あれから何日か過ぎたの。
パパはフェイトの反応を探してくれてるけど、未だに反応は見つからないの。
泪と私はオーパス集めに出かけてるけど、全然見つからないの。
東京２３区は一通り回ったんだけどなあ。

「霧子、やっぱり、千葉とか埼玉とか神奈川にまで足を伸ばした方がいいかもしれないよ」
「だけど、そこまで足を伸ばすと、放課後探すんじゃ間に合わないの」
「休みに遠出して探すしかないのかな」
「そうかもしれないの。だけど、今日は空木教授のところに行くの。
　空木教授はジュエルシードっていうオーパスについて調べてるから、その存在波を追う方法が見つかるかもしれないの」
「うん、そうしようか、当てもなく探しても見つからないよね。P-3も十夜おじさんところで、私達の所じゃないし」

そういうわけで、お台場にあるお台場大学の教授、空木理子さんの所へ行くの。
空木教授は、存在波研究の第一人者ということになってるの。
アインハルト先生は、P-4相手に研究してるけど、部下を使っての研究は空木教授の方が手広いの。

「空木教授に面会に来ました」
「教授は忙しいよ、どんな用事かな」
「雲野霧子と柊泪が、オーパス、ジュエルシードの事についてお話ししたい、って言ってるって伝えて欲しいの」
「まあ、伝えるだけは伝える……って、ジェルシードの事についてなんで知ってるんだい？」
「私達が見つけたの。アインハルト先生の所から、この大学に来てることは知ってるの」
「……分かった、とりあえず教授に連絡してみようね」

私達は小学三年生なの。普通にお子様なの。だから、子ども扱いされても仕方ないの。
面白くはないの。だけど、我慢なの。
それに、よほどのことが無い限り、空木教授は会ってくれるはずなの。

「空木教授は、今来客で忙しいそうなんだけど、後でもいいかな」
「来客って、どなたなの？」
「ハラオウンさんだそうだよ」
「クロノくんなら知ってるの」
「クロノじゃなくて、リンディって言ってたかな」
「リンディ提督？　私達も行っていいか聞いて欲しいの。
　フェイトの事で話があるって言えば通じると思うの」
「まあ、いいよ。乗りかかった船だしね」

空木教授の助手というより、院生に見える人はそう言うと教授のところへ向かったの。
私達はまたすこし待ちぼうけなの。

「教授もハラオウンさんもあっていいそうだよ。ついてきて」
「分かったの」

話は少し遠回りしたけど、空木教授と会えることになったの。
リンディ提督と会うのは初めてなの。だけど、たぶん、クロノから
話はリンディ提督に行ってると思うの。

「失礼します」
「こんにちは、空木教授、初めまして、リンディ提督」
「いらっしゃい、霧子ちゃんに泪ちゃん、入っていいわよ」
「初めまして。私がリンディ＝ハラオウン、時空航行艦アースラの艦長をやってます」
「初めまして、リンディ提督、私が雲野霧子なの。こちらが友達の柊泪」
「初めまして、リンディ提督、柊泪です」
「初めまして、霧子ちゃんに泪ちゃん。あなたたちのことはクロノから聞いてるわ」
「やっぱり、クロノくんは話してくれてたの」
「ええ、そうよ。それで、今は空木教授と、ジュエルシードの事で話をしたたの。
　あなたたちが、この世界で最初に発見したんだったわね」
「ええ、そうなの。それからいくつか見つけたけど、いくつかはフェイトって子が見つけてると思うの」
「ジュエルシードは、あなたたちとフェイトって子が、ほぼ半々に見つけてるとみて間違いなさそうなのよね」
「どうして分かるんですか？」
「私達が持ってるジュエルシードが８個、東京湾に沈んでると思われるジュエルシードが６個、
　のこりの７個が行方不明。地上はほぼ探し尽くしたから、残りはフェイトって子がプレシアの所へ
　持って行ってると考えて間違いないわね」
「どうして、東京湾にあるって分かるんですか？」
「私達もぼんやりとしてた訳じゃないのよ。ジュエルシードの魔力波動を調べて
　アースラの探査機で捜索したの。
　正確な位置は分からないけど、品川沖の海の中に６個落ちてることは間違いないわ」
「海の中なら、潜って拾わないといけないの」
「そうね。フェイトって子もいずれ同じ事を考えると思うわ」
「どうしてそう分かるの？」
「プレシアの魔力波動を捕捉したわ。この世界への探索を試みたみたい。
　逆探知でプレシアの場所を探ってるけど、まだ位置が出てこないのよね」
「そんな弱い魔力で、プレシアって人はジュエルシードの位置を捕まえられるの？」
「それは分からないわ。だけど、二回目がない、ということは
　探索に完全に失敗して、もう試みるつもりがないか、もしくは、もう十分な精度で見つけていて
　あとはフェイトに取りに行かせるだけと思ってるか、どっちかね」
「リンディ提督は、どちらだと思っておられます？」
「プレシア＝テスタロッサは、企業勤めの頃から天才魔道士で通ってたわ。
　それから腕が相当落ちてると言うのでもない限り、アースラの探索程度には見つけてるわね」
「だけど、そんな程度にしか分からないんじゃ、やっぱり海に潜って探すしかないと思うの」
「それは私も思うわ。
　一個ずつ探すとなると、かなりの手間と時間がかかるわね」
「あ、私の携帯が鳴ってるの、出てもいい？」
「いいわよ」

携帯に掛けてきたのは、パパでした。

「霧子、フェイトの波動を見つけた。
　品川沖の海の上だってP-3は言ってる。
　今から俺も向かうけど、霧子達も行くか？」
「うん、そうするの。多分、管理局の人も向かうはず」
「よし、分かった、現地で合流しよう」

パパからの電話は切れたの。パパが来るなら百人力ではあるの。
だけど……

「霧子、ぼんやりしない、時間は待ってくれないよ」
「分かったの。空木教授、リンディ提督、では行ってきます」
「行ってらっしゃい、気をつけて。
　うちのクロノもすぐに向かわせるわ」
「はい」

私達は空を飛んで全力で品川沖を目指すの。
パパの方が先につくとは思うけど、私達にもできることがあると思うの。

「見つけたの、あの海の上」
「パパは？」
「十夜おじさんは感じないけど……」

パパの方が距離が近いから先についてるはずなの。
だけど、存在波を消しているのなら、見つからないのも当然なの。
ただ、存在波で結び合わせないと存在を探知することは出来ないの。
言い換えると、存在波を消したら、自分から相手を見ることもできなくなるの。

「とにかく、ここでフェイトを捕まえるの」
「やらせないよ！」

アルフっていうお姉さんが現れたの。
だけど、それは想定済み。

「泪、どっちが行く」
「私がアルフさんを押さえる、霧子はフェイトの所へ」
「分かったの」

泪は通常空間でカレイドフェノムを使ってアルフさんが私を妨害できないように援護してくれるの。
私は全速力でフェイトの所へ向かうの。

「邪魔するな！」
「それはできない相談だよ。あなたたちがジュエルシードをなんのために使うのか教えてくれない限り
　あなたたちにジュエルシードは渡せない」

泪は完全にアルフさんを押さえてくれてるの。
なら、後は私がフェイトを押さえるだけなの。

「フェイト、何をしてるの？」
「あなたには関係ない」
「関係ないことないよ、私もジュエルシードを集めてる。あなたも集めてる。
　そして、この海の中にジュエルシードがあることをお互い知っている」
「どうして知ってるの？」
「あなたがここにまっすぐ現れたから、ここにジュエルシードがあることを知ってることは分かるの。
　私達は、管理局のリンディ提督から教えてもらったの」
「私がここに居ることも？」
「それはパパが教えてくれたの。もう、ジュエルシード探しをする限り、パパの目を逃れることは出来ないの。
　だから……」
「なら、ここで決着を付ける！」
「どういう形で？」
「私はあなたたちを全員倒す。倒してこの海の中のジュエルシードを手に入れる」
「分かったの。フェイトがそのつもりなら、受けて立つの」

フェイトは臨戦態勢なの。
私はお話で解決すればと思ったけど、ケンカで決着をつけるつもりなら、逃げる気はないの。

「バルディッシュ！」
「Yes sir」
「行くよ、ロンギヌス・スピア」

お互いオーギュメント……フェイト達の世界じゃデバイスって言うそうだけど……を構えるの。
フェイトは高速で太陽方向へ機動するの。
私は目を閉じてフェイトを感じるの。
フェイトは太陽方向から私を切ろうとするの。
だけど、能力者である私にはその手は通用しないの。
ギリギリまで引きつけてから、フェイトの攻撃をかわして、逆に私が太陽方向に出てカレイドフェノムを放つの。

フェイトはこれをバリアで防ぐの。

「ロンギヌス・スピア、SC空間展開」
「SC空間展開、了解しました」

無機質なロンギヌス・スピアの声が響くと、回りがSC空間に変貌するの。
だけど、魔道士のフェイトは普通に存在できるの。
時間量子の蓄積なしに普通にSC空間で動けるフェイトにとっては、むしろ邪魔者がいなくなっただけ存分に戦えるはずなの。
だけど、それは私も同じなの。

「確かに、あなたは早いし、強い。……だけど、私はまだ本気を見せたことは、一度も無い」
「なら、本気のあなたに対応するまでなの」

しばらく私とフェイトは、空中で切り結び合ったの。
フェイトは私より早いけど、目で見て反応してる分、私より反応が遅いの。
存在波を感じてカレイドフェノムを撃つ私に対応するには、フェイトの速さは不十分なの。

「！」

油断した。フェイトのカレイドフェノムが私を拘束する。
時間量子の蓄積ができなくなるわけじゃなくて、物理的に動きを封じる。
これを破壊して……

「フェイト！」

アルフさんが叫ぶ。でも、フェイト優位に状況が動いてるときに、アルフさんが切羽詰まって叫ぶ必要はないはず。

「大丈夫、フェイトの方が今は優勢なはずなの」
「そうじゃないよ、フェイト、殺す気かい！」
「本気の私を見せるだけ……」
「フェイトが本気を出したら、この子達は本当に死んじゃうよ、第一フェイトはあれを使うつもりじゃないか」
「かあさんが待ってる」

フェイトの回りに光球が集まります。
どうやら、あのフェノムを私に向かって放つつもりのようです。
それなら……

「ファランクス・シフト……シュート！」

無数の光球からさらに無数の光球が生まれて私に襲いかかってくるの。
これは想定外。だけど、計算が狂うほどじゃないの。

私のバリアが震えて、シールドがゴリゴリ削られていくのがわかるの。
もし、耐えきれなければ、ディスコネクトどころか存在波ごと吹き飛ばされるぐらいの威力を感じるの。

「はあ、はあ、はあ……」
「フェイト、いくらあの人の為でも人殺しは……」
「だけど、あの子は、強い」
「あれじゃ生きてないよ……」
「確かに、危なかったの。バリアに死角があったら終わりだったの」
「！……まさか……」
「あなたは私より早いし、うまい。普通に戦ってたら私が負けるかもしれなかったの。
　だけど、ケンカなら私の方が経験を積んでるの！」
「だけど……！」
「やっぱり、あのカレイドフェノムに全力を注いで、防御に回す分の出力が落ちてたの。
　今なら時間量子の蓄積を妨害できるの」
「だけど、封鎖空間で私を排除するだけの力は……」
「あるよ。ロンギヌス・スピアの最大の力、受けてみて……ゴッド・スレイヤー！」

ロンギヌス・スピア、神殺しの槍、その槍の力で全力のフェノムをたたきつける。
動きが止まってないと当たらない、攻撃に時間量子の大量の蓄積が必要なフェノムだけど
今のフェイトは、自身時間量子が蓄積できてない、まともに当たるはず。

「直撃、だね」

フェイトはまともにフェノムを受けてディスコネクト状態に落とし込まれたの。
SC空間を解除すれば元には戻るの。だからSC空間を解除するの。

「フェイトーっ！」

アルフさんが叫ぶの。だけど、勝負はもうついたの。

落下するフェイトを、パパが拾い上げて、私の所に連れてくるの。

「パパ、どうしたの」
「よくやったな、霧子。まあ、つめは甘かったようだが」
「フェイトを拾い上げてくれてありがとうなの」

見たら、アルフさんはクロノくんに捕らえられてたの。
さすがに、泪とクロノの二人を相手にしたら、アルフさんでも支えきれなかったみたいなの。

「じゃあ、フェイトは渡すよ。俺はもう学校に帰らないと」
「え、パパ、もう帰っちゃうの」
「ここから先は、おまえの仕事だ」
「うん、分かったの」
「フェイトとアルフの身柄についてリンディ提督を交えて協議したい。
　まずは、お台場大学へ戻ろう」
「うん、そうするの」

そう言った瞬間、異空間から何かが走ったの。
私はフェイトを守るためにシールドを展開するの。

だけど、走った何かは私達を無視して、海の中へ飛んでいったの。
そして、ジュエルシードが海中から姿を現し……異空間へ……

「行かせないわ」

そこへ現れたのはリンディ提督。
ジュエルシードを魔法で引き留めようとするの。
だけど、半分を引き留めるのがやっと。
のこりの半分は異次元に消えていったの。

「ふふ、プレシアもなりふり構っていられないみたいね。
　クロノ、お台場大学へ戻ってる暇はなさそうよ。
　すぐにアースラに向かって。
　霧子ちゃんに泪ちゃんだったわね。今は一刻を争うわ。
　話は後、まずはアースラに来て欲しいの」
「アースラって、次元航行艦だったよね」
「そうよ。普通は管理外世界の人は乗せないんだけど、今は非常事態だから」

何がどう非常事態なのかは分からないの。
だけど、ジュエルシード集めにプレシアさんが直接乗り出したってことは分かったの。
それが非常事態なのかもしれないの。

少なくとも、私達に選択肢はなさそうなの。

 

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