雲野霧子の冒険
【第十一章】
〜次元航行艦アースラ〜
ここは、次元航行艦アースラの居住区画にある食堂なの。
そこで、私、雲野霧子と、友達の柊泪がリンディ提督とクロノ執務官の話を聞いてるの。
「フェイトとアルフさんはどうしたの？」
「あの二人は独房に入っている。一応は犯罪者だから、けじめは付けないとね」
「そうなんだ、クロノ君」
「それで、緊急事態ってなんなの？」
「今からその話をするわ。
さっきの、異空間からの攻撃はあなたたちも見たわよね」
「見たの。ジュエルシードを奪っていったの」
「そうね。なんとか3つはプレシアの手からもぎ取ったけど、残りの3つはプレシアの手に渡ったわ。
これで、こちらのジュエルシードが11個、向こうに10個ね」
「残りの11個を手に入れるために何かするということなの？」
「それは考えにくいわ。もし、自力でジュエルシードを手に入れるために第97管理外世界に来る事ができるのなら
プレシア自身がとっくにそうしてるはず。フェイトちゃんを使う必要はないわ」
「それなら、どうして非常事態だと分かるの？」
「プレシアは、今まで自分の居場所を悟られないようにしていたわ。
ところが、今回は自分自身の居所をはっきりと示して行動してきた。
これは、プレシアが焦ってる証拠よ。
焦ってるということは、何をしでかすか分からないわ。
分からないから、何かをする前にプレシアを捕まえないとならない」
「それで、プレシアおばさんはどこに居るの？」
「時空の海に浮かぶ庭園、時の庭園よ。
登録上は無人ということになっているんだけど、どうやら、プレシアはそこに住んでいるみたいね。
所有者として登録されているのは……」
ここで、警報が鳴り響いたの。
「リンディです、何が起きたの？」
「次元跳躍攻撃です」
「シールド展開、回避」
「間に合いません、直撃します」
「シールドに全出力を回して！」
「了解！」
スタッフの人はキビキビと行動しているみたいなの。
全出力をシールドに回した結果、艦内の明かりも全部消えたの。
そして、この食堂も強烈な振動に見舞われたの。
「大丈夫？ 霧子ちゃん、泪ちゃん」
「私は大丈夫、霧子は」
「私は大丈夫なの」
「クロノ、あなたは大丈夫よね」
「はい、提督」
「ランディ、被害状況を報告して」
「はい、シールド出力70％低下、航行能力には異常なし」
「攻撃してきたのは、誰か分かる？」
「魔力波動から、プレシア＝テスタロッサの物と断定」
「次、同じ攻撃が来たら？」
「支えきれないと思います」
「そう……最悪、私がシールドの援護に出ます。
エイミィ、時の庭園へ最大速度、プレシアが次の攻撃をする余力を得る前に
時の庭園に到着して、プレシアを逮捕します」
「分かりました」
「クロノ、私は艦長席にいるわ。最悪、私がシールドを援護する必要があります。
二人への説明はクロノが続けて」
「分かりました」
リンディさんは、急いで食堂を出るの。
「それで、時の庭園って、なんなの？」
「無人ということになってる、小さな世界だよ。
だけど、プレシアはそこにいるみたいだ。
おそらく、10個のジュエルシードと一緒に」
「さっきの攻撃もプレシアおばさん個人がやったの？」
「そう思えるね。魔力の支援を受けるために何かを使ったかどうかまでは
分析してみないと分からないけど」
「そんなことができるプレシアおばさん相手に、勝てるの？」
「うちの武装隊は精鋭揃いだし、僕やリンディ提督は手練れだ。
そうそう遅れは取らない。それに、アースラの他にも
本局に応援は頼んでる。プレシアにはもう勝ち目はない」
「だけど、プレシアおばさんはそうは考えてないんでしょ」
「みたいだね。最後まで何かをやるつもりみたいだ。
何をするつもりか分からないけど……ちょっと待って」
「いいよ、何事？」
「エイミィ、時の庭園に到着するまであとどれくらい？」
「あと30分もあれば到着するよ、クロノ。
転送可能範囲に入るには20分あれば十分」
「了解した、リンディ提督、武装隊の準備は？」
「万全よ、クロノは予備として艦橋へ来てちょうだい」
「私達は？」
「二人も来てちょうだい。本当はフェイトと話をして、
どういうことなのか聞き出してもらおうと思ってきてもらったんだけど
どうやら、それどころじゃなさそうなのよね」
「それは？」
「とりあえず、艦橋に来てから話をします」
「分かりました」
そう言うと、クロノくんは立ち上がって私達を手招きしたの。
「こっちだ、急いで」
「分かったの」
私達は艦橋へ向かいます。
クロノくんが走るので、私達も走らざるを得ません。
そんなに急いでどこへ行くって、艦橋に決まってます。
「クロノ＝ハラオウン、ただいま到着しました。
柊泪、雲野霧子と一緒です」
「ご苦労様、クロノ」
「リンディ提督、状況は？」
「あと20分で時の庭園に到着します。
武装隊は待機中。
現在、プレシアとの通信を試みてる最中よ」
「受け入れるでしょうか？」
「受け入れて欲しいわね。
ジュエルシードを集めてなにをするつもりなのか、私達には全く分からないもの。
次元エンジンの動力源として使うとしても、それが何を意味するのかは
私達には全く分からないわ」
「それを素直にプレシアが話すとも思えません」
「そうね、私もそうは思うわ。だけど、可能な手はすべて尽くすべきよ」
「プレシア＝テスタロッサより通信、回線を開きます」
プレシアおばさんの方から連絡が来るというのは、どういうことなのかな？
「こちらは、時空管理局提督、リンディ＝ハラオウンです、あなたがプレシア＝テスタロッサですね」
「そうよ。私がプレシア＝テスタロッサ。時空管理局がなんの用事かしら」
「こちらを沈めようとしておいて、何の用事もないものね」
「ふふ、そうね。どうやら、私の攻撃は失敗したみたいね」
「それで、もう一度試してみるつもりなの？」
「それも悪くないけど、私には時間がないのよ。
あの無能者も捕まったみたいだし」
「無能者って、フェイトちゃんのこと」
「そうよ。あの子、結局現地の素人相手に半分も集められなかったみたいね」
素人とは言葉が悪いの。だけど、エージェントとして訓練を受けてる訳じゃないから黙っておくの。
「それで無能者呼ばわり？ 自分の娘にずいぶんと冷たいわね」
プレシアおばさんの表情が変わります。
何か自嘲するような、それでいて、人を小馬鹿にするような、そんな表情です。
「そうね、あの子を作ったのは私だものね。無能者を作った私も無能なのかもしれないわね」
「子どもは自分の人格があるものよ。使い魔じゃあるまいし、作ったなんて言うものでもないわ」
「あの子は私が作ったのよ。……と、言葉が過ぎたわ。とにかく、もう私の邪魔はして欲しくないの。
たとえ、それが時空管理局だったとしてもね」
「邪魔をして欲しくなければ、ジュエルシードで何をするつもりか教えてちょうだい」
「教えればそのまま帰るというの？」
「使う目的次第ね。フェイトちゃんにも教えてなかったみたいだけど、あなたはジュエルシードと次元エンジンで何をするつもりなの」
「アルハザードについて聞いたことはあるかしら」
「伝説の学園都市、アルハザードね、そこの魔法を使えば不可能はないと言われている」
「そうよ。私はそこへ行くの。行って、すべてを取り戻す」
「どこにあるのかしらね、そのアルハザードは」
「次元断層の隙間を通った向こうよ。私の次元エンジンを使えばそこへ行けるわ。
ジュエルシードの数が半分しかないのは残念だけど、エンジンは再設計して
半分のジュエルシードでも必要な出力は出せるようにしてあるわ」
「次元断層の隙間を通った向こうということは、あなたは次元断層を作り出すつもりなのね」
「そうよ。次元断層を作り出さなければ、アルハザードにはたどり着けない」
「話は決まったわ、プレシア。あなたのやろうとしていることは控えめに言っても危険極まりない。
次元世界をいくつ吹き飛ばすか分かった物じゃないことを、管理局は座視できない」
「それでも私は行くわ。次元エンジンはすでに起動してる。
その調整ももう終わったわ。あなたたちがなにをしようと、もはや無駄よ」
「調整が終わったから通信を開いたのね」
「そうよ。あなたたちにあきらめてもらうために」
「あきらめるわけには行かないわ。時空管理局の仕事は次元世界を守ること。
次元世界を危険にさらすあなたの行動は決して見過ごさない」
「話し合いでは解決しそうにないわね。けど……」
「……アルハザードの魔法で何を取り戻すつもりなの。
あなたほどの魔道士が自分の魔法でできない何かなら、よほどのことと見て間違いないでしょうけど
それが何なのか、私には理解できない。
確かに、あなたの経歴はあの事故で傷ついた。だけど、そんなことのために世界を吹き飛ばそうというんじゃないわよね」
「そうよ。あの会社の無謀な運転計画を止められなかった、というだけならアルハザードに向かう必要なんてないわ。
だけど、アルハザードの魔法を付かない限り、私の望みは決して叶わない」
「何があるというの、アルハザードに。……あっ！」
「私の経歴を調べていて、今まで気づかないなんてありえないことだわ。
あなたも人の親なら、分かることでしょう」
「アリシア＝テスタロッサ、あの事故で死んだあなたの娘。あなたはアリシアをよみがえらせようというの？」
「そうよ、私が犯した最大の過ち、会社の運転計画が無謀なことを知っていながら
その実験運転で生じるであろう最大被害の計算を行わなかった。
それでアリシアの命は失われたの。
その過ちを取り戻す義務が私にはあるのよ」
「だけど、あなたがやろうとしてることは危険だわ。
それに、アルハザードにたどり着いたとしても、死者をよみがえらせる魔法なんてないかもしれない。
それなのに、あなたの行動で次元世界に大被害が生じることは確実よ。
それより、どうしてフェイトちゃんとくらすことを選ばないの？ あの子もあなたの娘なんでしょう」
「あの出来損ないとくらす？ 冗談じゃないわ。
あの子はプロジェクトFの失敗作、アリシアの遺伝子とアリシアの記憶から作り上げたお人形。
それも、出来損ないのね」
「……死者を復活させる研究をあなた自身ずっと続けてきたって訳ね。
そして、それが不可能だと気づいた」
「そうよ。だけど、アルハザードなら話は別なはず。
私はアルハザードについて研究して、そのありかを突き止めた」
「あなたがそう思ってるだけでしょう？
アルハザードは幻想かもしれないわ」
「アルハザードは実在するのよ。そこに行けばアリシアは蘇り、私はアリシアと過ごすはずだった時間を取り戻すことができるの。
たとえ、それが数ヶ月、いや、数日だとしても」
「どういうこと」
「私はもう長くないのよ。あの暴走の後遺症と、持病とでね」
ここで、クロノくんが割って入ったの。
「提督、時間が来ました」
「了解。武装隊転送開始」
「分かりました、武装隊転送開始、時の庭園に到着し次第、プレシア＝テスタロッサの身柄を確保のこと」
「了解、時の庭園に転送されしだい、プレシア＝テスタロッサの身柄を確保します」
武装隊の人たちが、時の庭園に送られていくの。
このメンバーで、プレシアを逮捕するつもりらしいの。
「大丈夫かな」
「大丈夫だよ。武装隊は精鋭揃いだ。たとえプレシアが大魔導士だとしても、あの次元跳躍攻撃から力が戻ってるとは思えない」
「だといいけど」
「こちら武装隊、現在時の庭園の入り口に到着、これよりプレシアの元へ向かいます」
「了解、こちらクロノ、エイミィに誘導させる、プレシアの所へ向かってくれ」
「分かりました」
プレシアおばさんが、嘲るような調子で話しかけてきます。
「無粋なまねをするのね」
「次元世界を守るためよ。あなたが娘を失って悲しむように、誰かが死ねば誰かが悲しむわ。
その悲しみを生み出さないためには、無粋なことも仕方ないわね」
「それで守れれば、そうかもしれないわね」
「！……こちら武装隊、メタルゴーレムの群れを発見、その数10……20……30……まだ増えます」
「排除してプレシアの元へ向かうように」
「メタルゴーレムだけだと思ったら大間違いよ」
そう言うと、プレシアおばさんが杖を振り上げたの。
「次元跳躍攻撃よ、シールドを！」
リンディ提督が指示したの。
だけど、その次元跳躍攻撃の目標はアースラじゃなかったの。
「……こちら武装隊、謎の次元跳躍攻撃を受けました。
メタルゴーレム接近中。戦えるのは4，5名のみ……」
「エイミィ、転送で直ちに武装隊を回収、全員よ」
「分かりました、すぐに武装隊を回収します」
「クロノ、あなたの出番よ、あなたはプレシアの身柄確保を」
「了解しました、提督」
「ねえ、霧子、なんか揺れてない？」
「……確かに揺れてると思うの。
船の振動とは違うみたいなの」
「プレシアが次元振を起こしてるんだわ。
どうやら、次元エンジンが本格的に動き出したみたいね。
ランディ、私も時の庭園に出ます。そこで次元振を可能な限り抑制します。
アースラの指揮はエイミィ、あなたがとりなさい」
「分かりました」
「霧子、泪、頼みがある」
「頼みって？」
「残念ながら、管理局は人手が足りなくなった。
次元エンジンを止めるために、君たちの力を借りたい。
行ってもらえるだろうか？ 無理強いはできないが……」
「大丈夫。次元エンジンを止めるだけでしょ、やりかたさえ教えてもらえればすぐにでも。
ね、霧子」
「うん、乗りかかった船なの、最後まで行くの」
「ありがとう。僕ら3人は時の庭園の入り口に転送を。
リンディ提督は……」
「私も同じ場所でいいわ。
次元振を止めるだけなら、入り口にいるだけで十分はなず」
「分かりました、提督。僕ら4人をすぐに転送を」
こうして、私達は時の庭園へ向かったの。
鬼が出るか蛇が出るか、行ってみなければ分からないの。
