ミカヤさんとミウラさんの戦いは、第１ラウンドからクライマックスなの。
ミカヤさんは、居合いから刀を構えての戦いに切り替えたの。
LPがほとんど尽きてるミウラさんは、一撃必殺の集束魔法を発動してるの。

「……動かないね」
「けど、動くとしたらミウラさんの方なの」
「動いたっ！」

ミウラさんが再び、ううん、三度ミカヤさんに突進していくの。
一回目は完全にカウンターを受け、二回目は一発入れたけど脇差しでカウンターを受けたの。
こんどはどんな勝算があって突っ込むの？

「近づいて……斬る！」
「どの間合いで戦おうと、私の間合いだ」

ミカヤさんは軽く刀を振り上げ、袈裟懸けに斬ろうとするの。
ミウラさんは、その刀の動きを見て、むしろ刀に体をぶつけるようにして飛び上がるの。

「な、早い……」
「でも、ミカヤさんには……」

そう、ミカヤさんは二刀流、間合いが詰まれば脇差しがあるの。
脇差しでミウラさんを薙ぐの。
その脇差しを、ミウラさんは殴り飛ばすの。

「え？」
「見えた！　一点！」

ミカヤさんは、脇差しを殴り飛ばされて一瞬動きが止まるの。
これはミカヤさんも想定外だったみたいなの。
でも、ミウラさんは最初からそれを狙ってたようなの。

「これは……」

一瞬の出来事。
脇差しを殴り飛ばされて一瞬だけ動きが止まったミカヤさんだけど、すぐに間合いを広げつつ刀を振り下ろすの。
だけど、その止まった一瞬だけで、ミウラさんには十分だったの。
ミウラさんは刀で切り落とされる直前に、渾身の集束魔法を拳に乗せてミカヤさんにたたき込むの。

「……一瞬でも遅れてれば……」
「うん、一瞬でも遅れてたら、結果は逆だったの……」

ミカヤさんは集束魔法をたたき込まれて壁まで吹き飛ばされるの。
LPはほとんどMAXだったのに、今は０。振り下ろした刀の威力は大したことなくて、ミウラさんはまだ立ってるの。

「か……勝てた……」

ミカヤさんは、壁にたたきつけられて動けないの。
どうやら気を失ってるようなの。
担架が出てきてミカヤさんは運び出されるの。

「ミウラの勝ち方もほめられたものじゃないけどよ。
　でも、一瞬の大切さは分かったろ」
「はい、師匠」
「はい、ノーヴェ先生」
「うん、ノーヴェ」
「分かったの」
「分かったよ……」
「さて、あたしはちょっとミカヤを見舞いに行ってくる。
　他人って訳じゃないからな。
　次の試合は……っと、霧子、おまえもくじ運悪かったな。
　当たる相手はシード組だ。それも、かなりの実力者」
「ミカヤさんとどっちが強いの？」
「同じぐらいの実力があるとみて間違い無いな。
　雷帝ダールグリュンの血を引くお嬢様、ヴィクター・ダークグリュンだ」
「どんな相手なの？」
「まあ、一言で言えば、堅い。防御だけなら全国レベルでも屈指だろう。
　攻撃力も相応にある。まあ、歩く戦艦だな」
「分かったの」
「よし、分かったら行ってこい。全力がいる相手だぞ」
「分かったの」
「セコンドはすまんが泪、頼む。
　あたしは見舞いに行くから時間がないんだよ」
「え？　なにそれ、私で大丈夫？」
「大丈夫だ。あたしにもあいつに対する作戦なんてない。
　基本的に弱点のない相手だからな」
「分かったの、なんとかするの」

弱点のない相手、堅くて火力がある相手。
でも、手がないわけじゃないはずなの。

「……あなたが私の初戦の相手なのね」
「よろしくなの」
「異世界から来たようだけど、手加減はしてあげられないわね」
「私も同じなの」
「手加減して勝てるとでも？」
「思ってないの」
「ふふ、いい返事ね」

『Ready……GO!』

試合開始なの。

動きがどれくらい速いか、特に私と比べてどっちが早いか調べたいの。
だけど、攻撃力があるなら、そうそう油断もしてられないの。

「来ないのかしら」
「隙を作ってくれたらすぐにでもいくの」
「愉快な子ね」

そう言うと、ヴィクターさんは、槍を垂直に立てたの。
わざと隙を作ったみたいなの。
完全に誘ってるの。だけど、これにのらないと、攻撃力と早さを見る機会がないの。

「受けたわね」
「予測はしてたの」

私が間合いを詰めた瞬間、槍……斧もついてるから、ハルバードかもしれないの……が振り下ろされるの。
私はそうだろうと思って、ロンギヌス・スピアで受け止めるの。
早さも威力もミカヤさんなみとみて間違いなさそうなの。
堅さは……調べる必要はないの。堅いって分かってれば十分なの。

「ミカヤさんと練習してなかったら一撃で負けてたの」
「ミカヤさんが特訓してた相手はあなたなのね。さすがに鍛えられてるわね」
「鍛えさせてもらったの」

槍使い同士、リーチ差の有利不利はないの。
歩く戦艦といっても、決して遅いわけじゃないの。
だけど……ミカヤさんより早くないのなら、勝機はあるの。

「そろそろ、こちらからいこうかしら」

ヴィクターさんが、槍を構えて静かに間合いを詰めてくるの。
威風堂々という言葉が似合うの。
隙がないから、私は間合いを維持するために後ずさりするの。

「どうしたのかしら？」

ミカヤさんとミウラさんの戦いと同じ。総合的な実力は向こうの方が上なの。
だったら、向こうの土俵では戦わず、自分の利点を最大限に生かすしかないの。

「これ以上下がると、リングアウトですわよ」

足がリングにかかるの。ここで退却は終了なの。

「行きますわよ」

まだ……早い。私は素早くロンギヌス・スピアを突いて間合いを詰めるの。
ヴィクターさんは、これを予測してたみたいで、突きをかわしてハルバードを振り下ろしてくるの。
もし、私がヴィクターさんを攻撃するのが目的だったら、反応できなかったかもしれないの。
でも、私の目的はヴィクターさんの攻撃じゃなくて、体を入れ替えて退却の余地を作ることだったの。
当てることを考えず、かわすことに専念してたから、なんとかかわせたの。

「逃げるだけでは勝てませんわよ」

戦艦、というイメージよりはずいぶん早くヴィクターさんが追撃してくるの。
だけど、ヴィクターさんが戦艦なら、私の早さは駆逐艦。
それも、大戦時のじゃなくて、最新鋭の。
ヴィクターさんよりも早く間合いを開き、ヴィクターさんの攻撃をさばくの。

ちょっといらついた表情をヴィクターさんが見せるの。
こんなはずじゃないってみたいに。

（よし、チャージ完了）

心の中でつぶやくの。
相手が堅いなら、それを貫く槍が必要なの。
ロンギヌス・スピアに力を充填して、一撃必殺の攻撃を加える。
もし、だったら、なんて考えない。
やるしかない。

だけど、ヴィクターさんの攻撃はまったく息切れがないの。
ミカヤさんだって時々は息継ぎに間合いを開くことがあったのに。
でも、今なら……

「ゴッド・スレイヤー！」

私には、ミウラさんがミカヤさんと戦ったときの図が頭にあったの。
多分、ヴィクターさんもそうだとは思うけど、ミカヤさんと違って自分の防御力に自信はあったと思うの。
きっと、ミウラさんの集束魔法を受け止められるぐらいに。

でも……

「いい一撃でしたわね」
「一撃で済めばなの」

一撃入れてヴィクターさんの動きが少し鈍くなるの。
それで私には十分。無敵の鎧に入ったひびへロンギヌス・スピアを突き立てるの。
実際に起きてることは、鋭く、素早く槍を繰り出しての連続攻撃。
ゴッド・スレイヤーが決まる前なら、ヴィクターさんもこれを防ぐのは容易だったはずなの。
だけど、今となっては、私の早さがヴィクターさんの堅さを上回ってるの。

やがて、ヴィクターさんのLPが０にまで下がるの。

「勝者、雲野霧子！」

歩く戦艦を槍で撃沈なの。

「一撃のあとすこし体勢が崩れたところを連続攻撃……見事でしたわ」
「ありがとうなの」
「まだまだ、私も精進が足りないみたいですね。いえ、慢心が過ぎたのかしらね」
「多分、私がまだ切り札を一度も見せたことがなかったからなの。
　知っていたら、結果は違ったと思うの」
「知ってましたわ」
「え？」
「あの、プレシア事件で活躍した子でしょう？
　その情報は知ってましたわ。
　油断してはいけないとは思ったけど、まさかこれほどだとは思わなかったわね」
「ミカヤさんの指導のおかげなの」
「そうね、ミカヤさんもいい弟子を持ったわ」
「ありがとうなの」

ロング・ランスと速射砲で戦艦に勝利。
だけど、強敵は次々と待ってるの。

 

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