「はい、いちごあじ一つね」
「ありがと、おねえちゃん」
「こちらこそ。また来てね」
「うん」
「なあアイラ・・・一体いくつ作ればいいんだ」
「ルシエル、もう限界になったの？」
「いや、君のためならもう一がんばり・・」
「ほら、そこおね〜さんが通ってるわよ、いいとこみせなさい」

 

夏祭りといえばかき氷。
とはいえ、文明の進んでいないこの街では
製氷器など高嶺の花である。
もちろんアイラがそこを見逃すはずもなく、
今日はかき氷やさんを開業しているのである。

言うまでもなく、氷作りはルシエルの仕事だ。

 

「言うまでもなく、ってのは納得するけど、
　俺は本来頭脳労働なんだぜ」
「はいはい、魔法も頭脳労働のうちよ。
　あ、いらっしゃい〜」
「アイラ〜お客さんつれてきたぜ」
「あら、かわいい坊ちゃんいらっしゃい。
　なにがいいの？」
「男は黙ってみぞれが一番」
「お客さん通だねぇ」
「あたぼうでい」
「はい、こぼさないようにね」
「合点承知、いくぞアッシュ」
「へい親分、じゃアイラ行ってくるよ」
「気をつけて」

 

かちかち
火打ち石を打つまねをするアイラであった。

 

「ちょっとまて」
「なによルシエル」
「なんでアッシュは遊びほうけてるんだ？」
「遊んでないわよ、あれも仕事のうち」
「あれで遊んでないって？」
「ただ遊んでいるように見えるけど、ちゃんと熱気を出して
　かき氷が売れるように誘導してるのよ」
「俺にはただ遊んでいるように見えるぜ」
「たとえそうだとしても、氷溶かされるよりましでしょ。
　ほらほら、口動かさずに氷を作る。行列が出来てるわよ」
「あら、ルシエルじゃない、こんなところでなにしてるの」
「やあ、見ての通り仕事の真っ最中さ」
「そんな仕事止めて私と一緒に見物しましょ」
「そうしたいのはやまやまだけどさ。
　君へのプレゼントを買おうと思ってもう一がんばりするよ」

 

ルシエルの歯が光る。
あまりに古典的なさわやかさを持つ笑顔であるが、
ルシエルがやると決まって見えるから不思議である。

 

「そう、じゃ私も協力しちゃおうかしら」
「ありがとう」
「よかったわね、ルシエル」

 

心底祝福しているように聞こえるアイラの声。
多少はフラッシュやカタンに言うような響きがあってもいいのに、
心に思っても顔には出さないルシエルであった。

 

「アイラさん・・つかれました」
「フラッシュさん、ぼくが代わります」
「え、でも・・」
「フラッシュ、つかれたの？」
「まあ、顔色が悪いですわ。
　こちらで疲れの取れるお茶でもどうぞ」
「ありがとう、イルミナさん」
「フラッシュちゃん、大丈夫？」
「ピア様、大丈夫です、すこしつかれただけですから
　休んでいれば治りますよ」
「フラッシュ、おぬし張り切り過ぎじゃな。
　小僧と交代しながらすればよかったのじゃ」
「こらっカタン！腰が入ってないわよ！
　そんなんじゃせっかくルシエルが作った氷が溶けちゃうじゃない！」
「ご、ごめんなさい・・・」
「カタンさんは身体が弱いですから、交代できなかったんですよ」
「なるほどのぉ。小僧は体を使って働いたことがないみたいじゃからの」
「でも、カタンちゃん、楽しそう」
「俺はちっとも楽しくない〜」
「仕方ないでしょ。氷を作れるのはルシエルだけじゃない」
「のぉ小娘」
「なによ、メリル」
「そろそろ切り上げんか？
　そろそろみな限界のようじゃがな」
「あ〜もう、いま儲かってる最中だっていうのに・・・
　・・・と、ま、仕方ないわよね。
　ルシエル殺すわけにもいかないし。
　今あるだけ売ったら店じまいにしましょ。
　花火には間に合うはずよ」
「花火？それって、どんなお花？」
「ピアさん、花火っていうのは、火薬に金属を混ぜて光らせるものなんです。
　手で持つ花火もありますけど、この夏祭りでは打ち上げ花火といって、
　空中に花を咲かせるんですよ」
「えっと・・・ピア、わかんない」
「あは、まあ、見ればわかるわよ。ほらほら最後の一踏ん張り。
　さっさと売って店じまいするわよ」
「ええ、もう一息ですね」

 

真夏の夜のかき氷屋。
繁盛しないわけがない。
あっという間に店じまいの時を迎えたのであった。
これなら後かたづけをしてさえ十分花火に間に合うだろう。

 

「はぁはぁはぁ・・やっと、終わりましたね」
「カタン、あんたまっすぐ歩けてないじゃない。
　そんなにつかれてたの」
「え、ええ・・・まあ・・・」
「ピア、フラッシュの様子はどう？」
「アイラさん、私でしたらなんとか・・・」
「フラッシュちゃん、まだ腕が痛いんだって」
「動けないほどではありませんよ、ピア様」
「メリル、ルシエルはどう？」
「心配ない、いきとるようじゃ」
「俺は生きてればいいのかよ」
「ん、霊力は使い果たしておるのは見ればわかるわ。
　その様子じゃ自力で動くのはむりじゃな」
「お説ごもっとも、そういうわけでアイラ・・」
「メリル、アッシュ呼んできて、ルシエル運ばせるから。
　ピアとイルミーはフラッシュをお願いね。
　フェイ、カタン運んで」
「は〜い」
「ちょっとまて、フェイは今までどこにいたんだ？」
「ルシエル、あたしだってさぼってないってば。
　祭りの役員さんに頼まれて、雲を払ってたのよっ」
「雲？」
「そ、雲。雨に降られたら祭りが台無しでしょ。
　見張ってたのよ」
「でも、雲がでてこなけりゃ仕事もなかったんだよな」
「あはは〜まあ、バイト代はちゃんと出してくれるんだからいいじゃない」
「あ〜おれもそういう仕事の方が良かった」
「冬には立場が逆になるわよ。ルシエル」
「なあ、どこで花火見物するんだ？」
「アッシュ、ちゃんと見つけてあるんでしょ？」
「もっちろん、特等席を見つけてあるんだ」
「じゃ、さっそくしゅっぱつ」

 

なるほど、アッシュが見つけたという特等席は

人混みからは十分離れている一方、
花火を見るには見晴らしのいい丘の斜面だった。

 

「ああ、ここなら座っても見えますね」
「街の人はどうしてここにこないのでしょう？」
「まだ祭りは終わってないわよ。
　あたしらが早めに切り上げただけ」

 

ふゅるるるる〜〜〜〜〜〜〜〜どーん

 

「あ、あがった」
「まあ、綺麗ですわね」
「あたしが雲をはらっただけのことはあるわよね」

 

ふゅるるるるる−−−−−−−−−ど〜ん・・・ぱりぱりぱり・・

 

「すごいですね、一度はじけた花火が軌道を変えながら落ちて来てます」
「えらくこったもの上げたわね」

 

ひゅるるるるるるる−−−−−−−−−−−−−−ど〜〜ん・・どどどどど〜ｎ

 

「わあ、本物のお花みたい」
「そうですね、ピア様」

 

：

：

：

 

「なあ、これで終わりなのか？」
「仕方ないでしょ。予算の都合っていうのがあるのよ」
「終わったのじゃな、ではそろそろ帰るとするかの」
「さんせー」
「あの、ルシエルさん、起きてください。帰りますよ」

 

返事がない、ただの・・・

「べたなぼけはいらないわよ。
　完全に寝込んでるみたいね。
　フラッシュ、大丈夫、一人で動ける？」
「え、ええ・・なんとか・・・」
「フラッシュちゃん足下がおぼついてないよ」
「フラッシュ、無理する物ではないぞ」
「え、でも、」
「カタン、あんたは？」
「・・・」
「腰が抜けてるじゃない、なさけないわねえ。
　仕方ないか、アッシュ、カタンをおぶってやって」
「なんで俺が？」
「あんた昼間一番楽してたんだから当然でしょ。
　イルミー、ピア、フラッシュ助けやって。
　フェイ、ルシエル担いで帰るわよ」
「Ｏ．Ｋ．」
「働かせすぎじゃな。こんどからもう少し
　無理はさせんようにの」
「・・・ま、少しは反省してるわよ。
　明日はお休み、あたしもすることがあるしね」
「アイラ、することって」
「お盆には亡くなった人が帰ってくるの」
「・・・ねえ、アイラさん」
「なに？カタン」
「・・・ご先祖さまでなくても、来て・・・くれるでしょうか？」
「どうかしらね？でも、ちゃんと用意をして待ってれば
　来てくれるんじゃない？」
「ええ、そうですね・・・」

 

翌日、アイラは一人で墓参りに行ってきた。
カタンも、自分の家にいて、アイラの家には来なかった。
精霊達も二人に遠慮して一人きりの時間を作っていたらしい。

 

ただ、力を使い果たして眠っていたことを
当分ルシエルは残念がっていたらしい。
それが花火を見物しそこねたからなのか、
それとも他に理由があるのかはさだかではない

 

おしまい。

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