夏も盛りを過ぎたある日、アイラ達は庭先に打ち水をして夕涼みしていた。

「ふぅ、今日も一日仕事が終わったわね」
「そうですね、アイラさん」
「アイラ〜腹減った〜なんかくうもんない〜」
「アッシュ、庭にトマトが植えてあるでしょ、適当にとって食べていいわよ」
「ありがと、アイラ」 
「お茶でも煎れてきますわね」
「ありがと、イルミー」
「どういたしまして」
「この辺はちゃんと夕方も風が吹くのね」
「ま、森から涼しい風が吹いてくるのよね、幸いなことに」
「はー、疲れた、アイラ……」
「今日も一日お疲れ様、ルシエル。氷屋は毎年儲かるのよね〜感謝してるわよ」
「そりゃどういたしまして」
「ルシエルちゃん大丈夫？」
「大丈夫だよ、ピア」
「おぬし、夏になるとルシエルを酷使しとるの」
「夏といえば氷の出番だものね。それに、町の人にも好評なのよ、ルシエルの氷は。
　人助けにもなってお金にもなるんだから最高じゃない」
「そうですね、アイラさん」
「カタンも手伝ってくれたのね、まあ、ありがと」
「どういたしまして」
「ま、適当に座ってて、うちわは持ってる」
「ええと……うちわは持ってきませんでしたけど、蚊取り線香なら……」
「蚊取り線香かぁ。気遣いは感謝するわ。うちにもあるけど、せっかくカタンが持ってきてくれたんなら
　うちのは使わずにおこうっと」
「なんじゃ、けちじゃな、減るものでもあるまいに」
「蚊取り線香は使ったら確実に減るのよ」
「そういうものなのか？」
「ええ、使ったら減りますよね、蚊取り線香は」
「はい、みなさん、お茶が入りましたよ」
「ありがと、イルミー、みんなに配りましょうか」
「あら、アイラ様は座っていてくれてかまいませんよ、私一人で配りますから」
「それじゃ悪いわよ、みんなに一日働かせたのは事実だしね、はい、フラッシュ、今日も一日お疲れ様」
「どういたしまして、アイラさん」
「フェイ様、お疲れ様でした」
「ありがと、イルミー、お茶菓子はなに？」
「アイラ様が焼いたビスケットですわ」
「ふーん、ありがとアイラ、あたしらが出てる間にこういうもの作ってくれてたのね」
「ま、ね。料理はあたしの仕事だし」
「はい、ピア様、熱いからお気をつけくださいませ」
「うん、イルミナちゃん、ふー、ふー」
「はい、ルシエル、今日もありがとね」
「どういたしまして、そういってもらえるだけで疲れがとれるよ。
　今日は月明かりで一段と……」
「はいはい、夜目遠目傘のうちってね、やけどしないように気をつけなさい」
「つれないねぇ」
「アッシュ様、はい、どうぞ」
「ありがとイルミー、うわ、あちぃ」
「うふふ、暑気払いには、熱いお茶の方がよろしいそうですわ」
「そんなもんかな。ま、ゆっくり飲むよ」
「カタン、はい、お茶、やけどしないように気をつけてね」
「ありがとうございます、アイラさん」
「メリル様、お茶ですわ」
「おお、すまんの、イルミナ。しかし、この大きさはどうにかならんかったのかの、これでは風呂ではないか」
「あら、すいません、全員同じ大きさの湯飲みにしてしまいましたわ」
「まあよい、そこらに置いておいてくれんかの。適当に飲むようにするわい」
「はい、かしこまりましたわ」

こうして、全員にお茶が行き渡ると、ちょっとした沈黙が訪れる。
カラスは鳴きながら巣へ帰り、トンボは夕焼け空を飛び回る。

「鶏どもが騒ぐから、そんな風情のあるようなものでもないけどね」
「賑やかなぐらいの方がいいですよ、アイラさん」
「まあ、風情ってがらでもないけどね」
「あら、私はこういうのもひなびた風情があってよろしいと思いますわ」
「ひなびただけ余計よ」
「雅なってわけにもいかないじゃろ」
「まあ、ね。そりゃそうだけどね」
「なあ、せっかくだからトンボ取りしようぜ」
「もう日が暮れるわよアッシュ。虫取りなら休みの日になさい」
「ちぇーっ」
「わがまま言わないの」
「あの……」
「どうしたの、カタン」
「虫取りには、僕も行ってかまわないでしょうか」
「そりゃ、あたしにじゃなくて、アッシュに聞いてよ、あたしはいくつもりないから」
「なんだ、カタンも虫取りに行きたいのか、男の子はそうでなきゃな。
　いいぜ、ついてこいよ、いろいろ教えてやるから」
「ありがとうございます、アッシュさん」
「あはは、先生と生徒が逆転してるわね」
「うふふ、こういうことにかけては、アッシュの方が勉強してますものね」
「そうね、イルミー」

やがて、太陽は沈み、夜が訪れる。

「さてと、夕方も終わったし、夕涼みは終わり、晩ご飯にしましょうか」
「さんせー」
「カタンは、どうするの。帰ってから食べる、それとも食べていく？
　遠慮はいらないわよ、ちゃんとカタンの分も用意してあるから
　食べていかないと、一人分余るだけだからね」
「じゃあ、遠慮なく食べさせていただきます」
「はい、決まりね。じゃ、さっそく夕食にしましょ。
　イルミー、ピア、手伝って」
「はい、アイラ様」
「アイラちゃん、わかったの」

それは、ある夏の日の風景。
なんの変哲もない、どこにでもあるような、ある町外れのあばら屋の。

「だからあばら屋だけ余計よっ！」

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　おしまい。

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