その後、ヴィヴィオ、リオ、コロナ、そして泪はくじ運良くシード選手には当たらず勝ち進んだの。

「よっ、調子よさそうだな陛下」
「だから陛下は辞めてってばシャンテ。
　それより、シャンテはどう？　勝てた？」
「いや、今から試合だから。
　今から試合だから陛下に見てもらおうと思ってさ」
「そうなんだ。それで、相手は誰なの」
「不足のない相手。前々回インターミッドチャンピオン、ジークリンデ・エミリア」
「それは不足なさ過ぎだよ。大丈夫？　シャンテ」
「そこらは抜かりなく作戦を練ってる。
　ま、あたしのビクトリーロードを見てくれよな」
「そこまで言うなら、応援するね、シャンテ」
「陛下、細工は隆々、仕上げをごうろじろってね」
「細工があるんだ」
「ま、そこは企業秘密」

そういうわけで、私達はシャンテの試合の応援に行くことになったの。

「シャンテー、頑張って−」

何かシスターをだまして参加とか言ってた気がするの。

「けど、シスター・シャッハがセコンドについてるみたい。
　どうやら、あれから教会の正式の許可は取れたんだね」
「ヴィヴィオ、それはいいけど、細工ってなんだろう」
「さあ、シャンテって人をだまそうとするから、細工なんてないかもしれないね」
「だまそうとするって、それシスターのやることなの」
「そういう性格なんだよ」
「ヴィヴィオっておおらかなのかな」
「ヴィヴィオちゃんはシャンテにだまされても笑ってるし、そもそもシャンテもヴィヴィオちゃんには
　そこまでえげつないだましとかやらないから」
「他の人にはやるんだ」
「試合が始まるみたいなの」

そう、前々回チャンピオンの今大会初試合が、シャンテとの戦いなの。

「んじゃ、軽く行きますか」

そう言うと、シャンテは軽いフットワークで前々回チャンピオンに接近するの。

「あら、あなたたちも観戦してるのね」
「ヴィクターさん、こんにちはなの」
「よう、おまえら、ジークの応援か？」
「ハリーさん、こんにちは」
「久しぶりだな。でも、挨拶をのんびりしてる場合じゃねえ。
　ジークの奴に勝てるって豪語してたシスターだけど、へた打つと……」

そう、へたを打つと秒殺されてしまう相手がジークリンデ・エレミア。
シスター・シャンテも接近してトンファーで攻撃しようとした瞬間かわされてカウンターを受けるの。
あの早さにカウンターを入れるって、ヴィヴィオを超える速さなの。

「え？　消えた？」

カウンターが入ったと思った瞬間、シスターシャンテが消えるの。
そしてジークさんの背後に入って一撃入れにかかる。
さすがにこれにカウンターを入れるのはジークさんも無理で、くるっと回転しながらかわすの。

「はい残念でした」

信じられないことに、突然シャンテは分裂して二人がかりでジークさんを攻撃。
これはさすがのジークさんも予測してなかったらしく、背後から一撃入るの。

「あらあら、幻術に惑わされるなんて、ジークらしくありませんわ」
「シャンテってこういう技も使えたんだ」
「でも、ジークさん、まだ余裕みたい」

ジークさんはにこっっと笑うと、二人がかりで挟み撃ちから連続攻撃を仕掛けてきたシャンテの攻撃を
ギリギリで横っ飛びにかわすの。
それでシャンテ同士が攻撃を加えることになってしまうの。
ところが、攻撃を受けたシャンテ同士はそのまま消えて仕舞うの。

「いやー、やっぱデュオじゃかなわないか〜」
「こんどはトリオなんやな」
「ま、とりあえずは」

3人がかりで一人を相手にするって卑怯な気もするけど、審判が何も言わないところを見ると
これも魔法の一つみたいなの。
でも、幻術で2人生み出しても、本物を見破られたら終わりだと思うの。

「一人が接近して、それに身構えるとかわして背後に回っただれかが接近する。
　なんだかジークさんもやりにくそう」
「ジーク！　いい加減遊ぶのはやめたらどう？」
「ヴィクターかいな。そうはいってもある程度はつきあわな」
「あれで全然余裕って一体……」
「幻術ごときに負けるようなら、前々回チャンピオンになってませんわ」

そう言ってるうちに、ジークさんの目の色が変わります。

「そろそろ体もほぐれてきたからな」

そう言うと、ジークさんは魔法弾を正面のシャンテにたたき込みます。
シャンテはかわせずに魔法弾の直撃を受けますが、これは消滅。
どうやら幻影だったの。
そのすきに背後から回り込んでくるシャンテを、回し蹴りで二人とも撃破するの。

……LPに変化がない、ということは、この二人も幻影だったみたいなの。

「なんだこりゃ、幻影だらけかよ」

「カルテットを超えてクインテットで行くよ〜」
「あんまりたくさん分身を出しても、力が落ちるだけやで」

幻影ではなく、分身ということは、どれも実態があるということなの？

「あー、なんか聞いたことある。シャンテの『質量のある幻影』だね」
「なにそれ？」
「シャンテが大昔に開発した技だって言ってた。
　不良少女時代、多人数を相手にケンカするときに、数の不利を補うためにやってたんだって」
「今でもなんか不良っぽいですわ」
「なんだよ、それは、あたしへの当てつけか？　ポンコツお嬢」
「ポンコツとは聞き捨てなりませんわ」
「ケンカはともかく、試合を見ようよ」

試合の方は、質量のある幻影5人の高速移動でジークさんの目くらましをかけてるみたいなの。
……

「よし、見切ったで！」

そう言うと、ジークさんは魔法弾を多数生み出すの。
でも、それを単純に撃っても、シャンテはかわせると思うの。

「ほい、ほい、ほい、ほい、ほい」

え？　ジークさんの動きに合わせて攻撃しようとして
シャンテの方が魔法弾に突っ込んでいく？

「人数を増やしても、動かす人間が同じだから動きが単調になるんよ。
　もうすこし工夫せな、目くらまし以上の効果はあらへん。
　な、そこに幻影で隠れてる本体はん」

そう言うと、ジークさんは、残り全部の魔法弾を、なにもないリング上の一点へ、包囲するように撃ち込むの。

すると、魔法弾をかわしてシャンテが現れるの。

「なんだよ、最初から分かってたのかよ」
「まあ、こういうことする相手と当たったのは初めてやないからな。
　幻影に打撃力があるんは、初めての経験やけど。
　ああ、質量のある幻影はもう作らん方がええで。
　数が増えれば増えるほど動きが単調になるのが分かったんよ。
　まだ熟練が足りへんわ」
「なら、見えない攻撃はどうかな」
「確かに早いわ。けど……」

そう言うと、ジークさんはシャンテの攻撃をまともに受けてシャンテの背後に回り込むの。

「うそっ！」
「キミの最大の弱点やな。攻撃に威力がなさすぎるんや。
　せやから、食らいながら攻撃受けるとそっちの方が打撃がでかくなる。
　ま、チョークホールド掛けさせてもらうで」

そのままギリギリとシャンテはしめおとされるの。

「ご苦労さん。作戦は悪うないんやけど、経験はたらへんかったな」

会場はジークさんの余裕の勝利に沸き立つの。

「すごい……これが全開チャンピオンの実力なの」
「実力の片鱗ですわ。本気のジークはこんなものではなくてよ」
「どんな技があるのかな」
「……けど、ジークはあれを嫌ってるから、可能なら使わないでしょうね」
「嫌ってるって？」
「ある意味、呪われた技だからな。
　まあ、あたしも使えなくもないけどさ」
「あなたのは充填に5分もかかる代物でしょう。
　1ラウンドで充填できなければ意味ないですわ」
「あたしだってそれ以外の切り札用意してるんだよ。
　ていうか、異世界人にきっちり負けてて言う台詞かよ」
「油断があったのは否定しませんわ」
「ま、今年はあたしが世界にいくからよ
「せいぜい油断しないことね」
「まあな」

そういう、ヴィクターさんとハリーさんの口げんかを聞きながら
私達は呆然としてたの。

シスターシャンテは決して弱くはなかったはずなの。
それを楽々倒せるのがチャンピオン。
他にも強い人はたくさんいるはずなの。
私達の力は、その人達に通用するの？

 

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