アインハルトさんは、大金星で、U-15のチャンピオンを倒したの。
私達もそれに続かないと、と思って選手控室へ向かうと、そこには意外な人がいたの。

「シスターシャンテだ」
「よう。全員勝ってきたんだな、ま、そうでなきゃ面白くない」
「シャンテは応援なの？」
「そうじゃないって、あたしも選手で出場してるんだよ」
「そうなの。でも、この大会は分身魔法や幻影魔法は禁止だったはずなの」
「分かってるって。前のジーク戦じゃ分身に頼って惨敗だったからな。
　分身以前に、個の強さを磨こうと思って、U-15にも出たんだよ」
「そうなんだ。シャンテは一回戦勝ってた？」
「当然。シスターシャッハの厳しい練習……」
「シャンテさん、涙が出てるよ」
「……ま、まあ、そういう徹底的な練習を重ねて、パワーもスピードもアップした。
　今のあたしの実力を思い知らせてやるよ」
「思い知らせるって、二回戦は誰と当たるの」
「誰だっけ……」
「……ボクですね」
「そうそう、ミウラ……って、いつの間に？」
「いつの間にって、最初からいましたよ」
「気が付かなかった。まあいいや、ハードパンチャーって聞いてるぜ」
「ええ、一応、力には自信があります」
「そっか。ま、当たらなければどうということはないな」
「そうですね、でも、当てます」
「見えるものには当てることが出来る、当てることができる物はやっつけることが出来る、か。
　でも、見えないものに当てられるかな」
「幻術は禁止じゃないんですか？」
「幻術で姿消すって話はしてねーよ。見えないぐらい早い攻撃を見せてやるよ」
「見えないんじゃ……」
「いや、そこを突っ込むか？」
「お約束かと思ったんですけど」
「いや、素言う言うお約束はいらないから」
「シャンテ、そろそろ試合の時間ですよ」
「はい、シスターシャッハ。じゃ、ミウラも頑張れよ」
「はい、頑張ります」

シャンテは意気揚々とリングへ向かうの。

「……ミウラさんの方が年上だよって言うの忘れたね」
「まあ、年上だと分かったとしても、シャンテだったら態度は変わらないんじゃないかな」
「そうかもしれないの」
「よし、行くぞミウラちゃん。なに、シャンテちゃんの大口はいつものことだから気にするな」
「大丈夫です。実力を発揮してきます」
「良い返事だ、さあ行こう」

シスターシャンテとミウラさんの対戦。早さと力の勝負だってシャンテは思ってるみたいなの。
でも、ミウラさんは決して遅く無いの。

「とはいえ、シスターシャンテは早さに絶対の自信があるみたい」
「そうだね。まあ、お手並み拝見といったところかな」
「前回がジークさん戦だったから、ほとんど参考にはならないの」
「分身も今回は禁止だしね」

試合開始のゴングが鳴るの。

「あれ？　近づいてこないのか？」
「いえ、それはこちらの台詞ですよ。速攻で仕掛けてくると思ったんですけど」
「そうだな。ま、軽く実力を見せちゃいますか」

相変わらずシャンテの大口は凄いものがあるの。
だけど、その大口を叩く実力の裏打ちがあると、シャンテ自身は思ってるみたいなの。

シャンテは素早く間合いを詰めていくの。
ミウラさんは、体の動きを止めない程度に後ずさりなの。
それを弱さとみたのか、シャンテはさらに踏み込んで行くの。

それは一瞬。
ミウラさんが後ずさりから踏み込みに動きを変えた瞬間、シャンテの方は体をかわすの。
でも、ミウラさんもその動きは見えてたみたいで、まっすぐに大きく踏み込んで行くの。

「あれ？」

シャンテは意外そうな顔をするの。
どうやら、シャンテはミウラさんがその場で応戦すると思ったみたいなの。

「敵に背中を見せたら……」

シャンテはミウラさんの背後から襲おうとするの。

「そこっ！」

ミウラさんの裏拳が背後から迫るシャンテを捕らえるかと思ったけど、シャンテは背後からの突進を急停止させてよけるの。

「あぶねー、後ろに目がついてるのかよ」
「ついてないですよ。でも、あなたならそうすると思いました」
「なんか馬鹿にされた気がする」
「いえ、当たってないんだから、さすがですね」
「まあな。じゃ、体もほぐれたところで、行きますか」
「はい」

シャンテは今度は軽いステップでジグザグに動きながら間合いを詰めていくの。
ミウラさんは今度はそれにゆっくりと近づいていくの。

「ミウラさんの一撃なら、シャンテを落とすのも容易だと思うの」
「当たればだよ、霧子。それに、抜剣は発動してから近づいて斬らないといけないよ。
　今、ミウラさんは抜剣を発動してない」
「それはそうなの」

シャンテはミウラさんの回りを回るようにステップしてるの。
ミウラさんもそのシャンテの動きに合わせて体を動かして、常にシャンテの方を向いてるの。

「さすがミウラさん、隙が無いね」
「動きが激しい分、シャンテの方が消耗が大きいんじゃないかな」
「でも、それはシャンテも分かってると思うの」

シャンテはさらに動きを速くしてミウラさんが体を動かし切れないようにしようとするの。
だけど、ミウラさんはきっちりシャンテの動きを捕らえてるの。

「さすがになめてたか。動きで幻惑なんて考えた方が甘かった」

と、シャンテの動き方が変わるの。
ミウラさんの回りを回るんじゃなくて、大きく踏み込んで行くの。
ミウラさんは、ちょっと下がってシャンテの攻撃をガード。

「捕らえた！」

シャンテが連打を始めるの。
確かに、見えないと豪語するだけはある攻撃のラッシュなの。
ミウラさんはそれをガードするのが精一杯に見えるの。

「でも、パワーの無い一撃だったら、ミウラさんはアインハルトさんがやったようにやれるよ」
「それだよね。シャンテは何を考えてるんだろう？」

ミウラさんもそこは分かってたみたいで、シャンテの攻撃が一息切れる瞬間を見計らって反撃に出るの。
でも、シャンテは素早くそれを間合いを開いてそれをよけるの。
それから再び飛び込み。ミウラさんの狙ったカウンターをかわして、再びシャンテのラッシュ。

「クロスカウンター狙いが出来ないの？」
「多分、ミウラの動きは完全にシャンテに見えてる。無理だな」
「あ、ハリーさん」
「確かに豪語するだけはあるな、シャンテ。
　あの動きが4ラウンド続けられりゃだけどさ」
「4ラウンドシャンテが攻め続けば……」
「判定は間違いなくシャンテの勝利だろうな。
　ミウラはそこを考えて行動する必要があるだろ。
　ま、そこらはミカヤさんも分かってて、次のラウンドから修正を入れてくるだろうけど」
「このラウンドは？」
「シャンテのラウンドだな」

ラウンド終了のゴングが鳴るの。

「インターバルだね」
「うん、ここまではハリーさんの言う通り、シャンテのラウンドだったの。
　だけど、ここからどう修正すれば、ミウラさんのラウンドに出来るかな？」
「それはミウラにミカヤさんがどんなアドバイスをしたか次第だな」

第二ラウンドのゴングが鳴るの。

「最初から飛ばして行くよ〜」
「はい、来て下さい」
「……なんか拍子抜けするな」

といいつつ、シャンテは至近距離でミウラさんに襲いかかるの。
本来、リーチの短いミウラさんだったら、この距離はミウラさんの距離のはずなの。
だけど、シャンテはミウラさんを押さえ込んでるように見えるの。

「このラウンドで何かすると思ったけど、気のせいなのか？」
「どうなんだろう。だけど、ミウラさんだって、棒立ちしてるわけじゃないですよ」
「そうなんだけどさ」

ハリーさんとリオの会話が終わるか終わらないかで、ミウラさんの目つきが変わるの。

「おっと」

ミウラさんの短く、鋭い突きがシャンテに放たれるの。
シャンテは間合いを開いてこれをかわして、またミウラさんに飛び込んでいくの。
シャンテはさらにラッシュを掛けようとするけど、ミウラさんはガードしながら短く鋭いパンチで応戦するの。
シャンテはそれをスウェイでかわしてラッシュに入ろうとするの。

「ミウラはガードで、シャンテはかわして、お互い有効打にならないようにしてるね。
　だけど、動きはシャンテの方が多い」
「つまり？」
「無駄にシャンテを動かして、スタミナを削る手かな？
　だけど、それだとシャンテのスタミナがあたしの想像通りじゃ足りない」
「想像って、ハリーさん」
「多分、シャンテの練習のほとんどは、4ラウンド動き続けられるスタミナに向けられてる。
　だから、スタミナを削ろうとしても、シャンテの動きは鈍らないだろうな」
「そこは修正出来ないの？」
「ミウラがシャンテの動きについて行ければ……」

第二ラウンド終了を告げるゴングが鳴るの。

「このラウンドは互角だな」
「次のラウンドは？」
「ミウラの動きがだんだん良くなってきてるけど、シャンテの動きも鈍らないだろうな」

第三ラウンド開始のゴングなの。

「抜剣っ！」

ミウラさんが、ここで切り札抜剣を使うの。
そして、こんどはミウラさんの方から間合いを詰めていくの。

「当たらなければ……」
「……そう、当たらなければ！」

ミウラさんはまっすぐシャンテとの間合いを詰めていくの。

「これからは……」
「大ぶりに過ぎるぜ！」

ミウラさんは大きく振りかぶってフックを放とうとするの。
シャンテは当然それは見えてて、短く鋭くストレートを……え？

「はいっ！」

ミウラさんは、反対の手で素早く突きを放つの。
シャンテもこれは予想外だったみたいで、まともに当たるの。

「ちっ」

シャンテは舌打ちして、体勢を整えようとするの。
間合いを開こうとするけど、そこへミウラさんは追撃を掛けていくの。

「今度はだまされない……」
「だます気はないですっ！」

ミウラさんのフルパワーのフックがシャンテの側頭部をねらって行くの。
シャンテは素早くガードするけど、さすがはミウラさんのフルパワーなの。
シャンテはガードしたのにダウンするの。

1、2，3……。

「効いたぁ……ガードしてなきゃ即死だったぜ」
「ガードされましたか。さすがです」
「ガードの上からこれだけ効くなら……」

とはいえ、シャンテに違った手があるわけじゃないみたいなの。
シャンテは大きく間合いを開いて、それから素早い動きでミウラさんに近づいていくの。

ミウラさんは、再び大きく振りかぶるの。

「どっちでもかかってこいよ！」

シャンテは左右どちらの手で殴られても大丈夫なように目配りして、ミウラさんに飛び込んでいくの。

「どっちの手でもないですよ」
「は？」

確かに、どっちの手でもなかったの。
今度はミウラさんの蹴りが、シャンテの攻撃より一瞬早く、シャンテのボディを捕らえるの。

シャンテは場外の壁にたたきつけられて、20カウントを迎えるの。

「勝者　ミウラ＝リナルディ！」

レフリーの宣言で、ミウラさんの勝利が確定したの。
シャンテはというと、担架で医務室に運ばれるの。

「ごめんなさい。ちょっとでも手加減したら、ボクが負けてました」

ミウラさんの言葉は、多分、シャンテには届いてないと思うの。

「ミウラは勝った、次はおまえらの番だぞ」
「はいっ！」

ミウラさんは見事な作戦勝ち。私達もそれに続くの。




 

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