あれからまた一週間経ったの。
練習はもう出稽古じゃなくて、ノーヴェの元で5人そろっての練習が続いたの。
そして、今日は本予選開始の日なの。
本予選一回戦には、前回大会上位者からなる、シード選手はいないの。

「シード選手がいないからって気を抜くなよ。
　おまえらだって、今回が初出場なんだ。
　前回、おまえらはシードされる側だった。
　今回こそ、相手は格上だと思った方がいい。
　まあ、一応対戦相手のデータは集めてあるから、それなりに指示はできるつもりだけどよ。
　けど、やるのはあたしじゃない、おまえらだからな」
「はい」
「で、うちのチームの最初はコロナからだな。
　幸い、決勝トーナメントになるまで、おまえら同士で当たる心配はない。
　その意味じゃ気楽に戦ってこい」
「はい」
「コロナの次は泪、その次霧子、次がリオ、最後がヴィヴィオだな。
　試合時間は重ならないよう調整してくれてるが、ぶっどおしで誰かが
　試合してる形になるからな」
「はい」
「よし、じゃあ朝一番の試合はコロナからだ、行くぞ」
「お願いします、ノーヴェ先生」
「だから……まあいいか、行くぞ」

コロナが私達の初陣を切るの。
初陣はノーヴィス級で終わってるといっても、本予選はまた別なの。

「それにしてもすごい観客なの」
「本予選はこれだけ広い会場が満員だね」
「クラナガンじゃ他にも会場があるんだよ。
　そこも満員級じゃないかな」
「ヴィヴィオ、そんなにインターミッドは人気あるの？」
「あるよ。どこでもそうじゃないの？」
「いや、さすがに地球じゃ異種格闘戦の未成年の試合でここまで集まることないから」
「コロナの試合が始まるから応援しよう」
「あ、そうだねリオ、応援のために観客席にいこう」

コロナはブランゼルを使って戦うの。
相手が情報を集めてなければ、びっくりするはずなの。

「Ready……GO!」

本予選は4ラウンド制で、4ラウンドで決着がつなければ、やっぱりLP残存量の多い側が勝つの。
つまり、判定になるの。
だけど、……

「創主コロナの名の下に……」

コロナが魔法の詠唱を始めるの。
完全に詠唱が終わる前に決着を付けようと、相手選手は間合いを詰めてコロナにラッシュを掛けようとするの。
どうやら、コロナの戦い方は相手にも情報が入ってるみたいなの。
だけど、コロナは詠唱を辞めずにそのままかわしていくの。
これなら、……

「……出でよ、巨人、ゴライアス！」

巨大なゴーレムが創造されたの。
これがコロナの戦い方なの。競技場の床を剥がして変形、巨人に仕立て上げるの。
一旦この巨人、ゴライアスが完成すれば、その肩に乗っているコロナには、攻撃を届かせるのも一苦労なの。

魔法弾でもあれば別だけど、対戦相手は純粋な格闘家みたいなの。

「叩いて砕け、ゴライアス！」

巨大なゴライアスの拳が相手を捕らえると、そのままK.O.したの。

「勝者、コロナ＝ティミル」

コロナは1ラウンドで楽々勝利なの。

「さすがにゴライアスは反則に近いと思うの」
「だけど、詠唱で完成させなければならないんだから、最初隙が出来るよ」
「とはいえ、完成したらあの巨人は脅威だよ」
「まあ、私達が当たる心配はないの」
「あはは、勝ち抜けば当たるかもよ」
「シード選手に勝てればだよ」

雑談してるとノーヴェが駆け寄ってくるの。

「無駄話してる暇はないぞ、次は泪だ」
「はい」

泪の相手は、純粋魔法戦タイプみたいなの。
格闘を習った泪じゃ勝負は……

「最初から手加減なしで行くからね」

どうやら、泪も魔法戦で行くつもりみたいなの。
一体、どんなことを見せてくれるのかな、期待なの。

「シュート！」

相手の攻撃を、シールドで受け流して泪は耐えるの。
接近戦がない相手だから通用するのかもしれないけど
泪はどうするつもりなのかな。

「……チャージ完了。行くよ、ジーザス・ライトニング！」

すさまじい雷が相手選手に向かって走ると、相手選手をK.O.するの。

「すごい雷……それをあれだけの短時間でチャージするなんてすごーい」
「泪ならこれぐらい普通なの。多分、手加減なしっていってるけど、手加減はしてるの」
「そうなんだ、霧子ちゃん、あんな雷が切り札って……」
「多分、まだ切り札は持ってるはずなの」
「霧子、話はそれだけでいいだろう、次は霧子の番だぞ」
「はい、行ってくるの」

私の相手は、普通の格闘家みたいなの。
私はロンギヌス・スピアを構えて相手に対峙するの。

「リーチの差は絶対じゃないよ」
「分かってるの。それは自分でも実践したの」
「？」
「勝負なの」

試合開始と同時に素早くロンギヌス・スピアを繰り出して相手の動きを見るの。
相手は槍をかわして懐に飛び込むつもりみたいなの。
それなら……いたずらごころがわくの。

だけど、それは封印、初戦は落ち着いて勝つことに専念するの。
私は大きくリング端まで下がるの。
相手はそれを弱みとみて踏み込んでくるの。
だけど、それが私の誘いなの。踏み込みに踏み込みで対応して素早く槍で突くの。

そのまま相手は場外。20カウントで私のK.O.勝利なの。

「よし、よくやった。落ち着いた試合運びだったぞ。
　次はリオだ」
「はい」

リオの相手は双剣使いみたいなの。
リオは素手でなにをするのかわからないの。
だけど、リオの方が落ち着いて見えるから、リオが優勢だと思うの。

「行くよ」
「こいよ、どっからでもかかってこい」
「じゃ、せーの」
「え？　それありなの？」

リオは、競技場の床を剥がして相手に投げつけるの。
相手もこれはまったくの想定外みたいなの。
普通はそんな攻撃は想定しないの。

「なにしやがる！」

それはそうなの。だけど、その攻撃をかわす隙にリオは間合いに入ってたの。

「せいやっ！」

リオのパンチが双剣使いのみぞおちにきれいに入って、それでK.O.勝ち。
リオは楽々と勝利を収めたみたいなの。

「リオ……あれは奇策だからな」
「分かってます。だけど、初戦はどうしても勝ちたかったんです」
「まあ、それはわかる。でも、次からは通用しないぞ」
「はい」
「そういうわけで、最後はヴィヴィオだ。
　相手は……古代ベルカの使い手みたいだな。
　予選は全試合1分以内のK.O.で勝ち上がってる。
　割と強い相手だと思うぞ」
「相手が誰でも、やることは一緒だよ」
「よし、その意気だ」

私達は応援のために観客席に行くの。
ヴィヴィオとノーヴェは試合のためにリングへ向かうの。
リングサイドにノーヴェが入る。

あれ？　相手の選手、リングサイドに誰もいないの。

「おかしいね、セコンドがいないよ」
「セコンド無しの選手もいるって聞いたことはあるけど……
　どういうことなのかな」
「まだそんなに年上じゃないよね、中等部ぐらいかな」
「うん……」

「Ready……GO!」

試合が始まるの。
ヴィヴィオは自分から仕掛けないの、カウンターヒッターだから相手の出方をきっちり見るの。
だけど、相手選手もじっとヴィヴィオのことを見てるの。
何があるのかな？

「その赤と緑の光彩異色、聖王オリヴィエとお見受けします」
「え？」
「ごまかさなくても結構です、私は覇王インクヴァルト、クラウス・インクヴァルトの末裔にして覇王流の後継者です。
　私の目的は、すべてのベルカの王を倒して、覇王がベルカ最強であることを証明すること」
「えっと……私の名前はヴィヴィオだよ、高町ヴィヴィオ、聖王とか覇王とかは関係ないよ」
「あくまでごまかしますか。まあいいでしょう、私が勝ったら、本当の事を教えてくれると約束してください」
「何のことか本当に分からないってば、だけど、今は試合中だよね。試合が終わったら、ちゃんとなんの事か教えてね」

二人の間合いは広めなの。
この距離なら、お互い間合いが広くて魔法戦でもしないかぎり届かないと思うの。

「参ります」

そう、対戦相手がつぶやくと、一気に間合いを詰めて突きを繰り出すの。
あの間合いからあのチャージ、私でもできるかどうか怪しいの。
だけど、ヴィヴィオはそれも想定してたみたいで、きっちりかわして反撃のパンチを繰り出すの。
そのパンチも相手の素早い回避で空を切るの。

そして再び広い間合いなの。
お互い、手の内をちょっと見せ合ったみたいなの。
だけど、完全にじゃないの。

「なのはママ直伝の魔法戦、いっくよー」

わざわざ宣言する必要もないと思うの。
だけど、魔法弾がいくつも用意されたら、魔法戦だって普通の人でも分かるの。

「シュート！」

魔法弾が包み込むように対戦相手を襲うの。
だけど、対戦相手はかわそうともせずにそれを素手で受け止めて……え？　投げ返したっ！

「わっ」

ヴィヴィオが慌ててかわすの。
普通はあんな防御やカウンター攻撃想定しないの。
だけど、その魔法弾を投げ返すことで、ヴィヴィオの体勢が崩れるの。
それを見逃してくれる対戦相手じゃないの。
ヴィヴィオに一撃入るの。
そして、そのままヴィヴィオは場外へ。

「カウント1、2、……」

ヴィヴィオの受けたダメージはそんなに大きくないみたいなの。
それで、ヴィヴィオはカウント10がコールされる前にリングに戻るの。

「あーびっくりした、だけど、魔法弾がダメならこれはどうかな」

だけど、これは、といいつつ、ヴィヴィオはそっと構えるだけなの。
それを見て、対戦相手は一気に間合いをつめて再び突きを繰り出してくるの。
ヴィヴィオはそれをこんどは受け流し続けるの。

「よし、今っ！」

対戦相手の攻撃が一呼吸終わったところで、ヴィヴィオは反撃のパンチを繰り出すの。
これはきれいにヒット、対戦相手がすこしよろめくの。

そのすきにヴィヴィオは間合いを再び開くの。

「さすがに覇王を名乗るだけのことはあるね」
「覇王ですから」

覇王って何者かよく分からないけど、とにかく相手はヴィヴィオを聖王と呼んでるの。
聖王も覇王も私には分からないけど、何かお互いに因縁のある相手ではあるみたいなの。

ここでゴングが鳴るの。
1ラウンド終了。

お互いが自分のコーナーに戻るの。

「ヴィヴィオ、相手の言葉にのるなよ、落ち着いていけ」
「うん、分かった。相手が何者だろうと、私の戦い方は同じだからね」

ゴングが鳴るの。
第2ラウンドの開始なの。

だけど、ヴィヴィオの第2ラウンド以降の話はまた次の話なの。

 

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