ある七夕の風景

「今日は七夕ね」
「それで、何を売りに行くんだ」
「今日は売りに行かないわよ」
「珍しい事もあるものじゃな、雨が降るぞ」
「降ってもらっちゃ困るわよ」
「なにかあるんですか、アイラさん」
「ええ、七夕の日は天気が良くないと、織姫と彦星が
　出会えませんから」
「まあ、そういう事ね」
「それで、笹に願い事を書いた短冊をつるすのとはどういう関係があるんだ？」
「短冊に願い事を書いてつるすと願いが叶うっていわれてるんですよ」
「・・・あたしの台詞とった・・・」
「ご、ごめんなさい」
「いいわよ、いつものことだもの。
　はい、そういうわけだから日の出ているうちに準備するわよ。
　男性陣は笹を切ってきてちょうだい。・・・人の山から勝手に取るんじゃないわよ。
　後々面倒だから。他の人はパーティの準備をしましょ。」
「は～い」

「フェイ、日頃からきちんと掃除しておけばよいのではないかの」
「メリルもたまにはいいこと言うわね」
「たまにははよけいじゃ」
「・・えっと・・なにをすればいいの？」
「そうね、メリルと一緒にはたきをかけてて。
　フェイは家の外はいてて、イルミーは台所全部任せるわ。
　あたしは衣装だしとくわね」
「出すほど衣装もないではないか」
「悪かったわね、貧乏で」
「だれも悪いとはいうておらぬ。わしらなぞ着た切り雀じゃ」
「新しい服ぐらい買えばいいじゃない」
「わしに合ったふくなないのじゃ」
「そりゃそうでしょ。オーダーメイドになるわね」
「人形用の服は大きさがあっておっても羽を出すところがないからのお」
「・・・言われてみれば、そのくらいの大きさにはなるわね」

「大きなお世話よ」
「何に腹を立てておるのじゃ？」
「アイラさん、これは小さくて機能的だということですわ」
「そ～そ～、狭いとこに詰め込んでるって考えるから
　気持ちがささくれちゃうのよ」
「現状に満足しちゃったら進歩もないわよ」
「みなさん、お茶が入りましたよ」
「あ、そ。じゃお茶にしましょ」
「さんせ～」
「・・・アッシュ、いつ帰ってきたのよ」
「ついさっき帰ってきたんだ。アイラ、きみにはやくあいた・・・」
「フラッシュ、笹は外に立てかけておいて。
　ちょうどいい時間に帰ってきたわ。
　イルミーのお茶を飲んだら、さっそく七夕飾りをみんなで作りましょ」
「七夕飾り？短冊に願い事書くだけじゃないのか？」
「そんなんじゃみすぼらしすぎるわよ。
　せっかくの七夕なんだからそれなりに飾ってやらないとね」
「小娘も夢見ることはあるんじゃな」
「なによ、人を俗物みたいに」
「がめついとはおもうけどね（あは）」
「それはいえてる」
「たく、働かざるもの食うべからず。はいはい、
　イルミー、そろそろ作業に取りかかるからお茶片づけてくれない。
　ピア、イルミー手伝ったげて。フラッシュも」
「うん、イルミナちゃん、いっしょにやろ」
「はい、ピアさん」

「さてと、出来たわね。
　じゃ、うちわ持って外にでましょ。
　お星様が出てるといいわね・・・あれ？だれなの？てるてる坊主飾り付けたの」
「・・・ふえ。。あの、今日は晴れますようにって・・・」
「・・・それは気が付かなかったな」
「ピア様・・」
「うん、きっとはれるわよ」
「はれるといいな・・」

「わあ、きれい・・・」
「なあ、どれが天の川なんだ？」
「さあ？カタンに聞いて」
「あの白くぼんやり光っているのが天の川です。
　本当はうんと遠くにある何百億っていう星が集まって
　出来ているんですよ」
「わあ、そうなんだ・・」
「夢がないわね。こういう場面だから神話を話すんだと思ったわ」
「アイラさん、神秘的だと思いませんか。あそこに光ってる星の中に
　もしかしたら私たちみたいな精霊とか人間がいて、こちらを見ているのかも
　しれない、って思ったら」
「・・・そうかもね」
「なあ、どれが織姫でどれが彦星なんだ？」
「あの東の方、地面に近いところで明るく白く光っているのが彦星、
　そこから天の川を挟んで上の方で光っているのが織姫です」
「・・・そういえば、みんな短冊にどんな願い事を書いたの？」
「それは秘密ですよ」
「そうそう、秘すが花ってね」
「でも、にたような願いがいくつかぶら下がってるぜ」
「え？」
「ふ～ん、みんないろいろ言っても結局お金はほしいんじゃない」
「そんなんじゃありませんよ」
「フラッシュ、なにも隠さなくていいじゃない」
「え、ええ・・そうですよね、フラッシュさん」
「そりゃカタンはお金いらないでしょ。あれだけあれば余ってるんじゃない」
「僕のお金じゃありませんから」
「ま、そうかもね。人様のお金に手をつけちゃ泥棒だわ」
「あっ、流れ星」
「願い事しなくっちゃ」
「短冊に書いたわよ」
「出来ることは全部やるの！」
「はいはい」

ある七夕の風景

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