第2ラウンドのゴングが鳴るの。

「参ります」

アインハルト選手が積極的に前に出て攻撃に入るの。
それをヴィヴィオはリングを回りながらかわしていくの。
そしてカウンター。でも、アインハルト選手もさるもので、それをブロックするの。

「お互い一歩も引いてないね」
「うん、そう思うの。ヴィヴィオが手こずってるなら、あのアインハルトって人はすごく強いんだと思うの」
「どっちかに焦りが出たら、それが勝敗の分かれ目かな」
「リオはそう思うんだ」
「そういうコロナはどう判断するんだ？」
「アインハルトさんからは、焦りっていうか、何かに追い詰められた感じがするよ」
「何かに追い詰められた感じ……試合はヴィヴィオにひいき目に見ても互角だと思うんだけどな」

アインハルト選手が足を止めて間合いを開くの。
ィヴィオは無理に間合いを詰めずに、呼吸を整えるの。

「さすがに聖王オリヴィエ、簡単には勝たせてもらえませんね」
「だからヴィヴィオはヴィヴィオだってば」

それには、アインハルト選手は答えないの。
そして、素早く間合いを詰めて再びラッシュなの。
さすがのヴィヴィオもこのラッシュはかわしきれずにブロックで対応するの。

「攻撃を打ち返してるっていうほうが当たってるんじゃないかな」
「だけど、ヴィヴィオは防戦一方なの」
「大丈夫、あんなラッシュはいずれ息切れする」
「大丈夫かな、ヴィヴィオちゃんも足を止めてるけど……」

確かに、コロナの言う通り、ヴィヴィオの足は止まってるの。
前みたいに引いてカウンター狙いではなさそうなの。

「同じ手は通用しない、って判断なのかな」

その答えはすぐに出たの。
ラッシュからアインハルト選手は間合いを開けるの。
そこへヴィヴィオの飛び込み。カウンターが入ると思われたそのとき、

「覇王断空拳！」

アインハルト選手のカウンターが入るの。
どうやら、アインハルト選手はこれを狙ってたみたいなの。

「大丈夫かヴィヴィオは。今のはきれいに入ったぞ」
「場外まで吹き飛ばされたの。あの一撃でLPもかなり削られたし、ヴィヴィオは厳しいと思うの」
「それ以前に立てるかな……」

カウントはそういう話をしてるうちに10まで来るの。
20カウントまでに立ってリングに戻らないとそのまま負けなの。
だけど、ヴィヴィオはカウント17でリングに戻ってくるの。

「ふー、危ない危ない」
「だけど、あの一撃を見て、ヴィヴィオは……」

ヴィヴィオがちょっと微笑んだ気がしたの。
そして、こんどはヴィヴィオからラッシュを仕掛けるの。

「私が聖王かどうかは知らない。あなたが覇王かどうかもしらない。
　だけど、聖王オリヴィエが過去の人なのは知ってる。
　覇王クラウスが歴史上の人物であることも。
　だから……」
「だから？」
「あなたが過去の亡霊にとらわれてるなら、私がそれを断ち切る」
「亡霊じゃないんです」
「え？」
「私にとって、クラウスも、オリヴィエも生きた存在。過去の亡霊じゃない」
「そうだとしても、今あなたの前に立ってるのはオリヴィエじゃなくて、ヴィヴィオだよ。
　それを思い起こさせる！」
「！」
「ディバイン・バスター！」

ヴィヴィオは至近距離からアインハルト選手に魔法砲撃を加えるの。
魔法弾は投げ返したアインハルト選手だけど、これは投げ返すことも受けきることも出来ないの。
そのまま場外へアインハルト選手がたたき出されてしまうの。

「ヴィヴィオにはこういう切り札があったんだ」
「だけど、ヴィヴィオはもう肩で息をしてるの。かなりの疲労がたまってるみたいなの」
「けど、あの一撃はきれいに入ったし……」
「……リオ、アインハルトさん、戻ってくるよ」

コロナの言う通り、アインハルト選手はカウント12でリングに戻ってくるの。

「なのはママ直伝のディバイン・バスターだよ。
　でも、直撃を受けてまだ帰ってこれるってすごいね」
「私にはやるべき事がありますから」
「ヴィヴィオにもやるべきことがあるんだよ」

ヴィヴィオはそういうと、ファイティングポーズでアインハルト選手を待ち受けるの。
アインハルト選手も、独自の構えでヴィヴィオの隙を探してるの。

「ヴィヴィオ！　足を止めるな！」

ノーヴェの声がヴィヴィオに投げかけられるの。
だけど、それを聞いて先に動いたのはアインハルト選手の方だったの。

「やっぱり、アインハルトさん、早い……」
「単純に直線的に早いだけじゃなくて、きっちり小回りもきかせてる」
「だけど、ヴィヴィオはちゃんとかわしたの」

ヴィヴィオはアインハルト選手の踏み込みをかわすの。
そして……

「え？　ヴィヴィオ、それ無茶じゃ……」
「ヴィヴィオちゃん、ノーガードで打ち合っちゃ……」

ヴィヴィオはノーガードでの打ち合いを始めたの。
これじゃ打たれ弱くてパンチも軽めって言われてるヴィヴィオの方に勝ち目はないはずなの。

「クリス、防御は任せるからね」

クリスというのは、ヴィヴィオのデバイスのことなの。
ガードをデバイス任せにして、自分は攻撃に専念するつもりなの？
それはさすがに無茶だと思うの。

「だけど、ヴィヴィオへの攻撃でLPは減ってないよ。有効打があれば、LPの減少があるはず」
「リオの言う通りだけど、その分魔力にダメージが行ってるはずなの」

「ヴィヴィオには、アインハルトさんが何にとりつかれてるのかは分からない。
　だけど……」
「分からないなら倒れてください。私はあなたを壊したい訳じゃありません」
「だけど、アインハルトさんはさみしそうに見えるんだよ。
　本当の意味で前向きに覇王を目指してるなら、ヴィヴィオのくちだしする事じゃないと思う。
　だけど、いまのアインハルトさんは前に逃げてるだけに見えるよ」
「前に、逃げる？」
「そう、だから、ヴィヴィオは前に立ち塞がる！
　逃げることも時には必要だってなのはママは教えてくれた。
　だけど、当てもなく逃げるぐらいなら、戦わなきゃ、現実と！」
「私にとっては覇王になることこそが現実！」
「そう思うことが逃げなんだよ！」

ここで第2ラウンドのゴングが鳴るの。

「ヴィヴィオ、足を止めるな、あんな戦い方をしてたら、たとえセイクリッド・ガードがあっても体を壊すぞ」
「ごめんなさい、ノーヴェ。だけど、アインハルトさんを見てたら、どうしても力で勝たないと納得してもらえそうになくて」
「今のおまえには、勝ち負けよりまず体を壊さないことだ。
　インターミッド以外にも格闘の実力を試すべき機会はある。
　ここで体を壊したらなんにもならないんだぞ」
「ヴィヴィオもそうは思う。だけど、私はなのはママの娘なんだよ。
　なのはママは、ああいう子をほっとかないと思うんだよ」
「おまえはなのはじゃない。分相応にやれ」

ここで、第3ラウンドのゴングが鳴るの。

「いいか、アウトレンジで戦うことを心がけろよ」
「できるだけそうするの」

アインハルト選手は黙って構えるの。
ヴィヴィオはゆっくりとアインハルト選手に近づいてフリッカーを放つの。

「こんどは距離を取って戦うつもりなのかな」
「ノーヴェに怒られてたみたいなの。だから、戦い方を元に戻したんだと思うの」
「だといいんだけど」
「リオは何か思うことがあるの？」
「いや、ヴィヴィオの性格からして、ああなったら意固地だから」
「ヴィヴィオちゃん、距離を保って！」

その声が号砲になったのか、アインハルト選手がフリッカーをかいくぐって間合いを詰めようとするの。
ヴィヴィオはそれにカウンターで応対するけど、そのカウンターを受けながらアインハルト選手が一撃を入れてくるの。

「あ、今のは効いた、LPが減ってる」
「だけど、まだ0じゃない」
「とはいえ、かなり少ないよ」
「ヴィヴィオが足を止めたの」
「ヴィヴィオ！　足を止めるな！」

ノーヴェの叱責が飛ぶの。
だけど、ヴィヴィオは間合いを開こうとはせず殴り合いに再び突入するの。

「その決意に満ちた瞳……あのときのオリヴィエと同じ……」
「だからヴィヴィオはヴィヴィオだよ。聖王オリヴィエは関係ない。
　だけど、アインハルトさんが私の中にオリヴィエを見るのなら、
　私はその幻想と一緒にあなたを倒す！」
「同じ轍はは二度と踏まない。私はあのときのオリヴィエに打ち勝って、あの悪夢を振り払う！」
「いいよ。アインハルトさんが私の中にオリヴィエをみるのなら、それでもいい。
　だけど、私の前にいるのはアインハルトさんだよ。アインハルト＝ストラトスだよ。
　決して、クラウス＝インクヴァルドじゃない！」

ノーガードの殴り合いで、何故かアインハルト選手のLPだけがだんだん削られて行くの。
だけど、LPの代わりに、ヴィヴィオの魔力がどんどん削られているはずなの。

「LPは互角にちかづいてきた、次の一撃、どちらが入れるかで決まるな」
「それはお互いも分かってると思うの」
「ヴィヴィオちゃん、魔力が持つかな」
「気力で持たせてるように見えるんだけどさ」
「気力ならアインハルトさんも負けてないみたいだけど……」

アインハルト選手が間合いを開直そうとするの。
だけど、ヴィヴィオはそれについて間合いを詰めるの。

「はー、タオルを投げ込みたい展開だけどよ。
　だけど、ヴィヴィオの言うことも分かるんだよな」

ノーヴェがつぶやくの。
確かに、このまま魔力が持てばアインハルト選手にヴィヴィオは勝てると思うの。
だけど、そのまま勝たせてくれるほど、アインハルト選手は弱くないはずなの。

「タックル！」

ここで、アインハルト選手が前に出るヴィヴィオにタックルをかけてくるの。
だけど、ヴィヴィオは冷静にこれをかわすの。

「間合いが空いた」
「ヴィヴィオ！間合いを中途半端に空けるな、大きく……」

ノーヴェの言葉は最後まで言えなかったの。

「覇王断空拳！」

再び、アインハルト選手の必殺の一撃がヴィヴィオを捕らえるの。
ヴィヴィオはまた場外へ吹き飛ばされれる……いや、違うの。

「どういうことだよ、霧子」
「今のは打撃をころすために自分から吹っ飛んだの
　おかげでLPがわずかに残ってるの」
「だけど、今のでLP差はまた大きく開いたよ。
　首の皮一枚つながっても、そろそろ……」
「……まだ、戻ってくるんですね」
「私はもどらないといけないからね。
　あなたが必要としている何かにきづいてもらうために」
「必要なことは分かってます」
「分かってないよ。全然分かってない。
　分かってたら、そんなさみしそうな表情はしないよ」
「さみしそう？　私が？」
「そうだよ。そのさみしそうな表情を見たら、ほっとけないんだよ」

ヴィヴィオはファイティングポーズをとったままアインハルト選手に近づくの。
アインハルト選手は間合いを維持しようとするの。
そこへヴィヴィオが飛び込んでいくの。

「ヴィヴィオ、無茶したらカウンターが……」
「これがヴィヴィオの全力、アクセルスマッシュ！」

カウンターを入れようとしたアインハルト選手の踏み込みを利用すべく
ヴィヴィオが大きく踏み込んで、こめかみに渾身の一撃を入れるの。
すこしアインハルト選手がいいのを食らってよろめくの。

「まだまだ！」

ヴィヴィオのラッシュが始まるの。アインハルト選手はガードしようとするけど
頭にきれいな一撃を受けてガードが少し遅れてるの。
ヴィヴィオは手加減なしでラッシュを加えて、アインハルト選手のLPを0まで削りきったの。

「勝者、高町ヴィヴィオ」

ゴングが鳴り響き、レフリーがヴィヴィオの勝利を宣言するの。
だけど、ヴィヴィオは気が抜けたのか、その場へ崩れ落ちるの。

「ヴィヴィオちゃん、大丈夫かな……」

大丈夫じゃないみたいで、アインハルト選手とヴィヴィオ、二人とも担架で運び出されるの。

「医務室に行こうか」
「そうだね、ヴィヴィオが心配だし」

医務室での会話は、また章を改めるの。

 

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