あれから数日が経ったの。
アースラは地球の衛星軌道にとどまってるの。
私達、つまり、私と泪には、普通の日常が帰ってきたの。
だけど、気になるのはあの子の事なの。

「霧子、どうしたの？」
「泪、フェイトはどうしたのかなって思ってたの」
「本局で裁判があるらしいけど、まず本局にアースラが帰れないって
　クロノは言ってたって」
「誰から聞いたの？」
「アインハルト先生……って、霧子のおじいさんの方」
「おじいさんっていうのも変だけど……まあ、おじいちゃんかもしれないの」
「アインハルト先生は、空木教授や園宗寺さんと一緒に、クロノと会ったんだって」
「それで、どういう事になったの？」
「次元振の余震がひどくて、本局と地球の間の航行が危険なんだってさ。
　その余震が収まるまでは、アースラは地球の軌道にとどまるって」
「いつまでかかるのかな」
「わかんない。だけど、フェイトの処分もそれまで保留になるそうだよ」
「フェイト、大丈夫かな」
「それも分からないよ。会ってみないと」
「だけど、フェイトはアースラの独房に拘束されてるの。
　さすがに衛星軌道じゃ会いに行く訳にもいかないの」
「クロノと相談してみたら」
「それができればいいけど……うん、今日は空木研究室に行くの」
「そうだね、もしかしたら、クロノがいるかもしれないし」

私達は、空木教授の研究室を訪ねることにしたの。
だけど、その前に私の持ってる携帯が鳴るの。

「何事なの……あ、リンディ提督、お元気に成られましたか？」
『ええ、数日休んだら怪我も治ったわ。それで今日はあなたたちに会わせたい人がいるから
　連絡したのよ』
「会わせたい人って、フェイトなの？」
『そうよ、察しがいいわね』
「それで、どこに行けばいいの？」
『あなたの家よ』
「そこに、フェイトが待ってるの？」
『正しくは、あなたが家に帰ったら、私達がフェイトを連れて行くわ』
「なら、すぐに帰ります」
『まだ昼休憩でしょ、学校が終わってからでいいわよ。
　フェイトちゃんは逃げないわ』
「そうですね、では」

待ち遠しい放課後がやってくるの。
飛ぶようにして家に戻るの。
泪も一緒に来てくれるの。

「いらっしゃい、じゃおかしいかな。お帰り、霧子さん、泪さん」
「え？　帰ったら連れて行くんじゃなかったの？」
「ふふ、あなたが帰る時間は分かってたから、下校時間に合わせて転送したのよ」
「御礼を言うべきなのかな、これ」
「御礼はいいわ。それより、積もる話があるでしょう。
　フェイト、私達はしばらく離れてるから、自由に話していいわよ」
「うん……」
「フェイト、あれからどう？　怪我とかしてないの？」
「体は大丈夫、ありがとう」
「良かった、……って、いう話でもないよね」
「うん……」
「フェイト、どうしたの？　顔が暗いと思うの？」
「ごめんなさい」
「謝ることでもないと思うの」
「でも、謝ることがある。私なんかのためにあなたたちを危険にさらした。
　だから、ごめんなさい」
「それは大した事じゃないの。問題なのは、フェイトが『私なんか』って言ってることなの」
「え？」
「そうだね、謙遜なら美徳かもしれないけど、自己卑下は美徳じゃないよ」
「どういうこと」
「フェイトは確かに管理局の法律じゃ悪いことをしたのかもしれないの。
　だけど、フェイトは立派に生きてるの。生きてる存在は、必ず生きている理由があるんだって
　パパが言ってた。私もそう思う。フェイトがこの世に生まれてきたのなら、生まれてくるだけの理由があったんだよ」
「生まれてくる理由……だけど、私を生んだかあさんは私のことを失敗作って呼んだ。
　私の存在意義って、なんだろう」
「私にも分からないよ、私自身の存在意義も、フェイトの存在意義も。
　だけど、生まれ来たなら、生きる理由があるはずなの。神様はいらないものは作らないの」
「……いらないものは、作らない？」
「そうなの。だから、フェイトにも、しっかりと生きて欲しいの。
　投げやりにならずに、しっかり」
「うん……それで、……」
「どうしたの、フェイト」
「あの、友達になりたいからって言葉、まだ変わってない？」
「変わってないよ、どうしたの？」
「だけど、友達になるって、どうしていいか私には分からないから」
「友達になるって、難しいことじゃないよ」
「え？」
「友達になりたいって思いが通じ合ったら、ビビッてくるの。
　そうしたら、もう友達なの」
「通じ合ったら……」
「だから、もうフェイトと私達は友達なの。
　友達って難しく考えなくていいの。
　友達は考えてなるものじゃないの。感じ取るものなの」
「感じ取る……」
「ほら、フェイトはすぐ考えちゃう。
　フェイト、手を出して」

泪がフェイトに手を差し出すように言ったの。
フェイトがおずおずと手を差し出すと、泪はパチンとフェイトと手を打ち合わせるの。

「感じた？」
「分からない、けど、何か伝わった気がするの」
「最初はそれでいいの。友達って、そういうものなの」
「どういうものなの？」
「一緒に居て楽しいって思えれば、それでいいの」
「うん……」
「そろそろいいだろう。
　アースラに戻るぞ」
「うん……また、会えるかな」
「分からないの。だけど、会いたいという思いがあれば、きっと会えるの」
「じゃあ、また会おうね、フェイト」
「じゃあね、また次会うときまでなの」
「うん、また会う日まで」

それが、フェイトと私達の物語の始まりなの。
終わりじゃないの、始まりなの。

 

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