも動けないっていうんですか？」
「……」

佐伯先井は、黙って一枚の写真を見せた。
そこに写ってるのはカップルの写真だった。

「佐伯先生と、あと一人は誰なんです？」
「一目で私だとわかるのか？」
「変装を見抜くのはジャーナリストの基本ですよ、ね、恵くん」
「え、ええまあ……っていうかなんでわかったんです橘さん」
「まあ、こういう場面で出てくる写真だから、たぶん片方は佐伯先生じゃないかなって思っただけ。
　自信はあんまりなかったんだけど……」
「はったりがうまくいっただけなんですね」
「あはは、まあ、ね」
「そうか……もう一人は、私の婚約者だった」
「婚約者……だったって、別れたんですか？」
「死んだよ。オーギュメントの取材に首を突っ込んで、それっきりさ」
「けど、アインハルト先生も空木教授もオーギュメントの研究をおおっぴらにやっていて、誰もとがめてないみたいですよ。
　もうオーギュメント研究についてタブーはなくなったんじゃありませんか」
「おおっぴらにできる部分が増えただけだ。タブーは存在する」
「……そのタブーの一端が、11人失踪事件だということなんですね」
「そうだ。わかったら手を引け。公開されてるオーギュメント研究について知るだけで満足しろ。
　それだけでも、ジャーナリストごっこには十分すぎる情報だ」
「……ごっこっていわれると腹が立ちますけど、命がけで取材した本物のジャーナリストを知ってる人に言われたんじゃ仕方ないですね」
「わかったか？」
「わかりません」
「橘さん」
「11人も失踪してるんですよ。それを見て見ぬふりしろっていうんですか」
「ジャーナリストはいつもこうだ。危険が見えているからそこへいきたがる」
「それは、行っていい、っていうことなんですね」
「止めればかえって危険地帯へ足を踏み込むだろう、ということだ。
　上から目線で止められるジャーナリストなどいるはずがないか」
「ま、そういうことです。いきましょ、恵くん。GOサインが出たわよ」
「ちょっと待ってくださいよ橘さん」
「何恵くん、まだ聞くことがあるの？」
「佐伯先生は、オーギュメント使いなんですよね」
「そうだ」
「佐伯先生は、どうやってオーギュメントを手に入れて、いったい何と戦ってこられたんです？」
「……その話なら、十夜達に聞くといいだろう。誠志郎ならジャンクフードを食わせておけばつれるはずだ」
「十夜さんですか、どうやったら連絡が取れますかね」
「空木とは連絡がとれるのだろう？　空木教室の生徒だからすぐに連絡が取れるはずだ」
「あ、そうなんですか、では明日にでもあってみることにします」

こうして、僕たちは、デバイスレインの戦いについての話を聞くことになった。
巨大組織DICEとデバイスレインとの戦いについて。
でも、それはまた後日。

 

 

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