雲野霧子の冒険
【第十二章】
〜時の庭園〜

 

私の名前は雲野霧子。今、私は友達の柊泪、クロノ執務官、リンディ提督と一緒に時の庭園にある館の前にいるの。

「うわあ、でっかいお屋敷……」
「この中に次元エンジンがあり、プレシアが居るはずだ」
「それで、クロノ執務官、私達はどうすればいいの?」
「僕はプレシアを逮捕する、君たちは次元エンジンを停止させて欲しい」
「分かったの。でも、どうすれば次元エンジンは止まるの?」
「それは次元エンジンのある場所にたどり着いたらリンディ提督より説明がある」
「分かったの」
「私はここで入り口を守ると同時に、次元振を可能な限り押さえるわ。
 だけど、言うだけあってかなりの出力ね、次元振を完全に押さえるのは無理みたい」
「一刻を争う、すぐに突入するぞ」
「了解、じゃ、行きますか」
「そうするの」

私達は屋敷の中に入るの。
屋敷の中はすでに何かひび割れが入っていて、虹色に光る穴が空いてるの。

「あの穴の中に落ちたら助からない、あれは虚数空間だ」
「虚数空間って、なんなの?」
「大雑把に説明すると、魔法の通用しない空間だ。
 君たちの言うSC空間も無効化する。
 存在波自体が僕らの知っている存在とは違っているんだ」
「分かったの。落ちなければ大丈夫なの?」
「落ちなければどうということは……来たぞ」

クロノ執務官が指し示す方向には、メタルゴーレムの大軍が居ます。

「僕が手本を見せる」

そう言うと、クロノ執務官は杖を振ります。
杖からエネルギーの刃が生まれると、メタルゴーレムを次々と切り裂いて撃破していきます。

「無駄な戦闘は避けて欲しい。君たちの言う、オーギュメントだって、出力は無限じゃないだろうし
 よしんばエネルギーが無限に使えたとしても、時間は無限じゃない。
 効率的に先に進んで、次元エンジンを止めて欲しい」
「分かったの」
「了解、床に気をつけて進めばいいんでしょ」
「まあ、そうだが、気をつけて。どんな罠が仕掛けてあるかも分からないから」
「心得たの」

私達は、クロノ執務官が開いた突破口から先に進みます。

「こちらリンディ、クロノ、聞こえる?」
「聞こえます、リンディ提督」
「次元エンジンは時の庭園の中心部に設置されてるわ、そこから次元振が発生してる」
「分かりました。霧子と泪の二人をそちらに向かわせます」

リンディ提督の言葉は、私達にも聞こえたの。
だけど、リンディ提督は私達にじゃなくて、クロノ執務官に向けて話をしたの。
この場の指揮官はクロノ執務官だからかな。

「聞いての通りだ、とにかく奥へ奥へと進んで、次元エンジンのある場所にたどり着いて欲しい」
「クロノ執務官はどっちへ向かうの?」
「このまままっすぐ進む。プレシアはあの広間から転移してない。
 広間からそう遠くには行ってないはずだ」
「了解したの」

私達はクロノ執務官と別れて、時の庭園にある館の最深部を目指すの。

「霧子、霧子が前衛に出て」
「了解したの」

私が前、泪が後になって館の中にある縦坑を進んでいくの。
塔の中にはやっぱりたくさんのメタルゴーレムが居るの。
無駄に戦うな、と言われても、飛行型のメタルゴーレムに先回りされたら戦わない訳にいかないの。

「一体何体あるの? 切りがないの」
「これだけのメタルゴーレムを全部東京に送り込まれてたら、私達じゃどうしようもなかったかもね」
「だけど、今は私達がなんとかしないといけないの」
「そうだね、霧子」

縦坑といっても、岩のむき出しじゃなくて、ちゃんとした塔に見えるの。
たぶん、この一番奥に次元エンジンがあるの。

「霧子! 上!」
「上?」

上を見上げると、巨大なゴーレムが降ってきたの。
慌てて回避するの。

「あれ、床がある。
「そうなの、だけど、エンジンは見えないの」

巨大ゴーレムは下の床にたどり着いて動きを止めたの。
だけど、壊れたわけじゃなくて、こっちに持ってる大砲の照準を合わせてきてるの。

「あれ、強そうなの」
「私もそう思う」
「泪、カレイドフェノムチャージ開始。私が攪乱するの」
「了解」

泪のオーギュメント、ホーリークロスは速度より威力重視のオーギュメントなの。
だから、あの巨大なゴーレムに対抗するには、泪の方が適任なの。
そして、私は泪が狙われないよう至近距離で攪乱する役割を果たすの。

「鬼さんこちらなの」

泪が最大出力のチャージをするにも、3分程度あれば十分なの。
だけど、その3分が長いの。

「危ないの」

巨大ゴーレムが砲撃してくるの。
近距離をかすっただけでも、シールドが削れるの。
直撃したら、間違いなく、私達のオーギュメントの力を持ってしても、ディスコネクト状態に落とし込まれるのは確実なの。
下手したら、存在自体を消し去られるかもしれないの。

全神経をあの巨大ゴーレムに集中してかわすのに専念したの。
そしたら……

「あっ」

油断したの、回避してきた陸戦型のゴーレムの落下の直撃を受けたの。
そこへ巨大ゴーレムの砲撃!

「霧子! 回避!」

声より先に体が動いたの。
もし、落下したゴーレムに意識を向けていたら、そのままあの巨大ゴーレムの砲撃を受けてたかもしれないの。
だけど、私はずっとあの巨大ゴーレムの動きに集中してたの。
だから助かったの。
巨大ゴーレムの方は私の動きが一瞬止まったところへ砲撃してきたの。
最大速度でぎりぎりよけるの。
だけど、次同じ手を使われたら……

「チャージ完了……霧子、よけて!」
「分かったの」
「これが私の全力攻撃、ジーザスライトニング!」

これが泪の切り札なの。
チャージに時間はかかるけど、威力の方は私のゴッドスレイヤーを上回るの。
神の雷霆、ジーザスライトニング。第3世代オーギュメントをのぞけば、おそらく既存のオーギュメントの中でも
並ぶ物のない威力を誇るの。

さすがの巨大ゴーレムも泪のジーザスライトニングには耐えきれずに爆発するの。
その爆発で床が抜けるの。

「これは……」
「あれが、次元エンジン?」

何か複雑にパイプがくっついている、巨大な機械が目の前に現れたの。
爆発で落下した床でもまるきり損傷しない頑丈さ。
どうすればこれを止められるのか見当も付かないの。

「リンディ提督、次元エンジンらしき物を見つけたの。
 これからどうすればいいか教えて欲しいの」
「おそらく、物理的防護は完璧なはずだし、システム自体プレシアでないと
 動かせないようロックがかかってるはず。
 通常の手段で動作を止めるのは、無理ね」
「それだと、止められないの?」
「方法はあります」
「どうするの?」
「正確にエンジンの座標位置を示して欲しいわ。
 そうすれば、私がその座標地域に向けて、次元振を逆に増幅して送るから」
「そうしたら?」
「そうはさせないわ」

これは、プレシアの声です。

「ロンギヌス・スピア、次元跳躍攻撃がくるよ」
「ジーザスクロス、シールド全開!」

私達は寄り添って、シールドを増幅して来たるべき次元跳躍攻撃に備えます。
でも、プレシアの攻撃目標は私達じゃなかったようです。

「っ……」
「リンディ提督、無事です?」
「なんとか生きてるって程度ね。……次元振を押さえるのも厳しくなったわ。
 だけど、今のでアースラからプレシアの位置は正確に把握できる。
 クロノ、プレシアを確保して。
 エイミィはクロノの誘導を」」
「分かりました、リンディ提督」
「了解、リンディ提督」

私達の出る幕はどこなのかな?

「二人とも、次元エンジンに向かって魔力打撃……カレイドフェノムってあなたたちは呼んでいたわね。
 ……それを打ち込んで。そのエネルギーをアースラで拾って場所を特定するから」
「分かりました」

なんでもいいのなら、大技である必要もないの。
カレイドフェノムを二人でエンジンにめがけて放つの。

エンジンはカレイドフェノムを弾き飛ばしたの。
けれど、それがリンディ提督の狙いなの。

「これは次元断層を作り出すエンジン、だから、増幅してぶつければ……」

リンディ提督の声が聞こえるの。

「二人とも全力で上へ戻って。エンジンの崩壊に巻き込まれるわ」
「分かったの!」

全速力で上を目指すの。
途中撃破せずに通り過ぎたゴーレムがいるけど、空中型は倒して前進してるから、いるのは陸戦型だけなの
それだけなら、私が泪を引っ張って飛べば攻撃される心配もないの。

下を確認してる泪が私に話しかけるの。

「巨大な虚数空間が発生してる、エンジンのあるところ」
「ふふ、やったわ……はあ……私は限界ね。クロノ、後は任せるわ。
 次元振を生み出しているのも魔法の力。
 虚数空間の中にエンジンが漬かったら、もうエンジンは役に立たない……」
「提督、直ちに転送で回収します!」

リンディ提督は重傷みたいなの。
エイミィさんが切羽詰まった声で転送を宣言すぐぐらいには。

「私達はどこへ行けばいいのかな」
「本来なら、転送で回収したいところなんだけど……待って!」
「どうしたの?」
「今アースラの隔壁を破ってフェイトちゃんが時の庭園に向かったって情報が来た。
 二人はフェイトちゃんを確保して」
「フェイトはどこにいるの?」
「今確認中……全速力でプレシアのところへ向かってる!」
「それはどこなの?」
「今から誘導するわ。屋敷の奥よ」
「分かったの」

私達は、一旦屋敷の縦坑入り口に戻ってから、屋敷の奥に進むの。
その奥に、プレシアがいるはずなの。
そして、フェイトちゃんはアースラから転送で直接飛んだみたいだから
私達を先回りしてるはずなの。

プレシアは、時の庭園の館の奥にいたの。
周りは虚数空間だらけで危ないの。
そんな中、プレシアはクロノ執務官と対峙してたの。

「クロノ執務官、大丈夫なの?」
「僕は大丈夫だ、プレシア、そのカプセルの中にいるのが、アリシアだね」
「そうよ、私の大事な一人娘。私はあの子をかならず生き返らせるの。
 そのためにアルハザードへの扉を開くのよ」
「だが、もう次元エンジンは虚数空間の中に落ちた。もはやあなたにできるのは投降することだけだ」
「次元エンジンは虚数空間の中でも動いてるわ。次元振が止まってないのがその証拠」
「停止するのは時間の問題だ」
「そうね。……だけど、私が無能だと思って?」
「いいや、そうは思わない。それが?」
「こうなることも一応予測はしていたの。次元断層はここに生まれるよう設定してるわ。
 次元エンジンが動作を続けていさえすれば、私はアリシアと共にアルハザードへ跳躍できる」
「……フェイトちゃんはどこなの?」
「ああ、あの出来損ない? 出来損ないは出来損ないらしく捕まってれば良かったのに。
 ここへ直接跳躍しようとして墜落したみたいね。
 館の入り口あたりに落ちたんじゃないかしら」
「それじゃ、私達が先回りしたってこと?」
「そうね……」
「母さん」

プレシアの背後で声がしたの。

「まさか!……フェイト!」
「母さん……かあさんが、私のことを出来損ないと呼ぼうと、アリシア……この子だけがかあさんの娘だと呼ぼうと、それはかまわない。
 だけど、私にとっては……あなたが、あなただけが私の母さんです」
「何を言い出すかと思えば、……くだらないわ」
「だけど、プレシアが生み出した、正真正銘の娘でしょ」
「あなたたちに何が分かるの。アリシアをよみがえらせるために、闇の科学者の研究成果を借りて、それでいて失敗したのよ。
 あの科学者も、日の当たる世界に居れば大天才で通ってたはずだわ。
 その天才科学者の力を持ってしても不可能なことなら、あと頼れるのは、アルハザードだけなのよ」
「私は出来損ないでかまわない。娘と呼んでもらえなくてもいい。だけど、母さん……自暴自棄になるのはやめて」
「私は冷静よ。ただ、アリシアをよみがえらせるためには、もはや1%もない可能性に賭けるしかないの。
 それに、……私の体ももう持たないわ。たとえ、アルハザードを目指さなかったとしてもね」
「それならなおさら……」
「……来たわ!」

何が来た?
疑問に思う必要はなかったの。
巨大な次元振がこの館の奥の部屋……部屋と呼ぶにはあまりに巨大な空間、むき出しの岩と虚数空間だらけの洞窟の中……で
発生してるの。

「逃げるんだ、フェイト、その位置だと君も巻き込まれる!」
「かあさん」
「私の計算が正しければ、あの場所よ、あそこへ飛び込めば……」
「やめて、母さん」
「邪魔しないで」

プレシアは、フェイトを突き飛ばすとアリシアを入れたカプセルを抱えて虚数空間の中へ飛び込んだの。

「母さん!」

プレシアはもう答えなかったの。アリシアと一緒に虚数空間へと飛び込んで振り返りもしなかったの。

「みんな、逃げるんだ。この部屋全体が虚数空間に覆われる」
「だけど、母さんが……」
「もう助からない」
「……」
「フェイト、あなたにとってプレシアはただ一人の母親だったのかもしれないの。
 だけど、あなたはかあさんだけのものじゃないの」
「どういうこと」
「アースラには、フェイトを待ってる人がいるの。
 それに、私も、泪も、多分クロノも、あなたが来るのを待ってる」
「どうして? 私はあなたを殺そうともした敵なのに」
「違うよ。フェイトは敵じゃない。私が友達になりたいと思った、一人の女の子なの。
 一人の人間なの。出来そこないでもなければ、お人形でもないの」
「霧子、議論してる暇はないって、すぐに逃げないと」
「だけど、フェイトが……」
「……霧子、待ってたらダメ!」
「分かったの」

私は、フェイトの所へ全速力で走ると、フェイトを抱えて飛んだの。
フェイトは、私を振りほどこうとはしなかったの。
泪はクロノの誘導で部屋を脱出した所なの。
私も逃げたいんだけど、虚数空間が出口を先回りして塞いだの。

「ごめん、フェイト、逃げ道がなくなっの」
「どうしてこんなことを……あなたも死ぬのに」
「友達になりたいからじゃ、理由にならないの?」
「友達に、なりたいから……」
「だけど、もう終わりだね」
「終わりじゃない」
「え?」
「まだ部屋が完全に虚数空間で覆われてない。
 次元振もさっきよりずいぶんと弱まった」
「だから?」
「転送でアースラに飛ぶ」

フェイトは、私を連れて、アースラへと転送魔法を使ったの。
……成功みたい、私達はアースラの敗れた隔壁の所へ到着できたの。

「フェイト=テスタロッサ、あなたを脱獄の罪で再逮捕します」
「分かりました」

フェイトは、素直に両手を武装隊員に差し出します。

「そうだ、クロノ執務官と泪は?」
「クロノ執務官と、お友達の泪さんは、今時の庭園からアースラに向かってる所です。
 収容し次第、時の庭園を離れて、第97管理外世界へ向かいます」
「ありがとう」

どうやら、事件は一段落したみたいなの。
だけど、解決にはまだ遠い気がするの。

 

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