アインハルトさんの話を聞いて、私達はちょっとだけ古代ベルカの覇王について調べてみたの。
参考文献を探してくるのは、コロナのお仕事。コロナは歴史ならヴィヴィオより詳しいの。

「最後のゆりかごの聖王オリヴィエについてなら、教会のシスターも詳しいと思う。
　でも、この学校は聖王教会系の学校だから、オリヴィエとクラウスとの関係についても伝承本はいろいろそろってるし
　シスターの時間をとるのも悪いから、本を読んだ方がいいんじゃないかな」
「そういう事はコロナに任せるの」
「覇王クラウス……クラウス・インクヴァルドと聖王オリヴィエの関係については諸説あるみたいですね。
　ただ、いずれにせよ、留学という名目でシュトラにオリヴィエが派遣されたのは間違いないみたい。
　その頃のオリヴィエは、聖王家の傍系で、とても最後のゆりかごの聖王としての白羽の矢が立つ立場ではなかったようなの」
「でも、実際には最後のゆりかごの聖王となったんだろ。どんな事情があったんだろう」
「聖王家は名目上ベルカの統治者、でも、戦乱の世で名目だけの存在になってたの。
　だから、聖王家直系といえども、謀略や戦闘で命を落とすことは少なくなかった。
　そして、ゆりかごを起動すれば、ゆりかごの聖王は一月余りで命を落とす。
　だから、直系を絶やさないために傍系が選ばれた、という説と
　オリヴィエ自身が自らゆりかごの聖王となることを希望したという説があるの。
　聖王協会では後者の説をとってるけど、学者の中にはオリヴィエ自身の意に反して選ばれて仕方なくだったと唱える人もあるみたい」
「どっちにせよ、確実に死ぬ運命を選んだんだ。それとクラウスとの関係はどうなのかな。
　アインハルトさんは守れなかったって言ってたけど……」
「それはいろんな本を読んだけど、定説はないみたい。
　聖王家との関係を重視してゆりかごの聖王として送り出した、という説もあれば
　聖王家に反抗してでもオリヴィエを止めようとした、という説もある。
　ただ、進んでオリヴィエを送り出した訳ではなさそうなの。
　守れなかった、っていうのは、どういう意味か分からないけど、最後のゆりかごの聖王になることを阻止できなかったという意味では
　オリヴィエを守れなかった、という言い方はできるのかもしれないね」
「……」

コロナの講義は大体こんなものだったの。
私達はインターミッドの試合のための練習もあって、アインハルトさんのことばかりに関わっていられないの。
練習はノーヴェが体育館を借りてやったの。
借りて、っていっても、一角を使わせてもらうだけなの。

「体育館全部を使うのは無理だよ、霧子」
「それはそうなの。だけど、手狭じゃあると思うの」
「まあ、魔力を全開でやるには狭いかもしれないな。
　他の人の迷惑も考えないといけないし」
「ノーヴェ、分かってるならどっかのジムか道場に出稽古とか出来ないの？」
「そう簡単にはいかないってヴィヴィオ。まあ、考えてはいるんだけどさ」
「どっか借りられそうな所でもあるんですか」
「ん？　コロナ、借りられるっていうか、自前のジムを開けないかＤＳＡＡの人と相談はしてるんだよ。
　知り合いを顧問に集めることが出来れば、陣容的には他のジムと見劣りしないだけのことはできるはずだ。
　けど、やっぱ先立つものがないとジムを開くっていっても限度があるからな」
「最後は結局お金なんですね」
「まあ、それは仕方ない。いくらＤＳＡＡでコーチの資格を持ってるって言っても、それだけで生活できるほど甘くはないからな。
　と、ジムの話はそれくらいでいいだろう。そろそろ練習に入るぞ……と、話をしてたらザフィーラの旦那だ」
「よう、そっちは順調か？」
「まあ、ぼちぼちにはやってるよ。それより旦那、そっちのミウラの事は聞いたけど、本当にいいのか？」
「ああ、うちの道場じゃミウラのパートナーになれるほどの実力者はいない。
　俺が受けるにせよ、限度がある。シグナムやヴィータも手伝ってくれているが、ライバルになれる相手が居た方がいい」
「それで、うちのちびどもと一緒に練習しようっていうのか」
「ああ、その方がミウラも捗るだろう」
「分かった。旦那の頼みだ、むげにはしないよ」
「助かる」
「え、えと、よろしくお願いします」
「こちらこそ。で、ミウラの次の相手はだれなんだ？　２回戦からは、シード組と当たることもあるはずだな。
　まあ、くじ運が悪ければだけどさ」
「次の対戦相手が、そのシード組なんです」
「そいつは災難だな。でも、実力を試すにはいいだろう。誰なんだ？」
「ミカヤ＝シュペルさんなんですけど……」
「ミカヤか、そいつは強敵だな」
「ええ、そうなんです」
「旦那、勝ち目は？」
「ミウラならいい勝負はできる自信はある」
「分かった、じゃあ、そのつもりで鍛えるからな」
「え、ええ、相手はあのミカヤさんですよ。ボクで勝負になるんでしょうか……」
「心配するな、勝負できるだけの練習はしてきた。仕上げはここでやることになる」
「仕上げって……」
「分かったよ旦那。ミカヤ相手に戦える練習をすればいいんだな。けど、そういうことなら相手がシグナムでも良かったんじゃないか？」
「ライバルになれる誰かが欲しいって言っただろう」
「……なるほどね。分かった、じゃあ、責任持って預かるよ」
「頼む」

そういうわけで、この日から、ひとまず次の戦いまでの一週間弱、ミウラさんと一緒に練習することになったの。

「ミウラの情報は旦那から聞いてる。というわけで、ミカヤと練習してきた霧子、おまえが主になってミウラの相手になってやってくれ」
「分かったの。だけど、私でいいの？」
「おまえじゃなきゃ困るんだ」
「分かったの。じゃあ、さっそく練習するの」
「ああ、スパーリングから頼む」

ミウラさん、背丈は私達と一緒ぐらいだけど、年齢は３つ上なの。
いずれ伸びるのかもしれないけど、変身魔法を使っても、ヴィヴィオみたいに大きく成長はしないの。

「背丈やリーチが伸びなくても、戦う方法はあるって師匠やシグナムさんやヴィータさんからは習いました」
「分かったの。参考までに聞いてみたいんだけど、それってどんな方法なの？」
「届くところまで近づいて斬る、これだけです」
「単純なんだね」
「難しいことはボクには分からないですから」
「さっそく始めようか」

私はロンギヌス・スピアを構えるの。
ミウラさんは、普通に格闘の構えをとるの。

「よし、まずはお互いの実力を知るための戦いをやろうか。
　お互い本気でやれ。但し、集束魔法は使わずにな」
「ノーヴェ、集束魔法ってなんなの？」
「ん、魔力を空間から集束して、自分の魔力にする魔法さ。
　破壊力は抜群だが、集束するだけ時間がかかるのと
　体に負荷がかかるのが欠点だな」
「私はそんなの使えないの」
「ボクは一応使えるんですけど、ここ一番で使わないと息切れするって師匠に言われてます」
「そうなの。じゃあ、始めるの」
「お願いします」

本気で、っていう話だから、私はリーチ差を生かすつもりで戦うの。
ミウラさんは素早く接近してくるの。
私はそれをロンギヌス・スピアでカウンターを当てるの。
だけど、それはミウラさんも想定してるみたい。
でも、能力者である私にフェイントは通用しないの。

「まともに食らいましたね、さすがです」
「私は能力者だから、動こうとする前に動きが見えるの」
「動こうとする前に？」
「それが能力者の力なの」

由佳里先生ぐらいになると、能力で考えまで読めるけど、私にはそこまでの力はないの。
だけど、単純な動きぐらいなら予測して見ることができるの。

「ならっ！」
「強引に押し通ろうというのは無茶なの」

もう一度カウンターを入れるの。
相手がミウラさんといえども、リーチ差を生かしてカウンターを入れ続ければ、負けるつもりはないの。

「動きが完全に読まれてますね」
「それが私の取り柄なの」
「読まれてる……となればっ！」

ミウラさんは心が折れずに戦ってくるの。
それにまた私はカウンターを入れるの。
でも、ミウラさんはカウンターを入れたロンギヌス・スピアをつかんで
強引にミウラさんの間合いに押し入ってくるの。
それならっ！

「近づいて……斬る！」

ロンギヌス・スピアを手放すわけにはいかないけど、片手をロンギヌス・スピアに掛けてるのはお互い様なの。
だから、ミウラさんの一撃を受けるぐらいのことはできるの。

「いたぁ……手で受け止めたのに……」
「この力がボクの数少ない取り柄ですから」
「ならこれでどうなの」

この力だと、クロスカウンターを打ったら私が押し負けるの。
だからといって、ロンギヌス・スピアの間合いに戻るのは、ロンギヌス・スピアを握られてる以上不可能なの。
なら、私にできることは……

「え？」
「両手が使えなければ勝負にならないの」

ロンギヌス・スピアを収納して素手での勝負に切り替えるの。
これはミウラさんも想定してなかったみたいなの。

「リーチ差があっても、ボクの間合いですよ、そこは」
「分かってるの」

ミウラさんの間合いなのは分かってるの。だけど、ミウラさんの間合いで戦って勝たなければ、勝てないとみたの。

「え？」

ヴィヴィオの見よう見まね、ぎりぎりまで引きつけてかわし、カウンターを入れる。
確かにミウラさんの一撃は重い。だけど、当たらなければ打撃は受けない！

「よし、そこまででいいだろう、二人ともご苦労さん」
「はい」
「はあ……ボクはまだまだですね」
「いや、そう卑下するものでもないさ。霧子は全力全開でできたが、ミウラはまだ集束魔法を使ってない。
　あれはガードの上からでも相手を落とすだけの威力があるんだろう？」
「当たればですよ。さっきのスパーじゃ当たる気がしません」
「そりゃそうだろう。簡単に当てられる相手ならスパーに指名しないさ。
　逆に言えば、霧子にいいのを入れられるようになれば、ミカヤ相手でもいい勝負が出来るようになる」
「分かりました。頑張ります」
「霧子は逆だ。次の相手は打たれ強さが自慢らしい。パワーが薄い霧子がそれを破るには、ミウラのガードを破れるようでなければな」
「分かったの」

こうして時間は飛ぶように過ぎていくの。
そして、インターミッドの試合の時がやってくるの。

「ミウラが世話になったな」
「あ、ザッフィー、こんにちは」
「ヴィヴィオ、こんにちは」
「よう旦那、ミウラはしっかり仕上がったと思うぜ」
「思うでは困る。仕上がってなければな」
「ミカヤと一ヶ月やった霧子直伝でミカヤ対策はやった。
　できる限りのことはやったさ」
「だといいが……」
「師匠、お久しぶりです」
「そうだな。充実した練習はできたか」
「はい」
「それならいい。よし、ノーヴェの所の選手より先におまえが試合のようだ。
　頑張ってこい」
「はい」

ザフィーラさんに連れられて、ミウラさんは試合場に行きます。

「よし、あたしらも観戦に行くぞ」
「ノーヴェ先生、私達の対戦相手についてのお勉強とかしなくていいんですか」
「コロナ、対戦相手について見るより、この試合は見ておく価値があるさ。
　いいからついてこい」
「はい」

そういうわけで、私達は競技場の観戦席に向かうの。

「近づいて斬る、近づいて斬る、近づいて斬る……」

ミウラさんはブツブツと何かつぶやき続けてるの。

「やるべき事はやった、さて、試合に向かうか」

ミカヤさんは余裕綽々なの。
さすがは全国大会にも出てる実力者なの。

「Ｒｅａｄｙ　……　ＧＯ！」

「近づいて……斬る！」

ミウラさんは一気にミカヤさんとの間合いを詰めようとするの。
それは私相手には時々成功してたけど、ミカヤさん相手には無謀と思えるの。

「抜刀！　水月」

ミカヤさんの居合抜きがミウラさんを捕らえるの。
これでミウラさんは場外へ吹き飛ばされるの。

「……」
「ＬＰは残ってますけど、圧倒的じゃないですかミカヤさんは」
「泪はそうみるの？」
「霧子はどう見てる？」
「ミウラさんは、ＬＰが残ってる限りいつでも逆転できる力があるの」
「集束魔法？　でも、当たらなければ意味がないよ」
「うん、だけど、当てるための工夫を今ミウラさんはやってる最中なの」
「え？」

ミウラさんはカウント１２でリングに戻ってくるの。

「目が死んでないか、さすがにここまで勝ち上がってきたことはあるね。
　それに、ノーヴェちゃんところで練習してきただけのこともある」
「近づいて斬る……近づいて……斬る！」

また一直線にミカヤさんへミウラさんは突っ込んでいくの。
動きが同じとみたミカヤさんは同じようになぎ払いにかかるの。
だけど、同じことを繰り返すだけのミウラさんじゃないの。
素早く体を落としてミカヤさんの刀をかわし、ミカヤさんに近づくの。

「！」
「近づいて……斬る！」

ミカヤさんは脇差しを使ってミウラさんを迎撃するけど、ミウラさんが一瞬早い！
でも、ミカヤさんの脇差しも確実にミウラさんを捕らえたの。

ミウラさんは脇差しの一撃でまた飛ばされるけど、ミカヤさんも打撃を受けたところを押さえてるの。

「ＬＰ差は広がったけど……ミカヤさんに一撃入れたね、ミウラさん」
「うん、そうなの」
「一撃はいれたけど、次一撃で決めないと、たぶん同じ手は通用しないぜ」
「リオの言うのはもっともだけど、ミカヤさんは驚いてるみたい」

ミカヤさんは居合いから、刀を構えての戦いに切り替えるの。

「行くよ、スターセイバー……抜剣！」

リングに戻ったミウラさんは、集束魔法を発動するの。
ミウラさんの集束魔法、それが抜剣、空間から集めた魔力を、さらに一点に集中することで絶対の破壊力を発揮するの。

「もう抜剣？」
「ＬＰ差を考えたら、他に手はないの」
「インターバルまで待てばＬＰは回復するよ」
「それはミカヤさんも分かってるの。だから、ミカヤさんはこのラウンドで決めにかかるの」
「いきなりクライマックス、だね」

抜刀対抜剣の戦い、一撃の勝負なの。

 

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