初夢、それはお正月に見る夢。
それは正夢になるとも言われる縁起物。
ここ、アイラの家に住み込んでいる精霊達も、眠りもするし、夢も見る。

その本当の初夢はともかく、どんな初夢を見たかったろうか。
そういうことであれば少しばかりのぞいてみても、怒られることはないと思う。
誰しも夢は持っているものなのだから・・・・

 

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「あの、ルシエルさん、そろそろ手を離してもらえませんか」
「離そうと思っても、手が離れようとしないんだよ」
「え、ですが…」
「君が悪いんだ。君の美しさで手が動かないんだよ」
「ルシエルさん・・・」

 

げしっ。

 

「ルシエル、あんた喫茶店の待ち合わせで何をやってるのよ」
「や、やあアイラ、早かったね」
「これでも５分遅れてるの。あんた一体いつ来たのよ」
「待ち合わせには５分早く来るのが当然だろ」
「つまり、１０分のうちにもうウェイトレスを口説いてたってわけね。
　ったく、油断も隙もないっていったら」
「あ、あの…いらっしゃいませ、ご注文は」
「ルシエルの分は聞いたの？」
「ま、まだですが」
「じゃ、あたしにレモンスカッシュ、それからルシエルには
　コーヒーエスプレッソ、ストレートでだしたげて」
「す、ストレートですか？」
「それでいいわよね、ルシエル」
「せめてミルクぐらい」
「い・い・わ・よ・ね」
「はい、それでかまわないです」
「よろしい。じゃ、お願いね」
「はい、かしこまりました」

 

ウェイトレスは、いかにも残念そうにさっていく。
それを名残惜しそうに見つめるルシエル。

 

ぐきっ。

 

「どこをみとるか」
「どこって、ウェイトレスさん」
「あんたね。どこの世界に女の子を誘っておいて
　ナンパする人がいるのよ」
「ちょっとした時間つぶしだよ」
「あんた、他にすることってないの？」
「ない」
「断言すな」
「やあアイラ、今日も相変わらず美しいね」
「とってつけたように言わなくていいわよ。
　大体がひとつ屋根の下に暮らして、今日も出かける前に顔を見ていて
　いまさらそんなこと言われてもうれしかないわ」
「つれないねえ」
「誰が言わせてるって思ってるのよ。
　はぁ・・・・」
「ほおづえついてるのも絵になるよ」
「・・・・・・・ルシエル」
「なに？」
「あんた、そういうこと言ってて虚しくならない」
「どうして？見たままをそのまま言葉にしてるだけだぜ」
「・・・・あんた、一度目医者に行った方がいいと思うわ」
「行ってきた。両眼とも視力は３．０」
「女の子見るときだけでしょ」
「ご名答」
「・・・一体何の視力検査をしたのかしらね」
「女の子の絵をどれぐらい離れて識別できるかって視力検査だけど」
「どんな目医者よそれ」
「アイラだって知ってるだろ、この町には医者が一軒しかないって」
「あーはいはい、その通りでしたわね」
「あの、レモンスカッシュにコーヒーエスプレッソのストレートです、どうぞ」
「ありがと、そこに置いておいて」
「ありがとうお嬢さん。どうです一口…」
「ストレートのエスプレッソなんぞ飲ますな！」
「い、いえ、仕事中ですから…」
「仕事のじゃまになった？」
「い、いえ、そんなことありません。お気持ちだけ受け取っておきます」

 

ウェイトレスは顔を赤らめながらお辞儀をする。
それを見つめるルシエル。
そのルシエルの弁慶の泣き所を蹴飛ばすアイラ。

 

「いて」
「だから、なんでそんな風によそ見をするか」
「そうすれば、いつでもアイラが俺だけを見てくれるから」
「え？」
「コーヒー、飲む？」
「ん、一口だけ」
「苦くない？」
「あたしは苦いのはそんなに苦手じゃないから」
「じゃ、いただきます」

 

そんな二人を、苦笑いしながら見つめるマスターとウェイトレス。
そこにあるのは二人だけの空間。恋人だけが作り出せる、別世界。

 

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　おしまい。

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