ゴングと同時に、U-1５のチャンピオン、エーデルハルト・バルガスが動くの。

「早っ」
「アインハルトさんも早いの、だけど、エーデルハルトさんは……」

エーデルハルトさんの早さにアインハルトさんも驚いた様子なの。
あっという間にアインハルトさんの懐に飛び込んでくるの。
アインハルトさんはカウンターを放たず、ガードに入るの。
そのガードの上から、エーデルハルトさんの一撃が打ち込まれるの。

「ガードしたのに……」
「なんて一撃……」

ガードの上からの一撃なのに、アインハルトさんはリング際まで吹き飛ばされるの。
さらに踏み込んでくるエーデルハルトさん。
さすがにこれはアインハルトさんも……

「よけずに踏み込み返した？」

アインハルトさんは、正面から踏み込んでいくの。
ちょっとエーデルハルトさんには意外だったのか、エーデルハルトさんは懐へ突っ込まずに、アインハルトさんの踏み込みをかわすの。
それでアインハルトさんとエーデルハルトさんは入れ替わる形になるの。

「どうやら、あなたの勇気を過少評価してたようですね」

すこし、エーデルハルトさんが息を整えるの。

「まだこれからですよ」

アインハルトさんも構えるだけで、自分からは仕掛けないの。
それを見たエーデルハルトさんは、ゆっくりと構えて近づいていくの。
もう、一気に踏み込んだりしないの。
そして、遠距離からのフリッカー。どうやら様子見をしてるようなの。
アインハルトさんは、それをかいくぐって一撃入れに入るの

「カウンター！」

エーデルハルトさんのカウンターが炸裂。
一瞬だけ、アインハルトさんの一撃は届いてないの。

「でも、ぎりぎりガードは間に合った」

強力なカウンターを受けたアインハルトさんは、自分から間合いをひらき直すの。
でも、エーデルハルトさんは踏み込んで行かないの。

「なんだか、警戒してるみたい」
「私もそう思うの」

アインハルトさんの実力を認めてるということかもしれないの。
でも、チャンピオンの実力で油断がなければ、アインハルトさん、大丈夫か心配なの。
エーデルハルトさんは、構えたまま、やはりゆっくりとアインハルトさんに近づいていくの。
今度はフリッカーも打たず、ただ、間合いを計るようにゆっくりと間合いを詰めてくの。

「参ります」

アインハルトさんが踏み込んで行くの。
それに対して、エーデルハルトさんはリングを回るように間合いを維持していくの。

「お互い打たないね」
「力をためてるのかな？」

少し勇み足のように大きくアインハルトさんが踏み込んだところを、逆にエーデルハルトさんも踏み込み返してボディにパンチを放つの。
アインハルトさんはガード出来てたのに、場外にたたき出されるの。

「今のは？」
「発勁だね……さすがU-15のチャンピオン、完璧な一撃だよ」

リオの言う通りだと思うの。でも、アインハルトさんはどの一撃にもガード出来てるの。
吹き飛ばされても受け身を取ったアインハルトさんは、カウント２０で敗北の所、カウント８でもう戻ってくるの。

「落ち付け！」

少し、アインハルトさんが前のめりになってるように見えたのか、セコンドのハリーさんが声を掛けるの。

「……はい」

アインハルトさんが入れ込んで前のめりになっていたように見えたのが、また自然体に戻ったの。
でも、エーデルハルトさんは、ずっと自然体で戦ってるように見えるの。

「完璧な発勁で決められなかったのは、エーデルハルトさんにとって誤算だといいんだけど」
「でも、今のところ、エーデルハルトさん、表情が変わらないね」
「誤算でもないのかなあ？」

アインハルトさんは、ちょっとずつ間合いを詰めていくの。
エーデルハルトさんは、それに対応して少しずつ右に回っていくの。

「間合いは詰めてるけど……」
「……不用意に踏み込んだら、又カウンターだね」

アインハルトさんだから、心配はないと思うけの、だけど……
アインハルトさんは、逆にゆっくり間合いを開くように体重を動かした次の瞬間、一気に間合いを詰めようとするの。
それに対応して、エーデルハルトさんは、左へ飛ぶような勢いでアインハルトさんの突進をいなそうとするの。
アインハルトさんは、始めからそれを予測してたかのごとく、大きく足を前にだして踏みとどまり、体をエーデルハルトさんの方に向けるの。
でも、それがエーデルハルトさんの計算だったみたいなの。向き直った瞬間、今度は顔面にストレートが入るの。
それをアインハルトさんはガード。歩幅を直すけど、エーデルハルトさんは踏み込んでボディを狙うと見せかけ、フックが側頭部へ飛ぶの。
アインハルトさんはスウェイしてこれをかわすけど、今度はエーデルハルトさんの蹴りが脇腹を捕らえるの。

「凄い、アインハルトさん、これもガードしてる」
「でも、また場外なの」

ここまでアインハルトさんは有効打を入れてないの。
エーデルハルトさんの方が１枚上手なのかもしれないの。

「ちょっとでもチャンピオンが焦ってくれると、アインハルトちゃんにも勝機があるんだけど」
「焦るって？」
「ここまで重い一撃が全部ガードされてるからね。ガードされない一撃にこだわってくれれば、アインハルトちゃんの必殺の一撃が入るチャンスはある」
「覇王断空拳ですね」
「ああ、あれをまともに受ければ、いくらチャンピオンだって……

そう、まともに覇王断空拳が入れば、アインハルトさんに勝機があるはずなの。
だけど、ここまで断空拳どころか、どんな一撃もエーデルハルトさんには届いてないの。

アインハルトさんが場外から戻るの。
アインハルトさんは再び構えて、それから間合いを計るようにやっぱり間合いを詰めていくの。

「覇王　断空破！」

アインハルトさんの飛び道具、断空破がチャンピオンを襲うの。
チャンピオンの方はそれを威力を試すかのごとくガードするの。
アインハルトさんは、そのガードでエーデルハルトさんの体が落ちた所を、ジャンプして飛び込むことで頭上から襲おうとするの。

ふと、エーデルハルトさんが笑った気がするの。

「まさか、これを待ってた？」
「断空破はエーデルハルトさんが知らないはずだよ」
「そうじゃなくて……」

そう、空中にいる間は、飛行魔法が使えないアインハルトさんは力学の法則通りに飛び上がり、落ちてくるしかないの。
つまり、アインハルトさんの動きは完璧にエーデルハルトさんが把握出来ることになる。
それは確かに一瞬のことだけど、その一瞬は……

ボディに強烈なアッパーが放たれるの。アインハルトさんはそれもガードするけど、エーデルハルトさんの真上へ打ち上げられるの。
アインハルトさんはそのまま落ちてくるしかないの。
そのアインハルトさんに、エーデルハルトさんの回し蹴りがヒットするの。
再びアインハルトさんは場外へ飛ばされるの。

「アインハルトさん！」

思わず私達は叫ぶの。
アインハルトさんは、猛烈な勢いで場外の壁にたたきつけられるの。

「さすがに今のは効いたかな」
「ミカヤやさん、そんな暢気な……」
「さすがU-15のチャンピオンだけあるね、強い。だけど、アインハルトちゃんも、まだ戦えそうだよ」

アインハルトさんは、カウント１３でリングに戻るの。

「今のは効きました」
「そう、でも、あなたは戻ってきた」
「ええ、私は、ここで負ける訳にはいきませんから」
「それは私も同じ。で、あなたにまだ何があるの」
「胸の奥のクラウスの思いと……仲間達の声援が」
「目はしんでないみたいね。一回戦からいい試合が出来るみたい」

こんどは、エーデルハルトさんから仕掛けてくるの。
普通に間合いを詰めて、ジャブの連打なの。

「ジャブとはいえ、的確にアインハルトの顔面を狙ってるね。アインハルトちゃん、ガードで手一杯になるかな……」

それだと、アインハルトさんは勝てないの。
何か、状況を打開する手がないと……

「ティオ、信じてますよ」
「にゃあ」

アインハルトさんは、そのジャブの嵐の中をノーガードで踏み込むの。
もちろん、きれいに顔面にジャブが当たるの。
それでも、アインハルトさんは、ひるむことなく前へ出て行くの。
ちょっと、エーデルハルトさんの表情が変わるの。

「覇王　断空拳！」

エーデルハルトさんの一撃を、アインハルトさんはガードすることなく、まともに受けるの。
だけど、アインハルトさんの一撃も、エーデルハルトさんにまともに当たるの。

「クロスカウンター狙いか。だけど……」

お互い、１０カウントまでは動けないの。
アインハルトさんは、カウント１５で目を覚まし、全速でリングを目指すの。
エーデルハルトさんも、目を覚まして、リングに戻ろうとするけど……

「２０！」

２０カウントの声が無情に響くの。
アインハルトさんは１９カウントでなんとかリングに戻ってた、ということは……

「見事ですね。私の敗北です」
「いえ、デバイス性能の差だけです」
「それを含めてのあなたの実力です。……いずれ、また、戦いましょう」
「はい」

何かが吹っ切れたように、エーデルハルトさんはリングを後にするの。

「アインハルトちゃんが勝ったか、ほめられた勝ち方じゃないが、勝ちは勝ちだね」
「でも、他に何かあったんでしょうか、チャンピオン異様に強かったですよ」
「それは、アインハルトちゃんが自分で見つけることじゃないかな。
　いずれにせよ、同じ戦い方じゃ次チャンピオンと戦うときには、勝てない」

チャンピオンを倒したアインハルトさん、そのアインハルトさんと紙一重、クロスカウンターの威力差で負けたエーデルハルトさん。
私達は、その背中を超えなきゃいけないの。
そして、ヴィヴィオが目指すその向こうへ。

 

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