夏である。
ここ、メルデルビアも夏である。
夏なのである。
とにかく夏である。
よく晴れた夏の日なのである。

 

「えーい暑苦しい。夏夏夏夏と連呼するな」
「アイラさん、そんな大声を出してどうしたんですか」
「カタン、あんた涼しそうね」
「ええ、特に暑さを感じる器官は持ってませんから」
「首筋をぬれたタオルで冷やすと涼しいですよアイラさん」
「それはとっくにやってるわよ。そんなんじゃ追いつかないから暑いんじゃない」
「アイラ様、火のそばで働いておられれば、他の人より暑いのは致し方ありませんわ」
「ま、そりゃそうだけどさ。…ったく、屋根が薄いから日差しで屋根が焼けるのよね」
「断熱材になるようなものを何か入れましょうか」
「それじゃ天井が低くなっちゃうじゃない」
「たっだいまーっ！」
「……アッシュ、あんた、その格好で暑くないの？」
「全然平気だぜ。なあ、アイラ昼飯まだ？」
「今作ってるからおとなしく待ってなさい」
「えー、今すぐなにか食べたい。食べさせろ食わせろはらへった…」
「やかましい。ただでさえ暑いのにますます暑苦しい話すな！
　ほら、ここにトマトがあるから塩でも掛けて食べときなさい」

 

そういうと、アイラは後ろも見ずにバックスローでトマトを投げてアッシュによこす。
ちゃんと声のした方へトマトが飛んでいくから不思議だ。
アッシュはそれを片手でキャッチすると、すぐにかぶりつく。

 

「よし、できた。…フラッシュ、全員そろってる？数えて」
「ええと…アッシュはさっき帰ってきましたね。
　私とイルミナとカタンさんはいます。
　フェイは部屋で寝てたと思いますよ」
「ルシエルなら街で見たぜ」
「あ、そ。じゃルシエルの分はとっておかなくていいわね。
　イルミー、フェイを起こしてきて」
「もう起きてるわよ。…うーんおいしそう」
「食うな行儀が悪い」
「出来たっていったじゃない」
「ちゃんと配膳されてから食べなさいよ」
「アイラって、妙なところできちんとしてるわね」
「フェイがいい加減にすぎんの。ほらルシエルの分も上げるからさっさと揃え」
「はーい」
「なんでそうなるんだよ」
「あ、なんだルシエルいたの？」
「今さっき帰ってきたところだよ。アイラ、君の手料理は…」
「土産の一つもないならさっさと手を洗って座りなさい。
　うろうろされてもじゃまなだけよ」
「つれないねえ」
「あんたが神経を逆なでするようなことを言ってるんでしょうが」
「…あの、アイラさん。落ち着いて…」
「あ、ごめんカタン。はい、これでおしまい。じゃ全員席に着いたわね」
「いただきまーす」

 

結局、ルシエルの土産は無かったわけである。

 

「つっこみどころはそこかよ」
「氷の一つぐらい持ってくるのが誠意ってもんでしょ」
「真夏の盛りにあるわけないぞ小娘」
「去年はルシエルに氷を作らせてかき氷を売ったわよ」
「儲けにならないことで魔力を使わせられん、と言ったのもおぬしじゃの」
「ま、ね」
「あれ、メリルさんどこにいたんですか？」
「わしはずっとアイラのそばにおったぞ」
「よくこんな暑いさなかに肌を触れあわせる気になるわね」
「適当に気化熱を奪ってそれなりには涼しいのじゃ」
「はー、それにしても暑いわね。なんで開口部がこんなに少ないのよ」
「しかたないでしょ。柱が弱いから壁に穴を開けたら崩れちゃうわよ」
「壁はそれほど問題ではないと思いますよ。土壁で断熱性は高いですから」
「いや、そういう問題でもないだろ」
「あ、そだ、フェイ。あんた風を吹かせなさいよ」
「え〜。ルシエルの氷の方が冷えるんじゃない？」
「あれはかき氷にして売るの！風は売り物にならないじゃない」
「ぶーぶー、差別差別ー」
「各人がその能力に応じて、各人がその必要に応じてよ。
　みんながうちわであおぐよりは合理的でしょ」
「はいはい。じゃさっさと風を起こしますか」

 

そういうと、フェイは食卓を離れて表へ出る。

 

「あ、あのフェイ？私に何をしろと言うんですか」
「必要に応じてよ。フラッシュも手伝いなさい・・・それーっ、上昇気流〜っ！」

 

フェイが気合いを入れると、すさまじい上昇気流が発生する。
それでもきちんとボルトで固定されているアイラの家の屋根は飛んでいかず

 

「しゃれにならない時事ネタ入れるな」

 

いや、事実を指摘しただけだし・・・
と、話を元にもどそう。

 

フェイの作り出した上昇気流が入道雲を生み出すと
たちまち夕立・・という時間ではないな、昼立ちなんて言葉はないが
とにかくにわか雨が降り始める。

 

「フラッシュ、出番よ」
「私が何を…」
「そうだな、あれだけ急速に上昇気流を作ったらかなりの静電気がたまってるだろ。
　落雷する前に雲間放電で逃がしておいてくれ」
「そうですね、ルシエルさん」

 

フラッシュは黙って入道雲に話しかける。

 

「なんで黙って話しかけられるのよ」
「テレパシーじゃ、いちいちつっこむでない」

 

どーん、どーん、どーん。・・・ごろごろごろ・・

 

２、３回雲の中で発光すると、カミナリの音が当たりに響いた。

 

「どう？すこしは涼しくなったでしょ」
「えらい大技を使ったわね。ちょっと風を起こすんだと思ったわ」
「大きな力を一気に使う方が楽なのよ。力を制御してそれなりにやるって面倒じゃない」
「それは、楽なんじゃなくて、面白くないってことじゃないの？」
「あは、ま、そうかも」
「じゃみんな帰って食べようぜ。おなかすいた」
「アッシュは食べることばかりですね」
「ルシエルは別な意味で食べることばっかだけどな」
「お菓子ばかり食べると太るわよ」
「うん、…ルシエルちゃん、ちゃんとご飯も食べないとだめなの…」
「ちゃんと三食アイラの手料理を…」
「そのねたはもういいっていうの。ほらぬれるわよ、みんなはいったはいった」
「はーい」

 

昼間に起きた雨は、夕刻を過ぎても降り続き、結局かき氷屋を出店するわけには
いかなくなってしまった。
下手の考え休むに似たり。

 

「やかましい！」

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　おしまい。

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